顧客離れとは、一定の期間内で何らかの理由により失われた既存顧客の数です。企業はこの数字から、顧客満足度と顧客ロイヤルティーを理解し、企業の収益に生じ得る変化を特定できます。
このメトリクスは、サブスクリプションからの月次経常収益に依存している企業が多いSoftware-as-a-Service(SaaS)事業者にとっては特に重要です。こうした企業は、顧客が解約しそうかどうか、あるいは将来解約する可能性があるかどうかを知る必要があります。こうした動向は直ちに収益に影響するからです。
顧客離れは顧客減少とも呼ばれ、顧客維持の反対です。顧客維持は、企業がカスタマー・リレーションシップを保持することに関連しています。顧客離れを最小限に抑えることは、あらゆる顧客エンゲージメント戦略において重要な構成要素の1つです。顧客エンゲージメント戦略は、オンラインか実店舗かを問わず、顧客が企業やブランドと行うすべてのやり取りに関連しています。
顧客エンゲージメントを優先し、特に堅牢な顧客維持戦略を策定することは、顧客離れを防ぐ上で重要です。
企業は顧客解約率を頻繁に測定して、自社が収益損失のリスクにさらされているかどうかを把握する必要があります。
顧客獲得には多大なコストがかかる場合があるため、顧客離れをなくすことは重要な任務です。McKinsey1によると、失われた1人の顧客の価値を取り戻すには、3人の新規顧客を獲得する必要があるということです。したがって、企業は顧客離れを減らして既存顧客を維持するために、できる限りの策を講じる必要があります。
顧客離れの影響はB2B企業とB2C企業とで多少異なります。B2C企業の方がB2Bよりも顧客解約率が高い傾向があります。それにはいくつか理由があります。
第1に、B2Cの場合は顧客がサブスクリプションの開始や終了にあたって上司の承認を得る必要がないため、衝動的に契約や解約を行う可能性が高くなります。第2に、サブスクリプションが比較的低料金であることが多いため、別のサービスへの乗り換えが容易です。
これに対し、B2B企業は解約の影響をより大きく受けることがよくあります。
現代のB2B企業は、製品を販売するか、サービスを販売するかのいずれかです。前者は多くの場合、個々の製品に対して一度だけ代金を受け取ります。Software-as-a-Serviceのソリューションを販売する企業、すなわちSaaS企業は、サービスへのアクセスの対価にあたる料金を、年間を通して顧客から複数回受け取ることができます。こうした企業は、顧客(契約企業)からの月次経常収益が基盤となっています。
B2B企業は往々にして、潜在顧客が比較的少ないか、あるいはセールス・パイプラインが限られています。なぜなら、B2B企業は明確に定められた顧客群を対象としているのに対し、B2C企業が提供する特定の製品(食料品、家庭用品、銀行サービスなど)は、ほとんどの消費者が定期的に必要とするものだからです。
このため、B2B企業の中でも、特に対象を絞った顧客群に対して比較的高額な製品やサービスを提供している企業の場合は、顧客離れの影響が大きくなります。
顧客離れが増えると、経営幹部や従業員の士気が低下し、自分たちの仕事や会社の持続性に懸念を抱き始める可能性があります。新規顧客獲得には一般に時間とコストがかかるため、企業が既存顧客への対応に力を入れられなくなる恐れがあり、悪循環が生じます。
上で示した話は、顧客を失うことが加速度的または循環的な顧客離れにつながる可能性があることを示した1つの例です。別の例としては口コミがあります。ある会社の製品にどれだけ不満を抱いたか、ある顧客が別の顧客に話すことで、解約が増え、さらなる顧客離れを生むという状況です。
顧客離れには大きく分けて「自発的」と「非自発的」の2種類があります。
こちらは顧客の嗜好の変化に伴うものです。自発的解約の例には、そのカテゴリーの製品の使用をやめるという顧客の選択や、競合他社の製品への乗り換え、値上げへの反応、質の低い顧客体験などがあります。
こちらは、一般に顧客が制御できない問題に伴うものです。例えば、企業が製品やサービスの提供を中止した場合や、技術面または決済上の問題、自然災害などの場合があります。そのほか、予期せぬ理由で顧客がサービスを利用できなくなる場合もあります。例えば、従業員が利用するサービスに関して企業が料金の支払いをやめる場合や、職務の変化に伴って製品やサービスが不要になる場合などがあります。
企業の顧客解約率を算出するには、特定の期間内にその企業から流出した顧客の合計数を、その企業が獲得していた顧客の総数で割ります。そして、その数値を100倍することで、特定の期間における値を求めます。
企業は、顧客体験に関する他のメトリクスと同様に、顧客解約率の値を評価して、潜在的な問題を特定できるようにする必要があります。顧客解約率の算出にあたっては、週間、月間、年間など、特定の期間を選択して解約率を計算できます。月間の顧客解約率は、例えば月次経常収益(MRR)を獲得しているSaaS企業が月々の解約率を把握する必要がある場合に有益かもしれません。
顧客解約率 = (顧客の流出数/期初の顧客の総数) x 100
例:月間の顧客解約率を測定している企業が、75,000人の顧客のうち300人を失ったとします。この場合、顧客解約率は0.4%です。
クレジット・カード決済の拒否やサービスの解約などに関して、リアルタイムのアラートを設定している企業は、より適切に顧客離れに対処できます。
顧客解約率はビジネスの種類によって異なります。Recurlyによると、平均解約率は4%で、3%は自発的な解約によるもので、1%は非自発的な解約によるものです。デジタル・エンターテイメント・プロバイダーでは、平均の顧客解約率がさらに高いことがよくあります。ソフトウェア、ビジネス・サービス、プロフェッショナル・サービスは、比較的低い傾向にあります。
企業は収益解約率を計算することも可能であり、算出が必要です。収益解約率は、既存顧客からの月次経常収益(MRR)が一定期間にどれだけ失われたかを示します。
MRR = 加入者数 x 加入者あたりの平均収益(ARPU)
例:同じ企業が75,000人の加入者からサービス料金として月15.00米ドルを得ている場合、MRRは1,125,000米ドルです。
このカスタマー・サービスのメトリクスは、顧客がどの程度難しいと感じたかを1(簡単)から7(困難)で表します。CESが高い企業は、顧客がその企業とのやり取りを難しいと感じていることから、顧客離れのリスクに直面している可能性があります。
企業が提供するカスタマー・サービスの価値を向上させるだけで、解約を容易に減らせる場合もあります。言い換えれば、カスタマー・サービスの質が低いと、満足していた顧客がすぐに解約予備軍になってしまう可能性があります。顧客フィードバックを返してくれる顧客に最大限の敬意を払い、そうした顧客のニーズに即座に対応しましょう。
企業には、カスタマー・リレーションシップを改善するために使用できる先進的なテクノロジーがいくつかあります。自然言語処理(NLP)は、顧客データをより適切に処理して顧客満足度を把握するうえで役立ちます。企業はそれをモデルに投入することで、平均解約率を特定できます。
人工知能ベースのチャットボットは、顧客からの基本的な質問への回答に利用できます。これによりカスタマー・サービス担当者は、より複雑な問題への対応に時間を投じることができます。
特定のメトリクスを把握して追跡することは、潜在的な解約率のモニタリングに役立ちます。顧客満足度スコア(CSAT)とネットプロモータースコア(NPS)の両方が、顧客が企業の製品やサービスにどれだけ満足しているかを理解するのに役立ちます。CSATは顧客に満足度を1から10のスケールでランク付けするよう求めます。NPSは顧客に対し、同僚に対してどの程度商品やサービスを推薦する可能性が高いかを尋ねます。
これらのメトリクスが低下し始めたら、企業の顧客ベースに解約のリスクが出てきた兆候と考えられます。リーダーは、顧客体験を向上させて顧客離れを減らすために行動する必要があることを知っています。
企業は人工知能に投資することによって、いくつかの方法で顧客離れの問題に取り組むことができます。
企業は生成AIマーケティングを使用し、同じEメールを基にパーソナライズを加えた複数のバージョンを作成することで、社内マーケティングを改善できます。これにより、顧客が使用するチャネルを問わず、個々の顧客の共感を高めることができます。
企業は、AI搭載のカスタマー・デジタルツイン(CDT)を利用して顧客体験をシミュレートできます。これによって、購買習慣や、解約につながる要因を把握し、将来の購入をより正確に予測する方法を理解できます。CDTは、何日または何週間にもわたるカスタマージャーニーマップを作成し、顧客体験の全体像を把握できます。
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1エクスペリエンス主導の成長・価値を創出する新しい方法、McKinsey、2023年3月23日
2優れた解約率とは、Recurly