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著者:佐貫 俊幸
IBM Distinguished Engineer, Technical Strategy、 IBM Research & Development – Japan, Member of IBM Academy of Technology Leadership Team.日本IBMの研究開発部門(東京ラボ)で技術戦略を担当している佐貫です。前回の記事では日本IBMのテクニカル・コミュニティTEC-J (Technical Experts Council of Japan)の概要や歴史をご紹介しました。今回は、TEC-Jで具体的にどのような活動をしているのか、そして将来に向けた展望をお伝えします。

3. TEC-Jの活動

TEC-Jの活動の中核を成すのは、Working Group (WG)あるいはInitiativeと呼ばれ、TEC-Jのメンバーを中心に特定の技術テーマを掘り下げて検討する活動です。この中には、 IT運用管理技術を検討するグループ、クラウド・コンピューティングの中核を担うオープン・スタック(OpenStack)やマイクロサービス(Microservice)に関するグループや、近年急速に注目されているブロックチェーン(Blockchain)のグループ、コグニティブ・ビジネスで重要な位置づけの機械学習のグループや、プロジェクト管理にコグニティブの技術を適用してプロジェクト・マネジメントの効率を高めることを検討するグループ、さらにはデザイン思考(Design Thinking)による新規ビジネス創出を検討するグループなど、 非常に多岐にわたる活動を行っています。この中では単に技術を調査・検討するだけでなく、実際に稼動するプロトタイプを作成して評価したり、またグループの活動を特許に出願したり、著作物として出版するようなことも行っています。例えばテキストマイニングのグループでは、東京基礎研究所の成果をグループ内で評価検討し、適用分野の拡充を行い、その成果を現在のIBM Watsonのコア技術として反映させているケースもあります。このように、コミュニティを通じて、製品化されるかどうか分からない技術でも、自ら重要と思うものに仲間を募って取り組み、会社への戦略提言や知的財産につなげて行く活動は、IBMのバイタリティを高める上でも重要な位置づけになっています。

技術の掘り下げを通じて得た知見やスキルは、社内の戦略提言だけでなく、社員のスキル向上のための活動や、実際のビジネスの展開や、お客様や大学との連携などにも活かされています。例えば、TEC-Jメンバーによって開催される各種セミナーや成果物の活用により、社員が最新技術を理解するだけでなく、論文などを執筆する能力を高めることにも役立っています。TEC-Jメンバーが最新技術の検討成果をお客様セミナーでご紹介することで、お客様の理解も一段と高まります。

さらにTEC-Jの活動は国内に留まらず、グローバルに広まっています。例えば、他の国のAoT支部と連携して、アイディアを醸成するイベント(Inspiring Talks)を開催し、国や組織を超えた知見の共有と課題解決に向けた活動が行われています。例えば、ドイツで起こったIndustrie 4.0の動きは、現地のAoT支部であるTEC-CR (Central Region)と共同して、その理解を深め、いち早く日本への提言をまとめました。現在、韓国やASEANのAoT支部との連携により、新たなイノベーションに向けて活動が始まっています。

このように、TEC-Jは日本国内のメンバーが技術の検討を行うだけでなく、社内外、そしてグローバルに展開することが推奨されています。東京の下町の居酒屋で議論したアイディアを膨らませてAoTに提言し、IBMのグローバルな戦略に盛り込むことが可能です。そのようなスケールとダイナミズムを持ったコミュニティがTEC-Jのユニークなところです。

4. TEC-Jのこれから

TEC-Jは、メンバーのアイディアや意思によって進化してきました。日本IBMの中で、今まで20年近く続いてきたこのコミュニティ活動も、その源泉はメンバー一人ひとりのパッションです。そのパッションが相乗効果をもたらし、新しい時代の技術をリードするコミュニティに更に進化して行くと、私は信じています。その進化の過程の中で、私は、以下の点をより強化して行きたいと思います。

  • グローバルとの連携:TEC-JはAoTの日本支部として、日本の提言や知見をグローバルに発信することがより一層期待されています。高齢化など日本の社会が直面する課題も、これからの世界にとって重要な課題になります。ITを用いた課題解決の先駆者として、TEC-Jが世界をリードできるようにして行きたいと思います。
  • 社外との連携:TEC-Jは、すでにお客様やお客様団体との活動との活動を行っていますが、さらに取り組みを強化して、お客様の課題解決に直接つながるような活動に高めて行きたいと思います。
  • イノベーションの醸成:コグニティブ・コンピューティングやクラウド・コンピューティングの広まりによって社会もビジネスも大きく変わろうとしています。その中で、TEC-Jは技術の検討に留まらず、ビジネスモデルの開拓や真のイノベーションに向けた取り組みをより強化したいと思います。

IBMでは昔から多様性(Diversity)を重んじる企業文化があります。今まで述べたテクニカル・コミュニティのTEC-Jはそのひとつの表れだと思います。TEC-Jの取り組みを多くの方に知っていただき、連携していくことで技術に立脚したイノベーションが増えていくことを願って、稿を終えたいと思います。

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