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DXの見えざる壁、マスター・データを攻略する

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はじめに

私は以前、食品スーパー業界に20年以上在籍し、その中で5年間、情報システムの責任者をしておりました。基幹システムを中心に店舗システム、自動発注システム、グループウェア、情報活用など主要なシステムの刷新は全て経験してきました。その中で常々重要だと感じたことは「マスター・データ」です。各システムにマスター・データがあり、その管理はそれぞれバラバラであることが多いと思います。そのため、入力に関するルールが統一されていなかったり、データの抽出・突合に時間がかかったり、抽出し切れないなど様々な課題が発生します。昨今デジタル変革(以下、DX)推進が叫ばれておりますが、そのポイントの一つがデータ活用です。しかし、マスター・データ整備という基本的なことが行われていないために、DX推進が妨げられるケースも多いと感じています。なぜ、このような事が起きるのか、そしてその解決方法、今やるべき必要性を解説したいと思います。

マスター・データのあるある

データ分析のPoC(概念実証)を実施しようとした際に、ベンダーから各種データの提供を依頼されると思います。その中にマスター・データもありますが、すぐにマスター・データが抽出できないこともよくあります。他のデータと同じように様々なシステムから寄せ集めてようやく渡せたという話もよく聞きます。その他にも店舗名称、取引先名称がシステムごとに違っていることもよくある話です。システムに存在するならまだ良い方です。担当者の方のExcelファイルの中にしかマスター・データがないなんてこともあります。そもそもデータ更新自体がここ数年行われておらず、使い物にならないこともあります。なぜこうなるのかというと、優先度が一番の理由です。現場責任者の立場からすると、これまでマスター・データ管理で大きな問題にもならず、逆に整備することに作業負荷とコストがかかるため、どうしても先送りにされることが多かったからです。

マスター・データ問題の背景

現在はDXがビジネスの大きな課題、戦略に位置付けられています。DXの推進にはいくつかの壁があります。思考の壁、組織の壁、システムの壁がその一例です。前述したマスター・データがシステムの見えざる壁の一つになっています。その背景をもう少し説明します。一番の原因はシステムの構築方法やシステム構成にマスター・データ構造や運用方法などが大きく左右するからです。ホスト・コンピューター全盛期の頃はすべてのマスタ・データが一つの所にあり、それを管理していました。メンテナンスもホスト内のデータを処理していれば問題ありませんでした。その後、ある業務に特化したシステムが次々に出てきて導入が進みました。その際、各システムのマスター・データはそれぞれ新たにインプットしていきました。そのシステムに必要なものだけを。その結果統一されないマスター・データが複数存在することになりました。それがシステム間の連携を必要とするDXの中で悪い影響を及ぼすことになってくるのです。

DXを進める上で見えざる壁に

小売業でのDXは、購買データを活用して、お客様に新しい価値を届けるというユースケースはよく見られると思います。購買データを多角的に分析していく時にマスター・データは非常に重要です。ポイントカードのマスター・データ、商品マスター・データ、顧客セグメント・マスター・データなどがあります。この中の商品マスター・データですが、概ね仕入れ分類でカテゴライズされていると思います。例えば野菜。果菜類、茎菜類、根菜類、葉物類、土物類、加工野菜と分類されていると思います。しかしこれでは購買動向を分析するには適していません。そこで販売分類、用途分類という新しいマスター・データが必要になります。商品マスター・データにこの項目を追加しようとするとMDシステムのテスト等それなりの工数が発生します。できれば避けたいので分析システムの中に単独でこの販売分類マスター・データを保持しようとします。そうすると汎用性がなくなります。商品構成を見直したり、店舗レイアウトを見直したりする際にもこのマスター・データは必要になるからです。

マスター・データを攻略していきましょう

大きな方針は可能な限り一つにまとめていくことです。手順は4つのステップに分かれます。最初のステップは「各システムのマスター・データ項目を洗い出す」ことです。次にその「項目の整理・集約・削除」を行います。三番目にそのデータはどのように管理・メンテナンスされているのか「データのインプット・アウトプットを見える化」をします。そして最後に「一つにまとめていけるのかを判断」します。

仮にまとめられなかったとしても今までのステップでかなりスリムになっているはずです。まとめる判断がついたら統合マスター・データを管理する仕組みを構築します。全てのマスター・データのメンテナンス、インプット作業はここで行います。各システムが必要なマスター・データのみを連携していくようにします。そうすることでシステムの改廃や新規項目の追加などが抜けなく行えるようになります。当然、マーケティング領域である顧客データに関しても同じような観点で攻略することができます。

このタイミングを逃さない

マスター・データの攻略が最も適しているのは基幹システム刷新のタイミングです。それ以外でもECを展開していくタイミングもポイントです。ECを立ち上げ・拡大する際、やはり課題となるのは商品マスター・データの連携であり、そのデータの整理・統合になります。品揃えの拡大が進まない理由も実はここに課題があります。変えるべきタイミングを逃さずマスター・データの整理・統合がいち早く出来たところがDXを成功させると考えます。

藤野 敏広

藤野 敏広
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
小売サービス事業部
アソシエイト・パートナー

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