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デジタル・ヴィレッジ・プラットフォームで地域課題に挑む(TDU松井研究室インタビュー)

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少子高齢化、低食料自給率、地域格差、老老介護…。近年「課題先進国」や「社会課題大国」という呼ばれることもめっきり増えた日本。個々の課題への対応は進められつつも、成功例はあまり耳にしません。

今回、IoTやAIを活用した「Digital Village Platform(DVP: デジタル・ヴィレッジ・プラットフォーム)」を通じて社会課題解決に立ち向かおうという取り組みを本格始動された、東京電機大学 システムデザイン工学部の松井 加奈絵助教と松井研究室(知的情報空間研究室)で活動中のお2人、河西さんと西垣さんにその取り組みについてお話を伺いました。

東京電機大学 バルコニーにて。左から、河西さん、松井助教、西垣さん。

 

■ デジタル・ヴィレッジ・プラットフォームとは

— まず、簡単にDVPについてご説明いただけますか?

松井:大きな構想なので、どこまで今の段階でお伝えするのが適切なのかが難しいのですが、一言で言えば、人間の生活を豊かに、暮らしを快適で持続可能なものとするための「地域課題解決型データ流通プラットフォーム」です。

1,000人から1万人規模の比較的小さめの自治体にご利用いただくことを想定していて、行政情報やIoTデータ、地場産業城などから、生活者に密着した地域課題を抽出し、そこで暮らしている人たちが本当に求めている解決方法の発見を支援していくものです。

 

— 「比較的小さめの自治体」なのには、何か意味があるのでしょうか?

松井: 1万人を超える中〜大規模の自治体にももちろん課題があるのは分かっていますが、そうした自治体はすでになんらかの手を打つ術を持っています。一方、1万人以下の地域では、どこから手をつけていいのかが分からないというところが多いのが実情です。

また、この取り組みを長期的に進めるためにも、スモールスタートしやすい地域からまずは実行していくことも重要だと考えています。そういう観点でも、課題や関係者が多様で複雑過ぎない地域、いわば「その気になれば全員に直接インタビューすることもできる規模感」というのも大切だと考えてのことです。

 

— おっしゃる通りですね。そして限界集落という存在を考えると、一番「待った無し」の状況にある存在とも言えます。

松井: そうなんです。そうした地域を存続させ持続させるためにも、地域自体が自らの経済力を今つける必要があるし、それを支援できるのがIoTやテクノロジーで、IBMさんにもそのための仲間となってもらう必要があると思っています。

デジタル・ヴィレッジ・プラットフォームのイメージ

 

■ デジタル・ヴィレッジ・プラットフォームが生まれた経緯

— 松井研究室のお2人は、どのような活動をされているのでしょうか。

河西: 2年前、研究室で応募したIoTネットワーク「Sigfox」を活用したあるアイデアコンテストで、私たちはプロトタイピング部門で優秀賞をいただきました(。その後、とある企業からそれを元に実証実験をやらせてほしいという話があり、長野県小谷村で水田の水位計測センシングと管理システムの実験を4カ月ほど行いました。

それと前後して、このときの経験も活かして、公開情報や地域の特定情報をインプットすると、その地域が解くべき課題に優先順位をつけ、推奨解決方法を提示するシステムを作ったんです。まだ現段階ではまだどんどんアップデートする必要のあるシステムではありますが。

 

— それはすごい。西垣さんはどのように関わられていたんですか?

西垣: 私もコンテストに一緒に応募したメンバーではあったのですが、その頃は違う研究室に所属していたんです。でも、いろんな地域創生プロジェクトに一緒に参加しているうちに「これに全力で取り組みたい」と強く想うようになって、一年前に松井研究室に転籍してきました。

そしてつい先日の11月22日に、Explois(エクスポリス)合同会社を松井先生と一緒に創業しました。

 

— そうなんですね。西垣さんはどういう立ち位置になるんですか? 大学はもうすぐ卒業ですか?

西垣: 私が社長兼CEOで、松井先生がサポーターという役割分担になります。今は大学四年生ですが、来年からは大学院にも進学予定です。

 

■ エクスポリス社設立

— 社名の「エクスポリス」にはどんな意味があるんでしょう?

西垣: エクスはExtend、拡張という意味を持つ英単語で、Polisは「都市国家」と訳されることが多い古代ギリシアの自治地区「ポリス」から取っています。それを複合して付けたのがエクスポリスの由来です。

実は、この名前をつける上で、Watson IoT事業部の村澤さんとの会話が大きなヒントになったんです。

 

— 私もエクスポリスという名前を耳にしたときから「『デジタル・ポリス』って村澤さんがよく使う言葉だよなぁ」って思っていたんです。他にも「知の地産地消」とか「解決方法のマッチングシステム」とか、そういうテーマで私も村澤さんとよくディスカッションをしているんです。

河西: そうなんですね。…ちょっと言いづらいんですが、私は、Watson IoTチームの村澤さんとダイカンさんとディスカッションをさせていただくまで、結構IBMさんに対して「堅い」「怖い」「フットワーク重そう」「大企業病にかかっていそう」ってイメージを持っていたんです。でもそれがお2人に会うたびにどんどんイメージが変わっていって。

西垣: 私もです! 実は初めて村澤さんに会ってプレゼンをさせてもらう前「一体何を言われんだろう。怒られたらどうしよう…」って思っていました。それが実際に話してみたら、とても受容力が高い人たちで、ダイカンさんも私たち学生の意見をとても真剣に聞いてくれて。イメージが180度変わりました。

松井: じゃあせっかくなので私も言わせてもらっちゃおうかな。「大企業だからやっぱり融通の効かないところもあるんだろうな…」って思ってたんです。昔、とあるプロジェクトでIBMさんと少し関わらせていただいたこともあって。

でも今回、「個を殺す」ことを良しとする企業が多い中で、IBMは人の想いや人格が前に出てきている企業だということを強く感じました。とても素晴らしいし、Watson IoTチームは人を応援するチームなんだなって感じています。お会いする度に気づきをいただいています。

 

■ 技術に振り回されないように。技術が振り回してしまわないように

— お話を聞いていて、松井先生が地域課題解決や地域創生に特別な思い入れがあることを強く感じています。それには何か理由があるのでしょうか?

松井: 私は以前、IBMさんのスマーター・シティーに関連したプロジェクトに参加させていただいたこともありました。

これは私自身の反省なのですが、当時の取り組みを振り返ると、点的というか局地的というか、あまり長期的な視点を持っていなかったし、地域の人たちの声を十分に取り入れられていなかったという気がしています。

不十分な理解のまま、先頭に立って解決を目指してしまっていた…。でも、本当に必要なのは、地域の人たちが自分たちで解決しようとすることだったんです。私たちがすべきことは、それを支援することなのだと今は強く思っています。

 

— テクノロジーを中心に据えてしまい、上手くいかなくしてしまうという傾向が私たちIBMにもあったのかもしれません…。反省…。

松井: いえいえ! IBMさんだけではなく、現代の都市部に暮らす私たち全般に共通する課題じゃないかと思っています。技術に振り回されてしまうと言うか、技術で人を振り回してしまうと言うか。

そんな中で、研究者であり実務者でもある私たちのような人間が、お節介かもしれませんが一緒に交通整理をする必要があると思います。

 

— 交通整理ですか。具体的にはどのようなイメージでしょうか?

松井: 地域の人たちは、自分たちの課題に必死に向き合い、次世代のことも思いながら生活の場をより良くしていこうと奮闘されています。ただ一方で、ビジネス界隈の方たちは短期的というか、資本や人員などの期間を限定したプロジェクト的なスタンスで課題解決に取り組まれる傾向が強いです。私も以前企業勤めをしていた身ですし「それがビジネスなのだ」と言えばそれまでなのかもしれませんが、でもそれでは実際にそこで暮らす人びとの本当のニーズ — 真っ先に解決すべき課題 — は掴めないと思うんです。

ですから、産官学で言えば「学」であり「産」にも近い立場の私たちのような存在が、産官学と地域それぞれの求めているものを整理した上で、スムーズにつなげられるんじゃないかと思っています。

 

■ 今後の展望 – 地域の未来を明るくするために

—今後、DVPとエクスポリスはどのように進んでいくのでしょうか?

西垣: 地域の暮らしの課題を解決していくために必要なのは、まずなによりも「人材」だと思います。センサーという道具があっても、それで計測したIoTデータを正しく安全に取り扱い運用できる人材がいなければ、何の役にも立ちません。地域の人びとの気持ちに寄り添ってそれを価値に変えられる人材が必要です。

まずは、そういった人材を育てていくために、ラズパイ(正式名称はRaspberry Pi(ラズベリー パイ))を使ったハンズオン・ワークショップを、行政担当者や小・中学生向けに行なっていく予定です。そこから、「自分の村に、自分の学校に情報共有システムを」と、中学生でも起業できるような環境づくりを応援していこうと思っています。

河西: そして、データ流通プラットフォームを用いた日々の課題抽出や解決のためのプロセスについても、自治体や企業向けのコンサルテーションや講義を行なっていく予定です。

 

— 松井先生にお聞きします。地域の未来を明るくするには、何が最も必要だとお考えですか?

松井: …難しい質問ですね。いろんな視点から考えられると思うのですが、私は「失敗を怖れないこと」だと思います。新しい試みが最初から上手くいくことは少ないです。改良を繰り返しながら、結果が出るまでに5年10年かかることなんてザラです。

IoTの何が良いかって、変更した点が上手くいっているのかいっていないかがすぐに数値によって可視化されることです。そしてそこからインサイトを引き出すAIの開発が進んでいます。

地域の人たちやそれに関係する人たちには、2世代先3世代先を踏まえて、失敗を怖れず大胆に取り組んで欲しいです。またそれは、失敗ではなく、成功かもしれません。少し評価軸を変えるだけで、全く別の世界が見えてくると信じています。

 

— それでは最後の質問です。教育者として、そしてメディアデザイン博士として、今回の取り組みをどう捉えていますか?

松井: 私たちの研究室では「学生主役」を理念としています。そこで「地域課題を解いて人びとの暮らしを良いものにしたい。持続可能な社会を作っていきたい」という想いを持つ学生に、それを追い続けるための場づくりを支援できたことがとても嬉しいです。少しかもしれないけど、教育の幅を拡げられたんじゃないかなって。

私は、大学を「就職準備だけの場」だと思って欲しくないんです。自分が追うべきテーマを探し、見つけ、トライ&エラーするための場が大学だと思っているので、そういう学生たちを応援し、支援することが私の追うべきテーマの1つなのかもしれません。

(撮影場所: 東京電機大学 東京千住キャンパス5号館)

 


 

参考記事: IoTで地方を元気にできるなら、私も貢献できるかも(Watson IoT 林 久美子)

参考記事: IoTで農業デザイナーを宇宙へ送り出したい(ネポン アグリネット インタビュー)

参考記事: Think Summit 2019レポート#4 – 「超高齢社会とテクノロジー」セッションレポート with 「Meet Your Second Life」

 

 

(TEXT:八木橋パチ)

 

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