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データが経営資源になる時代の、製造業のサービス・ビジネス創造

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顧客体験のデジタルシフトが製造業のサービス・ビジネス創造を加速する

IBMが実施したグローバル経営層スタディを踏まえて、2020年にマーケティング最高責任者の視点で発行されたレポート『成長か無か Growth Producerへの挑戦』では、データが経営資源となる時代に企業が価値を生み出すための以下の3つのポイントを踏まえ、「新たなビジネス・エコシステムのフレームワーク」を提示するとともに、「顧客接点のデジタルシフトによる顧客体験の変遷と将来の価値提供のあり方」を洞察した。

  1. 顧客、従業員、ビジネス・パートナーの三者をデータで結び、新たな関係性を構築する
  2. 三者のデータを集約・活用するデジタル・プラットフォームを介在させる
  3. 顧客だけでなく従業員(リアル接点)やビジネス・パートナーにも、デジタル・プラットフォームにアクセスできる適切なエクスペリエンスを提供する

データ&エクスペリエンス・エコシステム

顧客フロントの進化モデル

そして現在、その洞察に沿う形で、業界を問わず多くの企業で、顧客接点のデジタルシフトによる顧客体験の変革、エコシステムの構築による新たな提供価値の創造が行われている。

製造業においても、当然のことながらデジタルを活用した顧客体験の変革や、モノからサービスへ、モノとサービスへ、といった新たな提供価値の創造はこれまでも行われてきたが、昨今の社会環境により顧客接点がデジタル前提へ急速にシフトしていることが、これまでの企業の取り組みをさらに一歩踏み込んだ変革へと後押ししている。

例えば、企業はこれまで何年にも渡り、製品単品のみを販売するだけでなく、品質保証や製品設置、利用教育等の製品に付随するサービスを販売してきた。しかし最近は、独自の価値観を顧客と共有しネットを活用して顧客と直接つながりモノやサービスを販売する『D2C(Direct to Consumer)』の考え方を取り入れた新規サービス・ビジネスを立ち上げようとしたり、顧客に導入した機器から蓄積されるIoTデータの活用とサブスクリプション・モデルによる製品の利用量等に応じた課金形態を提供したりするなど、以前よりも踏み込んだサービス・ビジネスを開発する動きがある。

これまで日本の製造業は、過去に構築された『良い品質の製品を作り、代理店等の流通網を経由して、顧客に販売する』というビジネスモデルにより事業成長してきた。そのため、メーカー(製品製造業者)とセラー(販売代理店)が機能分化して存在してきたし、それがビジネスの前提となっていた。これがネットの普及、そしてここ10数年来の『Consumerization(コンシューマライゼーション、一般消費者向けのテクノロジーが企業システムに活用されること)』の積み重ねによりB2Cビジネスのデジタル顧客体験がB2Bビジネスへも波及してきたことにより、メーカーが顧客と直接つながろうとする動き、そして冒頭に述べたサービス・ビジネス開発の動きが顕著になってきている。自動車や家電のようなB2Cに近い業界はもちろんのこと、電機・電子業界のようなB2Bビジネスを主体とする業界においても、顧客と直接つながる接点をデジタルにより実現し、またECチャネルによる直販形態を実装した・しようとする企業が出てきている。

電機・電子業界企業における変革の取り組み事例

電機・電子業界のある大手企業では、これまで全国の販売代理店と何十年にも渡り強固な関係を構築し、その流通網による機器販売を進めてきた。しかしながら、以前から独立系マーケットプレイスが台頭し一部の顧客で既存流通網を通さない販売が増えており、コロナ禍によりこのような顧客接点のデジタルシフトが急進したことや、商品が機器とソフトウェアやサービスを組み合わせたソリューションへと高度化・複雑化する流れへの対応力に差があり販売代理店の二極化が起きている、といった、顧客との関係・流通網との関係の大きな変化に対応しなければならないという課題を有していた。

そこで、将来的に顧客のバリューチェーンに応じたさまざまな有償サービスを顧客の望むチャネルで提案・販売できるための変革に乗り出した。その第一弾として、これまで手つかずであった自前の直販ECチャネルの構築に着手した。取扱商品は限定的にはなるが、直販ECチャネルが立ち上がることにより、企業はデジタル接点の顧客行動データだけでなくECでの購買履歴を直接入手でき、パーソナライズされた商品提案等に活用することで販売機会の拡大が期待できるとともに、特に代理店との手続きを好まない顧客にとって新たな選択肢を提供し、メーカー直送・納期短縮化による顧客満足度向上への貢献が期待できる。

ただ、これはまだ先に示した進化モデルに照らし合わせると、企業と顧客の間にデジタル・メディアができ、先々個別の顧客に応じた商品提案ができる『Personalizationレベル』に過ぎない。ECによるモノやサービスの販売はすでに当たり前になっている今、この自社直販ECチャネルを顧客や従業員、ビジネスパートナーを結びつけるデジタル・プラットフォームへと発展させるとともに、そこで新たな価値を創造し提供できるような、『Penetrationレベル』への進化が期待される。

顧客のバリューチェーンに浸透するサービス・プラットフォーム

電機・電子業界の企業のようなB2BビジネスにおけるPenetrationレベルの事業創造とはどのようなものか。それは、Penetrationという言葉のとおり、『顧客のバリューチェーンに「浸透する」サービス』であり、それを支える『データとエクスペリエンスのプラットフォーム』によって提供される。

『顧客のバリューチェーンに「浸透する」サービス』とは、自社が提供できる製品やサービスの提供価値を発展させ、またビジネス・パートナーとも協業し、顧客のバリューチェーンすなわち顧客のよりコアな業務の一部もしくは全部をカバーするサービスを提供するということである。そして『データとエクスペリエンスのプラットフォーム』とは、顧客やビジネス・パートナーと常時接続され各種データが集約・蓄積され、優れたエクスペリエンスを通じて各企業へ価値提供できるデジタル・プラットフォームである。

例えば先の企業の取り組みをPenetrationレベルに引き上げるにはどのような施策が考えられるであろうか。

多くの機器販売ビジネスにおいて機器利用に関するトレーニング・サービスがEラーニング形態で検討・提供されているが、これとECチャネルとを統合して、顧客企業に向けた『人財スキル管理サービスのデジタル・プラットフォーム』というところまで提供価値を高められないだろうか。自社は販売した機器に関連した業務知識・技術知識のトレーニングを提供する。自社で提供できない知識やスキルのトレーニングはビジネス・パートナーとして組める他企業や既存代理店と提携することで、プラットフォームの提供機能・コンテンツを拡大していく。顧客企業とその社員は、プラットフォームに蓄積された機器・サービスの販売データやトレーニング実績データ、そしてデータから導出されたスキルアップにつながる提案を活用しながら、スキルアップを図り、人財スキル管理を効率化する。例えばこのような形で、自社サービス・プラットフォームは顧客企業の業務に浸透し、高付加価値の取引が継続的に期待できるとともに、そこまでのサービスを提供できない競合他社を排除することにもなる。

今後のサービス・ビジネスのあり方は、プラットフォームの考え方によってさらに高い価値を顧客に提供する方向へ進化していき、企業間競争は、モノやサービスの戦いからプラットフォームの戦いへと変化していくであろう。顧客体験のデジタルシフトを見据え、提供価値・モノとサービス・顧客体験の変革に早急に着手すべきである。

宮田 大輔

宮田 大輔
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
インタラクティブ・エクスペリエンス事業部
カスタマー・ストラテジー&プロセス
パートナー

20数年にわたり大手日本企業・海外企業のマーケティング、研究開発、商品開発、サプライチェーン、IT運営等の変革支援に従事。現在、IBMインタラクティブ・エクスペリエンス事業部にて顧客フロント領域の変革サービスのリーダーとして、構想策定・顧客体験デザイン・組織設計・プロセス変革・グローバルWeb/ECプラットフォーム構築・マーケティングソリューション導入・運用支援など多岐にわたるプロジェクトを統括。

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