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INDETAILによる調剤薬局のデッドストックに対するブロックチェーンを利用した課題解決のための検証

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日本アイ・ビー・エム株式会社 紫関 昭光

解説:日本アイ・ビー・エム株式会社 紫関 昭光
クラウド事業本部 ブロックチェーン・リーダー

多品種少量の在庫管理は流通業界での永年の課題ですが、本記事では調剤薬局の医薬品のデッドストック問題をブロックチェーンによって解決する実証実験について述べられています。ブロックチェーン・プラットフォームとしては Hypereledger Fabric V1.0 を選択し、調剤薬局間での薬品の売買、着荷確認、仮想通貨での決済、取引の監査という普遍性のある流れをモデリングしてチェーンコードで実装すると共に、トランザクション処理のパフォーマンス測定やPeerの停止、追加時の動作確認、開発環境、ツールについての考察がされています。ブログでは概要をご紹介いただきましたが、50ページにわたる詳細な報告書へのリンクも張られているので、興味のある方はそちらも参照されることをお薦めします。ブロックチェーンのアプリケーション開発には Hyperledger Composer という優れたツールがあるので、今後はそちらも利用して色々なユースケースに取り組まれると良いと思います。

 

 


取り組み背景

北海道札幌市に本社を構えるローカルITベンチャーのINDETAILでは、先進技術としてブロックチェーンに注目し、学習と検証を進めています。
また、北海道をブロックチェーンという革新的技術の集積による先進地域とし道内経済の活性化を目指すプロジェクト『ブロックチェーン北海道イノベーションプログラム(BHIP)』を運営し、道内のIT企業や地元金融機関、札幌市や北海道などの公的機関と連携、パートナーシップを結んだ協力体制を築き、北海道へのブロックチェーン普及にも力を入れています。
ただ、机上の学習では得られるものにも限りがあるので、社会的な課題をブロックチェーンの活用によって解決することで実用性の高い知見を得ると共に社会貢献に繋げられないだろうか、と模索していました。
そんな中、BHIPの活動を通して「医薬品のデッドストック」という課題を知り、この解決をテーマとしてPoCを行うこととなりました。

 

事例紹介

・調剤薬局の市場環境

国内人口の高齢化による影響で、調剤薬局の市場は拡大傾向にあります。しかし、特定のチェーンによる寡占は進んでおらず、市場に占める店舗数の約85%が中小企業による経営です。
調剤薬局では法律上の定めにより、一定量の医療用医薬品の在庫を確保し顧客サービスに滞りがないよう努めなくてはなりませんが、ジェネリック医薬品の普及により調剤薬局で取り扱う薬の種類が増えていることから、昨今では多くの店舗においてデッドストック医薬品が発生しやすい状況となっております。それらは使用期限を迎えてしまうと廃棄するしかないため、デッドストック医薬品は調剤薬局の大きな経営課題となっています。
そのような背景をふまえ、2016年12月に経済産業省からの発表で、薬局間の医療用医薬品の売買に係る、医薬品医療機器法の適用範囲がより明確となりました。これにより、調剤薬局間での医薬品の買取・譲渡を行いやすくなりました。
しかし、医薬品という性質上「取引先」や「利用システム」への信頼性が強く求められます。また、「手頃な料金で安心・安定した取引を行いたい」というニーズもあります。

 

・検証内容

このような課題の解決に、「履歴の改ざんがされにくく、高い透明性や信頼性をインターネット上で確保できる」というブロックチェーンの特徴が活かせるのでは、と考えました。
これによって、デッドストック医薬品に関する不安を解消し、ニーズに応えるサービスを提供できる可能性を探ることをテーマとしてPoCに取り組みました。

ブロックチェーンを活用した医薬品のデッドストック販売プラットフォーム構想

(クリックして画像を拡大)

 

・アプリケーション概要

– 機能概要

今回のPoCは「Phase1」として、「仮想の薬局間でデッドストック医薬品の売買を行う」という取引を想定したシステムを構築し、検証を行いました。

 

– 構成

ブロックチェーンのプラットフォームは、性能への期待や実行環境の構築しやすさ、セキュリティ要件などから、「Hyperledger Fabric Version1.0」を選択しました。
また今回は、実行環境のポータビリティ(ローカル環境からの移行)の必要性もあり、Hyperledger FabricのDocker環境をIBM Cloud(旧Bluemix)の仮想マシン上に構築しました。
Chaincodeの実装にはGo言語を、それに合わせてWebサーバもGo言語を利用しました。フロントエンドにはReactを利用しています。

ブロックチェーンのプラットフォームイメージ図

(クリックして画像を拡大)

・取り組みのポイント

– Hyperledger Fabric v1.0 の選択

検証前はHyperledger Fabric v0.6での調査・学習をしており、検証開始にあたって本格的にv1.0を調査し利用しました。
今回の検証は、システムとしては販売管理になるので、基本的なコンセプトは一般的なECやオークションサイトと同じような仕様になります。そのため、通貨やポイントといった直接的な価値をきちんと守れるか、ということが重要となります。さらに、取引相手を選ぶ指標として、販売主の「販売履歴」も重要となってきます。
Hyperledger Fabricによって「信頼を担保する情報が改ざんされない」という堅牢なシステム構築の可能性を検証していきました。
また、上記のような販売管理システムを検証対象とするため、ファイナリティの速度を見込んでHyperledger Fabricを選択した、ということもあります。

 

– IBM Cloud IaaS の利用

今回のPoCは小規模想定であったので、IBM Cloud IaaS上のDocker環境に構築しました。
これによって、素早く検証環境を用意できるだけでなく、ローカル環境・検証環境を簡単に揃えることができたため、「リリース時に微妙な環境差分でうまくいかない」「そもそも環境構築が手間」という状態にならずに済みました。

 

– 開発スタイルについて

弊社では大小様々なプロジェクトがありますが、特に小規模であればアジャイルスタイルで開発することも多いです。
今回は、ブロックチェーンという今まで経験のない技術への取り組みであり、実際に開発を進めてみないと見えないところも多くあるだろうと想定し、メインのエンジニア3名による、アジャイルスタイルでの開発を行いました。
開発は2017年7月〜8月の二ヶ月間、検証として9月の一ヶ月間、トータル三ヶ月の期間を要しました。
アジャイルのプラクティスに則って、要件を満たすために本当に必要な機能、効果的なデータ形式、といったものを、実装・検証・改善というサイクルを回しながら進められたのは、非常に良かった点として挙げられます。
一方で、実装のやり直しもメンバーの力量次第で進捗に大きく影響を与えるなど手探りのプロジェクトであったため、期限までにどこまでできるかが読みにくいというところが大きな不安点でした。
しかし、最終的に対応の難しい機能をPhase2以降に切り分ける等の調整により、期限までに検証可能なシステムを構築することができました。

アジャイルスタイルでの開発

 

・考察と課題

今回のPoCでは検証範囲の機能を満たすには十分な成果が出ており、デッドストック医薬品の売買の実運用への可能性は十分にあることがわかりました。
ただし、今回はほぼ最小構成での確認に留まっており、より大規模で障害に強い構成にするためには、さらなる検証が必要となります。
例えば、今回はDockerで集中的に稼働させているので、その各ノードを分散する、マシンスペックを向上させる、認証局などの単一障害点となる箇所への対策等が考えられます。
また、利用者の認証について「Membership Service Provider」を利用したものが正常に動作させられず、検証を行なうことができませんでした。
「Phase2」以降では、そういった点も含めて検証を進められればと考えています。特に認証関連は、ブロックチェーン技術における重要な機能なので、確実に利用できる状態を目指したいと思います。
また、Hyperledger Fabricもそうですが、ブロックチェーンはまだ発展中の技術です。そのため、技術進化の速度も早く、特に日本語のドキュメントは十分とは言えません。
今回のPoCでは対策として、弊社の外国籍エンジニアがメインメンバーの一人として開発を行いました。彼を通して英語の技術情報が他のメンバーへスムーズに展開されるという場面も多く見られ、日本語ドキュメントが少ない中でも円滑に開発を進めることができました。

円滑に開発を進めることが可能

 

将来に向けて

・IBM Cloud

今回は仮想マシンの利用のみとなりましたが、IBM Cloudには他にも有用なサービスがあります。
「Continuous Delivery」を使ってデプロイコストを下げる、「Cloud Foundry」を使ってWebサーバ部分の開発コストを下げる、といったことは、すぐに試せそうな範囲なので、活用していきたいです。

 

・BPI IoT (Blockchain Platform for Industrial Internet of Things)

「IoT」によって収集したデータをブロックチェーンで持つことで、障害にも改ざんにも強い、信頼性の高いデータを常に利用することが可能となります。

こういった領域に踏み込むことで、さまざまな産業へブロックチェーンの活用を提案していきたいと考えています。
例えば今回のPoCの結果を製造業の分野で活用する場合、原料から製品まで一気通貫のトレーサビリティシステムとしての応用が可能です。製造工程で収集可能なさまざまな数値と組み合わせることで、不良発生時の追跡を容易にし、製品品質向上の自動化なども実現できるのではないかといったことも検討を開始しています。

 

・身近なテーマでの取り組み

また、社内では身近な問題を題材に、ブロックチェーンのPoCを継続しています。現在進めているPoCのテーマは機材管理です。
この辺りは「ブロックチェーンじゃなくても」というテーマではありますが、そういったテーマを扱うことで逆にブロックチェーンの利点・課題を明確にしていきたいと考えています。

 

株式会社INDETAILについて

株式会社INDETAILは、先進性の高い技術とノウハウを活用し、地方ならではの高いコストパフォーマンスでIT領域における戦略立案から開発や運用までトータルサポート。「ニアショア2.0」市場のリーディングカンパニーとして、お客様の課題解決と新たな価値創造を実現しています。

https://www.indetail.co.jp/

執筆:株式会社INDETAIL ブロックチェーンパート

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