成功するマルチクラウド戦略を策定するための8つのステップ

2024年1月30日

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性能の最適化やコストの管理、ベンダー・ロックイン防止のために、マルチクラウド・アプローチ(複数のクラウド・ベンダーのクラウド・サービスを使用)を採用する企業が増えています。Gartner社の最新予測(ibm.com外部へのリンク)によると、パブリッククラウド・サービスに対する世界のエンドユーザーの支出は、2023年の5,636億ドルから2024年には20.4%増加して合計6,788億ドルに達すると予想されています。マルチクラウド・アーキテクチャーにより、企業はビジネス・ニーズに合わせて最適なクラウド製品とサービスの組み合わせを選択できるようになるばかりではなく、生成AI機械学習(ML)などの革新的なテクノロジーをサポートすることでイノベーションを加速できます。

企業がさまざまなクラウド・サービス・プロバイダーのサービスを増やすにつれて、マルチクラウド環境はより複雑になります。マルチクラウドに関連するさまざまな課題を克服し全体的な成功を収めるために、組織は包括的なマルチクラウド管理戦略を綿密に計画する必要があります。

マルチクラウド・アーキテクチャーとは

マルチクラウドとは、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform、IBM Cloud、Microsoft Azureなどの複数の大手クラウド・サービス・プロバイダー(CSP)の複数のクラウド・サービスを同一のITインフラストラクチャー内に組み込むクラウド・コンピューティング・モデルです。

シンプルなマルチクラウド・シナリオでは、企業は2つの異なるクラウド・プロバイダーを使用し、パブリック・インターネット経由でホストされるソフトウェア・アプリケーション(WebexやSlackなど)であるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)を実行することが考えられます。

しかし、より複雑なエンタープライズ・ビジネス環境では、マルチクラウド・アプローチは通常、さまざまなCSPからのSaaS配信にとどまりません。例えば、ある組織ではデータの保管にMicrosoft Azure、新しいアプリケーションの開発とテストにはAWS、バックアップと災害復旧にはGoogle Cloudを使用することがあります。

SaaSに加えて、今日の現代の企業の多くは、以下のクラウドベースのコンピューティング・モデルについてクラウド・サービス・プロバイダーに依存しています。

  • PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)はアプリケーションの開発・実行・管理のためのハードウェアやソフトウェア、インフラストラクチャーを提供します。PaaSアプローチは、オンプレミスでのプラットフォームの構築と保守に伴うコストや複雑さ、柔軟性の欠如といったデメリットを回避するのに役立ちます。
  • IaaS(サービスとしてのインフラストラクチャー)は、コンピューティングやネットワーク、ストレージ・リソースをインターネットを通じて、オンデマンドの従量課金制で提供するクラウド・コンピューティング・サービスです。IaaSを使用すると、企業は必要に応じてワークロード・リソースを拡張縮小できるため、従来のITインフラストラクチャーの拡張に伴う多額の設備投資を回避できます。

ハイブリッド・マルチクラウド環境

最近では、マルチクラウド環境は、通常、ハイブリッドクラウドパブリッククラウドプライベートクラウド、オンプレミス・インフラストラクチャーを統合するクラウド・コンピューティング・アプローチ)と組み合わされています。ハイブリッドクラウド・インフラストラクチャーは、複数のクラウド間でのワークロードの相互運用性と移植性をサポートする単一の柔軟なITインフラストラクチャーを実現します。ハイブリッド・モデルとマルチクラウド・モデルを組み合わせることで、ハイブリッド・マルチクラウド・アプローチとなり、企業は複数のクラウド間でアプリケーションを移行・構築・最適化するために両方のクラウド・コンピューティング世界の長所を最大限に活用できる柔軟性を得られます。

最新のハイブリッド・マルチクラウド・エコシステムは、クラウドネイティブ・アプリケーション開発(マイクロサービス、マイクロサービス・アーキテクチャーなど)を可能にし、オープンソースのコンテナ・オーケストレーション・プラットフォーム(KubernetesDocker Swarmなど)を使用して、オンプレミス・データセンターを始めパブリッククラウドやプライベートクラウド、エッジ設定全体でのアプリケーションのデプロイメントを自動化します。マイクロサービスは、ソフトウェアの開発と展開を高速化することでDevOps方法論をサポートします。

IBM Institute for Business Valueの調査によれば、完全なハイブリッド・マルチクラウド・プラットフォームのテクノロジーと運用モデルを大規模に展開した場合、得られる価値は、シングルプラットフォームおよびシングル・クラウド・ベンダーのアプローチから得られる価値の2.5倍になることがわかっています。

マルチクラウドの課題とは

マルチクラウド環境は、企業のデジタル・トランスフォーメーションの取り組みに不可欠な要素となっています。しかし、異なるCSPが提供する複数のクラウドやサービスを実行する複雑さにより、次のようないくつかの課題が生じます。

  • クラウド・スプロール: マルチクラウドに関連する最大の課題の1つは、クラウド・スプロールと呼ばれる組織のクラウド・サービスの無秩序な拡大です。クラウド・スプロールは、過剰な費用やオーバープロビジョニング(アプリケーションまたはシステムに必要以上のコンピューティング・リソースを割り当てること)につながる可能性があります。不要なワークロードや忘れられたワークロードに対してコストがかかるばかりではなく、オーバープロビジョニングによってマルチクラウドの攻撃対象領域が拡大し、データ侵害サイバー攻撃に対してより脆弱になるおそれがあります。
  • データのサイロ化: データが複数のクラウドやプラットフォームに分散しているため、組織がデータのサイロ化を引き起こすリスクがあります。データ・サイロは可視性の問題を引き起こし、チームが統合データの全体像を共有して共同作業やビジネス上の意思決定を行うことを妨げ、データ分析に悪影響を及ぼすおそれがあります。
  • セキュリティー・リスク: 強固なセキュリティー対策を維持することは、企業のクラウド導入に不可欠な要素です。プライベートクラウドとパブリッククラウド間でデータが移動する複雑なマルチクラウド環境には、明らかなリスクが伴います。例えば、ある組織が単一のクラウド・プロバイダーを利用する際に、単一のセキュリティー管理セットを使用する場合があります。おしかし、マルチクラウド環境では、組織が管理する内部のセキュリティー・ツールと、さまざまなクラウド・サービス・プロバイダーが提供するプラットフォームのネイティブなセキュリティー制御を組み合わせると、セキュリティー機能が断片化され、人的ミスや設定ミスのリスクが高まるおそれがあります。
  • 制御不能なコスト:クラウドとクラウド・サービスの増加によりクラウド請求書がさらに高額になります。クラウド・サービスに関連する従量課金モデルは、クラウド経費を制御するように設計されていますが、さまざまなCSPの料金体系を追跡することが困難であったり、データ送信料金が見落とされていたりするなど、予期しないコストが発生する可能性があります。

成功するマルチクラウド戦略を策定するための8つのステップ

複数のクラウド環境や複数のベンダーを扱うと、技術的および管理上の複雑さが増します。マルチクラウドへの移行はそれぞれ異なりますが、ここでは、成功するマルチクラウド戦略を策定するための8つの基本的なステップをご紹介します。

1. 目標を定義する

マルチクラウドへの移行は、ビジネス目標を全体的な戦略計画と整合させることから始まります。まず、組織の既存のインフラとアプリケーションを見直すことから始めましょう。ビジネス・ユースケースに関連するワークロードの要件と目標を特定します。

ハイブリッド・マルチクラウド環境は、マルチクラウド環境間での統合データ交換をサポートし、低遅延やダウンタイムなしで、必要な場所へのスムーズなデータ配信を保証します。例えば、医療機関は、さまざまな地域にまたがるチームがリアルタイムでデータを共有し、最適な患者ケアを提供できるように、マルチクラウド環境を求めている場合があります。

2. 最高のクラウド・サービス・プロバイダーを選択する

ほとんどのCSPは似たような基本機能を提供していますが、それぞれ独自の機能やサービスを提供しています。とあるクラウド・サービス・プロバイダーの高性能コンピューティング機能であれ、別のクラウド・サービス・プロバイダーの高度なデータ分析であれ、マルチクラウド・アプローチにより、ビジネス・ニーズを満たす最適なクラウド・サービスを選択できます。

一部のクラウド・サービス・プロバイダーは、より柔軟な契約と初期費用の低さを提供しているため、サービス契約を慎重に検討しましょう。ITチームなどの主要な利害関係者に専門知識を活かしてCSPの選択プロセスに関与してもらうようにしましょう。

3. 単一ペインを作成する

マルチクラウド環境では、さまざまなクラウド・プラットフォームのアプリケーション・プラットフォーム・インターフェース(API)によって可視性の課題が生じる可能性があります。マルチクラウド・アーキテクチャーのメリットをすべて享受するには、企業全体の可視性を一元的に管理できる単一ペインを作成する中央コンソールまたはプラットフォームが必要になります。一元化クラウド管理プラットフォーム(CMP)と呼ばれるこのダイナミックで安全なマルチクラウド管理ソリューションを使用すると、ITチームがマルチクラウド・エコシステムを構築・管理・監視・制御できます。

4. 自動化ツールを活用する

ITインフラストラクチャーとプロセスの自動化は、エンタープライズ・ビジネスのマルチクラウド・モデルにおいて極めて重要な役割を果たします。自動化ツールの助けを借りて、組織は従来ITチームに割り当てられていた手動タスクの数を減らすことができます。クラウド自動化ソリューションは、パブリッククラウドまたはプライベートクラウド設定の仮想マシン(VM) 上で動作するソフトウェア・レイヤーを作成します。

自社のクラウド管理プラットフォームに統合する最適な自動化ツールを慎重に選択することで、コンピューティング・リソースの使用量を削減し、クラウド・コンピューティングの支出を節約できます。コンテナとオーケストレーション・ツールに加えて、マルチクラウドの自動化ソリューションにはIaC(コードとしてのインフラストラクチャー)が含まれます。IaCは、高水準の記述コーディング言語を使用して、ITインフラストラクチャーのプロビジョニングを自動化します。IaCにより、インフラストラクチャー管理を簡素化すると同時に、一貫性を向上させ、手動構成の必要性を低減できるようになります。

5. ゼロトラスト・セキュリティー・アプローチを構築する

最新のIBM IBVの調査によると、平均的な組織では常時8~9以上のクラウド・インフラストラクチャー環境が使用されており、悪意のあるアクターによるセキュリティーの脅威リスクが高まり、機微データが危険にさらされています。

複数のクラウドを管理するには、ゼロトラスト・セキュリティーが必要です。これは、複雑なネットワークのセキュリティーが常に社内外の脅威にさらされていると想定するアプローチです。ゼロトラストには、幅広いセキュリティー機能が必要になります。これには、シングル・サインオン(SSO)多要素認証を使用して、すべてのユーザーと特権アカウントのアクセスを管理するポリシーが含まれます。主要なCSPやその他のクラウド・サービス・ベンダーは、脅威を継続的に管理してレジリエンスを確保できるようにするマルチクラウドのセキュリティー・ソリューションを提供しています。

6. コンプライアンス要件と規制要件を統合する

エンタープライズレベルの組織、特にグローバルに展開する組織は、さまざまな国や地域、法域にわたって、さまざまな規制基準(EUの一般データ保護規則、米国のAI権利章典(ibm.com外部へのリンク)など)を遵守する必要があります。医療やエネルギー、金融その他多くの分野の組織にとって、業界規制の遵守は極めて重要です。

業界の規則や規制に従わないと、機微データを危険にさらし、法的および財務上の影響や風評被害につながるおそれがあります。組織は、マルチクラウドの開発と導入のライフサイクル全体を通じてコンプライアンスのルールと規制を統合することで、これらのリスクを軽減し、顧客との信頼関係を築くことができます。コンプライアンスの更新を自動化するCSPコンプライアンス・ツールをクラウド管理プラットフォームに組み込むことで、組織は業界固有の進化する規制基準に準拠できるようになります。

7. コスト最適化のためのFinOpsを採用する

マルチクラウド・ クラウド・コストの最適化計画では、コストを管理および制御するための戦略や手法、ベスト・プラクティスを組み合わせます。FinOps(クラウド財務管理の規律と文化的慣行)により、組織はハイブリッド・マルチクラウド環境でビジネス価値を最大化できるようになります。FinOpsに加えて、AI搭載のコスト管理ツールにより、組織はアプリケーションの性能を向上させ、全体的なクラウドコストを最適化できるようになります。

8. マルチクラウド戦略を継続的に改善する

マルチクラウド・デプロイメントの成功に終わりはありません。むしろ、進化し続け、変化するビジネス・ニーズに適応し、最新の最先端テクノロジーを活用できる柔軟性を提供します。ビジネス目標を継続的に再検討し、クラウド・サービスのポートフォリオを評価することで、ビジネスの俊敏性や革新性、競争上の優位性の維持が可能になります。

マルチクラウドのメリット

マルチクラウドは、単一のプラットフォームだけでは提供できないサービスと機能を組み合わせて提供します。マルチクラウドは、ビジネスを以下の方法で支援します。

  • 単一のベンダーに縛られるコストや制限がない「最高の」クラウド・コンピューティング・サービスを選択することで、ベンダー・ロックインを回避
  • 料金体系や性能、セキュリティー、コンプライアンスに最適なクラウド・サービスの組み合わせにより、柔軟性を実現
  • データやワークフロー、システムのバックアップと冗長機能により、中断を回避し、信頼性を確保
  • 複数のクラウドにわたる可視性によりシャドーITを制御

IBMとマルチクラウド

将来を見据えて、企業はインフラストラクチャーやプラットフォーム、アプリケーション向けにハイブリッド・マルチクラウド・ソリューションを引き続き利用していくでしょう。International Data Corporation(IDC)のレポート(ibm.com以外へのリンク)によると、パブリッククラウド・プロバイダーのサービスに対する支出は、2027年には全世界で1.35兆ドルに達する見込みです。

ハイブリッドクラウド、人工知能(AI)、コンサルティング・サービスのグローバル・リーダーとして、IBMは企業が成功するハイブリッド・マルチクラウド管理戦略の創出を支援しています。IBMは、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformとのエコシステム・パートナーシップに基づいて構築されているため、貴組織は、今日の急速に変化するデジタル環境において競争力を維持するために、クラウドベースのサービスの最適な組み合わせを確保できます。

 

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