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デジタル・ワーカー:“人間ファースト”の導入を実現する5つのベスト・プラクティス

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デジタル・ワーカーのベスト・プラクティスにより、企業は業務生産性とビジネス成果の向上を通じて投資対効果を高めることができます。

米国の労働人口の伸びが鈍化しており、今後10年間で成長率が約50%低下すると予想されています。すでにニュースは、人員削減やスキル・ギャップ、生産性の停滞に苦しむ産業界や企業の話題でもちきりです

熟練労働者市場が逼迫する中、デジタル・ワーカー・テクノロジーを採用することで、基幹業務機能を自動化し、生産性を大幅に向上させることが可能となります。デジタル・ワーカーを適切に導入することで仕事のやりがいを高め、企業にとって最も重要な経営資源である人材をつなぎ止めることができるのです。

 

新しいデジタル・ワーカー

デジタル従業員とも呼ばれるデジタル・ワーカーは、人ではないチーム・メンバーです。ボットやチャットボットなどの限定的な自動化機構とは異なり、インテリジェントな自動化テクノロジーを使って一連のシーケンスで複数の業務タスクを実行し、あらゆるビジネス・ニーズに対応できるように作られています。例えば、ある組織のシステムで請求書を処理する際、それを営業から財務、調達部門へと受け渡し、処理するといった活用法が考えられます。

人間の従業員と同じく、デジタル・ワーカーも組織内にペルソナを持ちます。つまり、権限レベルがあり、同僚がいて、報告する相手がいます。また、人間と同じく、特定の認証情報を持ちます。つまり、アクセスできるシステムがあり、やり取りできる人がいて、セキュリティー・レベルが定められています。さらに、人間の雇用者と同様、デジタル・ワーカーも業務に特化したスキルと、業務に応じて新たなスキルを身に付ける能力を備えています。

今日のデジタル・ワーカーは、人事担当者が求人票を作成し、候補者リストを作り、連絡を取る手伝いをしています。カスタマー・サポート・チームが想定外の事態に対応し、フォローアップ・ミーティングをスケジューリングする支援をしています。部門を超えて連携して顧客の住所変更を処理し、配送業務を支えています。保険会社が苦情を評価し、社内承認を経て、顧客に通知する手伝いもしています。

より高度なデジタル・ワーカー・ソフトウェアになると、複数のプロセスやシステムをまたいで機能し、人と動的に対話しながら情報を集め、記録したやり取りの内容を基にワークフローを改善することができます。

 

デジタル・ワーカー導入のための5つのベスト・プラクティス

デジタル・ワーカー・テクノロジーが進化を続ける中、ビジネス・リーダーが生産性を高めてより良いビジネス成果を上げ、投資対効果を向上させるのに役立つベスト・プラクティスが生まれています。

  1. 当たり前のことを当たり前に、ただし小さく始める
    IBMフェローであり、IBM Garageの創設者兼CTOでもあるレイチェル・ライニッツ(Rachel Reinitz)は、まず「小さく切り分けた業務」に適用してデジタル・ワーカーの有効性を明らかにし、早期に効果を引き出して本格導入への賛同を得ることを推奨しています。つまり、いきなり多くのことを変えたりはせず、人々がデジタル・ワーカーを快適かつ自信を持って使えるようにするのです。
  2. エンドユーザーから始める — 早く、頻繁に
    デジタル・ワーカーは、自動化できる業務や自動化すべき業務から従業員を解放するためのものです。まずはそれらの業務を行っている従業員の話を聞くことから始めましょう。最も手間や時間がかかる業務は何か? 組織の最優先目標を達成するのに役立つユースケースはどのようなものか? デジタル・ワーカーの導入目的は、それに業務を割り当てる権限を与えることで従業員の仕事をやりやすくし、業務効率と従業員体験を高めることにあります。
  3. 明確な道筋を示して従業員の恐怖心を抑える
    従業員は、デジタル・ワーカーに懐疑心や恐怖心を抱くかもしれません。自分の仕事の一部を他の従業員に引き継ぐのと同じように感じるのです。それらの従業員は、「なぜ自分の仕事の一部を取り上げられるのか?」「なぜ自分がこの新入りを監督しなければならないのか?」と尋ねる(あるいは感じる)ことでしょう。
    この場合、デジタル・ワーカーの目標は、人手で行っていた皿洗いを食器洗い機に置き換えるように、彼/彼女らの仕事における雑務を減らすことにあるのだと改めて説明します。それによって目指すのは、従業員が自らの経験や学習能力、コミュニケーション・スキルを生かして、人だけが持つ才能を発揮できるようにすることです。従業員の不安を払拭するために、人ならではのスキルをさらに高める能力開発の道筋を明らかに示しましょう。
  4. 人同士が深くかかわるユースケースも検討する
    デジタル・ワーカーの最初の導入ターゲットとなるのは、人手で行っていた反復的な業務タスクかもしれません。ただし、それだけに限定せず、人手によるレビューや相互のやり取りを頻繁に必要とするプロセスへの適用も考慮に入れてください。デジタル・ワーカー・テクノロジーは、電子メール、Slack、チャットなどのコミュニケーション・チャネルとうまく統合されており、それらのチャネルをまたいで進むような業務では非常に効率的なプロジェクト・マネージャーとなり得ます。
  5. 個々の業務への効果も評価する
    マネージャーは、投資対効果の観点からチーム/部門レベルでデジタル・ワーカーの活用効果を測定する必要がありますが、同じく重要なのが、従業員がデジタル・ワーカー導入前後の自身のパフォーマンス(および満足度)を比較できるようにすることです。デジタル・ワーカーを適用する前に、業務と従業員の満足度を詳細に調査することを検討してください。それにより、比較のためのベンチマークを取ることができます。

 

現実世界の成功事例:IBM初のHRデジタル・ワーカー

ジョン・レスター(Jon Lester)は、IBMのHRサービス・デリバリー&トランスフォーメーション担当ディレクターです。2021年、彼のチームはテスト用の新しいテクノロジーをIBMワトソン研究所から受け取りました。そのテクノロジーを使い始めるまで、彼らはこれが従来利用してきたデジタル・アシスタントや会話型AIテクノロジーの新バージョンにすぎないと考えていました。現在はIBM Watson Orchestrateと呼ばれるこのソリューションにより、マネージャーは直観的でノンコーディングのインターフェースを使ってデジタル・ワーカーを作成/展開しています。

昇進選考プロセスにまつわる業務は多くの時間と労力がかかりますが、ジョンと彼のチームは、この業務において人事担当の従業員を支援するデジタル・ワーカーを開発しました。「HiRo」と名付けられたこのデジタル・ワーカーは、「デジタル職歴書、すなわちトレーニングによって身に付けた役割固有のスキルと能力を有している」とジョンは説明します。以前は非常に時間がかかっていた情報の集計や整形を、現在はこのデジタル・ワーカーが行っています。

IBMコンサルティングのある地域を担当するHRビジネス・パートナーのジェリー・モーガン(Jeri Morgan)は次のように話します。

「以前は、プロセスの前段階でデータを集めて業務で使える形式にするまでに2週間近くかかっていました。HiRoは、それをほぼリアルタイムで行います。あの2週間はもう不要になったのです」

スプレッドシートも要りません。マネージャーやリーダーは、それぞれの従業員について、昇進の基準を満たしているかどうか、どのようなステップを踏めば条件を満たせるかといったことに関してまとまった情報を見ることができます。ジェリーは、各マネージャーが従来2週間かけていたこのプロセスが、わずか数時間に短縮されたと見積もっています。

 

人による人のための意思決定

HiRoとジェリー、およびその他のステークホルダーの間で職務のバランスが取られることで、従業員に関する意思決定は人によって行われています。「昇給や任命に関する意思決定は、マネージャーやHRビジネス・パートナー、実務担当者によって行われます」とジョンは説明します。なお、HiRoを現場に導入する前に、担当チームはHiRoがAI倫理に関する5つの原則(説明可能性、公平性、堅牢性、透明性、プライバシー)に準拠していることをIBMの倫理AIガバナンス・チームに示す必要がありました。

Hiroをある地域の事業部に導入することで、IBMは年間約1万2,000時間を節約して昇進選考プロセスを50%スピードアップし、同時に作業負荷を大幅に軽減しました。「10週間かかっていたサイクルが、約5週間に短縮されました」とジェリーは話します。この成功を受け、HiRoは間もなく他の地域のIBMコンサルティングにも導入されようとしており、それによって年間5万時間を節約できると見込まれています。

HiRoをはじめとするデジタル・ワーカーの最大の価値は、時間の節約にとどまらず、仕事を変革する可能性を秘めていることです。私たちは今日、世界的な労働力不足と人材不足の真っただ中にあります。人々は常に、「より少ない人数で、より多くを行う」ことを期待されています。このテクノロジーは、その一助となるでしょう。「人材計画や公平性など、最も重要な仕事に多くの時間を費やせるようになるとともに、それらの重要な仕事をより適切に行うのに必要な情報をWatson Orchestrateで提供できるようになります」とジョンは説明します。

「デジタル・ワーカー・テクノロジーの課題の1つは、実際に目にするまで、それがいかに優れたものかがわからないことです。例えば、これを給与計算や401(k)といった福利厚生など、人事部門全体でどのように活用できるのか30分程度のショーケースを行ったところ、驚くほど多くのアイデアが寄せられました」(ジョン)

この事例の全文を読む (英語)

 

まとめ

今日、労働人口動態は急速に変化しています。退職するベビーブーム世代の人口は、新社会人の人口をはるかに上回ります。スキル・ギャップは拡大の一途をたどっており、その克服には多大な努力が必要です。デジタル・ワーカーは、さまざまな業務を自動化し、従業員が学習やより付加価値の高い活動に集中できるようにすることで、組織の生産性を高めて企業を支援します。

デジタル・ワーカーの最新テクノロジーの詳細についてはこちらをご覧ください。


この投稿は、2022年7月13日に、米国IBM Cloud Blogに掲載されたブログ (英語)の抄訳です。

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