フラッシュ・メモリーは、不揮発性メモリーの一種で、電源がなくてもデータを保持します。バイト単位でデータブロックの書き換えや削除が可能です。
「フラッシュ」という言葉は、スピードと同義です。フラッシュは一瞬光って、すぐに消えます。以前から使われている「フラッシュ・カード」は、記憶術を補強するために設計された高速学習教材です。その中で最速のスーパーヒーローであるフラッシュは、スーパーマンと競争しても置き去りにできるほど速いのです。
フラッシュ・メモリー・デバイスは広く使用されており、特定の用途向けにデータを格納します。USBフラッシュ・ドライブ、スマートフォン、デジタル・カメラ、ビデオ・ゲーム、タブレット・コンピューター、フラッシュ・メモリー・カード、SDカードなど、さまざまなポータブル・デバイスに使用されています。
さらに、フラッシュ・メモリーは、これまではコンピュータのハードディスク・ドライブに限られていた機能の一部を引き継いでいます。例えば、コンピューターの電源が入ると、基本入出力システム(BIOS)と呼ばれる起動シーケンスが実行されます。以前はBIOSを格納するファームウェアに、読み取り専用メモリー(ROM)チップを使用する必要がありました。後のシステムでは、BIOS用のフラッシュ・メモリーに切り替えられ、システム・ボードからチップを取り出さなくても、中身を書き換えることができるようになりました。
フラッシュ・メモリーは、フローティング・ゲート・トランジスターをベースとしたフラッシュ・メモリー・セルにデータを格納します。フラッシュ・メモリー・チップのコンピューター・メモリー・セルは、トランジスターで構成されており、トランジスターはフラッシュ・メモリー・セルを通過する電流のルーティング・スイッチとして機能します。
フラッシュ・メモリー・チップは、街路のように格子状に配置されています。メモリー・セルは列で分けられ、各列はビット・ラインと呼ばれます。街路と同様に、これらのチップには交差点があり、各交差点にはトランジスターが配置されています。さらに、これらのトランジスターには、それぞれ2つのゲートがあります。
1つはコントロール・ゲートで、トランジスタの最上層にあります。もう1つはフローティング・ゲートと呼ばれます。コントロール・ゲートとMOSFETトランジスター・チップの上層の間に文字通り浮遊しているため、このように名付けられました。
さらに、コントロール・ゲートとフローティング・ゲートの間には、薄い分離層があり、酸化膜と呼ばれています。ただしこの膜は、実際には二酸化ケイ素(SiO2)で構成されています。
フラッシュ・メモリーの容量により、その用途が低密度、中密度、高密度に分類されます。面積が同じであれば、記録密度が高いほどフラッシュ・メモリーの容量が大きくなります。
コンピューティングの進歩のほとんどは、累積的なプロセスによるものです。まず、初期型の中央処理装置(CPU)が開発されました。1960年までに、MOSFETトランジスターが開発され、これによりエレクトロニクス産業の大幅な小型化が可能になりました。
1967年、Bell Labsの2人の研究者(Dawon Kahng氏とSimon Min Sze氏)は、MOSFETのフローティング・ゲートを再プログラム可能な読み取り専用メモリー(ROM)として利用できる可能性を示唆しました。1971年までに、Intel社のエンジニアであったDov Frohman氏は、Erasable Programmable Read-Only Memory(EPROM)を発明しました。EPROMは、すべてチップ上に透明な窓があるため、視覚的にすぐに識別できます。
次の段階では、Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory(EEPROM)が開発されました。これは、電気的に消去可能なプログラムの別の形式です。EEPROMは、1970年代後半から1980年代初頭にEPROMの改良版として開発されました。
EPROMとEEPROMの最も大きな違いは、データの消去方法です。EPROMのデータは紫外線(UV)で消去できますが、EEPROMは電気信号で消去する必要があります。
私たちが知っているフラッシュ・メモリーは、日本の大手メーカー、東芝の在職中にフラッシュ・メモリーを発明した舛岡富士雄博士の先駆的な仕事により、1980年代に始まりました。
舛岡氏の同僚は、半導体チップからすべてのデータが消去される速さが、まるでカメラのフラッシュ装置のように速いことに着目しました。これがフラッシュ・メモリーという名の由来です。
フラッシュ・メモリー技術には、2つの基本的な種類があり、それぞれに独自のアーキテクチャーとアルゴリズムがあります。さらに、各記憶媒体にはそれぞれ長所と短所があります。
NAND型フラッシュ・メモリーの名前は、「NOT」と「AND」を組み合わせたもので、NANDセルの内部回路を制御する論理ゲートのことを指しています。
NANDセルにデータを書き込む際、電流がコントロール・ゲートに到達し、電子がフローティング・ゲート上に流れ、電流を妨げる正味の正電荷が発生します。酸化膜はフローティング・ゲートを隔離し、フローティング・ゲート上の電子が保存されているデータとともに、そこに保持されるようにします。これにより、フラッシュ・メモリーは電荷を保持しつつデータを保持できます。
NANDセルは、データのブロック全体を削除するように設計されているため、迅速に消去できます。メモリー・セルに再び電荷を印可すると、フローティング・ゲート内に閉じ込められていた電子(およびデータ)がチップ下部の分離層に戻されます。これにより、メモリー・セルが実質的にに消去されます。
NANDフラッシュ・メモリー・チップの製造は簡単でも高速でもありません。1 800以上の異なる製造プロセスが必要であり、1枚のNAND「ウェハー」を作るには、1か月ほどかかります。ウェハーは通常、直径12インチの中サイズのピザと同じくらいの大きさです。個々のNANDチップは、人間の指の爪ほどの大きさであり、これらのウェハーから切り出されて、チップの品質と全体的な有用性に応じてランク付けされます。
NANDチップには多くの利点があります。まず、NANDチップには可動部品が含まれていないため、堅牢であり、機械的衝撃、極端な動作温度、高圧に耐えることができます。この点では、NANDチップの動作は、振動の影響を受けやすいハードディスク・ドライブ(HDD) に比べて優れています。
一方で、NAND型には欠点もあります。特に顕著な欠点は、この記憶媒体がメモリーを書き換える回数が限られているということです。NANDチップは特定の回数しか書き換えられないため、継続的な使用が制限されます。
さらに、NANDフラッシュ・メモリーにも、他のシステムやデバイスと同じ制約があります。つまり、組織にはデータがあふれており、NANDメモリー・セルは新しい形式のメモリー・セルを設計することで、それに対応する必要がありました。最初はシングル・レベル・セル(SLC)メモリーで、各セルに1ビット、2つのレベルの電荷を保持していましたが、その数は時間の経過とともに増加し、その結果、マルチ・レベル・セル(MLC)、トリプル・レベル・セル(TLC)、さらにはクアドラプル・レベル・セル(QLC)まで生まれました。
NANDと同じく、NORフラッシュ・メモリーの名前は「NOT」と「OR」という2つの単語を組み合わせたもので、NORセルの内部回路を制御する論理ゲートのタイプに由来します。
NORフラッシュ・メモリーでは、メモリ・セルはビット・ラインに対して並列に接続されています。これにより、個別に読み取り、プログラムすることができます。各メモリー・セルの一端はグラウンドに接続され、もう一端はビット・ラインに接続されています。
NORの主な利点は、読み取り速度、書き換えの回数が多いこと、およびランダム・アクセス・データに対応できることです。そのため、NORゲートは地方自治体の信号システム、産業オートメーション、警報システム、デジタル回路設計、電子機器での使用に最適です。NORフラッシュのもう1つの重要な利点は、NORフラッシュを使用する場合、NORデバイスがデータ・ストレージとコード実行の両方を1つのデバイスで処理できることです。
NORフラッシュ・メモリーの欠点は、セル・サイズが大きいことです。このため、NANDフラッシュ・メモリーよりも書き込みおよび消去の速度が遅くなります。
ここからは、2つのフラッシュ・メモリーの違いについてさらに詳しく説明していきます。
NANDフラッシュ技術とNORフラッシュ技術の主な設計上の違いは、メモリー・セルが半導体内で配置されている方法です。NANDチップでは、メモリー・セルは垂直に並んでいます。NORチップでは、メモリー・セルは水平に並んでいます。この設計の違いにより、メモリー・システムの動作方式、速度やパフォーマンスが異なります。
NANDフラッシュ・メモリーの一般的な寿命は、3~5年と推定されることが多いです。対照的に、NORフラッシュ・メモリーの寿命については、20年から最大100年(あるいはそれ以上)と推定されています。
NAND技術とNOR技術のもう一つの違いは、それぞれが必要とする電力量ですが、消費電力にはトレードオフが伴います。例えば、NANDは起動時の消費電力は少ないですが、スタンバイ・モードではより多くの電流が必要です。これに対し、NORは電源投入時には多くの電流が必要であるものの、スタンバイ時の消費電力は少なくなります。
それぞれが実行する「作業」中に使用する電力量はほぼ同等ですが、この値はそれぞれが使用するメモリの速度に左右され、各技術が実行するアクティビティーによっても異なります。NORは迅速なデータ読み取りを得意とし、読み取り時の消費電力が低くなります。一方、データの書き込みおよび消去の場合、NANDの方がNORよりも消費電力が少なくなります。
ここで注目すべきは、NANDフラッシュ・メモリーも、NORフラッシュ・メモリーも、他の形式のメモリで通常到達する処理速度には及ばないということです。キャッシュ・メモリーは、コンピューターのランダム・アクセス・メモリー(RAM)と中央処理装置(CPU)の間に位置することから、すべての中で最も高速なメモリーであると考えられています。
さらに、NANDがNORよりも高速か、あるいはその逆かについて決定的な答えはありません。それぞれがその時にどのように使用されているかによって異なります。迅速な読み取りという点で比較する場合は、NORの方が高速です。タスクの実行とデータ管理に関して比較する場合は、NANDの方が高速です。
NANDもNORも、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー(DRAM)に追いつくことはできません。DRAMは独自形式のRAMで、NANDより最大100倍の速度という高性能を達成し、アプリやプログラムの動作中に一時的なファイル・ストレージを提供します。(ただし、DRAMは揮発性のメモリーであることには注意すべきです。つまり、DRAMの最大の用途は、その瞬間に発生する処理を支援することです。電源がオフになったり喪失したりすると、DRAMメモリーは処理しているデータをすべて失います。)
もう1つの重要な差として、NANDフラッシュ・メモリーはNORよりもはるかに大容量のストレージを提供します。NORは通常64 Mb単位でメモリーが増え、最大が2 Gbであるのに対し、NANDストレージ・ソリューションの容量は1 Gbから16 Gbで、NANDの最大容量はNORの最大容量より8倍も大きいのです。
その他にもNANDとNORには、それぞれの用途に基づく重要な違いがあります。NANDは書き換えやデータ・ブロック消去などの「詳細な」プロセスの実行に適しているのに対して、NORはより簡易なプロセスである、迅速なデータ検索に優れているとされます。
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1 “Understanding NAND Flash Technology”, Simms.