デジタル変革(DX)

公益業界におけるプラットフォームの現状と方向性 第一回

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加藤 礼基
グローバル・ビジネス・サービス事業
公共・通信メディア公益デリバリー
クラウド変革 部長

連載コラム:公益業界におけるプラットフォームの現状と方向性

– 第1回:統合か共存か、2種の料金システム –

これから数回に渡って、公益業界のIT infrastructureに関する記事を執筆します。初回は料金システムの現状について整理してみます。当記事における「料金システム」は広義の料金システム、つまり顧客管理や請求回収業務を含む料金システムを示す言葉として使用しています。電力・ガス小売全面自由化の局面において、公益企業は料金システムに対して、大きく分けると以下の2つの対応を実施しました。
対応1 : 既存料金システムの改修で自由化メニュー対応を実施
対応2 : 自由化メニュー対応システムを新規(追加)構築
従来の料金システムが老朽化しているケースも多く、対応2の方法を選択した企業が比較的多かったようです。そして今、企業は「2025年の崖」克服に向けて、料金システム刷新への挑戦を実施しています。
「2025年の崖」克服に向けての対応は、小売全面自由化時の選択(上記「対応1」,「対応2」)によって大きく異なります。料金システム刷新の話に入る前に、公益業界における料金システムの特徴について整理してみましょう。

公益業界における料金システムの特徴

多くの公益企業の料金システムは30年以上稼働しており、ブラックボックス化しているシステムも存在します。30年以上稼働しているシステムにおける課題は、プログラムと運用の両方に存在しています。

運用の課題30年間の技術革新について確認してみましょう。CPUの処理能力を例に検証してみます。1994年に登場したIBMの並列トランザクション・サーバ(9672-E0x)は約10 MIPS/Coreで、最大50 MIPS/CEC(筐体)という能力でした。現在のz15というモデルは2,000 MIPS/Coreを超え、180,000 MIPS/筐体というレベルに進化しています。ネットワークやI/O装置も同様です。これらの技術革新によって、過去正しかった設計が今では、デジタル・トランスフォーメーションの足かせとなっているケースも存在します。代表的な設計について例をあげて説明してみます。

・データベースを利用しない処理によるCPU資源の節約
データベースの処理はフラット・ファイルの処理と比較するとCPU資源を多く消費します。使用量(検針値)を基に料金計算を行う処理において、データベースの利用は必須ではありません。特にRDB (Relational Database) 登場時は性能的な課題もあり、フラットファイルのまま計算処理を実施するようなシステムも多く存在しました。30年以上前のCPU処理能力, MIPS単価等を考えると、当時はITコストを抑止する方式として”フラットファイルによる料金計算方式”を採用するのも当然と言えます。但し、この方式はオンライン・リアルタイム処理要求を受けて、様々な課題に直面する事になります。

・オンライン処理時間帯とバッチ処理時間帯の分離
前述のようなフラットファイルを扱う処理が存在する場合は、データベースとフラットファイル間の変換処理が必要になります。最も単純なケースを例に考えてみます。オンライン時間帯はデータベースに対してアクセスを行い、CPU負荷が高い料金計算等の業務はフラットファイル化してバッチ処理を行うという方法です。利用者が拡大しチャネルが多様化する現在においては、処理と時間の制約が柔軟性を阻害する大きな要因になっています。

話を料金システムの刷新に戻しましょう。対応1を選択した企業は、肥大化したシステムを刷新する時期と方法を検討しています。
前述の通り、30年以上稼働しているシステムには多くの課題が存在しています。現行システムをそのまま利用するのであれば、存在する課題に対して何らかの解決策を検討する必要があります。企業内(システム内)に存在する課題以外にも、ベンダーのハードウェア・サポートの問題や、アプリケーション保守要員の問題が存在しますから、新システムを構築する案が有力な選択肢となります。

案1、案2
対応2を選択した企業は、より多くの選択肢に悩む事になります。具体的には次の2つのテーマについて検討を余儀無くされます。

<テーマ1>
2種の料金システムを統合すべきか、共存させるべきか?

<テーマ2>
旧料金システム(規制メニュー対応)を、どのレベルで維持するか?

テーマ1については、「20xx年の時点で」という前提が重要になります。
例えば、「2025年の崖」克服の為に、2025年までに統合するという選択肢はかなり困難だと言えます。多くの企業が規制撤廃の状況を睨みつつ、2025年の断面では2個を共存させるという選択肢を取ると思われます。経過措置メニューがいつまで存在するか不明確な状況において、2025年までに統合するという投資判断は難しいと思われます。

2030年だとどうでしょう?統合したいと考える企業も多いのではないでしょうか?更に5年後の2035年を前提にすると景色が大きく変わっています。経過措置メニューが(恐らくは)無くなっている前提で全体設計をする場合は、「共存したとしても、旧システムは可能な限り縮小」という絵を描くのではないでしょうか?
テーマ2は独立したものではなく、テーマ1の結果を受けて検討するものです。テーマ1で検討した料金システムのロードマップを前提に、旧料金システムにとって最適な近代化対応(モダナイゼーション)を検討する事になります。

案1,案2

少し視点を変えて、2030年に何をしなければならないか考えてみましょう。

2030年の断面では「共存」という選択肢をとった企業は、5年後の2035年における「可能な限り縮小」に向けて再検討を実施する事になります。

ここで注意しなければならないのが、10年後に検討する“人”と”2030年時点のシステムの状態”についてです。現在「2025年の崖」対策の一環として旧システム対応を検討しているメンバーが(恐らくは)旧システムの歴史や課題を認識している最後の世代となるでしょう。そして約10年先の2030年に

  • 旧システム縮小化の再検討を実施
  • 2035年まで上記のシステム対応を実施

上記の大きなシステム改修が待機している事は明らかです。

旧料金システムの近代化においては、「サービス指向(API化)」,「データ配置の最適化」,「24時間365日連続運転」等、いろいろなテーマが検討されるでしょう。これらのテーマに「2030年の再検討に向けた準備」についても検討しておく事が望ましいと言えます。

2021年の今行うべき事は、2025年の崖を超える為の旧料金システムのモダナイゼーションに加えて、2035年に旧料金システムにピリオドを打つ人の為の準備をしなければなりません。これは30年間稼働し続けている旧料金システムを保守している人たちが行うべき重要な役割と言えます。
次回は、この旧料金システムの「終活」について、もう少し整理したいと思います。

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