クラウド・ビジョン

エッジコンピューティングの最大の課題は「多種多様かつ膨大なエッジデバイス上で稼働するアプリケーション管理」。効率的な管理基盤をどう実現する?

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エッジコンピューティングが従来の企業コンピューティングと大きく異なる点の1つは、さまざまな場所で稼働する多種多様かつ膨大なエッジデバイスやエッジゲートウェイサーバーなどに対するアプリケーションやデータ分析用AIモデルの配信や稼働監視といった煩雑な運用管理が必要になることです。これを人が手作業で行うのは不可能であり、ツールを効果的に利用して自動化/効率化しなければ、エッジ活用そのものが破綻する恐れすらあります。本記事では、エッジコンピューティングに取り組む全ての企業が直面する課題を指摘したうえで、それを解決する具体的なソリューションをご紹介します。

上野 亜紀子

上野 亜紀子
日本アイ・ビー・エム クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部
インテグレーション・ソフトウェア事業部 Strategy & Offering 部長

WebSphere製品やコンテナ・プラットフォームなどのアプリケーション基盤から、ハイブリッド・マルチクラウドおよびエッジコンピューティング環境における運用管理ソリューションまで幅広い製品群を担当。テクニカル・セールス部門のマネージャーとして、さまざまな業界のお客様への提案や技術支援を経て、現在はこれらの製品群の日本における戦略策定やオファリングの展開をリードしている。

 

太田 充紀

太田 充紀

日本アイ・ビー・エム クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部
インテグレーション・ソフトウェア事業部 テクニカルセールス

WebSphereやWatsonのテクニカル・サポートとして活動し、さまざまな業界のお客様に対するシステムのデリバリーを経験。現在はIBM Cloud PaksやIBM Edge Application Managerなどのテクニカルセールスとして活動し、企業システムのクラウドネイティブ化を支援している。

 

エッジコンピューティングへの期待が高まる理由

エッジコンピューティングとは、これまでデータセンターやクラウドで集中的に行っていたデータ処理を、データが生み出される現場(エッジ)により近いところで処理するコンピューティング・モデルです。そうしたデータを生み出すデバイスは多岐にわたり、例えば次のようなものが挙げられます。

  • 小売店舗などにおけるPOS端末や商品棚
  • スマートファクトリーにおける工場の生産設備
  • MaaS(Mobility as a Service)における自動車などの移動手段
  • スマートホームにおける住宅設備や家電
  • スマートロジスティクスにおける物流設備や運送設備
  • アグリテックにおける農機や各種装置

ICTの技術的な向上や5G(第5世代移動通信システム)サービスの開始などによってこれらのデバイスの機能向上や普及が進み、従来は実現が難しかったエッジ側でのデータ処理が可能となり、それによってさまざまな効果がもたらされると期待されています。

例えば、現場でのデータ活用について言えば、今日ではデバイス側で画像や音声などのデータが大量に生成されています。それらの膨大なデータを全てクラウド側に送信して分析などの処理を行っていたのでは多くの通信コストがかかりますし、クラウド側で大量のデータを管理するコストも発生します。また、転送により多くの時間がかかってしまうケースもあります。エッジ側でデータ処理を行うことにより、それらのコストを大きく削減し、なおかつ処理結果のリアルタイムな活用が可能となります。

また、コンプライアンスやセキュリティーなどの理由により、現場からクラウドにデータを移すことができず、現場で発生するデータをうまく活用できていないというケースは少なくありません。エッジコンピューティングにより、それらのデータの活用が進むとの期待もあります。

さらに、デバイスのさらなるインテリジェント化や高機能化、高頻度な機能アップデートによって顧客体験(UX)やサービスの向上を図るために、エッジコンピューティングを活用したいという経営者や現場も多いでしょう。

加えて、昨今はMaaSやアグリテックをはじめ、イノベーションを実現するために業界の垣根を越えた共創が求められようになっています。そのプラットフォームとしてエッジコンピューティングを利用し、これを介してさまざまなモノやサービスの異業種間における連携、新たなエコシステムの形成を推進することができます。

 

エッジ活用に際して企業が克服すべき課題とは?

このように、多くの効果が期待されるエッジコンピューティングですが、実際に活用していくうえでは、いくつかの課題を乗り越える必要があります。それらの課題の多くは、エッジコンピューティングが多種多様なデバイスやシステムが連携する分散コンピューティング・モデルであることに起因しています。

 
▶分散した大量のデバイスをいかに効率的に管理するか?

これまでの企業コンピューティングでは、データセンターやクラウドで一括してデータ処理を行うことで、リソースや管理を集約して最適化やコスト削減を図ってきました。それに対して、エッジコンピューティングではリモートのさまざまな場所にコンピューティング資源が分散します。これを運用管理の視点から見ると、対象とする環境が複雑化し、管理が煩雑化することを意味します。

例えば、エッジコンピューティングを活用してイノベーションを実現するためには、デバイスの新機能を実現するアプリケーションを次々にリリースしたり、機能を拡張したりすることが求められます。また、近年はエッジ側でAIを稼働させ、現場で画像認識など高度な分析処理を行うケースも増えてきました。つまり、アプリケーションのみならず、AIモデルの管理も必要です。これをさまざまな拠点に分散するデバイスに対して、いかに効率的に行うかが重要な課題となるでしょう。

 
▶セキュリティーをどう確保するか?

また、コンプライアンスやセキュリティーなどの理由から外部に持ち出せないデータを現場で処理する場合でも、当然ながら一定のセキュリティーを確保する必要があります。それをどう実現するかも考えなければいけません。

 
多くの企業が参加できる仕組みをどう作るか?

さらに、エッジコンピューティングを業界を超えたエコシステムのプラットフォームとして推進する場合、さまざまな企業が参加しやすい仕組みであることが求められます。ベンダー固有の技術に強く依存した仕組みを採用した場合、「スムーズな連携が難しい」「多くのコストがかかる」「特定のベンダーにロックインされてしまった…」などの理由から目標達成の妨げとなってしまう恐れすらあります。

そのほか、エッジコンピューティングの技術を導入する際の学習コストも無視できないポイントです。

 

オープンな技術で膨大なエッジデバイスの自律的な管理を実現する「IBM Edge Application Manager」

これらの課題を克服し、大規模なエッジコンピューティング環境の効率的な管理を実現するソリューションが「IBM Edge Application Manager」です。

Edge Application Managerは、さまざまな拠点に分散した多種多様なエッジデバイスやエッジゲートウェイサーバー上のアプリケーション/AIモデルの配信や更新をはじめ、エッジコンピューティング環境の自律的かつ一元的な管理を可能にします。Edge Application Managerを使うことにより、デバイスの種類や数が大きく変動するようなエッジコンピューティング環境で生じる運用管理の課題を解決することができます。

エッジアプリ管理:IBM Edge Application Manager

上図にも示したように、Edge Application Managerは大きく次の4つの特徴を備えています。

  • 自律的な管理を実現
  • 業界標準のオープン技術がベース
  • 膨大なデバイスの管理に対応する高いスケーラビリティー
  • エッジ環境のセキュリティーを確保

以下、それぞれの特徴について説明します。

 

多種多様かつ大量なエッジデバイスの自律的な管理を実現

Edge Application Managerの最大の特徴は、大規模なエッジコンピューティング環境の自律的な管理が行えることです。多種多様なデバイスを個別に管理するのではなく、独自のポリシー機能を使って各デバイスを識別し、必要なアプリケーションやAIモデルを配信します。具体的には、「どのアプリケーションを、どういった条件のデバイスに配布するか」を管理サーバーで設定すると、その内容に基づき、いつ、どこにアプリケーション/AIモデルを配布するのかを自律的に判断して実行します。

Edge Application Managerの活用イメージを、小売業の店舗を例にご説明しましょう。

IBM Edge Application Managerユースケース

上図のケースでは、Edge Application Managerの管理サーバーがクラウド上にあり(図下部の左側)、右側の小売店舗内の防犯カメラやPOS端末を管理しています。この場合、それぞれのデバイスに対して種類や機種、設置場所などのプロパティーを設定し、管理サーバー側では各デバイスに配信するアプリケーション/AIモデルとプロパティーの関連付けを行っておくと、後はプロパティーの値がマッチするデバイスをEdge Application Managerが自律的に判断し、アプリケーションやAIモデルの配信を自動的に行います(1つ1つのデバイスを指定して個別に配信することも可能です)。

この環境に新たなデバイスが追加(接続)された場合も、デバイス側でプロパティー設定を行っておけば、Edge Application Managerが自動的に認識して必要なアプリケーションやAIモデルを配信します。また、アプリケーション/AIモデルが更新された場合も、それに関連付けられたデバイスに自動配信されます。

さらに、Edge Application ManagerにはWebブラウザー・ベースの管理画面が用意されており、この画面から各デバイスがポリシー定義のとおりに動作しているかを確認できます。各デバイスから管理サーバーに一定の間隔でポーリングが行われ、停止したり、ネットワークから切断されたりしたデバイスなどがあれば、管理サーバーの管理画面でエラーを確認することができます。

 
コンテナなど業界標準のオープン技術がベース

2つ目の特徴はオープンであることです。Edge Application Managerでは、アプリケーションのパッケージングや配信、管理に、DockerやKubernetesといったオープンなコンテナ技術を利用します。今日、コンテナ技術はオンプレミスやクラウドのアプリケーション開発で多くの企業に活用されています。それと同じ技術でエッジアプリケーションを開発し、デバイス上のDockerやKubernetesのクラスター環境に配信できるのです。

IBMのエッジコンピューティング戦略 -エンタープライズITをエッジまで

なお、Edge Application Managerは各国の主要なITベンダーが参加して開発が進められているLinux Foundationのエッジコンピューティング関連技術の標準化組織LF Edgeの「Open Horizon」プロジェクトをベースにしています。前述のように、エッジコンピューティングではデバイスやサービスなどの連携を通じて、さまざまな企業によるビジネスエコシステムが形成されます。これをスムーズに推進するうえで、多くの企業が受け入れやすいオープンな標準技術をベースにすることは極めて重要です。

 
▶1万超のデバイス管理も可能なスケーラビリティー

高いスケーラビリティーを備えていることも、Edge Application Managerの大きな特徴です。エッジコンピューティングでは、従来の企業コンピューティングとは異なり、多種多様かつ膨大なデバイスが管理対象となります。しかも、対象のデバイスや拠点は日々、ダイナミックに増減します。そうした複雑かつ変化の激しい分散コンピューティング環境をポリシーベースで自律的にコントロールすることにより、1万を超えるデバイスから成る大規模なエッジ環境でも容易に管理していくことができます。

 
エッジ環境に対するセキュリティーを確保

Edge Application Managerでは、エッジコンピューティング環境のセキュリティーも確保されます。例えば、管理サーバー/エッジデバイス間の通信は暗号化されており、エッジ環境でやり取りされるデータは保護されます。

また、管理サーバーやエッジデバイスが不正侵害を受けた場合でも、これらを構成する各コンポーネントは権限の範囲や役割の影響が細かく制限されており、侵害の影響を最小限に抑えられます。

さらに、何らかの理由で管理サーバーが停止したり、管理サーバーとデバイス間の通信が途絶えたりした場合でも、各デバイス上のアプリケーションは停止することなく動作し続けます。

以上、多くのお客様がエッジコンピューティングに本格的に取り組む際に直面する課題と、その課題をIBMならではのアプローチで克服するソリューションとしてEdge Application Managerをご紹介しました。業務アプリケーション開発の世界で普及したコンテナをベースとするアプリケーション管理なら、エッジコンピューティングに初めて取り組むお客様もスムーズに導入いただけるはずです。運用管理の負担を抑えながら成果を得たいという方は、ぜひ私たちにご相談ください。
 

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