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ネクストノーマル時代も成長を続ける企業のクラウドジャーニー戦略

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新型コロナウイルスの流行はデジタルエコノミーを加速し、デジタル変革の必要性を一気に⾼めました。企業がこれからの時代も成⻑し続けていくためには、デジタルなサービスやソフトウェアの⼤量⽣産者へと変わる必要があります。開発や運用のみならず、ビジネスエコシステムのプラットフォームともなるハイブリッド・マルチクラウド環境を活用し、具体的にどう取り組んでいけばよいのでしょうか? IDC Japan株式会社の松本 聡氏が解説します。

※ 本記事は2020年8月に開催したWebセミナー「ニューノーマルを勝ち抜くデジタル変革」における松本 聡氏の講演「ネクストノーマル時代のビジネスを⽀えるクラウドジャーニー戦略」の内容を基に構成しています。

松本 聡氏

松本 聡氏

IDC Japan ITサービス リサーチディレクター
松本 聡氏

IT業界で20年以上のビジネス経験を持ち、現在はITサービスグループのリサーチディレクターとしてITサービス、ビジネス・コンサルティング、BPO、クラウド・サービスなどの市場調査を担当。ベンダーの競合分析やユーザー需要動向の分析、新技術の動向、ビジネス・モデル分析などを得意とする。

新型コロナ危機から脱した企業は、ネクストノーマル時代のフューチェーエンタープライズを目指す

 新型コロナウイルスの感染拡大は我が国の社会および企業の活動に大きな影響を及ぼし、2020年2月以降は一気に景気減速が進みました。そうした中でも事業を継続していくために、多くの企業が新たにテレワークを導入しました。物流に関しても、例えばEコマースをより積極的に使い始めた企業は多いでしょう。こうした景気縮退期にはIT投資の削減が起きるのが常であり、景気が急速に減速していく中で支出抑制が進みました。

COVID-19の影響 企業が回復に向かう5つの段階
 
 
 現在は多くの企業が緊急対策や事業継続施策としてのテレワーク導入を完了し、コスト最適化から事業回復力の向上へと焦点が移りつつあります。例えば、「せっかくテレワークを導入したのに、ハンコを押すために出社しなければいけない…」など、既存プロセスの問題が顕在化している企業も多いでしょう。そこで、「ハンコ文化をなくそう」「プロセスを変えよう」といったことが行われているわけです。また、さまざまな変化に対応するために弾力性(レジリエンス)の向上も必要であり、IT投資に関しては支出抑制から最適化へと移りつつあります。

 今後、日本経済が再び成長へと回帰した先に迎える新たな時代には「多様かつ大きな変化が、短いサイクルで継続的に起きることが常態化する」とIDCでは予測しており、その時代を“ネクストノーマル(ニューノーマル)”と呼んでいます。

 この新たな時代を、多くの企業は従来からの取り組みだけで勝ち残っていくことはできません。ネクストノーマル時代を生き残るのは「デジタルエコノミーが主流化する中で、継続的な変化に対応しながら成⻑し、勝ち続ける企業」である“フューチャーエンタープライズ(Future Enterprise)”であり、企業はそれに向けてデジタル変革(DX)を加速していかなければなりません。

 なお、これまでの企業はソフトウェアを利用(消費)するだけの存在でしたが、ネクストノーマル時代のフューチャーエンタープライズはソフトウェアの開発者(生産者)となります。IDCは以前、「2025年には全世界で毎年約5億本のアプリケーションやデジタルサービスが生み出されるようになる」と予測しましたが、今回のパンデミックの影響により、その時期は前倒しになるはずです。

 IT支出に関してもTCO(総所有コスト)からROI(投資対効果)に指標を変えるだけでなく、例えば「デジタルサービスのつながりを評価する」といった新たな指標が必要になります。これらとクラウドをはじめとするテクノロジーの活用を一体として進め、融合/発展させていくDX/クラウドジャーニーの取り組みが肝となるのです。

ネクストノーマル時代のビジネスを⽀えるDX/クラウドジャーニー

 次に示す図は、DX/クラウドジャーニーの3つの行程を示したものです。図の横軸はインフラやプラットフォーム、縦軸はアプリケーションや開発プロセスを示します。

ネクストノーマル時代のビジネスを支えるDX/クラウドジャーニー
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 インフラ/プラットフォームに関して、企業は自社ITの一部領域にクラウドを導入した後、適用範囲を広げながら統合管理や自動化を推進し、全体最適を図ります。その先にあるのは、オンプレミスとクラウドを融合し、複数ベンダーのクラウドを使い分けるハイブリッド・マルチクラウド環境であり、それを実現するためのクラウドネイティブな技術としてコンテナやマイクロサービスが活用されます。

 一方、アプリケーションや開発プロセスに関してはITとビジネスの効率化から始まり、新たなビジネスを生み出すDXへと注力領域が移ります。その中では、企業が扱うさまざまなデータを集めるデータレイク(Data lake)や、集めたデータを活用するためのAI、デジタルサービスを作るためのアジャイルやDevOpsなどの手法が重要となります。

 そして、DX/クラウドジャーニーにおける企業の取り組みでは、最初の段階として技術を活用したIT/業務の効率化や最適化を進めます。例えば、クラウドベースのVDI(仮想デスクトップインフラ)であるDaaS(Desktop as a Service)の導入やSaaSの活用などが挙げられます。

 その次の段階として取り組むのが、技術/データを活用したビジネスの効率化や変革です。この中で、生産設備の向上を図るためのデータが必要ならばIoTの仕組みを導入し、それによって集めたデータをAIで分析するといった活動により既存ビジネスを強化していきます。

 その次の段階では、技術やデータを使って新たな市場を開拓していきます。図中に「ビジネスのサービス化」とありますが、まさにこれがデジタルエコノミーとして企業が取り組むべきこととなります。

 もちろん、経験のない企業がいきなりデジタルなサービスを新たに立ち上げるのは難しいはずです。そこで、DX/クラウドジャーニーでは、デジタルやクラウドを活用して既存業務の効率化、データを活用した効率化/変革を進め、その延長線上でデジタルエコシステムとして新しい市場の開拓に取り組むことをお勧めしています。

デジタルなインフラとイノベーションでサービスを作る

 IDCでは、フューチャーエンタープライズが取り組むべきプラクティスとして数の9つを挙げています。

IDC Future Enterprise
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 これらのうち、ソフトウェアの大量生産者としての企業にとって特に重要なのが「デジタルインフラ(Digital Infrastructure)」と「デジタルイノベーション(Digital Innovation)」です。

 デジタルインフラとは、DX推進の基盤となるものであり、今日ならばAIやIoTなどの先進技術がいち早く提供され、高い拡張性と回復力を備えたクラウドが中心的な役割を担います。

 一方、デジタルイノベーションでは、「プラン」「ソース」「デベロップ」「ディストリビュート」の4つが核となります。

 プランとは、デジタルイノベーションを起こすためのアプリケーションやサービスを作る計画です。例えば、デジタルイノベーションのためのCoE(Center of Excellence)組織を設立してデジタルを活用した製品やサービス、顧客体験(UX)などの戦略を立て、ソフトウェアへの投資やスキル開発の優先度を高めながら取り組みを進めます。

 また、ソースとは、アプリケーションやサービスの開発に必要となる外部ソースを指します。これらを大量に作っていくためには、外部ソースを積極的に活用することが必要となります。例えば、オープンソースソフトウェア(OSS)のコミュニティが開発しているソースコードやアルゴリズムを利用したり、第3者が提供するデータを活用したりといったことも積極的に行いたいところです。

 デベロップとは、文字どおりアプリケーションやサービスの開発を行うことを指します。OSSやクラウドネイティブ技術も活用し、アジャイルやDevOpsの手法によって短期間でスピーディに作り、短いサイクルで継続的にアップデートしていくことが必要です。

エコシステムの形成、コミュニティの活用/参加に力を入れよ

 そして肝となるのが、開発したアプリケーションやサービス、あるいは自社のデータなどを市場に提供してマネタイズするディストリビュートです。顧客に直接提供するためのデジタルプラットフォームを構築するほか、外部組織とエコシステムを形成したり、他社のデジタルサプライチェーンに提供したりといったことも検討/実施します。

デジタルイノベーションファクトリー
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 このようにして、デジタルイノベーションをサプライチェーンとして捉え、それをどのようにして構築し、どう提供するか、いかに早く回すかを考えていく“デジタルイノベーションファクトリー”の取り組みが、今後の企業活動では重要になります。

 このように、フューチャーエンタープライズを目指す企業の多くは、これまでにない取り組みや能力獲得が必要となり、組織や文化、人材/能力(ケーパビリティ)などの面でさまざまな課題に直面します。そして、どの企業にとっても最大のテーマとなるのが、自社のデジタルイノベーションのためにどのようなエコシステムをどう構築するかということであり、その中で鍵となるのが“コミュニティ”です。

 デジタルイノベーションのエコシステムを考える際、コミュニティは非常に重要です。例えば、2025年には全世界のソフトウェア生産企業が開発するアプリケーションのソースコードの90%を、OSSや開発者コミュニティ、ベンダーやユーザーのコミュニティなどで提供される社外のソースコードが占めるとの予測もあります。

 また、コミュニティへの参加は、他社が実践した活動を参考にして、「自社の組織や文化をどう変革していくべきか」「人材をどう育て、どのようにスキルを習得するか」といったことを学ぶうえでも極めて有効です。エコシステムの理解を深めることにもつながるでしょう。

 フューチャーエンタープライズを目指す企業は、ネクストノーマル時代の到来を待ってはいられません。今回述べた取り組みを、まずは小規模なプロジェクトやPoC(Proof of Concept)のレベルからでも今すぐ始めてみてください。

 

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