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Smarter Business

ニューノーマル時代の、人と機械の業務再設計——自動化ポテンシャルと有効性

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内田 充

内田 充
日本アイ・ビー・エム株式会社 
技術戦略コンサルティング
アソシエイト・パートナー

複数の事業会社にて、マーケティング、ブランドマネジメント、セールスマネジメント業務、および全社横断改革プロジェクトリーダーなどを歴任。その後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現・日本IBM)に入社。IBMではテクノロジードリブンの経営改革・業務改革を得意領域とし、多数のプロジェクトをリード。国内外の通信、小売業、製造業、商社、消費財、製薬・医療、食品、保険など幅広い企業に対して、業務改革、IT戦略策定、新規事業創出、事業継続(BCP)といったコンサルティングを実施している。

“7割経済”と言われる社会で、新しい環境への適応には人と機械の協働が不可欠だ。その中では、人と機械は同列ではなく、人を中心に据えた業務変革が必要だ。本稿では、主としてIBM支援事例に基づき、機械との役割分担の考え方、自動化の有効性など、ニューノーマル時代における適者生存の要点について解説する。

“7割経済”に向け、人と機械の役割再定義が必要

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)の影響による環境の激変により、社会は“7割経済”へ移行すると言われている。多くの企業活動が、オフィス中心の業務環境から、「強制的」にリモート中心の業務環境への変化を強いられた。内閣府や日本生産性本部が2020年5月~6月にかけて実施した調査によると、いずれも調査対象企業のほぼ半数が「効率が下がった」と回答している。7割経済に対応するため業務効率化を推進すべきところが業務効率は逆に低下している状況であり、新しい環境に適応した変革は必須である。

デジタル技術の進展に伴い、人と機械の協働の必要性が強調されている現在。今後の不可逆的な社会・ビジネス環境の変化、ニューノーマルを考慮するに当たり、人と機械は同列ではなく、人のための機械であり、人が生き甲斐・やり甲斐を感じられるよう、人を中心とした、人を活かす業務変革が必要と考える。

そのためには、業務を付加価値の観点から再評価し、「人が担うべき」業務と「機械に任せるべき」業務を再設計すべきである。

出典:IBM

人は、人でしかできない戦略立案・意思決定などのミッション・クリティカルな業務領域を中心的に担い、人をその領域に集中させるため、ルールベースで判断できる定型的な業務は機械に任せていく必要がある。

業務自動化のポテンシャルとDXエントリーとしての有効性

今後の「人と機械のあるべき役割分担」を戦略・管理・実行という業務機能の観点から俯瞰すると、多くの業務領域が機械化のポテンシャルを有すると考える。

出典:IBM

戦略機能は、経営の意思が最も反映される領域であり、人が担うべき多くの業務がある。機械の役割は、人が意思決定するための情報・インサイト提供が主たるものとなるだろう。機械によって、過去データを活用した合理的な将来予測や推奨がなされるだろうが、最終的に意思決定を行うのは人である。

管理機能は、定義したKGI/KPIなどのトラックが主目的であるため、主観的な視点は入りづらい。従って、人の役割はトラック結果の評価が中心となり、定型的なトラックは機械に任せるべきだろう。

実行機能は、ビジネスがフィジカルかデジタルかにより差異はあるが大きなポテンシャルが想定される。製造業や運輸業など物理的なモノが前提となる場合、一定の限界はあると思うが、ロボット技術の進展を考慮すると半分程度は長期的に機械に置き換わっていくと推測する。デジタルビジネスは業務の大半において機械化が可能だ。

多くの場合、業務の機械化は同時に自動化を伴うが、自動化はDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に非常に有効である。

一般的に、変革は経営視点であり、現場担当者の理解が得られず頓挫することも多い。一方、業務の自動化は、その対象業務が、現場担当者にとって「やり甲斐」を感じにくい特徴(低付加価値、定型的、反復的、ルールベース、高頻度、多業務量など)を持つため、自動化によるメリットは担当者から大きく歓迎されるのである。

現場レベルでの自動化メリットの実感によって、業務を変えたくないという「慣性」を払拭することができ、その他の変革施策への展開が非常にやりやすい実感をクライアントと共に得ている。現場抵抗が極めて少ない自動化は、DXエントリーとして有効である。

実践の留意点―まずDemo/Deploy、そして「自動化+(プラス)」

自動化の導入・展開には以下の3ステップが有効と考える (図3)。未着手または初歩的な段階であればステップ1からの実施を推奨するが 、自社の現状を踏まえ、各ステップからエントリーすることが可能である。いずれからエントリーしても、まずユーザー部門に対してDemoもしくはDeployし、自動化の効果を具体的に示して理解してもらうことが要点である。次いで、対象領域や機能拡張を行っていく自動化+(プラス)を行うと推進しやすい。

出典:IBM

ステップ1:ニーズ対応型の自動化 ―手作業の自動化による、現場の負荷削減への貢献
日本企業に多いが、トップダウン施策が実施しづらい企業文化、現状プロセスが全社最適よりも部分最適になっている場合は、ステップ1から入ると有効である。
導入として、現場の負荷を削減する自動化を行うと、施策に対する現場支持を獲得しやすい。定型的、反復的、量が多く、マニュアルやルールに基づき実行できる低付加価値な手作業で行われる業務が該当し、RPAで対応できる業務が多い。一般的に、業務慣習に影響するプロセス変革は現場担当者の抵抗を生じやすいが、この自動化は現場の負荷を直接的に削減することから現場担当者からは喜ばれ、テクノロジー活用に対する評価・実感が得られる。

ステップ2:全体最適型の自動化 ―標準化を伴う、業務プロセス・判断の自動化による効果拡大
現場担当者が追求する効率化レベルと経営の期待レベルが一致するとは限らず、多くの場合、後者の目標の方が高いことが多い。従って、ステップ1のいわばボトムアップ的アプローチだけを進めていても連続的に高次レベルに至らないことが多く、施策を全体最適視点に切替える必要がある。多くの場合、業務変革を伴って、複数の業務をひと括りのプロセスで捉えた業務モジュール的単位での自動化や簡易な判断の自動化となり、一部AIも活用される。

ステップ3:テクノロジー高度活用の自動化 ―人とAIの協働による飛躍的な効果創出へ
業務プロセスの全体最適化が進展し、さらに戦略的なアプローチが可能な企業は、より積極的にAI/データを活用することが望ましい。人の処理では膨大な時間を要する業務に対する圧倒的な効率性や、膨大なデータから様々な要因・法則性などの発見が期待できる。
そして、この段階が進むと複数のAIが連動して活用され、人と複数AIが一体となり最適化された統合フローとして業務が遂行されることにより、人の介在のさらなる最適化や自律的な業務改善などがもたらされ、飛躍的なコスト抑制や生産性向上が期待できると考える(図4)。

出典:IBM

環境変化に対応し、人の新たな役割を創造する。ニューノーマル時代の適者生存

本稿では、主としてIBM支援事例に基づき、ニューノーマル時代に向けた、人を中心に据えた業務変革の必要性を述べてきた。次いで、人を活かすためにあるべき人と機械の役割分担を設計する重要性、そして自動化の有効性について述べた。

既にオフィスだけを前提としない業務設計が必要となっているが、先が読めない不確実な時代ゆえ、人を活かす考えを中心に持ちながらも継続的に実験を実践し、人と機械の役割分担は見直し続けるべきである。

既存業務が機械に代替されたとしても、環境変化により人の新たな役割が創造されるはずであり、柔軟に変革し続けることがニューノーマル時代の適者生存の要点と考える。

photo:Getty Images

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