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ブロックチェーンがもたらす、国際貿易の「デジタル版」文明開化

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グローバル化により、ますます活発になる国際貿易は、莫大なモノとカネが動くとともに、大量のデータが日々生成される分野だ。近年、金融以外の分野でも活用領域が広がるブロックチェーン技術を適用し、そのデータを管理・運用することで、国際貿易における大きなコスト削減と経済効果が見込まれる。
本記事では、世界に先駆けていち早く貿易のサプライ・チェーンのデジタル改革に乗り出し、新しいテクノロジーの活用にとどまらず、貿易業務に携わる人や組織の協業のあり方までにも大きな影響を及ぼす変革に成功した、デンマークに本社を置く海運会社大手マースクの事例を紹介する。

半世紀続く「紙ベース」の管理体制

世界の貿易貨物の90%を担う海運業では、おもにコンテナでモノが輸送されている。コンテナが海運業に初めて導入された1956年以降、輸送用船舶は進化してきたが、それを裏で支える事務的作業は半世紀以上たった現在も「当時のまま」だという。

海運の情報処理はいまだに紙ベースで進めるのが一般的であり、さらに関連する部門間で連携が取れていないために、情報やコミュニケーションの重複などの無駄が発生し、生産性向上の妨げになっている。貨物にかかわる陸運業者、海運貨物取扱業者、通関業者、政府、港湾事業者、船舶会社などの情報連携が十分でないことも加わり、コンテナ輸送用の文書や情報処理にかかるコストは、物理的な輸送にかかるコストの2倍以上にも及んでいる。さらに、農産物の輸送に関しては、複数の機関からの輸出承認の署名と、原産地、薬剤処理、農産物の品質、関税などについての文書によるやりとりが必要となるため、事務手続きが煩雑化し、人的ミスをはじめとした取引エラーも少なからず発生する。

こうした状況を打破するため、IBMとマースクは、ブロックチェーンによる世界貿易のサプライ・チェーン改革に連携して取り組みを開始した。

サプライ・チェーンのデジタル化で、貿易業務の透明性を向上

両社がまず開発したのは、オープンソースのブロックチェーン基盤「Hyperledger Fabric」をベースとした運輸・物流業界向けのブロックチェーン・ソリューション。

オープンソースのブロックチェーン基盤「Hyperledger Fabric」をベースとした運輸・物流業界向けのブロックチェーン・ソリューションイメージ図
今まで文書でやりとりをしていた、輸送に関するすべてのワークフローをデジタル化して処理するためのシステムだ。このシステムは、物流に関わるサプライ・チェーン・エコシステムの取引参加者が、貨物の輸送状況、コンテナの現在位置などを把握でき、税関書類の状態、受領証やその他文書データの確認およびやりとりをリアルタイムにできる。さらに、輸送の徹底した追跡や、グローバル規模でのデータ改ざん防止機能もあるため、取引参加者はネットワーク上の他のすべての当事者から同意を得ない限り、記録、記載事項の修正、変更、削除、追加などが行えない。よって、高いセキュリティー性と取引参加者へのデータの可視性を両立する。

このシステムの運用により、不正や過失の防止、輸送時間の短縮、在庫管理の最適化ができ、業務効率化とコスト削減が期待できる。
このブロックチェーン・ソリューションはIBMクラウド上で提供され、IBMとマースクは「サプライ・チェーンのプロセス全体をデジタル化することで、貨物輸送の透明性を向上させる」としている。

例えば、生産者であるケニアの農場が、出荷にあたってPCやモバイル・デバイスを使用して、すべての取引参加者が閲覧できる梱包明細書を作成することよって、それまで個々に作業を行っていた機関で輸出承認ワークフローが実行され、迅速な承認が可能となる。各機関の署名が済むと、すべての取引参加者がそれを確認でき、同時にモンバサ港にはコンテナの到着に備えて、花の検査、冷蔵コンテナの密閉状態、トラックによる集荷、税関からの承認など、輸送に必要な情報のすべてが伝達される。つまり、どの文書がいつ誰によって提出され、運ぶべき花が現在どこにいる誰の手にあり、輸送は次にどのステップに入るのか――ブロックチェーンにより、文書や物理的な物品に関するすべてのアクションが収集され、共有されるのだ。

ブロックチェーンがもたらす国際貿易の地力アップ

花や生鮮食品など傷みやすい物品の輸送業者にとって、輸送の遅延や過失はビジネスへの影響が非常に大きい。
マースクとIBMは、ブロックチェーンの導入と普及により、当事者間の透明性を確立し、貿易のコストと貿易業務の大幅な簡素化を目指し、2018年1月合弁会社を設立することを発表した。IBMクラウド上に、中立的、かつオープンなデジタルプラットフォームを提供することで、取引エラーの減少、貨物輸送時間の短縮、在庫管理の改善などの、プロセスの合理化を通したコスト削減が見込まれている。マースクは年間にして数十億ドルのコスト削減を見込み、さらにWTO(世界貿易機関)によれば、ブロックチェーンの導入と普及は国際的なサプライ・チェーン内に存在する「障壁」を削減し、世界のGDPを約5%、貿易量を約15%増やすことができると期待されている。

マースクとIBMが、すでに多くの政府機関や物流業者と連携して進行しているこのプロジェクトは、国際貿易の変革をもたらすうえで重要な試金石となり、物流業務における事故防止、業務効率化、コスト削減に責任を持つ物流マネージャーを支援し、海運業界における変革をリードする革新的な取り組みだ。

 

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