IBM クラウド・ビジョン

なぜロックダウン下でも米金融機関の開発プロジェクトは止まらないのか?

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新型コロナウイルスの感染拡大は、日本国内で多くのシステム開発プロジェクトをストップさせました。一方、米国の状況を見ると、ロックダウンをものともせずに粛々と進むプロジェクトがあります。その秘密は何でしょうか?──「リモート開発」です。日本社会は緊急事態宣言下におけるテレワークの有効性を確認しました。その“システム開発版”とも言えるリモート開発は、感染症や自然災害のリスクが高まるこれからの時代の標準開発スタイルとなるかもしれません。

藤田 一郎

藤田 一郎
日本アイ・ビー・エム
Integrated Account CTO
エグゼクティブ・アーキテクト

 

和田 洋

和田 洋
日本アイ・ビー・エム
グローバル・ビジネス・サービス
アジャイル・イノベーション

 

田中 孝清

田中 孝清
日本アイ・ビー・エム
クラウド&コグニティブソフトウェア事業部
クラウド・テクニカル・セールス

 

パンデミックで多くのシステム開発プロジェクトが中断

新型コロナウイルスの世界的な流行(パンデミック)を受けて全国で実施された「(感染拡大を防ぐための)人の移動の自粛/制限」は、日本企業におけるテレワークの取り組みを加速させる大きな契機となりました。5月に緊急事態宣言が解除された後も、多くの企業がテレワークを永続的なワークスタイルの1つとして定着させるべく、リモート環境でも高い生産性や共創性を実現する手段を模索しています。今回のパンデミックがいつ収束するのか先行きが不透明なうえ、今後も新たな感染症や増加する自然災害などにより、同様の事態が起きる可能性が常にあるからです。

一方、企業が行うシステム開発の世界ではどのような変化が起きたのでしょうか。日本企業のシステム開発スタイルの特徴の1つは、大規模プロジェクトをはじめ多くが1カ所または少数の拠点にメンバーを集めてオンサイトで行われていることです。そこにパンデミックにより人の移動に対する強い制限が加わったことから、当初は多数のプロジェクトが中断を余儀なくされました。なかにはリモート開発を採用していたプロジェクトもありましたが、実態はオフショア開発が主であり、国内のシステム開発は大型プロジェクトを中心に大半がストップするという異例の事態が生じたのです。

IBMがご支援するお客様の開発プロジェクトでも、すでに作業内容が固まっていた下流工程の一部は比較的スムーズに進んだものの、要件定義など緊密なコミュニケーションが必要となる上流工程は困難を極めました。下流工程でも、開発者が自宅などからリモートで開発用サーバーやテストサーバーが使えない環境では、コーディングすらも十分に行えない状況となったのです。

国内金融機関でもプロジェクトが大きく遅滞。リカバリー率は10〜20%程度

筆者らは、日本や米国を中心にグローバルで金融業界のお客様のシステム開発プロジェクトをご支援する中で、パンデミック下における日米の開発プロジェクトに直接参画する機会を得ました。ここで簡単に、両国のプロジェクトがどのような影響を受けたのかをご紹介します。

まず、ある国内金融機関のお客様の場合、セキュリティー要件から大半のプロジェクトをオンサイトで行われています。リモートによるニアショアやオフショアの開発もありますが、その場合もセキュアなネットワーク環境で業務が行われます。

緊急事態宣言が発令されると、そのセキュアなネットワークが敷かれたお客様オフィスへの出勤がIBM社員も含めて大きく制限されました。日々のシステム運用以外のプロジェクトに関しては制度対応など外部要因で期限が定められたものから優先順位が付けられ、それに応じて作業を継続する/しない、出勤する/しないが判断されたのです。どうしても出勤が必要なプロジェクトについても1カ所に集まるのではなく、複数のオフィスに分散させるなどの対策がとられました。

それ以外の開発メンバーは、一定のセキュリティー条件などが守られる場合は在宅での作業が許可され、業務を継続する努力を続けました。しかし、お客様サイトの開発/テスト環境と完全に切り離された状態で行える作業は限定され、業務の回復率(リカバリー率)は10〜20%程度にとどまりました。

また、大手の金融機関様になると協力会社を合わせて数千名規模の技術者が常時稼働しています。その業務が一気に止まるわけですから、経済的な損失も甚大です。

CIOのスピーディーな意思決定が迅速対応の助けに

なお、他業界のお客様も含め、パンデミック下ではCIOの迅速な判断と意思決定が非常に重要な役割を果たしました。緊急事態宣言の発令直後、IBMの受託業務に関してこれまではセキュリティーなどの理由から許されていなかった対応を「迅速なリカバリーのため」と一定枠内で特別に認める許可をCIO自らトップダウンでいただいたことは、迅速な対応の大きな助けとなりました。

ただし、この対応はあくまでも期間を限定した緊急措置であり、永続的に続けられるものではありません。継続のためには実施コストの低減が必要な施策もあれば、セキュリティー規約の変更を検討しなければならない施策もありますが、それらについては慎重に判断されようとしています。つまり、緊急対応の措置をそのまま続けるのではなく、継続性のあるソリューションとするためにどうすべきかを検討されているのが現在の状況です。

国金融機関は従来からフルリモート化。リスク耐性の高さを実感

一方、米国の状況はどうだったでしょうか。例えば、ある金融機関様では、パンデミック以前より数百人の開発者が参加する大規模プロジェクトを遂行されていました。ただし、日本と大きく異なるのは、全開発メンバーがフルリモートにより自宅から開発作業を行っていた点です。米国の場合、さまざまなスキルを有したエキスパートが国全体に分散しており1つのオフィスに集まるのは不可能なため、もともとリモート開発が標準だったのです。構成管理や課題管理、Wikiなどの各種ツールを駆使して作業や成果物の管理を行い、要件定義などのコラボレーションや会議は全てビデオ会議によりリモートで行っていました。

新型コロナウイルスにより米国各地でロックダウンが発生した際も、このプロジェクトには拍子抜けするほど何の変化もありませんでした。ロックダウンの影響など全く受けずに、プロジェクトは現在も粛々と進んでいます。もちろん、これは「広い国土の各地に人が分散しているため、リモート開発でなければ優れたエキスパートを集められない」という米国ならではの制約とも言える事情がもたらした副産物ですが、完全にリモート化された開発プロジェクトのリスク耐性の高さを強く印象付けられました。

リモート開発のためのクラウド型開発環境を提供開始

このように、パンデミックが開発プロジェクトにもたらした影響は開発スタイルによって異なりますが、多くのCIOが“感染リスク”をセキュリティーや災害と並ぶ企業ITの重大リスクとして認識されたのではないでしょうか。

IBMは早期より事態の深刻さを認識し、こうした状況下でもシステム・インテグレーションをはじめとするサービスをお客様に安定してご提供していくために、開発プロジェクトの体制をグローバルで変革するイニシアチブ「ITサービスのデジタル変革」を立ち上げました。同イニシアチブでは、サービス提供にかかわるメンバーがオフィスや自宅など、どこにいる場合でも、開発生産性を低下させることなく、むしろ各種ツールによる自動化/効率化によって生産性を高めながら円滑にコラボレーションして業務に取り組める環境の整備/拡充を図ります。

また、ITサービスのデジタル変革のコンセプトの下、お客様のリモート開発プロジェクトをご支援する新たなソリューションとして「オープンなクラウド開発・運用プラットフォーム」の提供を開始しました。

このプラットフォームは、お客様のプロジェクト関係者が自宅やオフィスなどから同一の環境で作業が行えるIBM Cloud上のリモート開発環境です。WindowsやLinuxのみならず、Power/AIXやPower/i、z/OS(今後、対応予定)など企業システムを構成するさまざまなプラットフォームに対応した開発/テスト環境が用意され、仮想デスクトップ技術や二要素認証などでセキュリティーが確保されます。各種のオープンソース・ソフトウェア(OSS)を組み合わせて事前構成済みの開発環境では、多くの作業が自動化/効率化されており、リモートでも高い生産性が得られます。

 

オープンなクラウド開発・運用プラットフォームはニューノーマル時代の標準開発環境

IBMはオープンなクラウド開発・運用プラットフォームによるリモート開発をニューノーマル時代の標準となる開発スタイルと位置付けており、既存システムのクラウドへの移行からデジタル変革(DX)の推進におけるクラウドネイティブ開発まで、お客様が行うあらゆるシステム開発のリモート化をサポートします。

なお、IBMは各業界に特化したパブリック・クラウドの提供にも力を入れており、2020年内にバンク・オブ・アメリカ様と共同開発した金融業界向けパブリック・クラウド(IBM Cloud for Financial Services)の提供を開始します。オープンなクラウド開発・運用プラットフォームは、このIBM Cloud for Financial Servicesへの対応も予定しています。

さらに、業界標準のコンテナ管理ツール「Red Hat OpenShift」をベースにしたアプリケーション開発環境「IBM Cloud Pak for Applications」を使い、それぞれの開発者がローカルで行う開発作業を標準化したり、開発したアプリケーションをコンテナ化してオンプレミスや各社のパブリック・クラウド上で実行したりすることもできます。

IBM Cloud Pak for Applications 全体像

リモート開発は、決してパンデミック下の一時的な開発スタイルではありません。例えば、IT人材の不足が叫ばれる中、育児期間中や定年退職後のハイスキル人材に単発/短時間でプロジェクトを支援してもらうなど柔軟な人材登用を進めるうえでも有効な仕組みです。ポストコロナのニューノーマル時代にITでビジネスを成長させていくための基盤として、ぜひ活用をご検討ください。

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