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Smarter Business

運用領域をプロフィットセンターへ。AIを活用したサービス「AITOS」が起こすIT運用のDX

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田端 真由美

田端 真由美
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
ハイブリッド・クラウド・サービス
技術理事

金融機関向けのシステム開発プロジェクトでITアーキテクトとして経験を積んだ後、IBM Watsonを活用したシステムの設計・開発、技術者育成に従事。現在はAutomation領域を専門とし、AIやRPAなどさまざまな先進テクノロジーを組み合わせたシステム開発・運用の高度化・自動化ソリューションの開発、コンサルティング、構築、運用までを提供する組織をリードする。

 

上野 亜紀子

上野 亜紀子
日本アイ・ビー・エム株式会社
データ・AI・オートメーション事業部
ストラテジー&ソリューション統括
部長

WebSphere製品やコンテナ・プラットフォームなどのアプリケーション基盤から、ハイブリッド・マルチクラウドおよびエッジコンピューティング環境における運用管理ソリューションまで幅広い製品群を担当。製品スペシャリスト、テクニカル・セールスとして、さまざまな業界のお客様への提案や技術支援を経て、現在はこれらの製品群の日本における戦略策定やオファリングの展開をリードしている。

DXにおけるクラウド活用の広がったことで、よりスピード感をもって、的確に企業の課題解決に応えるシステム構築が可能になってきた。それに伴い、IT運用においても、同等のスピード感や柔軟性をもったサポートが求められている。「従来の手法では物足りない」「変化に追随する必要がある」といったニーズに応えるため、IT運用にも変革の波が押し寄せてきたのだ。

このような課題を解決するのが、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)が開発・提供する、AIを活用したIT運用サービス「Automated IT Operation Service utilizing AI(AITOS)」である。システム構築とIT運用の足並みがそろってDX体験が改善されることで、IT運用はコストセンターからの脱却を図れるという。

その変革をAITOSによってどうサポートしていけるのか。日本IBM IBMコンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド・サービス 技術理事の田端真由美と、同社 データ・AI・オートメーション事業部 ストラテジー&ソリューション統括部長の上野亜紀子が語った。

DX時代とはいえ、種々の事情でIT運用の領域では変革が進んでいない

――DXにおけるクラウド活用の広がりにより、スピード感をもって、高度化した変革やシステム構築をすることが可能になってきました。一方、IT運用においては、その状況についていけないという課題があると伺っています。

田端 そうですね。コロナ禍の影響もあり、企業におけるDXはもちろん、ビジネスを取り巻く環境が加速度的に進化しています。これに迅速に対応し、システムを構築する点でクラウドは非常に有効です。製品開発や生産、営業といったライン部門においては、クラウド活用も進み、スピード感をもってより高度化した変革を進めています。

対してIT運用部門は、ライン部門に比べて限られた人材や予算でやらなければならないことが多く、どうしても足を引っ張ってしまうケースが見受けられます。また、人材や予算だけでなく、IT運用の複雑化も大きな理由として挙げられるでしょう。

クラウドは「DXに必要なリソースを柔軟かつ容易に調達できる」「自前のハードウェアのように管理する必要がない」「すぐに始められる」などの特徴をもちます。アプリケーション開発や基盤構築には効果や改善が期待できる一方で、アプリケーションの構造は複雑化し、必然的にIT運用も複雑になってしまうのです。

加えて「構造が複雑になったために監視対象が増える」「自社で管理できない工程が発生する」「外部コンテナの活用による新しいセキュリティリスクの検討」といった課題も浮上します。

さらに、クラウドはサービスプロバイダーが管理しているため、利用する企業側からすると中身がわからず、ブラックボックス化してしまいがちです。たとえば、「問題が発生した際は、何をどう調べればいいのかわからない」という悩みは珍しくありません。

――DXにおけるクラウド活用が進みつつあるとはいえ、多くの企業はすべてをクラウドに移行できるわけではないでしょう。既存のシステムも引き続き活用しながら、並行して運用していかなければなりませんよね。

田端 はい。そのためIT運用の担当者は、先に述べたような新しい課題に取組みながら、クラウドの機能や新しい手法に適応しつつ、既存の手法も継続する必要があります。負担が大きくなっているのです。

たとえば、従来のオンプレミス・システムでは、開発と運用が分離されていることが一般的でした。一方のクラウドネイティブなシステムでは、DevOps(開発担当者と運用担当者が連携する、さらには、両担当者の境目が曖昧になるような開発手法)やアジャイルといった新しい手法が広がっており、いわば相反する概念に折り合いをつけなければなりません。

これに輪をかけて、IT人材の不足があります。そもそもIT人材の不足は運用領域に限った話ではありません。ただし、IT運用よりもイノベーションに直結する投資に予算を割きたいと考える企業が多いため、運用領域における人材不足に拍車をかけています。このような厳しい環境の中で、どうしてもモチベーションが下がってしまうという現場の声を聞くこともあります。

IT運用も、AIを活用することで自動化・高度化できる

――そのようなIT運用が抱えている課題に対して、日本IBMはどのような支援ができるのでしょうか。

上野 日本IBMが、IT運用の変革で力を入れているのはAIの活用です。AIによる自動化技術は、さまざまな領域で活用されるようになっており、IT運用の領域においても同様です。

これまでは人手による運用がメインだった作業を自動化することはもちろん、新しいテクノロジーを効果的に導入するために、運用領域のプラットフォーム化なども考えられます。もたらされるメリットには、自動化による作業負荷の軽減、社員の経験やスキルに頼るような属人性の排除などがあるでしょう。さらに、AIは人には不可能なことも実現するため、IT運用自体がインテリジェント化していきます。

このような、IT運用にAIや機械学習を活用する概念が「AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations/エーアイオプス)」です。IBMでは、AIOpsに基づいてシステム運用を支える製品として、「IBM Instana Observability(以下、Instana)」「IBM Turbonomic Application Resource Management(以下、Turbonomic)」「IBM Cloud Pak for Watson AIOps」などを備えています。

さらに今回、これらの製品と運用サービスを組み合わせた「AITOS」も用意しました。Instana、Turbonomic、IBM Cloud Pak for Watson AIOpsは製品単体でも効果は得られますが、各企業の環境やニーズに合わせて必要な技術を組み合わせ、一連のサービスとして利用できるのがAITOSの魅力です。

――AITOSを構成する製品でもあるInstana、Turbonomic、IBM Cloud Pak for Watson AIOpsについて教えてください。

上野 Instanaは、「APM(アプリケーション・パフォーマンス・マネジメント)」製品としてアプリケーションの可観測性を実現します。自社開発の領域、外部のサービスとAPIでつなぐ領域などが組み合わさり、より複雑化した構造、かつ高度に分散化された環境で動いている今日のアプリケーションの稼働状況をリアルタイムに把握したり、アプリケーションを構成するコンポーネント同士の依存状態を自動的に可視化したりします。さらに、システムが発する性能に関するシグナルを自動解析する機能を備えているため、障害などの際には、コンポーネントのどこで問題が生じているのかを迅速に把握できます。次世代の監視基盤と言えるでしょう。

Turbonomicは、アプリケーションのリソース管理と最適化のためのツールです。クラウドやオンプレミスで動いているアプリケーションが、どのようにCPUやメモリなどのITリソースを使っているのかを、モニタリングします。さらに、収集したデータを解析してアプリケーションの性能を損なうことなくリソースを最適化するための意思決定を支援します。これまでは人が判断していたことをTurbonomicによって的確に判断できるようになり、アプリケーションの稼働だけではなく、リソース最適化によるコスト最適化も図れるでしょう。

IBM Cloud Pak for Watson AIOpsは、アプリケーションのログ、パフォーマンスに関するメトリック、ServiceNowのチケット情報などさまざまなデータを収集しAIが分析する、AIOpsのためのプラットフォームです。そこから得られた情報や洞察を運用に活かすことで、インシデント対応を自動化・迅速化したり、システムとしては稼働しているけれどユーザーから見ると異常な状態である「サイレント障害」を検知したりすることが可能になります。障害発生前に予兆を検知して障害を回避するという、高度な運用自動化を実現する製品でもあります。

日本企業のIT運用変革を製品とコンサルティングの両面からフォロー

――AITOSは、日本IBMが構築したサービスと伺いました。AITOSの概要について教えてください。

田端 AITOSでは、IBMがこれまで企業のシステム運用や「IBM Cloud」の運用を通じて構築してきたベストプラクティスとして、最新のAIOps製品を組み合わせた「IT運用のプラットフォーム」と、窓口担当・運用担当のオペレーターから成るヘルプデスク機能などの「運用サービス」を、シェアドサービスとして提供します。これにより、DXのスピード感についていける高度な運用基盤を素早く立ち上げることができます。

APMやインシデント管理など基本的な運用機能をそろえたサービスが基本ですが、「予兆検知も取り入れたい」など各企業のニーズや状況にも、もちろん対応し、順次サービス内容を拡大していく予定です。クラウド環境をこれから構築しようという企業だけでなく、たとえば、現在運用中のシステムから高度なAIOpsに挑戦したいという企業であれば、まずはAITOSを体験して、有効であれば自社内に専用環境として備えることができるでしょう。

ちなみに、AIOpsに基づくサービスはグローバルでも提供していますが、AITOSは日本企業におけるIT運用のニーズに合わせて、日本IBMが構築したサービスです。そのため、プラットフォームは可能な限りIBM Cloudの東京リージョンをベースとし、日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社 (IJDS) が提供する地域DXセンターによるサポートが利用できます。日本語でのサポート、日本の環境で動かせる安心感を求める日本企業の要望に応えるサービスとなっています。

――日本IBMだからこそ実現できる・提供できる、AITOSの特徴や効果はどこにあるのでしょうか。

上野 AITOSの中に組み込まれている要素技術は、先述した製品ベースのため、製品でもサービスでも一貫性のあるアーキテクチャーで提供可能です。たとえば、すでに運用変革に向けた可視化は済んでいる企業であれば、次のステップとしてTurbonomicを導入して最適化に取り組むことができます。さきほど田端も申しましたが、これから高度な運用に取り組みたい企業であれば、AITOSをまずは体験し、その後自社内に同じ製品ベースで専用環境として備えることもできます。逆に、自社内で製品を試してからAITOSに移ることも可能です。製品としても、サービスとしても適材適所で利用できる柔軟な選択肢があります。

IT運用の自動化・高度化への関心は、日本でも高まっています。ただし、既存の運用環境や確立された仕組みがあるため、どうやって新しいテクノロジーを取り込みながら全体の効率を上げていくのかなど、課題を抱える日本企業は少なくありません。その点においてAITOSとそれを支えるIBMのAIOPs製品群は、既存の運用環境をすべて新しいものに置き換えるのではなく、柔軟に既存環境との連携ができる親和性の高いサービスです。

当然、開発の背景には、IBMが長年培ってきた経験やノウハウ、IBM Cloudで得たクラウド運用のノウハウなどがあります。マルチクラウドやハイブリッドクラウドに対応できる製品と知見はIBMの大きな強みでもあり、お客様企業が私たちに求めていることでもあるでしょう。

田端 基本的なサービス形態はシェアードサービスで、専用人材を抱えるのが難しい企業でも簡単に導入・利用いただけます。シェアードサービスのため、コストも比較的低く抑えることが可能です。もちろん、コストがかかっても自社の専用環境で動かしたいというニーズにも応えられます。

AITOSの開発にあたっては、製品チームと私たちコンサルティングチームが、IT運用における課題と支援を、製品の詳細やユースケースなどを共有しながら、議論と試行錯誤を重ねました。自社内に製品があり、コンサルティングもできることで、企業のニーズにしっかりマッチさせることができます。それが私たちの大きな強みであり、差別化のポイントでもあるでしょう。

IT運用をコストセンターから脱却させ、ビジネスに還元できる存在へ

――AITOSをはじめ、IBMが考えるIT運用の展望についてお聞かせください。

上野 今や、企業が構築するアプリケーションは、ビジネスそのものとも言えます。障害が発生した際のインパクトは大きくなる一方です。そのため、IT運用は動いていて当たり前という考えは過去のものとなり、AIや機械学習、可観測性などのテクノロジーを積極的に活用することが前提となるでしょう。これからは事後対応だけでなく、先を見越した運用にしていく必要があるのです。

田端 その通りで、これまでのIT運用は、システムが正しく動いている・安定して動いているといったことだけを担保すればよかったのかもしれません。しかし、アプリケーションがビジネスに直結する時代となり、アプリケーションの善し悪しがダイレクトに顧客体験に影響します。そのため、IT運用においても、APMやDEM(デジタル・エクスペリエンス・マネジメント/デジタル体験全体を可視化し顧客満足度につなげること)といった顧客体験にフォーカスした管理が重要視されるはずです。

つまり、IT運用の領域をいかにビジネスに還元していくことができるのかという思考が求められているのではないでしょうか。これまで、IT運用はコストセンターと言われてきましたが、今後はプロフィットセンターになるというモチベーションをもって変革に挑むことになるでしょう。そのような展望を、私たちもぜひご支援したいと考えています。