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製造業が取組むべき“顧客との関係強化”ーー差別化の鍵はアフターサービスにあり

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三枝氏 プロフィール写真

三枝 顕一郎氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
製造・流通サービス
マネージングコンサルタント

システムエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、コンサルタントとして製造業を中心にシステム統合、システム刷新、AI技術を活用した全社デジタル化プロジェクトを構想策定から構築まで多数実施。
現在は製造業・流通業向けに、SalesforceをはじめとしたSaaS活用のソリューションの構想・実現化に取り組む。

2020年以降の世界の変化により、あらゆる業界や分野でデジタル化の取組みが加速した。その結果、現在はBCP(事業継続計画)態勢の再整備などの短期的な取組みは一巡し、これからは中長期的な取組みが求められている。

日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)は今後のビジネスにおいて事業と業務を横断するデータの利活用が不可欠であり、それを実現するための中長期施策の一つとして「コア顧客との関係強化」があるとしている。今回フォーカスする製造業では、アフターサービスやメンテナンスといった領域のデジタル化に差別化のチャンスがあるという。

日本IBMのグローバル・ビジネス・サービス事業本部 製造・流通サービス マネージングコンサルタント 三枝 顕一郎氏がアフターサービスのデジタル化を中心に、次世代の製造業サービス業務を解説する。

短期から中長期の取組み段階に入ったビジネス変革

三枝氏 モニター越し

——2020年の世界の変化の中で、多くの領域で変革が進み、製造業においては特に自動化の面でこれまで以上に変革の機運が高まっているように感じます。あらためて、製造業のデジタル化の現状をどう見ているのでしょうか。

三枝 日本IBMでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)に対して、ご提案できる取組みを短期と中長期の大きく2つに分けて提示してきました。(※1)

(※1)日本IBMが提唱する「“人の移動が制限される”ことを前提とした業務変革」について、詳細はこちらをご覧ください。

製造業の企業様も、事業継続に関わる短期的な施策についてはすでに実行され、効果を感じられているというところも多いのではないでしょうか。

そうした取組みの延長として、多くの企業がマーケティング・営業、販売、生産、サービス、保守、製品開発など、それぞれの領域でデジタル化の取組みを進めている段階だと思います。たとえば、マーケティングにおけるMA(マーケティング・オートメーション)を導入や、営業活動のインサイド・セールスへのシフト、サービスではコールセンターの在宅化などです。日本IBMも問い合わせを多くいただき、支援を行っています。

現在は、このような短期的な施策が一巡し、中長期的な施策に移る段階に入ったと認識しています。ここでの大きなポイントが、事業と業務領域をまたいだデータの利活用です。さまざまな部門の人が同じデータにアクセスできる、データでつながる世界です。

今後は事業横断、業務横断のデータ利活用が重要な取組みになってくると予想します。この流れは、「ニューノーマル」や「アフターコロナ」という特殊な状況ではなく、以前からあった流れが、2020年以降の世界の変化によって加速しているという状況です。

——中⻑期的施策としてどのような取組みが考えられるのでしょうか。それにより得られる成果はどのようなものになるのでしょうか。

三枝 今後のビジネスにおいては、短期的・中長期的な取組みを組み合わせることで、「コア顧客との関係強化」「省人化の加速」「コスト削減」「リスク態勢強化」という4つの目標を実現することが必要だと考えています。

そして現在の中長期的施策へシフトする段階で重要なのが、「コア顧客との関係強化」です。人の移動が制限される状況で景気が不安定になってくると、新たなビジネス開拓は難しくなります。すでにお付き合いのある顧客の中で、どのようなサービスを提供するのかが重要になります。

顧客との関係強化実現のポイントとして、「“らしさ”の追求」「顧客中心の製品・業務設計」「顧客の声・フィードバック」の3つの要素が挙げられます。この3つの要素のうち、「顧客中心の製品・業務設計」「顧客の声・フィードバック」の2要素は、顧客の声を汲み取り、それを製品設計や開発に活かすこととして多くの企業がその重要性を理解していると思います。

残る「“らしさ”の追求」とは、一言でいうと“ブランディング”です。その企業らしさを打ち出し、それを顧客に届けて共感してもらうことで購入につなげるーーこの循環を回すことです。

これらの要素をうまく循環させてコア顧客との関係を強化するためには、顧客の情報を中心に置く必要があります。それぞれの要素が一元管理された顧客情報を活用することがポイントになるでしょう。

そこでの基盤として、日本IBMではSalesforceをプラットフォームに位置づけています。SalesforceはCRMで有名ですが、それに付随する機能と合わせて使用することで実現できます。

手薄だからこそ差別化の要となるアフターサービスのデジタル化

——顧客の情報はさまざまな場面で扱うことが考えられますが、コア顧客との関係強化という点で、日本IBMはアフターサービスに着目すべきと提案されています。その理由や背景について教えてください。

三枝 顧客情報の活用先というと、販売、製造、開発・設計などがまず挙がりますが、もちろん研究開発、アフターサービスなどの領域も対象です。つまりバリューチェーンのあらゆる領域で顧客の声を活かすことが求められるわけですが、中でも研究開発とアフターサービスでの活用は高付加価値化につながり、生産性向上の鍵を握ると見ています。

このアフターサービスは、まだ多くの企業においてデジタル化が進んでいない領域だと感じています。電話による応対が中心で、デジタルツールと言ってもスプレッドシートを使用した管理などで、データとして活用できる形では保管されていないケースが多く見られます。製品開発や販売と比べると投資対象にならないというのが大きな理由でしょう。だからこそ、大きな差別化が狙える領域でもあるということです。

——アフターサービスのデジタル化により、企業にはどのような変革がもたらされるのでしょうか。

三枝 アフターサービスまで一気通貫で顧客の声をつなげることで、さまざまなメリットが得られます。

まずは、サービス領域で得られた顧客情報をマーケティングや営業など、他の領域で活用できる点が挙げられます。これを進めることで、事業横断・業務横断でのデータの利活用につながります。また、サービス領域だけを見ても、そこでの顧客満足度を改善できます。  

現状、顧客との対面が困難な状況ですが、サービスや保守は顧客と直接接点を持つことができるプロセスです。貴重な機会を逃すことなく、顧客からの声を確実に蓄積し、営業やマーケティングに活用することができます。

——事業横断・業務横断でのデータの利活用を支えるためのシステムについて教えてください。

三枝 たとえば製造業の場合、基幹情報に加えて、設備や施設の情報もあります。そうした情報を掛け合わせながら循環させ、事業横断のエコシステムを作ることで、ビジネスチャンス拡大や顧客満足度向上などの効果が期待できます。

これを実現するために、先にお話したように顧客情報のプラットフォームとしてSalesforceを用いたシステムをご提案しています。このような仕組みはスクラッチ開発で構築することもできますし、日本IBMにはその技術と能力もあります。しかしながら、SalesforceをはじめとしたSaaSを活用することは有効な手段だと考えています。標準機能を活用することで典型的な業務フローや業務プロセスを実現できますので、クイックに立ち上げることができ、構築費用を抑えることができます。

プラットフォームとしてのSalesforceに加え、基幹情報や設備の情報についてはSAPやIBM Maximoなどを活用し、これらのシステムにあるデータを結びつけながら企業全体でデータを一元化していきます。

このような特徴を備えるサービス業務を支えるプラットフォームを、「サービス・ビジネス・プラットフォーム」としてご提案しています。営業・サービス、フィールドサービス、施設・設備管理、そしてアナリティクスとAIが連携するプラットフォームです。

プラットフォームの概念図

アフターサービスの中でも、現場に担当者が赴くフィールドサービスは、現場寄りの業務です。フィールドサービスは、「営業・サービス」(営業による製品やメンテナンスの販売)、「施設・設備管理」(設備や機器の実際のメンテナンス)のどちらの接点からも発生するため、ここをしっかりつなぐことが重要なポイントです。

設備デバイスなどからのIoTデータを収集・蓄積・分析することで、データ利活用のユースケースを拡張することも可能です。

テクノロジーの組み合わせパターンは、業務や事業の特性により異なります。大きくは、設備管理のみ、設備管理とサービス、サービスのみ、それぞれのケースに分けられます。

テクノロジーの組み合わせパターンを示す図

Salesforceを起点に、最適な組み合わせで実現する一気通貫のサービス体制

事例のフロー図

——アフターサービスのデジタル化の具体的な例をご紹介いただけますでしょうか。

三枝 フィールドサービスにフォーカスして、事例を紹介します。

たとえば、重工機の製造・販売、取付け、アフターサービスを提供する会社がクレームを受けて現場で作業するというシナリオを想定します。カスタマーセンター、品質管理、作業管理、現場作業と4部門で情報を共有する必要がありますが、以下の2つの課題を抱えています。

1)組織間の連携が電話やメールあるいはExcelなどのスプレッドシートに依存しており、効率が良くない
2)過去の問い合わせ情報や技術情報を有効活用できていない

こうしたケースをデジタル化で改善した場合、まずカスタマーセンターの担当者がSalesforceを使って問い合わせを受付けます。続いて品質管理担当者がIBM Maximoなどを使って現場にある設備のデータを集約して、原因の分析と対応内容を検討。ここで場合によりIBM Watsonを使って問い合わせに関連する技術情報やトラブル情報を抽出し、現状把握や対応検討の精度・効率を向上することも考えられます。

そして作業管理者がスケジューラーで作業を計画し、SAPと連携させて部品を選定した後、現場に作業員を派遣します。作業員は現場での作業後、スマートフォンからSalesforceを使って作業内容を報告し、作業管理者が報告内容を確認して対応が完了するという流れです。

Salesforceを中心としながら、部品管理のSAPと連携し、IoTではIBM Maximoを使って予知保全を行います。IBM Watsonで社内外の膨大な文書情報から示唆を得ることもできます。

また、アフターサービスで蓄積した情報は将来の営業活動において活用することが可能です。例えば、設備・機器などのモノ売りの営業、およびメンテナンス契約の営業において、多くの企業が以下の課題を抱えています。

1)過去に販売・設置・メンテした商品のメンテナンスの更新や老朽化に伴う入替の時期を把握するのに時間がかかっている
2)営業やアフターサービスを通して、他社の納入商品も含めた市況情報を入手できるものの、組織・事業を横断した情報共有に至っていない

Salesforceを共通プラットフォームとしてアフターサービスと営業をつなぐエコサイクルを構築することで、上記の課題を解決することができます。

日本IBMのSAPについての知見と、シナジー効果などについての詳細はこちらをご覧ください。

企業に留まらず、より広く「全体」を見据えテクノロジーと事業の両輪を支援

三枝氏 モニター越し

——アフターサービスを含めた製造業のデジタル化について、IBMとしてどのような点でサポートできるとお考えでしょうか。

三枝 テクノロジーと事業・業務、2つの面からご支援できると考えています。

テクノロジーでは、SalesforceとIBMは2017年に戦略的パートナーシップを結んでおり、社内にSalesforce製品の知見が蓄積されています。このパートナーシップの下で、Salesforceの最新情報や技術をいち早く得て、すぐにお客様にご提供できる体制を整えています。

また、SalesforceだけではなくSAPの知見やノウハウも豊富にあります。我々の技術であるIBM Maximo、IBM Watsonについてもそれぞれの経験と知識があり、それらを連携させることについても実績を積んできました。

このように、複数のソリューションを扱う能力があるため、お客様のニーズや課題に応じるシステムをご提案できます。ここは大きな強みです。

事業・業務については、これから企業が取組む事業および業務横断型のデータ利活用は、大きなビジョンなしには実現できません。部門だけではその部門に最適化されるだけで、複数の部門をつなぐためには、経営層との関係をしっかり作ってシステムに落とし込む必要があります。これらの作業を社内のみでやることは困難なため、外部の知識やノウハウが必要です。その外部要員としてご活用いただくことが可能です。

また、単にテクノロジーやシステムの導入にとどまらず、企業が抱える課題の洗い出しから、最適なソリューションの導出、そして変革を実現するための意識改革を含めた支援ができます。ぜひIBMを活用して、自社の次世代に向けた戦略を実現していただければと思います。

——企業の多くが変革を進める中で、さらなる価値を創造するためには、今後どのような考え方が必要になるとお考えでしょうか。

三枝 顧客情報をもとにして顧客中心のビジネスを展開するという考え方は、以前から言われている方向性です。ここは今後も進めていく分野で、アフターサービスなどでさらなる差別化を図れると思います。

同じ顧客目線でも新しい傾向として感じているのが、社会的貢献の側面です。世界的なトレンドとして、再利用や、ロスを減らすというメッセージを企業が打ち出し、そうした思想に共感した消費者がモノやサービスを購入するケースが増えています。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)という言葉がありますが、今後は環境関連の規制が厳しくなることが予想されており、BtoCかBtoBかに関係なく製造業も意識しておく必要があります。そのような社会的貢献の側面を取込むとなると、顧客起点での情報管理だけではなく、モノを軸としたつながりも組み込む必要が出てくるでしょう。つまり、顧客情報だけではなくモノづくりなどの部分での連携がさらに求められると考えます。

とはいえ、こうした取組みは単純にROIが出せるものではありません。ですが、今後企業全体としてやらなければという機運は高まっており、この部分に関してもIBMのコンサルティングが力になれると考えています。一事業のメリット・デメリットより、企業や業界単位、ひいては社会全体という大きな視点で見たときに、その取組みがどのような意味を持つのか、最終的にどのようなゴールを目指すのかということを一緒に模索しながら、今どんなシステムが必要なのかに落とし込むという支援ができるかと思います。

*本記事は2021年2月12日にオンラインで取材したものです。