加藤 礼基
日本アイ・ビー・エム
IBMコンサルティング事業本部
公共・通信メディア公益デリバリー
プラットフォーム・コンサルティング 部長
連載「公益業界におけるプラットフォームの現状と方向性」
第7回 クラウド・サービスとオンプレミスの共存
今回はクラウド・サービスとオンプレミスの共存について解説します。前回(第6回)で一部の調査結果をお伝えしましたが、更なる調査結果を共有したいと思います。
それではまず、2022年の調査の概要を説明します。
「IBMトランスフォーメーション・インデックス」は2022年6月8日から2022年7月17日まで、12カ国(米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、インド、日本、中国、ブラジル、スペイン、シンガポール、オーストラリア)でオンライン実施した調査です。この調査では、ハイブリッドクラウド戦略について深い知識を持つ、年間売上高が5億ドル以上の企業のITとビジネスの意思決定者を対象にしました。調査に参加したのは、12ヶ国、15業種(詳細は下図参照)からの3,014人の意思決定者で、彼らは組織のクラウドとデジタル変革への投資、戦略、そして期待するビジネス成果について詳細な理解を持っています。
最初に、現在のクラウド活用状況を見てみましょう。下図は「あなたの組織では、次のどのタイプのクラウド/クラウド・サービスを利用していますか?該当するものをすべて選択してください。」という質問に対する回答を分析したものです。77%がハイブリッドクラウドを採用しています。つまり、ハイブリッドクラウドは全世界的に主流のアーキテクチャーとなっていると言えます。ハイブリッドの採用率は、大規模IT投資を行う企業でわずかに高いものの、全体的に見て統計上の違いはほぼないと言えます。各組織は、パブリッククラウド、プライベートクラウド、そしてオンプレミス・インフラストラクチャーを巧みに組み合わせ、統合されたプラットフォームを採用しています。
では、それらの企業はパブリッククラウドとプライベート・インフラストラクチャーをどの位の割合で利用しているのでしょうか?下図は「パブリッククラウドとプライベート・インフラストラクチャーをバランスよく利用することに関するあなたの組織の全体的な姿勢として、最も適切なものは次のうちどれですか? 」という質問に対する回答結果を分析したものです。プライベートクラウドとパブリッククラウドのいずれかを強く希望する企業は6分の1(15%:10%+5%)に過ぎず、ほとんどの企業がバランスの取れたアプローチをとっており、これはハイブリッドクラウドの重要性を明らかに示しています。
全体の85%がパブリッククラウドとプライベート・インフラストラクチャーを共存させるインフラストラクチャーを活用しようとしています。次にパブリッククラウドへの移行結果(導入結果)に関する調査結果を見てみましょう。下図は、以下のような質問への回答を分析・整理したものです。
【質問】特定のワークロードをパブリッククラウドから移行する動機として、最も適切なものは次のうちどれですか?該当するものをすべて選択してください。
【質問】パブリッククラウドに置きたくないワークロードは、どこでホスティングしますか?該当するものをすべて選択してください。
大多数の企業(80%)がパブリッククラウドに展開したワークロードをプライベート・インフラストラクチャーに戻すことを検討しています。多くの人にとって、パフォーマンスがパブリッククラウドから移行する動機ですが、セキュリティーとコンプライアンス、そしてベンダー戦略も大きな理由となっています。
上記の80%という数字について評価することは難しいですが、「十分な考慮をせずにパブリッククラウドに移行した結果」と解釈できます。理想的には、適切な調査を行い、パブリッククラウドが最適であると判断されたワークロードを選んで移行すべきです。しかし、アプリケーションの特性を考慮せずに移行した結果、上記のような数値が出ている可能性があります。パブリッククラウドは大きなメリットをもたらしますので、適材適所で有効に活用すべきです。パブリッククラウドのメリットとしては、リソースの即時調達や最新技術の取り込みが可能であることが挙げられます。例えば、最近利用者が増えている生成AIを活用するためには、クラウド・サービスが不可欠です。新しい技術を追跡するためには、クラウド・サービスの活用は避けられません。一方、プライベート・インフラストラクチャー(オンプレミス)は最適な機器の選択や大量バッチの管理、保守の安定性などが利点として挙げられます。以下では、それぞれのメリットを整理してみます。
パブリッククラウドのメリット
- サーバー等リソースの即時調達
- 迅速な最新技術の取り込み(生成AI等)
- 新規ビジネスの検証(一時的なリソース調達)
- パートナー企業とのエコシステム形成
- 複数データセンターを利用した大量負荷分散処理
- インフラストラクチャーやソフトウェアのマネージドサービス採用による運用負担軽減
- データセンターやネットワークなどのインフラストラクチャーの自動管理
- 利用者鍵での暗号化(BYOK)
- クラウド・プロバイダーによるセキュリティー管理(責任境界線範囲)
いっぽう、プライベート・インフラストラクチャー(オンプレミス)にも多くのメリットがあります。以下に整理します。
プライベート・インフラストラクチャー(オンプレミス)のメリット
- 物理サーバー等の選択自由度と問題検証の容易性
- 一元化大量バッチの性能制御が可能
- 保守安定性による保守コストの最小化
- 基盤の運転時間や保守時間を自社制御で実施
- データセンターやネットワークなどの自社管理(入室管理等)
- セキュリティー鍵の完全保護(KYOK)
- 機密情報を自社内に配置・管理
- 全データ耐量子暗号化等による対策を適用可
これらのメリットを比較すると、適材適所が重要だということがわかります。
下図はプラットフォームと採用技術の選択における考慮点を示したものです。
アプリケーションや取り扱うデータといった業務特性だけでなく、本番システムと開発システムの関係、災害対策システムの実装といったインフラストラクチャーの観点からも考慮する必要があります。
次回はこの適材適所のコンピューティングへのアプローチについて詳しく解説したいと思います。
連載「公益業界におけるプラットフォームの現状と方向性」
第1回 統合か共存か、2種の料金システム
第2回 旧料金システムの終活
第3回 Z世代にバトンを渡す“システム運用”
第4回 “旧料金システム”のモダナイゼーション
第5回 モダナイゼーションの壁
第6回 クラウドサービスの活用
第8回 適材適所コンピューティングへのアプローチ