ホーム ケーススタディ MANA-Vox 人工知能(AI)で地球規模の森林破壊の抑制に貢献
MANA コミュニティは環境関連の実用的な洞察を得るためTwitterを活用

パーム油は、アイスクリーム、ピザ生地、インスタント・ラーメン、化粧品、石鹸、歯磨き粉など、ほぼすべてのものに含まれています。アブラヤシの木は低コストで多い収量が得られるため、パーム油は商品としての人気が高まっています。しかし、世界のパーム油の85%が栽培されているマレーシアとインドネシアでは、多国籍企業が自社の生産活動のため、かけがえのない熱帯雨林や炭素が豊富な泥炭地の破壊を続けています。

これはほんの一例で、今では世界中の森林に破壊の足音が忍び寄っています。森林破壊は生物多様性の減少、温室効果ガスの排出、雇用やコミュニティの崩壊、森林火災の発生、水循環の混乱につながります。しかし、森林破壊の追跡と防止のために活動している非政府組織(NGO)やその他の団体が扱う非構造化データは膨大な量で、管理が事実上不可能になっています。

MANAコミュニティのCEO兼創設者であるKiti Mignotteは、このように拡大する環境破壊を阻止するために必要な洞察を収集し、整理しようと考えました。彼女はフランスのパリを拠点とするNGO「MANA」を設立し、ソーシャル・メディアから収集したリアルタイムの情報をもとに個々の企業が現地の環境問題についてどの程度関与しているかを監視できる、AIで強化したプラットフォーム「MANA-Voxソリューション」を構築しました。

この情報を公開することで、消費者、NGO、自然保護団体、金融機関、さらには当該企業自体が、損害が深刻化する前に、それらの洞察に基づいて行動できるようになります。

「今は人類の歴史の中で、どのような活動を促進し、どのような活動を抑制すべきかについて賢明な決定を下すために統計情報が必要な時期なのです」とMignotte氏は説明します。「資本主義企業は、収入を増やすことを目的としています。しかし、重要なのは収入を増やすことではなく、私たちの自然資本により多くの価値を与えることです」

広範な情報源

 

MANA-Voxプラットフォームは、450社に関する、ソーシャル・メディア上の740の信頼できるソースをフォローできます

AIを活用した分析

 

このプラットフォームはAIを使用して毎日数千件のツイートとリンクされたコンテンツを分析し、最大98%を関連性のないものとして分類

重要なのは収入を増やすことではなく、私たちの自然資本により多くの価値を与えることです Kiti Mignotte CEO and Founder MANA Community
テクノロジーに基づく継続的なチーム編成

森林伐採に関する知識は急速に増えていましたが、MANAではビジョンを深めるために、膨大な量のデータを迅速にマイニングできるシステムを必要としていました。また、この情報の需要に合わせて迅速に拡張できるプラットフォームも必要でした。

フランスのIBM Garage™チームは積極的に協力してくれました。彼らは、MANAに必要なものを提供できるのがクラウド・プラットフォーム上のAIサービスであることを理解していました。

ITアーキテクト兼IBM GarageエンジニアのNicolas Comete氏と、IBM Garageソフトウェア開発者のQuentin Siraut氏は、このプロジェクトでMANAチームと緊密に連携しました。彼らは熱心なハイカーやキャンパーでしたが、自分の専門知識を活用し環境に利益をもたらすよい機会だと考えました。

上の画像:アマゾン先住民の少年、2020年9月(クレジット:Thomas Pizer/aquaverde.org)

「開発者が作り上げているものが、私たちの価値観に必ずしも一致するものとは限りません」とComete氏は言います。「私の観点からすると、今日私たちが直面している問題の多くは、森林や動物のような自然に対する私たちの行動が原因です。今回のMANAとの取り組みは、地球を少しでもよくするために私ができる方法の一つでした」

Comete氏とSiraut氏はMANAの理念に賛同するだけでなく、プロジェクトに必要なAIとクラウドの専門知識を持っていました。Cometeが初めてソフトウェア開発に挑戦したのは、10代のときでした。「子どもの頃から、ビデオ・ゲームをするのが好きでした。15歳になったとき、自分でビデオ・ゲームの開発とアルゴリズムの作成を始めました」と彼は言います。

一方、Siraut氏は常に新しいことをしたいと考えていたため、ソフトウェア開発の分野に興味を持ちました。今では自ら認めるAI、機械学習、ディープ・ラーニングの愛好家で、IBM Watson®の機能を斬新な方法で応用することを楽しんでいます。

「AIによってさまざまな業界にさらなるイノベーションがもたらされています。MANAがWatson AIをこれからもずっと活用できるよう支援できることが楽しみです」と彼は言います。

今回のMANAとの取り組みは、地球を少しでもよくするために私ができる方法の一つでした Nicolas Comete IT Architect and Engineer, IBM Garage IBM Garage
地域の声を高める

世界的な森林破壊の原因は地域によって異なりますが、主に商業的および小規模な農業、伐採、牧畜、採掘などの人間活動に起因すると考えられています。しかし、Global Canopyの報告(ibm.com外部へのリンク)によると、サプライチェーンが森林をリスクにさらしている500の企業および金融機関のうち、43%が森林破壊削減のための方針を立てていないとのことです。

IBM Garageは人材、プロセス、テクノロジーを結びつける変革フレームワークですが、MANAはIBM Garageの利用を始める前、国際NGOから数千の信頼できる情報源を集めていました。これらの関係者の中には、現場の環境活動家や、先住民族、その他の農村部の、多くの場合遠隔地にあるコミュニティの住民が含まれており、森林破壊の現場で進行中の問題についての直接の知識を持っていました。「企業が何をしてはいけないのか、そして自分たちの活動が地域にどのような影響を与えるのかを本当に知っているのは、こうした人々です」とMignotte氏は言います。

これらの情報源は通常、ソーシャル・メディアやその他のデジタル チャネルを利用して、環境保護団体やその他の組織に、進行中の環境破壊行為を警告します。しかし、ソーシャル・メディア上のニュースやメッセージの中には、競合するものや、場合によっては矛盾するものが存在し、想定していた視聴者とつながれないことがよくあります。

MANA-Voxプラットフォームは、クラウド上のAIを使用して彼らの声に積極的に耳を傾けます。そのプロセスは、記事やウェブサイトへのリンクなどの集団的なコミュニケーションをスキャンして関連投稿を探し、情報源を確認し、情報を照合し、その結果得られた洞察を利用して企業ランキングをまとめるというものでした。Twitterなどの情報源でその企業について話す人が増えるほど、その企業のランクは高くなります。

 

IBM Garageチームがこのプロジェクトを取り上げたとき、MANAとそのボランティアはすでに最初のMANA-Voxアルゴリズムを開発していました。フランスのIBMチームは、一部のIBM Watsonサービスの導入など、基本的なアプリケーションの設計と開発の推進も支援しました。次のステップは、最良実施例を使用して、本番環境に対応し安定した最小実行可能製品(MVP)を構築することでした。

「MANA には、ツールのさまざまな部分に取り組む、情熱的で知的なボランティアが大勢いますが、このツールは 1 人の個人、あるいは 1 つのチームによって作成されたものではないため、統一性に欠けていました。私たちは、プロジェクトを前進させ、独自のスペースで独自のツールを作成するために、IBM Garageチームと連携することにしました。また、使いやすいことも必要でした」と、MANAコミュニティのテクノロジー・コンサルタント兼プロダクト・マネージャーのZoe Berenger氏は言います。

私たちは、プロジェクトを前進させ、独自のスペースで独自のツールを作成するために、IBM Garageチームと連携することにしました。 Zoe Berenger Technology Consultant and Product Manager MANA Community
柔軟なオンデマンドのクラウド・サービス

アジャイルなIBM Garage 方式を、MANAチームのニーズを満たすように適応させるため、GarageチームはMVPに対するMANAの具体的な目標を特定することから始めました。「まず、すべてのビジネス要件を満たすために既存のアプリケーション機能が完全に使用されていることを確認してほしいと考えていました」とSiraut氏は言います。「次に、リソースを最適化して、アプリケーションが毎晩または毎日情報を処理してからシャットダウンできるようにするとともに、アプリケーションをオンデマンドで費用対効果の高い方法で拡張できるようにしたいと考えていました」

次に、チームはアーキテクチャ評価を実施しました。「私たちは既存のソリューション、いわゆる『現状のまま』のソリューションを調査し、それがどのような状態にあるかの一覧を作成しました」とComete氏は説明します。「私たちは問題点や、何を利用できるのか、何を更新して最新化する必要があるのかを特定しました。また、ソリューション・プロセスの改良方法についても概略を示しました」

IBM Garageチームは、段階的なアプローチを採用し、MANAと協力して、2つのクラウドベースのモジュールで構成される、AI主導のプラットフォームを構築しました。彼らが開発した最初のモジュールは、クエリー・サービスとカスタム・コードを使用して、信頼できるNGOのソーシャル・メディア・フィードや、RSS Webフィード内のリンク情報や参照Webページなどのその他の情報源をモニタリングします。このモジュールは情報をデータベースに保存して分析し、MANAが信頼性の高い洞察を得るために追跡する可能性のある他のソースを見つけます。

次に2番目のモジュールを構築しました。このモジュールはIBM Cloud®上でIBM Watsonサービスを使用して検証済みのコンテンツを分析し、MANAの目的に沿っているかどうかを判断します。このプロセスは、IBM Watson Language Translatorソリューションを利用してすべてのコンテンツを英語に翻訳し、IBM Watson Natural Language Understandingソリューションを利用してさらなる分析のためのキーワードを特定しています。次に、IBM Watson Assistantソリューションで、環境破壊事例に関連する企業に個別に言及するコンテンツを分類します。

コスト効率の高いデータ処理を実現するために、Garageチームは、イベント・ドリブン型のワークフローに基づいて実行される IBM Cloud Functionsサービスを使用したサーバーレス・アーキテクチャを推奨しました。たとえば、信頼できるソースから受信したデータを処理していない場合、アプリケーションはゼロにスケールします。「MANAのような非営利団体は、オンデマンドで簡単に拡張できるクラウド・サービスを小規模に開始でき、消費した分だけ料金を支払います」とComete氏は説明します。

IBM GarageチームがMANAの既存アルゴリズムの合成と統合を支援したことで、このスタートアップはアプリケーションの拡張とテストを進めています。Berenger氏とGarageチームは、ペア・プログラミングや継続的インテグレーション/継続的デプロイメント(CI/CD)などの技術を活用して、コードを着実に洗練させることを計画しています。

プロジェクト期間中、Garageの開発者たちはMANAの目標達成のために献身的に働き、時にはスケジュールを調整して夜間に共同作業を行うこともありました。「MANAチームは少人数なので、機敏に仕事ができ、1対1の関係を築くことができた」とSiraut氏は強調する。「私たちはこのプロジェクトにすべての力を結集しました」

Mignotte氏とBerenger氏はまた、Comete氏とSiraut氏とともに、自分たちにとって大切なプロジェクトに取り組む過程を楽しみました。

「IBM Garageについて素晴らしいと感じたのは、私たちが誰であるか、そして私たちがどのように働くかを見極めて適応する能力です。心理的には、お金儲けが目的ではない場所で、私たちは同じ土俵で会うことができました。それは理にかなっていることでした」とミニョッテは言います。 「また、彼らは耳を傾け、理解することができました。 宝石をフィットさせるために最高級のツールを使用する宝石商と同じように、開発者は、私たちの特定のニーズを満たし、最小の特徴に適合する適切なツールを常に見つけ出す職人です。」

私たちはこのプロジェクトにすべての力を結集しました。 Quentin Siraut Software Developer IBM Garage
ツイートには貴重で地域に根ざした洞察が隠れている

MVPを共同で構築した後、IBM GarageチームはテストのためにAPIサーバーを経由でMVPをTwitterに接続しました。彼らは、テスト範囲をTwitterで見つかった情報源に限定することにしました。これにより、多様な言語を含み、重要性が高く、その一方で範囲が比較的限られたデータセットが得られました。

「たった1件のツイートでも、それ自体が、分析が必要な数段落や数百行のコピーを含む記事やWebサイトにリンクする可能性があります」とSiraut氏は説明します。

現在、MANA-Voxソリューションは毎日何千件ものツイートと、リンクされたコンテンツを分析しており、チームは毎日さらに多くの情報源を追加しています。このソリューションでは、分析されたコンテンツのうち約98%が無関係であるとラベル付けされます。次に、MANAの従業員とボランティアが関連コンテンツの2%を手動でレビューし、それがMANAが必要とする情報であることを確認します。そして、その結果に基づいてアルゴリズムを微調整できます。

「アプリケーションのAIは、Twitterフィードを迅速に処理し、関連するコンテンツを特定することにより、MANAで膨大な時間を費やしていた手作業を減らします。従業員は、大量のデータに時間を費やすのではなく、範囲が非常に限られた関連情報の評価に集中できます」とSiraut氏は説明します。

MANAはこの後のソリューション・フェーズで、公開ダッシュボードの設計を完了し、ソリューション管理を容易にするバックオフィス・ソリューションを開発します。MANAは、MANA-Voxプラットフォームの稼働開始が2022年初頭になると予想しています。さらに、MANAは最近、大手NGOと合意を結び、MANA-Voxの洞察をこのNGOのWeb サイトで紹介できるようになりました。また、他のNGOとも同様の協議を行っています。

企業の説明責任を問う

MANAはMANA-Voxソリューションを運用開始後に段階的に拡張して、複数のデジタル・チャネルと数千の信頼できるソースから情報を収集できるようにします。現在、このソリューションでは、450社に関する洞察を得るため、740の信頼できる情報源を追跡しています。

このプラットフォームを利用することで、MANAは企業責任の新時代を開くことができます。従来、企業の環境フットプリントに関する情報のほとんどは、企業自身の年次報告書から得られていましたが、その年次報告書では適時性、透明性、追跡可能性が低いことがよくあります。MANAは、環境保護活動家、NGO、その他の団体に、環境に最も大きな損害を与えている可能性のある企業のリストをほぼリアルタイムで提供し、変化のためにより効果的に活動できるようにします。

たとえば、森林破壊を阻止するために直接法的措置を講じたり、パーム油やその他の商品の環境に優しい生産方法と調達方法を採用するよう企業に圧力をかける消費者キャンペーンを開始することができます。金融アドバイザーはこのランキングを利用して、森林破壊ゼロ政策を採用している企業に投資することもできます。

「MANAは民主的なアプローチを促進しており、さまざまな分野の人々が団結して同じ目標に向かって取り組むことができます」と彼女は言います。

Mignotte氏によると、Mana-VOXの洞察は他の組織がもたらす洞察とは一線を画しているため、特に金融機関がこの情報に非常に興味を持っています。MANA-Voxプラットフォームは、市民社会や森林破壊を目の当たりにした現場の人々からのデータを分析するため、環境破壊によって生産された原材料から利益を得ている製造業者や流通業者をより詳細に把握できます。

MANAはMANA-Voxプラットフォームの進化を進める中、IBM Garage チームは必要に応じて小規模企業をサポートする準備ができています。「MANAのようなNGOのためのソリューション開発を支援できるのは本当に素晴らしいことです」とComete氏は言います。「このような人たちと出会えることが仕事をする上での楽しみです」

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MANA-Voxのロゴ
MANAコミュニティについて

MANAはフランスのパリに拠点を置き、世界の森林生態系の保護を支援する新興NGOです。MANA-Voxプラットフォームが開始されると、企業の環境フットプリントのランキングをほぼリアルタイムで提供されるようになり、NGOやその他の団体が詳しい証拠に基づいた意思決定を行えるようになります。2015年に設立されたMANAの中核チームは、ボランティアの大規模なネットワークによって支援されています。

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脚注

© Copyright IBM Corporation 2022.IBM Corporation、IBM Software、New Orchard Road、Armonk、NY 10504

2022年3月、米国で作成。

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