S2P(Source to Pay:選定から支払いまで)とは

倉庫内の調達マネージャー

共同執筆者

Matthew Finio

Staff Writer

IBM Think

Amanda Downie

Staff Editor

IBM Think

S2P(Source to Pay:選定から支払いまで)とは

S2P(選定から支払いまで)は、サプライヤーの選定、契約管理、購入、支払いなど、調達活動を最初から最後まで結び付ける統合調達プロセスです。

S2Pは、これらの相互接続された調達活動を簡素化された1つのプロセスに統合することで、すべての段階を効率的に管理し、成果が得られるようにします。これらのステップを統合することで、S2Pは調達活動の透明性と管理を強化しながら、より広範なサプライチェーン管理をサポートし、データ駆動型の意思決定を可能にします。

S2Pプロセスにおける重要なステップは戦略的選定であり、これには適切なサプライヤーを特定し、その能力を評価し、契約を交渉することが含まれます。このステップは、組織の質、コスト、納期の期待を満たすベンダーを見つけるうえで不可欠です。また、見積依頼書(RFP)などのRFXプロセスを使用して、サプライヤーの情報と入札を収集することもよくあります。契約の締結後、プロセスは調達に移行し、発注書の発行や商品またはサービスの受領、支払いの処理が行われます。

S2Pは調達データを一元化して可視性とコントロールを向上させることで、組織が情報に基づいた意思決定を行い、市場の変化に適応できるようにします。S2Pプロセスは、明確なコミュニケーションを育み、能力評価を可能にすることで、サプライヤーとの関係を強化することもできます。つまり、S2Pは組織の調達戦略をモダナイズし、サプライチェーンの最適化とレジリエンスを強化するための重要なツールとなります。

テクノロジーは、繰り返し作業を自動化し、支出とサプライヤーの能力に関する知見を提供することで、現代のS2Pにおいて重要な役割を果たしています。大手プロバイダーが提供する高度なS2Pソリューションは、分析、AIサプライチェーンのオートメーションを使用して、サプライヤーの選択を最適化し、需要を予測し、コスト削減の機会を特定します。これらのプラットフォームでは、調達ツールと財務システムを統合することで、支出をシームレスに追跡し、契約の遵守を保証し、運用効率を向上させることができます。

S2Pと「調達から支払いまで」(P2P:Procure to Pay)の違い

S2Pは、調達から支払いまで(P2P)と混同されることがあります。これらのプロセスの違いは、調達サイクルにおける範囲にあります。

S2Pとは、選定(サプライヤーの特定、評価、選択)から、調達、請求書処理、支払いまでの、より広範なエンドツーエンドのプロセスです。戦略的な調達、サプライヤーの選択、契約管理を重視しているため、調達イニシアチブやサプライヤーとの関係の最適化を目指す組織に最適です。基本的に、S2Pは戦略的な意思決定を調達の取引面と統合することで、調達戦略を最適化し、コスト削減を達成し、サプライヤーのライフサイクル全体を管理することを目指しています。

P2PはS2Pの一部分であり、購買の運用面のみに焦点を当てています。調達から支払いまでのプロセスの目標は、サプライヤーからの商品やサービスの流れを効率的に管理し、タイムリーな支払いを確実にすることです。このプロセスは、購買申込書や発注書の作成から始まり、商品やサービスの受領、請求書の承認と支払いで終了します。P2Pは、本質的に取引と運用に重点を置いており、購買と支払いを効率的に管理することに焦点を置いています。

つまり、P2Pは調達における取引と決済面を扱っており、S2Pは戦略的選定や関係管理を含む調達ライフサイクル全体をカバーします。したがって、S2Pはすべての調達機能を統合して組織の長期的な調達戦略をサポートする、より包括的なプロセスになります。

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S2Pプロセスのステップ

選定から支払いまでのプロセスは、相互に関連する複数のステップで構成されており、それぞれが調達を簡素化し、購買ライフサイクル全体で価値を確保することを目的としています。組織やプラットフォームによって、順序や強調点が若干異なる場合があります。それでも、核となる枠組みは一貫しており、選定から契約までがS2Pプロセスの基本的な構成要素として機能します。

1. 支出分析

S2Pプロセスは通常、支出分析から始まります。支出分析は、組織の購買習慣を理解し、効果的な支出管理を促進するための基本的な活動です。このステップでは、組織のサプライヤーは誰か、どのような商品またはサービスが購入されているのか、数量はいくつで価格はどのくらいかなどといった問いを検討します。支出データを分析し、業界のベンチマークと比較することで、調達チームは、パターン、非効率性、コスト削減やサプライヤー条件の改善の機会を明らかにすることができます。この継続的な活動によって、戦略的な調達に関する決定に役立つ情報を提供できるだけでなく、調達活動をより広範な組織目標に合わせることができます。

2. サプライヤーの選定

このステップでは、組織は自社のニーズを効果的に満たすことができる潜在的なサプライヤーを特定、評価、選択します。多くの場合、見積依頼書(RFP)の発行、サプライヤーの情報と入札の分析、条件の交渉が含まれます。Advanced S2Pソフトウェアを利用すると、このステップを自動化して、データ駆動型の知見と市場情報を提供することで、最適なサプライヤーを選択できます。信頼性が高くコスト効率の高いサプライヤーに連絡を取って取引するには、選定を適切に管理することが不可欠です。

3. 契約管理

サプライヤーの選択後、契約の作成、交渉、最終決定を行います。この段階では、サプライヤーとの関係を定める料金体系、納入条件、コンプライアンス要件、および能力指標を定義します。効率的な契約管理は、法的保護の確保、リスク軽減、契約の一元化による容易なアクセスと監視を実現し、関連するすべての利害関係者にメリットをもたらします。自動化ツールは、このプロセスの標準化と簡素化において重要な役割を果たします。

4. 調達の実施(P2Pへの移行)

調達段階では、購買申込書の作成、発注書(PO)の発行、商品またはサービス提供の管理が伴います。購買申込書は発注書(PO)に変換する前に承認する必要があり、注文は契約条件に一致していることを確認するために追跡されます。電子調達システムは、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)ソリューションとシームレスに統合され、これらのプロセスを簡素化します。この統合により、効率性を確保し、予算とポリシー要件に準拠することができます。

5. 受領と請求書の管理

このステップでは、サプライヤーの請求書を受け取って検証し、三方向の照合プロセスを通じて発注書および領収書と照合します。このプロセスにより正確性が確保され、支払いの不一致や遅延が防止されます。自動化ツールは、請求書の検証を効率化し、解決に向けて不一致にフラグを立て、承認された請求書を支払いのために準備します。これは、誤りを回避し、買掛金のワークフローを最適化するための重要なステップです。

6. 決済処理

決済処理は最終ステップであり、合意された条件に従って請求書に対する支払いを行います。最新のS2Pシステムは財務ツールと統合され、キャッシュ・フローと支出を可視化しながら、安全かつタイムリーな支払いを確実に実行できるように支援します。迅速な支払いを維持することで、サプライヤーとの関係が強化されます。

S2PにおけるテクノロジーとAIの役割

S2Pプラットフォームは、S2Pサイクルのあらゆる段階を単一のプラットフォームに統合して効率化することで、調達をシームレスなデータ駆動型プロセスに変えるように設計された包括的なデジタル・ソリューションです。たとえば、SAP AribaやOracle Fusion Cloud Procurementなどのプラットフォームでは、AI、生成AI自然言語処理(NLP)、自動化などのテクノロジーを使用して、効率性、透明性、制御を強化しています。

CEO(最高経営責任者)は、サプライチェーンを自動化および合理化するために生成AIに急速に投資しています。ある調査では、経営幹部の89%がオートメーション(自動化)への主要な投資には生成AI機能が含まれると回答し、19%が、サプライチェーンの自動化の未来にとって生成AIは欠かせない存在であると回答しています。生成 AIがサプライチェーン・プロセスのどの領域に影響を及ぼすと思うかと尋ねたところ、回答者の半数以上が顧客へのセルフサービスの提供を選択しました。その他の影響が予想される領域には、注文の分析と処理、需要予測、在庫の分析と最適化などがあります。1

S2Pプロセスの特定のステップでAIとテクノロジーがどのように使用されるか、例をいくつか紹介します。

支出分析:最新のS2Pプラットフォームは、AIを活用した分析を使って、組織の支出に関する深い知見を提供します。これらのツールは、部門間の支出データを集約して分類し、パターンを特定し、コスト削減の機会がある領域をハイライト表示します。AIアルゴリズムは将来の支出傾向を予測できるため、調達チームは予算配分やサプライヤーとの交渉についてより適切な決定を下すことができます。

サプライヤーの選定:すべての調達活動の中で、ほとんどの組織が選定にAIを活用しています。ある調査では、回答者の59%が「選定ガバナンスを提供し、カテゴリー管理を行っている」か「選定とカテゴリー管理戦略を策定している」か、調達プロセスにおけるエンドツーエンドの実施の一環としてAIを導入しています。2AIとNLPは、サプライヤーのデータを分析し、サプライヤーのスコアリングを自動化し、価格、品質、リスク、持続可能性などの事前定義された基準に基づいて最適なサプライヤーを推奨することで、選定プロセスを強化します。NLP機能は、認証やコンプライアンス記録などのサプライヤーのドキュメントをプラットフォームがスキャンして解釈できるようにすることで、手作業を削減します。

契約管理:S2Pプラットフォーム内のAI駆動型契約管理ツールは、契約の作成、交渉、監視を簡素化すします。NLPは、契約の文言を分析し、矛盾にフラグを立て、法的な指針と組織の指針へのコンプライアンスを確保するために使用されます。自動化により、企業は契約の重要な段階を追跡し、更新を管理し、コンプライアンス違反や期限の遅れに関連するリスクを軽減できます。

調達の実施:最近の調査によると、この段階AIを使用すると、調達プロセスを実行するための年間総コストが支出の割合として28%削減されることがわかりました。2AI搭載のS2Pプラットフォームは、購買依頼書、発注書(PO)、承認ワークフローを自動化します。AIはロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)にも活用されており、時間のかかる繰り返し作業を排除し、注文処理を高速化し、誤りを削減します。また、インテリジェントなアルゴリズムは、購入が交渉済みの契約やサプライヤー契約と一致していることを確認するのにも役立ちます。

請求書と決済処理:S2Pプラットフォームは、AIを使用して請求書と発注書および領収書を自動的に照合し、不一致にフラグを立てます。この自動化により、処理時間が短縮され、正確でタイムリーな決済がサポートされます。これらのプラットフォームは、組織が税務や規制要件へのコンプライアンスを維持し、財務運用を合理化するのにも役立ちます。

リスク管理とコンプライアンス:AIを活用すると、サプライヤーの業務遂行と潜在的なリスクを継続的に監視できます。実際、経営幹部の80%は、生成AIによって関連するサプライヤーの業績指標をすべて分析することで、より良い管理が可能になると期待しています。1 このプラットフォームは、信頼性、財務の安定性、市場の状況を分析することで、サプライチェーンの混乱やコンプライアンス違反などのリスクに先見的にフラグを立てることができます。NLPは、規制文書をスキャンして、サプライヤーの慣行が業界標準に沿っていることを確認する作業を支援します。

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S2Pのメリット

S2Pプロセスは、調達を管理するための構造化されたアプローチを提供します。以下は、S2Pをプロセスとして実施する際の主要なメリットです。

調達ワークフローの簡素化

S2Pは、サプライヤーの特定から支払いまで、すべての調達活動を一貫性のあるプロセスに統合しながら、より広範なビジネス・プロセスと連携させます。この簡素化によって冗長性が排除され、調達、購入、決済の役割間の引継ぎがスムーズになり、運用効率が向上します。

戦略的選定によるコスト削減

プロセスの最初に戦略的に選定を行うことで、費用対効果と質の高いサプライヤーを見極めます。このアプローチと厳格な契約交渉とを組み合わせることで、より優れた料金体系と条件を実現できます。

財務管理の強化

S2Pプロセスにより、支出データの可視性が向上し、調達に関する意思決定を予算目標と一致させることができます。プロセスをエンドツーエンドで管理することで、コスト管理、契約の遵守、不必要な購入や不正購入の排除が可能になります。

調達全体にわたる透明性

S2Pは、すべてのステップが文書化され整合性のとれた、明確で一貫性のある調達プロセスを促進します。この透明性が、組織内の監査、コンプライアンス要件、説明責任をサポートします。

サプライヤーとの関係の向上

サプライヤーの評価、選択、管理を形式化することで、S2Pは構造化されたアプローチを生み出し、簡素化されたワークフローと強化された協働ツールを通じてユーザー体験を向上させます。一貫したコミュニケーションと業績追跡によって、信頼性と協働が育まれて、サプライヤーの料金体系、サービス、イノベーションの向上につながります。

リスク緩和

S2Pは、サプライヤーの評価と契約の管理に体系的なアプローチを提供し、信頼性の低いベンダーとの提携や法的紛争に直面するリスクを軽減します。サプライヤーの業務遂行力を監視することで、サプライチェーンの混乱も最小限に抑えられます。

脚注

1. サプライチェーン・ベンチマークレポートにおけるAIの影響。IBM IBV(IBM Institute for Business Value)パフォーマンス・データとベンチマーク、2024年4月。

2. CEOのための生成AIガイド:サプライチェーン、© Copyright IBM Corporation 2023.

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