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【特集1】 震災と事業継続計画

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あの甚大な被害を与えた東日本大震災から、もうすぐ3年になります。
被災地の1日も早い復興を、社員一同心よりお祈り申し上げます。

この記事の筆者であるCloud & Smarter Infrastructure事業部ITスペシャリスト清野より、
今後発生することが予測されている大きな災害にに対し「保全管理の視点から」どのように対処していくかご紹介します。

業務継続計画と保全管理の関係

この度3月11日の東日本大震災では多くのかけがえのない人命が失われ、また生活基盤、経済活動に非常に甚大な被害を与えました。本書を読んでいただいている皆様の中にも被災されたり、またご家族やご友人が被災された方々もいらっしゃることと存じます。すべての被災者の皆様にお見舞い申し上げます。
筆者も震災当日は仙台のお客様訪問中、地震に遭遇いたしました。当日はお客様の企業資産のメンテナンス活動に関して、ディスカッションを行う予定で仙台に出張していましたが、施設見学の最中に大きな揺れが襲ってきて、メンテナンス施設内の巨大な建屋がものすごい音と振動でゆれ、非常に大変な事態になったことをすぐに直感しました。幸い、迅速な避難誘導、対応および建物の堅牢性のおかげで誰一人の負傷者を出すこともなく避難することができました。
迅速に避難誘導していただいた皆様には、この場をお借りしてお礼を申し上げたいと存じます。

業務継続計画

震災の後、にわかに脚光を浴びている企業の活動指針のひとつとして事業継続計画(BCP : Business Continuity Plan)があります。今回はBCPを取り上げ、保全管理システムとの関係を論じ、今後発生することが予測されている大きな災害に対してどのように対処す るかについて、保全管理の視点で筆者の個人的な考え方をご紹介したいと思います。

はじめに事業継続計画とは、非常に大きな事態に企業が遭遇したとき、事業の継続を行うための計画および支援を行うためのシステム全般(ここで言及するシステムとは人間系のシステムを含めて広義のシステムであり、情報システムなどを指すものではありません)を構築するための計画です。これと類似したものに災害復旧計画(Disaster Recovery Plan : DRP)があります。DRPはあくまでも災害発生時から通常業務を行うために必要なアクション項目・責任内容・連絡先などの情報を標準化して文書化するものです。これに対して事業継続計画は通常業務に加え、災害発生時の対処などを含めた全般的な業務継続計画を定義するものです。決して災害時のみに使用するものではありません。たとえば、「社員との連絡方法を確立する」という課題について、「携帯電話または電子メールで安否を連絡する」というアクションを示すのがDRPや災害対応マニュアルであり、複数のルーティングを持つネットワーク網を使用して電子メールシステムを構築することはBCPで言及されるべき内容です。また実際に各社員が安否情報をシステムへ入力して連絡を取るためには定期的な演習・教育なども必要でBCPは通常の業務の運用を含めて事業継続に関するさまざまなプロセスやシステムを標準化します。

また災害発生時の緊急停止や避難などの方法を記述したものを災害時対応マニュアルと呼び、災害発生時の具体的な手順を標準化します。

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BCPやDRPの記述の方法によっては、製造業では「仕入先の地位的分散を行う」など具体的な内容を列挙すると“枚挙にいとまがない”ことになってしまいます。従ってここではBCPでもっとも重要な基本的な考え方3点を指摘したいと思います。

  • いかに異常時に平常の組織の力を発揮できるか?
  • いかに業務遂行の阻害要因を低減できるか?
  • いかに堅牢で柔軟性のあるシステム(広義の)を構築するか?

(1) 異常な事態でも平常の組織力を発揮

通常の組織や企業では、災害まで大きな事態でなくとも設備トラブルなどでも同様ですが、災害対策を担当したり、重大なトラブル対策を専門に担当する担当者が配置されているわけではありません。まして大きな災害(火災、地震など)が発生した場合に対応を行うのは通常の管理職であり、また普通の社員の皆様です。また発揮できる能力はさまざまな制限事項によって通常100の能力をすべて発揮することはできません。従って限定的な組織能力を使用していかに効率的に復旧作業を行い、事業の継続を図ることができるかは組織がもつ潜在能力に依存します。BCPのひとつの目標はこの一般管理職・社員の潜在能力をどのように高めるかにあります。

  • 指揮系統の確保
    BCPでもっとも重要で優先されるべき項目は指揮系統の確保です。災害事象の発生時点は非常に混乱している状況であるため、一刻も早い指揮・連絡体制を確保する必要があります。またこれと同時に、被害状況などを指揮官に伝えるための体制の作成が重要です。活動内容は現状の把握に基づいて指揮されなければなりません。従って情報は指揮官と活動部隊の双方向でかつ即時性を持っている必要があります。
  • 自立性の構築
    災害時には通信網の停止などで、本社部門の危機管理部門と現場との指揮系統の確立に時間を要する場合があります。この間、現場部門では独自に活動を行う必要があるため、組織や指揮系統の自立性は非常に重要です。独立した活動であっても、基本的には本社の危機管理部門のイニシアティブに従って企業として一貫性を持った活動を行う必要があります。従って本社危機管理部門と連絡が取れない状況であっても、初動対応なお重要な活動においては、きちんとした対応が出来るように活動内容を記述した標準マニュアルなどを準備する必要があります。

(2) 業務遂行の阻害要因の低減

大きな災害が発生すると、すべては日常とは異なる環境におかれます。たとえば電話網が使えなかったり、また社内の情報システムへのアクセスができなくなったりします。これは災害復旧のみならず、事業の継続、またお客様のサポートなどに大きな影響を及ぼします。従って、これらの業務阻害要因を低減して、事業の継続を行う体制の作成が重要です。

  • 標準化の推進
    ある特定業務を遂行することができる担当者が限られている場合、その担当者が災害により出社できなくなると仕事が滞ってします。また業務を遂行するために必要な情報が災害現場にしかない場合はその情報にアクセスができなくなり作業ができない状況に陥る可能性があります。
    この問題を解決するためには、業務の内容を標準化、ドキュメント化を行い、セキュリティーの許す範囲内で誰でもアクセスできる環境作りを推進することは非常に大きな効果をもたらします。
  • 情報通信の確保
    非常に大きな災害時には通信網が過負荷のために利用できなくなります。しかし現在の事業には情報通信は必須で、通信機能が途絶えると災害復旧の指示が出せなくなるほか、被害を受けていない他の事業所での作業にも大きな影響が発生します。従って電話網、IP通信網などを多重化して管理するような考え方が必要です。

(3) 堅牢で柔軟性のあるシステム(広義)の構築

現在のビジネスが、国内全体やグローバルに活動する企業が増えてきており、組織もさまざまな拠点に分散して存在します。たとえば、被害を受けた工場での生産が止まっても、別工場へできるだけ早く生産を移動して事業を継続できるような体制作りが必要です。

以下、今回の震災で災害時に発生した問題点について列挙します。BCPではこのような事態に対処する方法を検討し、対策をあらかじめ設定し、また日常の業務の中で堅牢な企業システムを構築してゆく必要があります。

表1 災害時に発生する問題点
問題点 説明
情報切断 災害によって電話(固定電話・携帯電話)、電子メール、インターネット、イントラネットなどさまざまな通信手段が使用できなくなり、災害の情報収集・対応指示などが行えなくなる問題。
人員喪失 ケガなどで会社へ出社することができない問題。特に管理職や重要な技術を持つ作業員などの場合は復旧計画に対して大きなマイナスになる。
移動制限 交通手段が分断され、出社や帰宅は困難になる問題。また物流に大きな制限を与え、企業活動の根幹である材料の受入れや製品の出荷などに大きな影響を与える問題。
エネルギー不足 今回の東日本大震災で顕著な問題として対応が要請されている問題。エネルギー不足はすべての生産活動・物流活動に関連する重大な問題です。
作業場所の確保 建物の構造上の問題、または化学物質などの汚染による環境上の問題により、既存のオフィスや作業場が利用できない問題です。

 

BCPやDRPの適用範囲

BCPやDRPはすべてを想定して作成し、すべてのケースについて対策を準備することは理想です。しかし現実ではそのような準備を行うことは投資対費用の問題で不可能です。従って発生する災害に応じてその対応方法を分類して作成するようにしなければなりません。
たとえばBCPが対象とする脅威分析の範囲には以下のものがあります。

表2 BCPの対象となる災害・事象
脅威 説明
疾病 インフルエンザなどの伝染病のアウトブレイクによって発生する災害。感染者に対する社内への立入管理や病欠による人的資源の不足、生産品の移動制限(感染拡大防止)などの問題が発生します。特に「人」の移動が制約されること、また病気による勤務不能などが特徴的な災害です。
地震・津波 今回のような大規模地震、また地震に伴う津波の発生などの災害です。
火災 工場やプラントの火災や山火事などにより生産拠点が運用できなくなる事態を想定します。
洪水 津波や河川氾濫などが原因で発生する洪水被害。排水の如何によっては長期的な汚染水の滞留を招き衛生問題などを引き起こします。また都市全体の被害に発展した場合は人口減少などによって長期的な影響が懸念されます。
サイバーアタック 金融や物流などインターネットを使用している企業では外部からのサイバーアタックによってビジネスを阻害される場合があります。またイントラネットへ進入されると企業の重要な情報(顧客情報、会計情報、技術情報、個人情報など)が盗難され、また社内システムを故意に破壊することが可能になります。
破壊工作 不満を持つ社内の人間や過激な活動団体によって生産拠点に破壊行為が行われることを想定した問題です。
気象災害 局地的な豪雨、雹、豪雪、落雷など気象現象を原因として災害が発生する可能性。また気象現象を起因として、道路寸断、がけ崩れ、洪水などの災害に発展する可能性があります。
テロ行為 テロ攻撃により空港や港湾、発電所、中央官庁などに被害が発生する可能性があります。
盗難 社内の重要技術文書、製品、毒物・劇物などの化学物質、放射性同位元素などが盗難され、企業活動や周辺環境などに被害を与える可能性があるものの盗難。最近では個人情報などの電子データの盗難も企業活動に大きな影響を与えることが明確になっています。
重要設備の破損・停止 生産活動を支える非常に重要な設備の予期せぬ破損・停止により、生産活動が停止する事態。

 

上記の事象をすべて仮定してBCP/DRPを作成することは非常に大変で、また非効率です。たとえば「テロ行為」や「地震・津波」などいつ発生するかわからない事象に対してその対応方法を個別に準備することは簡単ではありません。しかし、一方今回の東日本大震災の事象のように重大な災害・事故などは発生するという相反事象が発生しており、「想定外」という一言では済まされないというのも事実です。従ってこのバランスが非常に重要です。

 

保全活動とBCP/DRP

設備の保全活動はBCP/DRPの一部といっても過言ではありません。なぜならば保全活動は常に劣化する設備を維持管理し、通常の状態を保つ(または近づける)ための活動であるためです。中でも資産台帳はその特徴を明確に示しています。以下に資産台帳で管理される内容とBCP/DRPで管理すべき内容を説明します。

設備台帳の管理項目
管理項目 説明
機器番号・機器名称 機器の存在を示す機器番号、ロケーションなどの情報。このデータは通常は現場にファイルなどで保管されている場合、災害発生時にアクセスできなくなる可能性が出てきます。従って本社や現場など複数の場所に分散配置を行うことが重要です。
資材関連情報(資材名、ベンダー名、過去の注文書など) その機器が破損した場合、速やかな修理や交換を行う必要があります。このとき機器が一般的な購入品である場合はその資材名称やベンダー情報などを即検索し発注する必要があります。機器台帳の資材関連情報は機器の調達を速やかに支援します。
管理担当者 その設備を管理する(またか管理できる)担当者。災害発生時に事業の継続に必要な重要設備の担当者が出社できるかどうかを確認することは非常に重要です。またその担当者が出社できない場合、代わりの担当者がいるかが問題になります。このとき設備の運転や起動・停止には資格が必要な場合があり、間違った対応は被害をさらに拡大してしまう可能性(例:火災や汚染物質の流出など)が生じます。
設備図面 設備図面は設備を修理する場合に必要となるもっとも重要な情報です。災害では建屋の崩壊やその危険性などにより通常使用している現場の図面にアクセスできない可能性も出てきます。
在庫情報 交換部品などの在庫情報は社内全体で共通に管理されるべきものです。個別に管理していると災害によって在庫品が失われても別のサイトから融通することが可能です。
設備仕様 代替機器として使用できる機器を検索したり、また新規に機器を購入する場合の機器仕様情報が標準化されていると非常に便利です。
過去の作業・故障履歴 震災対応ですべての機器を新しく交換することは予算上難しい場合があります。この場合は設備に優先度を設定して更新作業を進めますが、その優先度は一般的に保全作業における優先度と同じです。また保全作業の過去の履歴や故障履歴を参照して優先度を検討します。

参考ページ
企業が投資した資産の耐用年数を延ばすソリューション:エンタープライズ・アセット・マネジメント

【特集2】
震災と事業継続計画 (業務継続計画の作成、災害復旧計画、対応組織支援
)

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