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電化:燃料転換による建物の脱炭素化
2023年05月12日
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燃料転換とも呼ばれる電化は、石炭、石油、天然ガスを利用する技術を、電気をエネルギー源とする技術と置き換えるプロセスのことで、特に建物の脱炭素化戦略によって普及が進んでいます。
排出削減や気候変動への対策が世界的な急務となる中、太陽光や風力発電を燃料源とする電化は、解決策の1つとして多くの人に認知されています。
この記事では、建築環境における燃料転換に注目します。これは主に、プロパンガスなどのガスをエネルギー源とする暖房装置や給湯装置を、ヒート・ポンプなどの電気製品に切り替えることを指します。建築環境における冷暖房が米国の建物の総エネルギー消費量の3分の1以上を占めていることを踏まえると、燃料転換は明らかに、炭素排出量を削減し、ネットゼロ目標の達成を前倒しするための大きなチャンスとなるでしょう。
動力として部分的にでも化石燃料を使用している建物をご利用中の皆様向けに、本記事では、クリーン・エネルギーへの切り替えや、建物のエネルギー効率改善における建物最適化技術の役割についての情報をご紹介します。
建物の脱炭素化を目指す上での電化の必要性
すでにほとんどの建物は、空調設備や照明、オフィス・スペースの動力として、電気を利用しています。長い間利用しているにもかかわらず、なぜ今、電化が必要なのでしょうか。
一般に、建物で使用されるエネルギー源は、電気だけではありません。湯沸かしや調理器具、暖房装置の動力としては、プロパンガス、天然ガス、石油などがよく使用されます。そのため、建物は最大の炭素汚染源の1つとなっており、世界の炭素排出量の40%は建築環境によるものです。
主要なエネルギー源を電気に切り替えれば、建築環境の脱炭素化の最終段階に到達できる可能性があります。冷暖房の電化は、多くの企業にとって、ネットゼロ目標の達成に向けたジャーニーの最終段階の1つと言えるはずです。というのも、気候変動が地球規模の課題として浮上する前に、20世紀を通して化石燃料の価格が下がり続けた結果、多くの企業が建物の冷暖房に化石燃料を使うようになったという事実が前提としてあるからです。
しかし、現在では、電気ヒート・ポンプ、電気給湯器、電気ストーブなど、カーボン・ニュートラルの達成に役立つ数々の電気を使用した暖房や調理技術が実用化されています。
電化のメリット
建物の炭素排出量は、住宅や商業ビルのエネルギー需要を化石燃料から電気に燃料転換することによって削減可能です。また、電気を使用した暖房や調理技術への切り替えは、大気質の改善の面でも大きなメリットがあります。例えば、ガス調理は屋内の一酸化炭素や二酸化窒素濃度の上昇を招き、ぜんそくのリスクを高めることが研究から明らかになっています。
燃料転換による建物の脱炭素化に着手するには
建物の脱炭素化に取りかかる前に、建物最適化ソフトウェアを使用するのがよいでしょう。そうすれば、エネルギー消費量および排出量のデータを追跡すると同時に、建物の性能を最適化するために効率を改善できる部分を正確に特定することもできます。
高度なアナリティクス、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、センサー・データの力を利用するインテリジェント・ソフトウェアであるMaximo Application Suiteは、データに基づく電化プロセスを実現し、性能やエネルギー効率を最適化すると同時に、業務の中断を最小限に抑え、設備の寿命を延長することができます。さらに、Envizi ESG Suiteと連携することで、結果のモニタリングとレポートの作成も容易に行えます。
電化、すなわち燃料転換とは、現在ガスを利用している技術を、電気を利用する技術へと置き換えることを意味します。最大の効果が得られるテクノロジーは、ヒート・ポンプです。多くの建物は、暖房としてガス燃焼ボイラーを使用していますが、この技術は電気ヒート・ポンプへの切り替えが可能です。ヒート・ポンプは、寒いときに屋外の大気や地表から熱を集め、屋内に吐き出すことによって機能します。逆に、暖かいときには冷房として利用できることもメリットです。
FAQ
電化による建物の脱炭素化の先進国はどこですか?
米国の約30の都市や郡は、新築建物のオール電化を義務化または努力義務化しており、電化は新築建物の基準となっています。
これらの自治体はカリフォルニア州内に集中しています。同州の規制当局も、2025年までの電気給湯器の設置に対する資金援助として4,500万ドルの予算を承認しています。ニューヨーク州の規制当局は、同じ目的で約5億ドルの予算を承認しています。
しかし、米国は今もなお電力の約20%を石炭に依存しており、2021年の国連気候サミットでは石炭の段階的廃止に関する誓約書に署名していません。
英国では、2028年までに毎年60万台のヒート・ポンプを設置することを政府が公約しています。既存のガス・ボイラーからヒート・ポンプへの交換に対する補助金として4.5億ポンドの予算を確保していますが、この額では9万台分にしかならないと評論家は指摘しています。
電化に反対する動きはありますか?
当然ながら、天然ガス会社からは反発が出ており、電化を阻むために建物のオール電化法案の通過阻止を目指す団体へ資金が提供されています。
米国ガス協会による調査では、住宅環境の電化を義務化する政策は消費者にとっても経済にとっても重荷となるとされていますが、クリーン・エネルギー企業からは当該調査の前提に対する疑問の声が上がっています。
今すぐ燃料転換に取りかかる必要がありますか?
商業ビルを所有している場合は、直ちに電化プロセスに着手し、脱炭素化目標に対応できるように設備性能のさらなる最適化を目指すべきです。たとえ電化がまだ義務化されていないとしても、今後義務化されていく公算は大きそうです。それならば、いつの間にか後れをとって、時代遅れの技術に対する燃料コストの上昇を負担せざるを得なくなるよりも、先行して有利な立場に立つべきでしょう。
燃料転換は、建物環境の炭素排出量削減に向けて取り得る最善の解決策の1つであり、気候変動問題を解決するために不可欠です。転換を始めるに当たって初期コストが発生しますが、長い目で見れば、電化はほぼ間違いなくコスト削減につながる(と同時に、新たな法律や建物性能基準の強化に対する備えにもなる)はずであり、会社の収支にも地球にも朗報となるでしょう。
IBM Envizi ESG Suiteによるサステナビリティ・データ基盤の構築、レポートの合理化、および脱炭素化の加速の詳細については、このリンクをクリックしてください。
この投稿は2022年2月16日に米国IBM Blogに掲載された記事 (英語) を抄訳し、一部編集したものです。
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