テクノロジー・リーダーシップ

グローバルへの挑戦〜日本でしか通用しないスキルと決めつけない

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時代とともに環境が変化する、日本の金融基幹システム構築を経験した女性技術者は「自分のスキルは日本でしか通用しない」と思いながらも、2019年から2年間の海外勤務を叶えます。子供や家族やキャリアへの悩みを抱えながらも、グローバルへの挑戦を諦めなかった理由とは。

箱嶋 未帆
筆者:箱嶋 未帆
日本IBM IBM Consulting事業本部 金融サービス事業部 アソシエイトパートナー、シニアアーキテクト

グローバルでの金融機関システム構築への挑戦

IBM Consultingはお客様のビジネス課題に寄り添い、戦略策定からITによる解決策の提案、システム構築から保守までエンドツーエンドでサービスを行うIBMの事業本部です。私は、IBM Consultingにおけるお客様の業種別の組織(セクター)の中で金融セクターに所属し、日本の金融機関のお客様を担当しています。

2019年から約2年間、海外に赴任し、日本の金融機関の海外基幹システムを刷新するプロジェクトに参画しました。金融機関のシステムは採用テクノロジーの過渡期にあり、海外では基幹システムをクラウド上で構築することも現実になってきました。

私が参画したプロジェクトは、世界の数カ所に存在するメインフレームを中心とした基幹システムを、プライベートクラウド基盤上で稼働するパッケージソフトウェアを組み合わせた新しいアーキテクチャーに刷新し、多数の支店に順番に導入していくものでした。


まず、お客様と北米IBMの間のリエゾンを兼ねたリード・アーキテクトを任され、米欧支店が共同利用するプライベートクラウド基盤を構築しました。サーバー構築といえば、従来は手作業で1台ずつ構築することが一般的でした。ただ、私が参画したプロジェクトでは「複数のパッケージソフトウェアを個々に導入するためサーバー数が多くなる」「本番環境以外に複数の開発・テスト環境が相当数必要となる」「将来的に同じOS/ソフトウェア構成のサーバーを他の支店にも提供していく予定がある」といった理由から、サーバー構築の効率化が求められました。

そこで、リード・アーキテクトとして、プライベートクラウド基盤上に効率的に仮想マシンとしてのサーバーを多数構築するために、マルチクラウド環境の管理と、コンプライアンスを保ちながらデプロイが行えるIBM Cloud Pak for Multicloud Management(現在は後継のIBM Cloud Pak for Watson AIOpsに相当)の導入を決めました。そして、IBM Cloud Pak for Multicloud Management のもと、予め組んだコードによって基盤構築を自動化するInfrastructure as Codeによって、仮想マシンを自動プロビジョニングすることで、サーバー構築の効率化を実現したのです。

IBM Cloud Pak for Multicloud ManagementとInfrastructure as Codeの活用は、基盤構築に要する期間やプロジェクト・メンバーの負荷を削減して、プロジェクト全体の期間やコストの圧縮に寄与しました。さらに、属人的になりがちなサーバー構築作業がコード化されることによって、ミスを防止して品質の向上にも繋がりました。


プライベートクラウドのリリース後は、複数のアプリケーション開発プロジェクトを横串で管理し推進する役割、特に品質の担保にフォーカスした役割を担いました。

私が参画したプロジェクトは、単一の基幹システムで動いていた機能を分解して、複数のパッケージソフトウェアで置き換えるものでした。そのため、パッケージソフトウェア同士が想定通りに連携されること、システム全体として業務運用・システム運用に耐えられることを、マクロな視点で評価するとともに、問題があれば是正していく必要がありました。

この局面では、非機能要件と呼ばれる「実装する機能以外」の要件が確実に充足されていることの確認も重要になります。非機能要件には、情報処理推進機構(IPA)が分類する6つのカテゴリとして「可用性」「性能/拡張性」「運用/保守性」「移行性」「セキュリティー」があります。これらは、機能要件より劣後して扱われることが多く、結合テストの段階で考慮に漏れがあることが判明して慌てることが少なくありません。

特に、プロジェクトが大規模でサブプロジェクトが多くなるほど、システム全体として満たすべき非機能要件の存在が薄くなり、蓋を開けてみると要件が十分に満たされていなかったり一貫性がなかったりすることもあります。

このような事態を未然に防ぐために、「上流工程で各サブプロジェクトにおける非機能要件の定義やサプブロジェクト間の整合性の点検」「テスト工程における机上検証や実機検証」「移行リハーサルの計画・準備」など、新システムを成功裡にリリースするために、プロジェクト全体として満たすべき非機能要件を充足させることを、品質の担保にフォーカスしつつプロジェクトを横串で管理し推進しました。

金融機関システムの動向とグローバルへの挑戦のきっかけ

日本を離れてグローバルでこのような挑戦ができたのは、第三次オンラインと呼ばれる1990年台の銀行基幹システムをアーキテクチャーから刷新するプロジェクトに携わったという、いかにもドメスティックな経験が買われたからです。

1980年代〜1990年代前半に構築された銀行の基幹系システムは「第三次オンラインシステム」と呼ばれ、その構築からはや30〜40年が経とうとしています。そして、ニーズに対応するために機能の継ぎ足しが為された結果、システムが肥大化・複雑化し、保守の負荷増大や、顧客ニーズやテクノロジーの変化の速さに柔軟に対応することが難しくなってきました。

このような状況下、大手銀行は新たな勘定系システムのアーキテクチャーを模索し、地方銀行は共同化というスキームで1つのシステムを複数行で共同利用する形態にシフトしています。さらに、昨今のクラウド技術の進歩・普及により、これまで自行で開発していたソフトウェアをパッケージソフトウェアやクラウド上のサービス(SaaS型のパッケージソフトウェア)に置き換えて、開発・保守の負荷を減らす傾向や、サービスの提供をソフトウェアの専門業者に委託する傾向が出てきました。

パッケージを組み合わせたシステムが、「機能のいいとこ取り」で開発量少なく比較的手軽に導入して使える一方、社会インフラとしての日本の銀行システムには非常に高いレベルの安定性・堅牢性が求められています。システムの一部が他社から提供されるパッケージになることで、パフォーマンス、セキュリティ、運用のしやすさ、といった面の考慮は、企業のシステム部門がシステム全体を管理していた頃よりも格段に難しくなりました。

第三次オンラインシステムに携わったお客様や社内の大先輩たちと共に、最重要、大規模かつ複雑な銀行基幹システムを再構築した経験が、前述した海外基幹システムの刷新にとって再現性のある貴重なスキルとして評価され、グローバルで仕事をするチャンスに繋がりました。

挑戦を後押しする人材育成の仕組みとコミュニティー活動

冒頭で述べたグローバルへの挑戦を強く後押ししてくれたのは、IBMの研修プログラムであり、日本IBMの女性技術者コミュニティーの仲間です。

日本でしか通用しないと思っていた銀行システムの構築経験が、世界でも十分に通用する普遍的なスキルであると認識し、自信を得られたのは、IBMがグローバルの次世代技術リーダー向けに実施していた研修プログラムに参加したことがきっかけでした。この研修プログラムは、グローバルの役員レベルの社員がスポンサーやコーチとなり、中長期的な技術者としてのキャリアプランを一緒に作成し、定期的なコミュニケーションを通じてアクションを後押ししてくれる内容でした。研修プログラムを終えた以降は、所属長との定期的なコミュニケーションの場でグローバルへの挑戦の希望を口にするようにし、7年目に海外赴任の件が飛び込んできました。

グローバルへ挑戦するチャンスは到来しましたが、当時、子供の年齢や家族に心配事があり迷いが生じる状況下にありました。その時、後押しをしてくれたのが「COSMOS」の仲間たちです。COSMOSは日本IBMの女性技術者コミュニティーで、Distinguished Engineer(DE:IBM Fellowと共にIBMの最上位技術職)である女性リーダーのもと、さまざまな部門から多様なバックグラウンドを持つ女性技術者がコアメンバーとして集まり、若手技術者の育成やアカデミアとの協業などの社外活動を推進しています。

「COSMOS」の仲間たちに、グローバルへ挑戦するかどうかの悩みを打ち明けたところ、海外での業務経験を持つリーダーやコアメンバーが、「子供」「家族」「キャリア」について親身に相談に乗ってくれました。仲間たちは、チャレンジしない理由を取り去ってくれました。

そして、冒頭に述べたように、2019年から約2年間、海外に赴任し、日本の金融機関の海外基幹システムを刷新するプロジェクトを推進したのです。

最後に

金融機関向けのシステムに限らず、日本企業が目指す安定性や堅牢性の要求レベルや、企業のお客様が期待するサービスレベルは、世界の中でも高いと言われます。厳しい条件下で新しいテクノロジーを採用してお客様のビジネスを変革する、という挑戦と成果は、私自身が実感して実現したように、世界でも十分に通用する普遍的なスキルです。

グローバルに挑戦したチャレンジ精神を忘れずに、お客様のビジネス課題を解決するさまざまな価値を届けるとともに、若手技術者の育成やアカデミアとの協業に活かしたいと思います。

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