IBM クラウド・ビジョン

幕開ける“エッジコンピューティング時代” 先駆者の成功の秘訣は?

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2020年に入り、日本国内でも一部地域で「多数同時接続」「高速大容量」「高信頼/低遅延通信」を特徴とする「第5世代移動通信システム(5G)」サービスの提供が開始されました。これにより、ビジネスでの活用が一気に加速すると期待されているのがエッジコンピューティングです。すでに取り組みを開始している企業は、どのような領域で活用し、どういった成果を上げているのでしょうか? 各業界の先駆的事例をご紹介します。

望月 敬介

望月 敬介

日本アイ・ビー・エム 執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部
クラウド&データプラットフォーム事業部長

1992年入社。営業として流通業や製造業のお客様への各種ソリューション提供に従事した後、経営企画/副社長補佐/米本社アサイメント等を経て、2009年よりソフトウェア事業本部下でデータベース製品/クラウド製品を担当するブランド事業部長を歴任。2018年にクラウド事業本部でRed Hat買収業務を担当した後、2020年より現職。

 

5Gサービス開始で高まるエッジコンピューティング活用の機運

エッジコンピューティングとは、工場の生産設備や自動車、医療機器、スーパーマーケットの商品棚に至るまで、あらゆる領域の先端部(エッジ)で稼働するデバイスから収集した多種多様かつ膨大なデータを活用したコンピューティングモデルです。

従来の企業コンピューティングでは、さまざまな場所から収集したデータを企業やクラウドのデータセンターなど後端部(バックエンド)で集中処理していましたが、それとは逆にデータの発生源である“現場”に近いところで処理を行うのがエッジコンピューティングの特徴です。

データを発生源に近い場所で処理することにより、エッジコンピューティングでは次のようなメリットが生まれると期待されます。

  • 処理結果を短時間で発生源にフィードバックできるため、「工場の生産設備の稼働や自動車の走行などに伴って生じる多様なデータをAIで瞬時に分析し、その結果に基づいて生産設備や自動車を制御する」といったリアルタイム性が求められるニーズに応えられる
  • 現場で生成された全てのデータをクラウドなどバックエンドの上位システムに送信して処理する必要がなくなり、ネットワークや上位システムの負担を減らすことができる
  • セキュリティーや規制などの事情で現場からデータを持ち出せないケースでも高度なデータ処理が行える

近年はエッジコンピューティングを補完する技術としてAIの活用が始まり、エッジデバイス上で動くアプリケーションの開発/運用においてクラウドネイティブなテクノロジーの利用が進みつつあります。今後は、全てのデータ処理をクラウドなどのデータセンターで集中的に行うのではなく、さまざまな場所で分散して行うになるでしょう。この傾向は、企業が生き残りをかけてデジタル変革(DX)の推進に力を入れれば入れるほど顕著になっていくと見られます。

エッジコンピューティングはビジネスをどう変えるのか?

エッジコンピューティングは、製造や自動車、保険、金融、流通、小売、交通、ヘルスケアをはじめ、あらゆる産業に新たなビジネス機会をもたらすと期待されます。
IBMのエッジソリューション

例えば、自動運転(AD)や先進運転支援システム(ADAS)などの実用化に向けた検討が進む次世代モビリティ、顧客に寄り添ったサービスを実現する“つながる顧客体験”、さまざまなエッジデバイス上のアプリケーションを最新技術でモダナイズする“分散コンピューティングモダナイゼーション”、製造業などの生産現場をDXで変革する“インダストリー4.0”、そして動的な在庫計画(サプライチェーン)や物流トレーサビリティー(資産管理)の実現など、さまざまな応用領域が考えられます。

エッジコンピューティングのユースケース

IBMは、エッジデバイスメーカー様へのエッジコンピューティング技術のOEM提供をはじめ、あらゆる業界のお客様のエッジコンピューティングによるビジネス変革をご支援しています。以降では、その一部をご紹介します。

保険業界:ドライバーの運転特性をデータで把握し、自動車保険サービスを向上

初めに取り上げるのは、フランスの大手保険会社Groupama様のエッジデバイスを利用した保険サービスの事例です。

同社の自動車保険サービスでは、これまで走行距離に応じた保険料の設定(Pay as You Drive)により他社との差別化を図ってきました。それに加えて、近年はIBMのエッジコンピューティング・テクノロジーを活用した“Pay How You Drive”による保険サービスの提供も開始しています。自動車に搭載した速度や加速度、GPSなどの各種センサーにより、それぞれのドライバーが「どの時間帯に、どのように運転するのか」といった情報を収集し、安全運転を心掛けるドライバーかどうかといった運転特性に応じて保険料の割引きなどを提案できるようにしたのです。

お客様事例:Groupama様

Groupama様の試みから、保険料率や顧客情報を管理する基幹システムとエッジコンピューティングを組み合わせることで、ドライバーの運転実態にリアルタイムに応じたサービスを実現できることがわかります。今後は、例えば「ある時間帯に事故の多い地域を運転する機会の多いドライバーに対し、その時間帯だけを対象にした特別な保険サービスを提供する」といった活用例も登場してくるかもしれません。

港湾局:さまざまな事象をデータで捉え、最適な船舶運航モデルをシミュレート

次に、エッジコンピューティングによるビジネスエコシステムの事例として、オランダのロッテルダム港の取り組みをご紹介します。

欧州最大のコンテナ取扱量を誇るロッテルダム港の運営における最大の課題は、港内の船舶管制を的確に行って各船舶のスムーズな荷積み/荷下ろしを実現することです。適切な管制が行われずに船舶が渋滞し、荷積み/荷下ろしに遅延が生じれば、同港を経由する物流に大きな遅れと損失が発生するからです。

ロッテルダム港を運営する港湾局様は、エッジコンピューティングを活用した運航シミュレーション(デジタルツイン)と、それに基づく船舶の自律運航により、この課題の解決に取り組まれました。潮位や天候、船舶の運航状況などを各種エッジデバイスで取得したデータによって把握し、それに基づくシミュレーションで最も効率的な入港計画を作成して各船舶を管制。さらに、計画通りの運航が行われているかをダッシュボードを通じて常時モニタリングし、必要に応じて調整する仕組みを導入されたのです。

この取り組みの大きな特徴は、港湾局様の主導の下、IBMをはじめとするITベンダーや地域の物流事業者、船舶会社など、さまざまな企業が参画して巨大なエコシステムを形成している点です。これを実現するためには、エコシステムにかかわる企業のシステムや多種多様なエッジデバイスがスムーズに連携できるオープンなプラットフォームが不可欠でした。同港はそのプラットフォームとして、AIも活用したIBMのエッジコンピューティング対応IoTソリューションを活用されています。

ロッテルダム港:ソリューション全体像

 

製造業:タイヤ生産ラインの品質検証をエッジAIでリアルタイム化

続いて、製造業におけるエッジコンピューティングの活用事例として、株式会社安川電機様の米国子会社であるYaskawa America, Inc.様と米国IBMで作成したユースケースをご紹介します。

例えば自動車のタイヤの生産を行っている工場で、その品質検証のプロセスを離れたデータセンターで実施しているという例があるとします。このような場合、生産ラインで1つ1つのタイヤを撮影して画像データを蓄積し、バッチ処理で本部のデータセンターに送信。本部システムで画像分析を行って品質を検証し、そのフィードバックを受けて次の工程に進めるため、「リアルタイムに品質を検証できない」「大容量の写真データを送信するためコストがかかる」「生産にかかわる機密データを工場外に送信するため、セキュリティーやコンプライアンスの担保に手間とコストがかかる」といった問題が生じます。

IBMのエッジコンピューティング向けAIソリューション「IBM Cloud Pak for Data Edge Analytics」を活用すると、工場内のエッジゲートウェイサーバー上で動くエッジAIで画像分析による品質検証を行う仕組みを実現することができ、これにより、リアルタイムな品質検証が可能となり、ロボットアームがその場で品質判定を行うことができるためリードタイムの短縮を実現することが可能です。

国内のお客様の多くが、工場などの現場で生産設備からさまざまなデータを収集する取り組みを開始されています。そのデータを現場近くでAIによって分析し、生産工程にリアルタイムにフィードバックすることで、さまざまな効果が期待できます。

Edge Analytics benefits
※「IBM Think 2020」(2020年5月開催)におけるYaskawa America, Inc.様発表資料より。
参考:https://www.ibm.com/events/think/watch/replay/126540878/ (英語)

 

“オープンなエッジプラットフォーム”を企業全体の共通基盤に

このように、IBMは世界中のさまざまな業界でエッジコンピューティングの活用をご支援していますが、全てのお客様に強くお勧めしているのが「特定ベンダーに依存しないオープンなエッジプラットフォーム」を活用することです。

先述のように、エッジコンピューティング環境では、データとその処理を行うアプリケーションやAIが、さまざまな場所に分散化していきます。このとき、現場ごとに閉じた視点で部分最適にエッジ施策を検討すると、それぞれで異なる技術が使われ、全体としてコントロール(ガバナンス)が効かず、マネージ(運用)できなくなってしまう恐れがあります。このことは、例えば災害や事故が起きた際にどう復旧するかといった事業継続計画(BCP)にも大きな影響を与えるでしょう。

ガバナンスとマネージを確立するためには、分散化を大前提にして「何を共通のプラットフォームとして使うか」を最初に検討することが大切です。「パッケージ製品としてまとまっており導入しやすいから」「今使っているクラウドサービスは、このエッジコンピューティング技術やサービスとの親和性が高いから」といった個別最適な理由で特定ベンダーに強く依存した技術を安易に導入しないようご注意ください。

IBMは、エッジデバイスからオンプレミス(プライベート・クラウド)やパブリック・クラウドまで、エッジコンピューティングにかかわる全ての領域を対象に、これまで培ってきた技術やノウハウ、AIを含む多くのソリューションを、Red Hatのオープンなテクノロジーをベースに提供しています。これにより、全領域のアプリケーションやAIを同じテクノロジーで開発/運用しながら、多種多様なデバイス環境の一括管理や自律管理を実現し、エッジコンピューティングの活用効果を最大化できるのです。

エッジコンピューティング領域における皆様の新たなチャレンジの武器として、ぜひIBMのオープンなテクノロジーをご活用ください。

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