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人とマシンのライブ・ディベート

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2月11日(米国太平洋標準時)米国サンフランシスコでのThink 2019で、人工知能(AI)システムと、人間のディベート・チャンピオンとの公開ライブ・ディベートが行われました(再生動画を視聴)。IBM ResearchIntelligence Squared U.S.が後援するイベントで、ディベートのチャンピオンとIBMのAIシステム、Project Debaterは、まず、「幼稚園/保育園には助成金を交付すべきである。」という論題を支持する議論とこれに対する反論を準備しました。その後、両者は4分間の立論と4分間の反駁を行い、2分間で要旨を述べました。

ディベート競技の優勝回数の世界記録を持つハリシュ・ナタラジャン(Harish Natarajan)

ディベート競技の優勝回数の世界記録を持つハリシュ・ナタラジャン(Harish Natarajan)が、IBM Think 2019のライブ・ディベートで、複雑なテーマについて人とディベートができる初のAIシステム、IBM Project Debaterと対戦しました。その場の聴衆はこのディベートの勝者としてハリシュの名を挙げましたが、過半数の人々が、Project Debaterの議論を聞くことので知識をより豊かにしたと述べました。このことは、より良く、より確かな情報に基づいた意思決定を下すために人間を支援するAI技術の潜在能力を明確にしました。(クレジット:Visually Attractive for IBM)

Project Debaterは、幼稚園/保育園に助成金を交付することの利点を示す事実を挙げ、研究報告について言及し、歴史上の人物の言葉を引用しながら、論題を支持する立論を行いました。Project Debaterの見解は、幼稚園/保育園に助成金を交付することは単なる財務の問題ではなく、社会の中で最も弱い人たちを支援することは倫理的かつ政治的な責務である、という前提に基づいていました。Project Debaterは、幼稚園/保育園への投資は、所得増加や健康増進など、園児によりよい人生をもたらすことにつながるとともに、犯罪に巻き込まれる可能性が減少することを示す研究報告について言及しました。

競技の優勝回数の記録を持つ人間のディベーター、ハリシュ・ナタラジャンは、論題に対する反論として、幼稚園/保育園への助成金の交付は、貧困の根本原因に効果的に対処することにはならず、中産階級への「政略的な」景品にしかならないと述べました。そして、貧困という悲惨な状況には政府や社会資源によって対処する必要があることを認めながらも、別の制度を採用したほうがより効果があると述べ、助成金は、おそらくすでに自分の子供を入園させている人々への景品にしかならないだろうと論じました。

両者とも、ディベートの準備に与えられたのはわずか15分間で、テーマについて前もって学習する機会はありませんでした。つまり、AIシステムは、人間のディベート熟練者と関わり、その議論を聞き、台本なしの自らの論理的思考から説得力のある返答をすることによって聴衆を納得させ、賛否両論のあるテーマについての自身の見解を印象付けたのです。AIに人の言語をマスターさせるという長い道程において、これはさらに前へと進む重要な一歩です。

Project Debaterもナタラジャンも、興味深く、有益な議論をすることができましたが、そのアプローチとスタイルは両者で異なっていました。AIシステムは自身の見解を支持するデータを引き入れたのに対し、ナタラジャンは、ディベートの枠組みを、平等な社会にするためには政府のお金をどこに使うのが最もよいかという問題へと組み替えることにスキルを大いに発揮しました。

このイベントの勝者は、その議論の説得力をいかに聴衆に納得させることができるかによって決まりました。結果は、リアルタイムのオンライン投票で集計されました。ディベート前は、幼稚園/保育園に助成金を交付すべきだという意見に、79パーセントの聴衆が賛成し、13パーセントが反対していました(8パーセントは未定)。ディベート後は、幼稚園/保育園に助成金を交付すべきだという意見に、投票参加者の62パーセントが賛成、30パーセントが反対し、ナタラジャンに軍配が上がりました。おもしろいことに、Project Debaterによってこのテーマについての知識が豊かになったと答えた聴衆が58パーセントであったのに対し、ハリシュの場合は20パーセントでした。

AIシステムであるIBM Project Debater(中央)とディベートの世界チャンピオンのハリシュ・ナタラジャン(右)が、「幼稚園/保育園に助成金を交付すべきである。」という論題について討論している様子

Intelligence Squared U.S.のジョン・ドンヴァン(John Donvan)(左)が司会を務めたイベントでは、AIシステムであるIBM Project Debater(中央)とディベートの世界チャンピオンのハリシュ・ナタラジャン(右)が、「幼稚園/保育園に助成金を交付すべきである。」という論題について討論しました。両者は4分間の立論と4分間の反駁を行い、2分間で要旨を述べました。ディベートのテーマは、このイベントが開始される15分前にハリシュとProject Debaterの両者に示され、前もって学習する機会はありませんでした。(クレジット:Visually Attractive for IBM)

この夜のディベートの司会を務めたのは、エミー賞を4回受賞し、Intelligence Squared U.S.ディベート・シリーズのホストでもあるジョン・ドンヴァンです。ディベートの後、ドンヴァンはナタラジャンとProject Debaterの2人の主任研究員、 ラニット・アハロノブ博士(Dr. Ranit Aharonov)およびノーム・スロニム博士(Dr. Noam Slonim)をオンステージ・ディスカッションに誘い入れました。興味深く、歴史的に重要な夜になったことに全員が同意しました。アハロノブは、Project Debaterの可能性は、「問題について両方の立場を理解し、良い点と悪い点をすべて提示することによって、人がそのテーマについてより広い視野を持ち、より良い決定ができるようにする」点にあると説明しています。

「結局、我々が分かったことは、人とマシンの相互作用によって、その両方が豊かになる可能性があるということです。どちらが優れているかという問題ではなく、AIと人間の連携なのです。」とさらにスロニムが付け加えています。

このディベートには、クライアントの他、ビジネス・パートナー、報道陣、アナリストや社会的インフルエンサー、Dougherty ValleyBay Area Urban Debate Leagueなどの地域のディベート・チームの学生も参加しました。学生の多くは、Project Debaterのすばらしいパフォーマンスに沸き立ち、カリフォルニア州サンノゼのBellarmine College Preparatory Schoolの生徒であるリシ・バラクリシュナン(Rishi Balakrishnan)は、「IBMのマシンが、ハリシュの提示した議論に基づいた回答をとてもうまく生成できることに、本当に感銘を受けました。」と言っています。

Project Debater初の公開ライブ・ディベートは、6月に限定的な小さなグループの前で行われました。今回のThinkにおいてIBMはさらに尽力し、ライブ・ディベートの科学と光景を生で見ている大勢の聴衆、およびライブストリームを介して見ている何千人もの聴衆と共有しました。IBM Researchディレクターであるダリオ・ジル(Dario Gil)は、このディベートの目的は、だれが正しいとか、どちらが勝ったかなどを示すことではなく、「人間の言語の複雑で豊かな世界を極める」ことであると言っています。月曜の夜、彼らはこれに一歩近づいたのです。

ディベートに参加する

ライブ・ディベートで見たものに興味を持ち、自分自身でディベートを体験したいと思ったら、意思決定支援にクラウドソーシングを利用する試験的なクラウドベースAIプラットフォームである、Project Debater – Speech by Crowdをチェックしてください。このテクノロジーでは、Project Debaterの背後にあるコアAIを使用して、ディベート可能なテーマについて、大規模な聴衆からフリーテキストの議論を収集し、そのテーマを支持する、あるいは異論を唱えるにあたって説得力のある見解を自動的に構築します。

Thinkの期間中、IBMではProject Debater – Speech by Crowdを大きく取り上げ、「インフルエンザのワクチン接種は必須にすべきである」というテーマの賛否両論を分析し、みなさんにお見せしています。Thinkへの参加の有無に関係なく、ご参加いただけます。

議論に参加し、ご自身の意見を述べるには、ThinkのProject Debater – Speech by Crowdの体験(Moscone South、ブース429)にお越しいただくか、オンラインを毎日ご利用いただけます。ぜひ思慮と示唆に富んだあなたのご意見を投稿してくださってから、Project Debaterが構築した賛否両論を見てみて、そしてあなたの意見がそこに含まれているかをその期間中に確認してみてください。

Thinkでのライブ・ディベートの再生動画はこちらでご覧ください。Speech by Crowdにご自身の意見を追加するには、オンラインの体験にアクセスしてください。

※この記事は米国時間2019年2月12日に掲載したブログ(英語)の抄訳です。

執筆:IBM Research編集スタッフ

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