会話型マーケティングは、その名前が示すとおり、パーソナライズしたリアルタイムのやりとりを通じてブランドや企業が顧客や見込み客とコミュニケーションを行う形のマーケティングです。やりとりには、ソーシャル・メディア、Eメール、ライブ・チャット、メッセージング・アプリケーションなどのマーケティング・チャネルを使用します。
「会話型マーケティング」という言葉は、人気のマーケティングおよびセールス・プラットフォームであるDriftが2010年に考案し、今日ではデジタル・マーケティング業界全体で広く使用されています。
対話型マーケティングの具体例のほとんどは、Webサイトの訪問者やアプリのユーザーがポップアップ・ウィンドウを目にするところから始まります。そのウィンドウには、「何をお探しですか」や「ご用件は何ですか」のような質問が書かれています。対話型マーケティングの強固な戦略を取り入れている企業は、接触してきた顧客のニーズや期待を瞬時に察知し、マーケティング・キャンペーンや包括的なユーザー・エクスペリエンスを向上させることができます。人工知能(AI)が発展する中、顧客や見込み客との自然な対話をリアルタイムで行えるAI搭載のチャットボットは、対話型マーケティングで広く使われるツールになりました。
企業と顧客とのやりとりがますますデジタル空間に移行する中、組織が必要としているのは、顧客が好むチャネルで有意義な会話を行う手段です。会話型マーケティングの強固なアプローチを取り入れることで、FAQ、問題点、おすすめ商品、価格に関する問い合わせ、顧客からのフィードバックなど、顧客が一般的に直面する各種の課題に対応するサービスを、パーソナライズして迅速に提供できます。
コールド・コール、印刷物での広告、メディア・チャネルでの広告など、従来のマーケティング施策は、ブランドや製品の認知度を高めるうえで著しく効果的であることが実証されています。例えば、一大イベントであるスーパーボウルで見たスポットCMの面白さを何日も後まで覚えている状況や、ラジオで耳にした魅力的なジングルが頭から離れなくなる状況を考えてみれば分かります。しかし、従来のマーケティング戦略には欠点もあります。1つは、自社の製品に対するニーズや関心のない消費者をターゲットにすることは時間とリソースの無駄になり得るという点。また、従来のマーケティング・チャネルの制約により、それを修正する手段がまったくないという点もあります。そこで登場するのが、会話型マーケティングの施策です。
会話型マーケティングは、デジタル・マーケティングとソーシャル・メディアの性質により、一人一人の顧客のニーズに取り組むことが可能で、サービスや製品に対して本質的に関心を抱いている顧客とのみ関わることができるため、より優れた会話体験を創出しやすくなります。会話型マーケティングを導入している企業は、対話型AIを利用して、顧客のオンラインでの行動習慣や好みを効果的かつ迅速に学習し、顧客が関心を寄せそうなメッセージやコンテンツを提示できます。これはセールス・チームにとっても、実際に話をする前に見込み客を絞り込める可能性が高まるという点でプラスになります。
リード創出やカスタマー・リレーションシップ管理(CRM)の改善から、Eメール・マーケティング・プログラムの強化、デジタル・マーケティング・キャンペーン、セールス・サイクルの短縮、時間がかかるタスクの自動化まで、企業が会話型マーケティング・プログラムに投資する理由はいくつもあります。最も一般的なメリットは次のとおりです。
顧客対応のパーソナライズの強化:今日では、スマートフォン、メッセージング・アプリ、ソーシャル・ネットワーキングの普及により、顧客はお気に入りのブランドや企業とやりとりする際に、高度にパーソナライズされたエクスペリエンスを期待するようになっています。顧客は正確かつオープンでフレンドリーなコミュニケーションを求めており、これを満たすデジタル・エクスペリエンスを提供する企業は顧客から報酬を得ています。一方、対面でのカスタマー・サービスでは対応に限りがあります。こうしたニーズの高まりに応えて、よりパーソナライズされたエクスペリエンスを提供するために、AIを活用したチャットボットや音声エージェントに注目する企業が増えています。これらのツールは、ディープラーニング(DL)、機械学習(ML)、自然言語処理(NLP)のモデルに基づいて組み込まれており、顧客の質問を理解して、多くの場合は人間並みの精度で回答可能となっています。
カスタマー・サポートの改善:的確な製品説明や営業時間などの基本情報がWebサイトで見つからないと、顧客は往々にして不満を覚えます。対話型マーケティングは、こうした問題に対する事前対応型の解決策を提供し、よくある一連の質問に回答を返して、複雑すぎて対処できないサポート・チケットのみをカスタマー・サービス担当者に転送します。自動化されたチャットボットは、予約、不要商品の返品、購入など、顧客のさまざまな問題の解決を支援します。
コスト削減:AIを活用した対話型マーケティングを取り入れた組織は、顧客のニーズを満たしながら、効果的なサポート・チームの運営に伴う諸経費を抑制できます。AIを活用したチャットボットと音声エージェントを導入することで、自動化されたセルフサービスのサポートを多数の顧客チャネルやタッチポイントにわたって提供し、サポート・チームに必要なスタッフの数を削減できます。
セールス・サイクルの短縮:対話型マーケティングを取り入れていると、セールス・チームは、より多くのリードをセールス・ファネルの中でより迅速に誘導しやすくなります。また、顧客が各段階においてブランドや企業と構築する関係が、より強固なものとなります。自動化されたAIチャットボットを活用して、顧客の懸念にリアルタイムで対処し、関連性の高いコンテンツをタイミングよく提示し、チャット、テキスト、Eメールや、顧客の好みに合ったプラットフォームを通じて効果的にコミュニケーションすることによって、ナーチャリング・プロセスが改善されます。
会話型マーケティングが最も効果的に機能するのは、包括的なマーケティング計画に組み込まれていて、カスタマー・ジャーニーに関連するすべてのチャネルの候補を慎重に検討できる場合です。会話型マーケティング戦略を効果的に構築するために企業が導入して広く利用している5つのベスト・プラクティスは次のとおりです。
会話型マーケティングは、カスタマー・リレーションシップの強化、コンバージョン率の向上、核となるオーディエンスの好みに合ったコミュニケーション・チャネルでのエンゲージメントを求める企業にとって、不可欠なツールになっています。ここでは、現時点での活用例をいくつか紹介します。
AIを活用したチャットボットは、長い待ち時間や不正確な情報など、従来のカスタマー・サポートのモデルで生じていたストレスを解消するうえで効果を発揮し、顧客体験をその分レベルアップできます。カスタマー・サポートに会話型マーケティングを活用するメリットには、次のようなものがあります。
対話型マーケティング戦略のすべてが、手法の自動化やAIの活用を必要としているわけではありません。ブランドや企業は、Facebook、LinkedIn、X(旧Twitter)、TikTok、Instagramなど、人気のソーシャル・メディア・アプリを通じて、1対1または1対多のメッセージング・モデルで顧客のニーズに直接対処できます。LinkedInやXでは、標準装備のメッセージ機能を利用して、組織が見込み客や顧客と直接やりとりできます。一方、Facebook、TikTok、Instagramは、動画やインタラクティブ・ストーリーなどのコンテンツによるエンゲージメントのための利用が一般的です。
会話型マーケティングは、セールス・プロセス全体を通してROIを最適化するうえで効果を発揮します。チャットボットや仮想エージェントの多くは、サイトやアプリへの匿名のトラフィックの中から、理想的な顧客プロファイル(ICP)に適合する顧客を特定し、魅力的なコンテンツを用いてプロアクティブに接触を図ることができます。ここまでの一連の過程にセールス担当者が関与する必要はありません。したがって、セールス・チームが潜在顧客と実際にやりとりする時点では、会話型マーケティングによる初期審査の段階が既に完了し、顧客に一定の水準の関連性や関心があることが確定していることになります。また、チャットボットは営業担当者とは違って、顧客の好みに合うチャネルを通じて24時間体制で顧客に対応し、質問に答え、関連性の高いコンテンツを提示します。
WhatsApp、Telegram、Snapchatなど、人気のメッセージング・アプリは、対話型マーケティングを通して顧客と関わる優れた機会をブランドや企業に提供します。ニュース・サイトであるBusiness Insiderの最近のレポートによると、Apple社は毎秒20万通ものテキスト・メッセージと、1日約400億件のiMessageの通知を処理しています。3やりとりがほぼ絶え間なく発生するこの環境を拡張するには、AIを活用したチャットボットが欠かせません。メッセージング・アプリの普及に伴って対話型マーケティングの利用が広がったのはそのためです。
現在多くの組織は、WhatsAppと、広く普及しているWhatsApp Business APIを利用して、製品やサービスに関する通知を自動で配信しています。これによって組織は、顧客と簡単につながりを維持し、新規顧客に大規模にリーチすることが可能です。
AIを基盤とするツールや戦略を導入する最大のメリットの1つは、AIが常に学習していることです。顧客との会話型マーケティングに導入したAIは、顧客の嗜好や購入履歴などの貴重な情報を学習します。AIを導入した組織は、こうして得た情報を、既存のキャンペーンと将来のキャンペーンの両方に活用できます。
そのよい例が旅行業界です。航空券予約で広く利用されているアプリケーションから、顧客の意図に関する情報を、レンタカーやホテル予約のアプリケーションに引き継げることがあります。この場合、例えば日本行きの航空券を予約したばかりの顧客に、レンタカーやホテルの予約を丁寧に促すことができます。
会話型マーケティングの施策は、いくつかの方法でインバウンド・マーケティングの取り組みの改善に役立ちます。第1に、Webサイトの利用者が1対1でやりとりできる手段を提供することで、顧客エンゲージメントを向上させるとともに、顧客の嗜好に関する的確でタイムリーなデータを収集できます。第2に、顧客への一連の質問を通じて、会話型マーケティング・ツールがリードをリアルタイムで絞り込むことができます。これらの質問は、購入にどの程度近づいたリードなのかをマーケティング担当者が把握するうえで役立ちます。第3に、会話型マーケティングで見込み客から収集する情報を利用して、本人との関連性が非常に高いコンテンツを提供し、興味関心に基づいてセールス・ファネルの中を誘導していくことができます。
2,000の組織を対象に、AIへの取り組みについて調査を行い、何が機能し、何が機能していないのか、どうすれば前進できるのかを明らかにしました。
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1「2023 Forrester TEI study finds Watson Assistant customers saw 23 million USD in benefits over 3 years」、Forrester Research社、2023年4月。
2「Customer Response in seconds, not minutes」、 IBMの事例、2020年。
3「Apple says people send as many as 200,000 messages per second」、ニュース・サイト「Business Insider」Kif Leswing、2016年2月。