寄稿者:Gregg Lindemulder、Matthew Kosinski
最高データ責任者(CDO)は、企業データから最大限のビジネス価値を引き出す責任を負う経営幹部です。CDOは通常、組織のデータ戦略を設定し、データ・ガバナンス、データ品質、データ分析、データ・セキュリティーなどのデータ管理機能を監督します。
21世紀初頭に初めて正式に設立されたCDOの当初の役割は、データ・ガバナンスと、サーベンス・オクスリー法などの新たな規制要件への準拠に重点が置かれていました。
今日、CDOの役割は、データ駆動型のインサイトを使用してビジネスの成果を促進することを目指すより戦略的なものになっています。
CDOは、経営幹部と直接連携してデジタル・トランスフォーメーションを推進し、収益性を向上させるデータ駆動型の取り組みを立ち上げます。IBMの最高データ責任者に関する調査によると、最も優秀な最高データ責任者のほとんどはその社のCEOが直属の上司となっています。
組織によっては、CDOは最高執行責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)、最高情報責任者(CIO)、またはその他の上級管理職に直属する場合もあります。
CDOが重要であるのは、組織がデータセットを保護、共有、最適化して意思決定を改善するのに役立つためです。
IBMのデータの差別化要因ガイドによると、企業の82%がデータ・サイロによって阻害されており、組織データの68%が分析されていないことが報告されています。CDOは、組織がこれらの課題を克服するのに役立つ戦略、ポリシー、機能を確立することができます。
たとえば、組織全体でデータ駆動型の文化を構築するために、CDOは多くの場合、データ・リテラシーの取り組みを推進することから始めます。この取り組みには、データ分析とデータ駆動型の意思決定の重要性について利害関係者を教育することが含まれます。
CDOは、データ駆動型のインサイトを分析、共有し、それに基づいて行動を起こすためのポリシーを実装することで、企業が以下を実現できるよう支援することができます。
CDOのスキル・セットは、人工知能(AI)を使用する組織にとっても重要になります。CDOは機械学習(ML)や大規模言語モデル(LLM)のトレーニングに必要な、信頼性が高く高品質な大量のデータの入手と準備に役立ちます。
また、CDOは、サイバーセキュリティーの脅威から組織のデータを保護し、ペイメントカード業界のデータ・セキュリティー規格(PCI DSS)や一般データ保護規則(GDPR)などのデータ・プライバシー規制への準拠を保証する管理機能を実装することでも組織に価値をもたらします。
最高データ責任者の責務は、データ管理とビジネス成長の両方の領域に及びます。これには以下が含まれます。
データ・ガバナンスは、組織のデータの品質、セキュリティー、可用性に焦点を当てています。データ・ガバナンスの目標は、データ検出やビジネス・インテリジェンスの取り組みにおいて容易にアクセスできる安全で高品質のデータを維持することです。
最高データ責任者は、組織のデータ・ガバナンスフレームワークを整備し、監視し、更新する責任を負う役職です。CDOはデータ品質を向上させ、データサイロを削減し、コンプライアンスとセキュリティを確保し、データ・アクセスを適切に分配するガバナンス方針とプロセスを実施します。
CDOは多くの場合、IT部門や法務部門の幹部の協力のもと、データ・ガバナンス基準が機密データの保護に関する最新の政府規制に準拠していることを確認します。また、事業単位の責任者と連携して、データ・ガバナンスのポリシーが組織で一貫して適用されるようにします。
デジタル情報をそのライフサイクル全体を通じて不正アクセス、破損、盗難から保護することは、CDOの最優先事項です。IBMのCDO調査によると、CDOの52%がデータ・セキュリティーは最も重要な責任であると回答しています。
CDOは、暗号化、データのバックアップ、ファイアウォール、認証と承認、IDおよびアクセス管理(IAM)、ウイルス対策およびマルウェア対策ツール、データ損失防止(DLP)ツール、侵入検知システム(IDS)など、データを保護するためのさまざまな対策を実装できます。
CDOは、最高情報セキュリティー責任者(CISO)と緊密に連携してサイバーセキュリティーの脅威を評価することが多く、データ・セキュリティーのポリシーが組織全体に確実に適用されるように支援します。
データ・ライフサイクル管理(DLM)は、データの収集、処理、ストレージ、共有、使用からアーカイブ、削除まで、ライフサイクルのあらゆる段階を通じてデータを管理するアプローチです。
CDOは、データのライフサイクルの各段階での価値と使用を最大化するための、ターゲットを絞ったポリシーを作成する責任があります。例えばデータを共有・使用する前に、その品質と正確性を確保するための適切な準備と検証が必要です。
また、ポリシーも法的要件とビジネスのニーズに従って、データが削除されるかどうか、いつ削除されるかを決定します。
これらのポリシーは、業務の作業ストリームに含まれるデータ量が増えるにつれ、重要度を増していきます。 CDOは多くの場合、データ・ライフサイクル管理の一環として、コストの削減、データ・アクセシビリティーの向上、データ・ストレージの最適化を追求します。
データ分析では、データサイエンスを使用して組織のデータから実行可能な洞察を抽出します。CDOは、データサイエンティストがこうした洞察を発見できるよう支援し、その洞察をビジネス・ユーザーと共有して、ビジネス・ユーザーがデータ駆動型の意思決定を行えるようにする責任があります。
CDOは、データサイエンティストがデータ・セットを理解し、アルゴリズムを開発し、インサイトを生み出すモデルを構築するために必要なツールとガイダンスを提供します。その後、CDOはビジネスチームと協力して、データのインサイトをワークフロー、計画、意思決定プロセスに統合します。
CDOの最終的な目標は、組織のデータ分析能力をビジネス目標に一致させることです。これが成功すれば、データ分析は、営業、マーケティング、製品開発、オペレーション、顧客体験、その他のビジネス機能全体にわたって、状況を一変させるメリットをもたらすことができます。
組織によっては、CDOではなく最高分析責任者(CAO)がデータ分析を監督する場合があります。また、1人の人物が両方の役職を保持し、最高データ・分析責任者(CDAO)とされり場合もあります。
CDOの多くがデータサイエンスまたは情報技術の修士号を取得していますが、CDOにはビジネスに関する高度な知識も必要です。CDOは、データ資産を使用してビジネス価値を生み出すためのロードマップとなる組織のデータ戦略の作成と指導を担当します。
CDOのデータ・ストラテジーは、データ・ポリシーがどのようにビジネスの成長を促進するかという大枠を決定するものです。この計画には、ビジネス・チームがデータを使用してより良い意思決定を行う方法を身につけられるように、しばしばデータ・リテラシーの促進が含まれます。この計画では、製品やサービスを改善し、市場機会を特定し、競合他社を上回る業績を上げるために、データを戦略的資産として使用する方法が伝えられる場合もあります。
データ・イニシアチブのパフォーマンス評価を支援するために、CDOはデータ戦略の一環として主要業績評価指標(KPI)を含めることがよくあります。CDOの一般的なKPIには、収益成長、顧客維持、顧客満足度、ウェブサイトのトラフィック、コンバージョン率などがあります。
IBMのCDOに関する調査では、トップクラスの業績を上げているCDOによるデータ戦略が他の戦略と比べて際立つ要因を4つ特定しています。
最高情報責任者(CIO)とCDOの違いは、CIOはデータを処理するテクノロジー・インフラストラクチャーを担当し、CDOはそのデータを使用してビジネス価値を生み出す方法を担当するという点です。
CIOとCDOは緊密に連携し、ソフトウェア、ハードウェア、データ戦略それぞれがが共に連携してビジネス目標を達成できるように支援します。
生成AIや機械学習などの高度なテクノロジーが標準となるにつれ、CDOは所属する組織で新たな役割を果たすようになるかもしれません。
生成AIの原動力となる大規模言語モデル(LLM)をトレーニングするには、高品質で信頼できるデータが大量に必要になります。AI駆動型のインサイトによって職場が変革されるにつれて、これまで以上に多くのデータを収集し、適切に管理する必要が生じることでしょう。
CDOは、データ駆動型AIの進化する需要と、データ・プライバシーやデータ保護、規制遵守といった従来の保護措置とのバランスを取る必要があります。データとAIがオートメーションとビジネスの主要な要因となる将来においては、CDOの役割は最終的には最高データ・分析・AI責任者(Chief Data, Analytics, and AI Officer = CDAIO)の役割になると考えている人もいます。
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