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Smarter Business

金融機関のデジタル・リインベンション 生活とビジネスの中で

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岡田正雄

岡田正雄
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
戦略コンサルタント
金融インダストリー・ストラテジー・リーダー 理事
IBM Industry Academy メンバー


1986年 日本IBM入社以来、金融機関のエンジニア、セールス、プランナーおよびコンサルタントといったマルチスキルでの活動経験を持つ。特に、金融機関に関するインダストリーナレッジと最新のテクノロジーを活用した先進ソリューション企画とコンサルティングを実践している。また、大手金融機関に対して基幹系システムからチャネルシステムまで、多数の案件のリーダーとして活動している。

 

日本における金融機関が持つべきビジョン、変革へのポイントを紹介する当連載。最終回となる第3回は、第1回で紹介した変革に向けた4つのポイントの中から、後半となる「業務最適化:企業全体で紐解く」「エコシステム連携:主導的な立場を確立する」について、施策やユースケースをご紹介します。

 

業務最適化は企業全体で紐解く

製造業における第4次産業革命は、「モニタリング(見える化)」、「制御(コントロール)」、「最適化」、そして「自律化」という技術変革の実現を目指していると言われています。金融業界においてもキャッシュレス化などにより現物レスが進めば、同じような変革が求められると考えます。そしてこのような変革を推進するためには、以下に挙げる視点から企業全体で業務を紐解く必要があります。

  • APIサービスを活用したワークフロー管理による業務オペレーション

    処理サービスと業務プロセスを分離することにより、選択の可能性を持たせる仕組みです。そのために、基幹システムの制約から解放された処理サービスごとの内部APIサービスを確立し、今後の拡大が見込まれる外部APIサービスを効果的に活用するために柔軟性のある仕組みに変えていく、といった必要があるでしょう。

  • 顧客が行う処理もサービスとして定義する

    スマートフォン(アプリ)の利用が当たり前のZ世代(デジタルネイティブ世代)が成長するにつれ、従来、金融機関が行っていた処理も自然な形でセルフサービス化されるとともに、セルフチャネル化が進むこととなります。そのため、このような顧客が行う処理も外部サービスとして定義し、組み込んで考える必要があるでしょう。

  • 積極的なAI活用

    金融業界における業務の最適化においては、学習できる情報量が非常に多いことから、AI活用が積極的に進んでいます。たとえば、米国ではマネーロンダリング防止などのコンプライアンス対応に、AIを活用しています。日本ではポートフォリオの最適化など、業務判断支援としてAI活用の事例が多くなってきています。

 

エコシステム連携において主導的な立場を確立する

対面を中心とする金融機関の従来のサービスモデルが変化している現在、「Connected」、つまり顧客に金融サービスを近づけるための工夫が必要です。この領域は、大きく2つの場面が考えられます。

①顧客が金融サービスを利用したい時に提供される場面
たとえば、クレジットカードやデビットカードによる決済、API連携による口座振替など。

②顧客が取引を検討する過程であるカスタマー・ジャーニーでの場面
たとえば、住宅・自動車購入、起業・独立・開業の計画から資金の準備など。

 

しかしながら現状、この領域は非金融業から金融サービスに進出したプレイヤーが的確に推進しています。そのため金融機関が主導的な立場を確立するためには、需要を待つだけでなく、積極的に外部APIサービスを定義し、公開することで幅広いパートナーとの連携を図る必要があるのです。たとえば、欧州のある金融機関が公開しているAPIの数は十数個といったレベルですが、外部企業がこれらに接続し、検証できるようなサンドボックス(安全な仮想環境)を同時に提供しています。

さらに、金融機関は自社や同業界が持つデータを分析し、顧客ニーズに合うと想定されるサービスや機能をキュレーション、提案するだけでは今や不十分な時代です。幅広いプレイヤーや地域との「Connected」を進め、「情報銀行やこれに類似する仕組み」と認識されるような、顧客の意志に添ったサービスや機能を提供する新しいビジネスモデルの確立が必要でしょう。

 

金融機関が取り組むべきは、現場を巻き込んだ変革

これまでも金融業界では数多くのPoC(概念実証)プロジェクトが実施されてきました。しかしながら「PoC倒れ」と言われているケースもあり、主要な原因の一つとして、現場との乖離が挙げられます。デジタル技術の進化により、簡単にプロトタイプをつくることが可能になりました。そのため、現場に持ち込んでみたら、考慮が不足していたり、もともと成り立たないタイプだったり、といったことが判明し、「PoC倒れ」となるケースも生じやすくなったのです。

昨今、金融機関では「デジタル人材育成」という言葉をよく耳にしますが、これはデジタル技術に精通した“特殊部隊”をつくることではありません。現場を巻き込んだデジタル変革を起こすため、企業全体でその変革に取り組める人材を育成することです。それにはシステムなどの開発前から現場を巻き込み、アジャイル体制でプロジェクトを進めることが必要でしょう。

3回に分けて、「金融機関のデジタル・リインベンション」を推進するための4つのポイントを紹介してきました。これらがデジタル時代における金融機関のビジョンづくりの一助となれば幸いです。

photo:Getty Images