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新しい顧客体験を創り出すカスタマーケア・ソリューション

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IBM Watsonの進化と今

20112月、IBM Watsonは米国のクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」でチャンピオンと対戦し勝利しました。この歴史的な出来事を覚えていらっしゃいますでしょうか。それまでの検索技術よりもはるかに効率的に非構造化データの中から答えを見つけることのできるテクノロジーであり、新時代を切り開きました。それ以来IBMはこのテクノロジーの発展に挑み続け、近年では「AIインサイド」のソフトウェアを数多くご提供するに至っており、多くの企業でAIが業務に組み込まれて活用されるようになっています。

また、AIをコアとして豊富な業務改革の経験があるIBMだからこそ、AIを組み込んだお客様のロードマップを描き、あるべき姿の実現に向けた具体的な支援が可能です。特に、IBM Watson Assistantによるバーチャル・エージェント、およびIBM Watson Discoveryを含むアセットSmart Agent Advisorによるオペレーター支援は、顧客接点の現場において新しい顧客体験を創り出すカスタマーケア・ソリューションとして注目を集めています。

 

顧客接点の現場でよくある取り組みのきっかけ

“カスタマーケア領域の問題点”

既に社会になくてはならなくなったコンタクトセンターでは、ファーストコンタクト時の解決率が低いという問題点を抱えています。ユーザーは行き詰まると諦めてしまいます。そして、諦めたのが見えていないのは深刻な問題です。使えないチャットボットは二度と使ってもらえませんし、さらにトラブルで問い合わせが殺到するケースでは、担当者が変わったり同じ用件を伝えるのは顧客ロイヤリティーを大きく毀損します。煩わしいスタートポイントや幾度とないインタラクションが原因です。ある調査では、1回の不愉快な体験で他社への変更を検討する割合は、62%に達するそうです。

デジタルネイティブ世代の社会進出やコロナ禍の状況により、急速に需要が拡大しているデジタルチャネル運営の現場では、デジタルで新たな顧客接点の創出を求められています。例えば、自社通販サイトなどのデジタルチャネルにおいて成約率アップや離反防止が期待されています。ある調査では、サービスが不満で購買行動をストップ、他社へ乗り換える比率は、78%に達するそうですが、期待に対して対応が不十分であると感じている企業が多い状況です。

そして、企業の未来を託す人材の育成部門では、営業やオペレーター育成の難しさに直面しています。刻々とアップデートされる製品・サービスそして離職率の高さを背景として、営業やオペレーターの育成に多くの時間と労力がかかっています。ある調査では、オペレーターの採用・育成に課題認識を持つ企業の割合は、5年前から倍増し57%に達しています。

 

取り組みを推進する解決の方向性

企業は、これらの問題点から取り組みの目的を明確化し周知すること、そして何よりも顧客視点で解決の方向性を策定することが最優先事項となっています。

コンタクトセンターにおいては、可能な限り最初のコンタクトで解決するようにします。チャットボットや有人エージェントといった、問い合わせ内容に適したチャネルの活用による質問応答率向上が、ロイヤリティー維持の鍵となります。とりわけチャットボットで解決できる質問が多くなればなるほど、オペレーターの応対は軽減され、その結果コンタクトセンター全体の応答率の改善に直結します。

デジタルチャネル運営の現場においては、顧客体験の変革を推進します。ECサイト上の多種多様なヘルプ、大量の商品情報の探索、複雑な手続きのガイドなどにより、デジタルチャネルでストレスのない顧客利便性を追求したサービスを創出しなければなりません。その結果が新しい顧客層の取り込みと既存顧客の維持につながります。

人材育成の観点では、徹底したオペレーターサポートを実現させます。顧客からの問い合わせに対して、リアルタイムに的確な情報を提供し最適な応対を支援することで、効率的かつ効果的なコールセンター運営を実現します。そして、これらの取り組みが、顧客満足度の向上へとつながり、自社のブランド価値を向上させるのです。

以上の3点の解決の方向性を実現する2つのカスタマーケア・ソリューションが、AIインサイドのチャットボット「IBM Watson Assistant」、AIオペレーター支援システム「Smart Agent Advisor」です。

 

IBM Watson Assistantとは

IBM Watson Assistantは、ユーザーとコンピューターの対話を可能にする開発ツールです。チャットボットなどでユーザーの自然言語での問い合わせを理解し、適切な回答を返します。ただし、IBM Watson Assistantが目指しているのはありきたりなチャットボットではありません。プロアクティブでパーソナライズされたサービスを提供することで、企業のブランド・ロイヤルティーの向上や顧客体験の変革を支援する企業向けAIエージェントです。

IBM Watson Assistantの特長は、AIと統合の切り口で示すことができます。AIは回答品質の向上を図るとともに少ないデータで学習し運用の負荷を軽減します。このAI機能が、人のコミュニケーションにより近づいたバーチャルエージェントを実現します。また、統合機能により、チャネルの統合やアプリケーション連携をローコード・ノーコードで実現し、枠を超えることで期待を超える顧客体験に貢献します。

 

IBM Watson AssistantのAI機能

バーチャルエージェントが人のコミュニケーションに近づいたとご紹介しました。その主な根拠は、次の4つのスキルが向上したことです。

 

①「必要なことを上手に聞き出します」

これはIBM Watson Assistantのスロット・フィリングという機能で、全ての情報を収集し終えてはじめて、次の処理に移ることができます。

 

②「話がそれてもうまく本題に戻します」

脱線という機能で、ある話題から別の話題に脱線した場合に、その話題に付き合いつつも、自然と元の話題に戻ってこられる機能です。会話中に話の流れや思いつきで、どうしても話題がそれることがありますが、それた会話が終わった後、IBM Watson Assistantは本来の話題に関する追加質問をすることができます。

 

③「あいまいなまま会話を終わらせません」

ユーザーの発言にあいまいさがある場合、最適な意図を判断できないことになりますので、IBM Watson Assistantの明確化という機能は、機械学習を使用していくつかの選択肢を提供し、ユーザーのインプットを求めることができます。それにより、「わかりません」といった応答や人間のエージェントへの引き継ぎのケースが少なくなります。

 

④「稀な質問もその場で回答します」

できるだけ持ち帰らずに、その場で回答できることは信頼につながります。稀な質問にまで備えて回答をきっちり整備することは事実上困難です。そのとき、IBM Watson Discoveryのサーチスキル機能をチャットボットに統合できますので、多様な質問に回答を返すことができるようになります。

 

“IBM Watson AssistantのAI機能例”

 

Smart Agent Advisorとは

Smart Agent Advisorは、高いカスタマーサービスを要求されるコールセンターのオペレーター支援システムで、 リアルタイムに情報を提供しますが、ただのオペレーター支援システムではありません。リアルタイムで対応方法をレコメンドし、スキル不足によるNPS低下を防ぐとともに、運営管理者にも情報を共有可能な、オペレーターおよび運営管理者向けコミュニケーションツールだということです。

Smart Agent Advisorには次のような特長があります。オペレーターが表示している一つの画面で、さまざまな情報を提供します。お客様との会話のテキスト、快適な会話スピードのアドバイス、ネガテイブな発言の場合、推奨発言のアドバイス、ポジティブな発言の場合、良い点の明示、FAQ等の社内情報に関連する会話の場合、社内情報から即時に検索し提示、会話状況に対するお客様満足度やNPS等のスコアリングといった情報です。

これにより、例えば、オペレーターは、回答候補が即時に検索し提示されることにより、回答精度の向上につなげることができます。また、タイムリーに品質についてのフィードバックが提供され、自分の通話の振り返り学習をすることにより、応対品質の向上につなげることができます。

 

“Smart Agent Advisorの画面イメージ”

 

Smart Agent Advisorでの管理者サポート機能

管理者サポートとして、Supervisor Dashboardという機能があります。コールセンターのオペレーター稼働状況をリアルタイムに可視化し、効率的かつ効果的なコールセンター運営を支援します。また、オペレーターのリモートワーク化の課題であった状況把握とコミュニケーションをサポートします。
下図のとおり、コールセンター全体を重点管理指標で俯瞰、チームの状況もリアルタイムに把握、そしてオペレーターごとの状況を詳細まで把握できます。例えば、管理者は、即時モニタリング・フォローすることにより応対品質の向上につなげることができます。応答品質評価レポートの自動生成により人材育成に貢献します。入電傾向やお客様の声収集によりマーケティングにも活用可能となります。管理者はオペレーターに寄り添うことができるようになり、チーム内での信頼醸成に大きく役立つのです。

 

“Supervisor Dashboardの画面イメージ”

 

IBM Watsonの活用例

IBM Watsonは多くの現場で活用されています。これまでにIBM Watson AssistantおよびSmart Agent Advisorをご紹介しましたが、例えば、バーチャルエージェント領域では、24時間365日のお客様サポート体制を確立し、気軽に相談できるチャネルとして心理的なハードルを解消するという効果を上げています。
また、オペレーターサポート領域では、サービスの多様化で難易度が高まるテクニカルサポートの現場で、オペレーターの負荷軽減と応対品質の向上を実現されています。
IBM Watsonのカスタマーケア・ソリューションにより、皆様のお客さまへの体験と満足度向上のお手伝いができると幸いです。

 

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