Salesforceの活用実態 2025-2026

エージェント型AIを、コストを抑えながら本格展開するための3つの重要要素
エージェント型AIを、コストを抑えながら本格展開するための3つの重要要素

【このレポートでわかること】
 
Salesforceユーザー企業のAIエージェント活用によるROI最大化と組織変革の成功要因を解説

 

 

  • 事例
     
    • Clip社:AIバーチャルアシスタント導入により問い合わせの66%以上を自律的に解決、平均対話時間80%短縮
    • Water Corporation社:Salesforce Service Cloudの導入により申請処理を自動化・効率化し、従業員満足度を向上

 

【関連情報】 
 

 

CRMプラットフォームに組み込まれたエージェント型AI。ROI実現はリーダーにかかっている

AI革命は今もなお、変革を約束していますが、Salesforceユーザー企業の多くが今のところAI革命から得ているのは、インサイトではなくインボイス(請求書)です。多くの企業は、複雑な技術スタックと断片化したデータ・アーキテクチャーにいまだ足を取られたまま、AI投資のROIを高めよというプレッシャーの高まりに直面しています。

IBM Institute for Business Value(IBV)の新しい調査では、この理想と現実のギャップが拡大していることを浮き彫りになっています。調査対象となった1,200社以上のSalesforceユーザー企業のうち、AI施策でROI目標を達成していると回答したのは、わずか33%にとどまっています。さらに懸念すべきは、AI施策の72%は事業部門をまたいでスケールすることができておらず、20%は行き詰まったり、完全に失敗したり、放棄されたりしていることです。顧客がブランドに対して即時の有用性と精度を求める今、企業はスピードを緩めるわけにはいきません。AIをコストセンターから財務的成長のエンジンへと変貌させる方法を見つけねばなりません。

この停滞は、AIがアドバイザーからアクター(実行者)へと飛躍的進化を遂げようとする転換期に起こっています。従来のAIツールは限られたタスクの自動化や支援をするもので、常に人間の監督を要しました。しかし今、新しいタイプの自律型エージェントが出現しつつあります。このエージェント型システムは、定められた目標に向けて自立的に認識し、推論し、複雑なアクションを実行することができ、人間による監督は最小限で済みます。

わずか33%のSalesforceユーザー企業が、AI施策でROI目標を達成している

 

Salesforce社がローコードのエージェント・ビルダーを導入したことで、この先進的な機能は民主化され、経営層の間で新たな期待が高まっています。Agentforceをはじめとする具体的なエージェント・ビルダーについて尋ねたところ、調査回答者の大半がその可能性を高く評価しており、業務効率の向上(68%)、製品のイノベーションの促進(65%)、ビジネス成果の推進(61%)を見込んでいることが分かりました。

しかし、ここには落とし穴があります。エージェント・ビルダーがSalesforceやその他のプラットフォームにバンドルされていても、ビジネス価値が保証されるわけではありません。クラウド、プラットフォーム、部門、ワークフローをまたぐ、信頼できる唯一の情報源(shared source of truth)がなければ、エージェントは個々のタスクしか処理できず、企業全体に価値をもたらせません。IBVの調査によると、エージェント型AIで成果を上げるには、機能を有効化したり、エージェントを構築したりするだけでは不十分です。AI、プラットフォーム、人材がどのように連携し、あらゆる瞬間、あらゆるチャネルで顧客に価値提供するかということを、新たに思い描く必要があります。

 

視点

エージェント型AIの展望

 

分析の結果、AIエージェントの全社展開に成功しやすい企業の共通点が判明しました。これらの企業は、コストが予測不能な中でもAIのROIを最適化し、厳格なガバナンスに重点を置き、Salesforceの枠を超えてデータ資産を活用しています。こうしたリーダー企業は、60%の効率向上、57%のより効果的な顧客インサイト、そして2倍以上のパイプライン拡大を報告しています。また、AI投資においては、他社よりも高い頻度で期待どおりのROIを達成し、ビジネス全体へ拡張を実現しています。

本レポートでは、これらの先駆的な企業に倣って、AIの可能性と成果のギャップをどう埋めるかについて説明します。第1部では、財務面の最適化に焦点を当て、戦略的なAI展開によってどのようにROIを高め、コストの予測不能性に対処するかを示します。第2部では、AIの自律性の高まりに合わせてガバナンス・モデルを進化させ、信頼の構築と迅速なスケール拡大を可能にするガードレール(安全対策)を組み込むことの重要性を取り上げます。第3部では、Salesforceと他のシステムとの相互運用性に注目し、全社的なデータ・ソースがいかに大きな価値をもたらし得るかを紹介します。そして最後に、エージェント型AIの可能性から目に見える成果を引き出すために企業が今すぐ実行できる、具体的なアクション・ガイドを提示します。

 

Pillar 1:
予測不能性を見極め、ROIを最大化する

 

エージェントには成果目標を。目標なきものは不要

AIブームの波に乗ったものの、経営層の手元には頭の痛い請求書が届く状況となっています。AI支出は急速に増加しているが、企業の主要機能は、連携が不十分なクラウドやツールがばらばらに広がるエコシステムに直面しています。その結果、本来なら成長の原動力となるはずのAIが、逆に財務の泥沼へと変わってしまっています。

さらに、消費量ベースのAI課金モデルに移行していることも、プレッシャーを高めています。64%のSalesforceユーザー企業が、総所有コストが不明瞭なため、AIエージェントが本当に経費節減につながるのか、それともひそかに予算を膨らませているのかを判断するのが難しいと感じています。また、62%のSalesforceユーザー企業が、AI関連コストの予測不能性に懸念を示しています。

そして、この課題は単なる価格の問題にとどまりません。導入スケジュール、メンテナンス・コスト、継続的な再トレーニング、プラットフォームの更新、そして見落とされがちな従業員のアップスキリングやAI導入とパフォーマンス追跡にかかるコストにまで及んでいます。これらすべてが積み重なって、AIが長期的に及ぼす真の財務的インパクトを測定、管理できない状況に陥っています。

64%のSalesforceユーザー企業が、総所有コストが不明瞭なため、AIエージェントが本当に経費節減につながるのか、判断するのが難しいと感じている

 

AIコストの不確実性と戦う方法

先見性のある企業は、AIエージェントへの投資を人材への投資と同じように厳格に管理することで、財務面やオペレーション面の不確実性に対処しています。単にコスト節減効果や収益の予測に頼って決定を下すのではなく、リスクを考慮したROIフレームワークを用いて、包括的な財務リターンに加え企業へのより広い影響も含めて評価することで、複雑な状況下でも明瞭性を生み出しています。 

 

AIが価値を発揮している領域

現在、AIが売り上げと利益の両方に直接的な影響を及ぼすことができる領域への投資が増えていると報告しています。具体的には、顧客セルフサービス(70%)が第1位で、僅差の2位は電子商取引(65%)です。これと並行してバックオフィスのオペレーションへの投資も増加しており、64%がマーケティングの自動化、61%がITプラットフォームとサービス管理、57%がセキュリティーとコンプライアンス監視への投資が増えたとしています。 

 

AIはフロントオフィスでの実験にとどまることなく、企業全体の在り方を変えようとしている 

AIが理由で投資がある程度、または大幅に増えたという回答者の割合

 

Pillar 2:
ガバナンスを競争力の源泉に

 

人がいてもいなくても、意思決定は動き続ける

AIシステムは、顧客やオペレーションに影響を及ぼす意思決定をますます自律的に下すようになっています。オペレーションの完全性とブランドの信頼が問われる中で、意思決定のなされ方やセキュリティー、リスク管理は、コンプライアンス上のチェック項目にとどまらなくなっています。

しかし、ガバナンス・フレームワークの整備は、テクノロジーの進化に追い付いていない。4分の3近くのSalesforceユーザー企業が、デジタル労働力の拡大によってリスク管理の必要性が高まっていると報告しており、リスク管理はエージェント型AI施策における第2位の重要な成功要因とされています。にもかかわらず、21%の企業しか十分なガバナンスが整っていると強く同意せず、AI関連ツールや施策を評価する際にリスクを最重要事項と見なしている企業は9%にとどまっています。

ガバナンスの課題は、人材管理にも及んでいます。リーダーの3分の2が、エージェント型AIによってチームや部門の構成が変わると予想しており、経営層の73%が、AIによって従業員がより高付加価値な業務に専念できるようになると見込んでいます。しかし、経営層は必要なガードレールがないまま、人間とAIがコラボレーションする新しい時代に突入しようとしています。わずか30%の経営層が、実際の人間とAIのコラボレーションに関する明確なガイドラインを、エージェント型AI施策の重要な成功要因と見なしています。また、半数以上(56%)が、AI利用に関する包括的な従業員向けガイダンスをまだ策定できていません。これが、慎重な楽観論が高まる中でも、AIを活用して顧客体験と従業員体験を変革することへの経営層の自信が、昨年と同水準の16%から変化しない一因となっています。

 

経営層の認識は、自社のAI活用能力について懸念から慎重な楽観論へと移行しつつあるが、揺るぎない自信を持つには至っていない。

顧客体験と従業員体験を変革するためにAIワークフローを用いることに関する経営層の見解

 

Pillar 3:
Salesforceの枠を超え、AIエージェントに360度の顧客視点を

 

エージェントを動かす前に、データを動かせ

AIエージェントの作成はローコードで行えるため、チームはすぐにでも作り始めたくなるかもしれません。しかし、そこから始めるのは危険です。まず優先すべきはデータです。顧客ロイヤルティーを巡る競争の最前線において最も重要な価値の原動力となるのはデータであり、その重みは計り知れません。Salesforceユーザー企業を対象とした当社の調査では、顧客体験(66%)、製品とサービスのイノベーション(60%)、AI導入(57%)が、今後2年間の優先事項の上位を占めています。また現在、経営層の69%が、AIはプラットフォームをまたいで相互運用できるようにしないと、ビジネスに大きなインパクトを与えられないとしています。

経営層の69%が、AIはプラットフォームをまたいで相互運用できるようにしないと、ビジネスに大きなインパクトを与えられないとしている

 

断片化したデータがAI活用の根強い障壁となっている理由

理解が広がっても、それが必ずしも結果につながるとは限りません。AI投資が増加しているにもかかわらず、74%のSalesforceユーザー企業が、依然として顧客体験やエンゲージメントの改善に苦戦しています。これはなぜでしょうか。それは、顧客が求める精度や予測、保護に対する新基準を満たすには、適切なテクノロジー基盤が不可欠であり、それが多くの企業にとって今も課題となっているからです。最大の障壁について尋ねたところ、Salesforceユーザー企業は、レガシー・システムのモダナイゼーション(64%)を第1位の問題として挙げています。特にエージェント型AIについては、データの可用性と品質の低さ(53%)が最大の障壁となっています。

 

データのサイロを解き放つ統合テクノロジー

幸いなことに、既存システムが保持するデータを活用するために、すべてを一から再構築する必要はありません。ゼロコピー・データ統合やデータ・ファブリックといった最新の統合技術を用いれば、データ移動のコストや混乱、リスクを伴わずに、複雑なバックオフィス・システムやメインフレームから貴重なデータを引き出すことができます。

 

アクション・ガイド
可能性を成果へと変える

 

01 ROIを事後評価ではなく、前提条件とする

02 リスク管理を、チェック項目から成長のイネーブラーへと格上げする

03 どんなデータも取りこぼさない

 

トップクラスのSalesforceユーザー企業は、どのようにして価値を最大化しているのでしょうか。

1,200名を超える経営層から得られた洞察をまとめた「Salesforceの活用実態 2025-2026」完全版レポートをダウンロードしてご覧ください。


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著者について

富高 恵津子(日本版監修), パートナー Salesforce Practice Japan責任者,Business Applications,IBMコンサルティング

発行日 2025年11月20日