テキスト・マイニングを利用したユーザーが生成したソーシャル・メディア・コンテンツの活用例
2023年8月28日
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世界中に約50億人のユーザー(世界人口の60%以上)を抱えるソーシャル・メディア・プラットフォームは、企業にとって顧客満足度の向上、マーケティング戦略の改善、ビジネス全体の成長の加速に活用できる、膨大なデータ・ソースとなっています。ただし、この規模のデータを手動で処理した場合、法外なコストと時間を費やすことになりかねません。ソーシャル・メディアのデータを活用する最良の方法の1つは、効率的にデータを処理できるテキスト・マイニングのプログラムを実装することです。

テキスト・マイニングとは

テキスト・マイニング(テキスト・データ・マイニングとも呼ばれる)は、データサイエンスにおける高度な分野であり、自然言語処理(NLP)人工知能(AI)機械学習モデル、およびデータ・マイニングの手法を駆使して非構造化テキスト・データから関連する定性的な情報を導き出します。テキスト分析は、大規模なデータ・セットにおけるパターンの識別に焦点を当てることで一歩進んだ分析を実現し、より定量的な結果を生み出します。

ソーシャル・メディア・データにおいては、テキスト・マイニング・アルゴリズム(ひいてはテキスト分析)を活用することで、企業はソーシャル・メディア・プラットフォーム上のコメント、投稿、カスタマーレビュー、その他のテキストから言語データを抽出、分析、解釈を行い、さらにデータ・ソースを活用して製品、サービス、プロセスの改善が可能になります。

テキスト・マイニング・ツールを戦略的に利用することで、ローデータを真のビジネスにおける知見に変換することができ、企業は競争上の優位性を獲得することができる。

テキスト・マイニングの仕組み

テキスト・マイニングのワークフローに対する理解は、テキスト・マイニングが持つ可能性を最大限に引き出すうえで不可欠です。ここでは、テキスト・マイニングのプロセスについて、ステップごとに、全体の結果に対する重要性に焦点を当てながら説明します。

ステップ1. 情報の取得

テキスト・マイニングにおけるワークフローの最初のステップは情報の検索です。情報の検索においては、データサイエンティストが、さまざまな情報源(Webサイト、ソーシャル・メディア・プラットフォーム、顧客調査、オンライン・レビュー、Eメール、内部データベースなど)から関連するテキスト・データを収集する必要があります。データ収集のプロセスは、分析の目的を特定したうえで、それに合わせて調整しなければなりません。ソーシャル・メディアにおけるテキスト・マイニングの場合、コメント、投稿、広告、音声トランスクリプトなどに焦点を当てて情報を検索することを意味します。

ステップ2. データの前処理

必要なデータを収集したら、分析にかける準備としてデータを前処理します。前処理には、次のようないくつかのサブ・ステップが含まれます。

  • テキストのクリーニング:データ・セットから無関係な文字、句読点、特殊記号、数字を削除します。分析段階での一貫性を確保するために、テキストの小文字への変換も行います。このプロセスは、記号、絵文字、通常とは異なる大文字のパターンが多く含まれるソーシャル・メディアの投稿やコメントをマイニングする際には特に重要です。
  • トークン化:テキストをトークンと呼ばれる個々の単位(単語やフレーズなど)に分解します。トークン化を行うことで、後続の分析に使用する基本的な構成要素が作られます。
  • ストップワードの除去:ストップワードとは、フレーズや文の中で重要な意味を持たない一般的な単語(「the」「is」「and」など)のことです。ストップワードを削除することで、データに含まれるノイズが減り、分析段階での精度が向上します。
  • ステミングとレンマティゼーション:ステミングとレンマティゼーションを行うことで、単語を語根の形に正規化します。ステミングは接頭辞や接尾辞を取り除くことで単語を語根の形に切り詰め、レンマティゼーションは単語を辞書に掲載されている形式にマッピングします。これらの手法を活用することで、語尾などが異なる単語を統合し、冗長性を減らし、インデックス・ファイルのサイズを抑えることができます。
  • 品詞(POS)タグ付け:単語(名詞、動詞、形容詞など)に対して文法タグを割り当てることで、意味の解析を行いやすくします。POSタグ付けは意味解析とエンティティー認識を行う上で特に有用です。
  • 構文解析:文やフレーズの構造を分析することで、テキスト内のさまざまな単語の役割を決定します。たとえば、解析モデルはひとつの完全な文における主語、動詞、目的語を識別できます。

ステップ3. テキスト表現

この段階では、機械学習(ML)アルゴリズムで処理できるよう、データの数値を割り当てます。これにより、トレーニングのための入力から予測モデルが作成されます。テキスト表現の一般的な方法には次の2つがあります。

  • Bag-of-words(BoW):BoWは、テキスト文書において一意の単語の集まりとしてテキストを表現します。各単語はモジュール化され、出現頻度によって重みづけされます。BoWでは語順は考慮されず、単語の出現にのみ焦点を絞っています。
  • Term frequency-inverse document frequency(TF-IDF):TF-IDFは、データ・セット全体における出現頻度または希少性に基づいて、文書内の各単語の重要度を算出します。頻繁に出現する単語の重要度は低く評価され、より出現頻度が低く、有益な用語が強調されます。

ステップ4. データ抽出

数値を割り当てたら、1つ以上のテキストマイニング手法を構造化データに適用し、ソーシャル・メディア・データからインサイトを抽出します。一般的な手法には、次のようなものがあります。

  • センチメント分析:ソーシャル・メディア・コンテンツで表明された意見の性質(肯定的、否定的、中立的など)に基づいてデータを分類します。これは、顧客の意見やブランド認識を理解し、意見の傾向を検出するのに役立ちます。
  • トピック・モデリング:文書のコレクションに潜むテーマやトピックを発見することを目的としています。傾向の特定、重要な概念の抽出、そして顧客の関心の予測に役立ちます。トピック・モデリングの一般的なアルゴリズムには、潜在ディリクレ配分(LDA)や非負行列因数分解(NMF)などがあります。
  • 固有表現抽出(NER):テキスト内の固有表現(人名、組織、場所、日付など)を識別、分類することで、非構造化データから関連情報を抽出します。NERは情報抽出やコンテンツ分類などのタスクも自動化します。
  • テキスト分類:文書をあらかじめ定義されたクラスやカテゴリーに分類し、センチメント分類、スパムフィルタリング、トピック分類などのタスクに有用です。テキスト分類には、ナイーブベイズやサポート・ベクター・マシン(SVM)などの機械学習アルゴリズムや、畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)などのディープラーニングモデルが頻繁に使用されます。
  • アソシエーション・ルール・マイニング:ソーシャル・メディア・データ内の単語やフレーズ間の関係やパターンを発見し、一見しただけではわからない関連性を明らかにすることができます。このアプローチは、後続のプロセスにおいて、ビジネス上の意思決定を促進する可能性のある、隠れたつながりや共起パターンを特定するのに役立ちます。

ステップ5. データの分析と解釈

次のステップでは、抽出されたパターン、傾向、インサイトを調査し、意味のある結論の導出を行います。ワードクラウド、棒グラフ、ソーシャルグラフなどのデータを可視化する手法を採用することで、簡潔かつ視覚に訴える方法で調査結果を提示することができます。

ステップ6. 検証と反復

マイニングの結果が正確で信頼できるかの確認は不可欠です。そのため、最後から2番目の段階で結果の検証が必要となります。適切な評価指標を使用してテキスト・マイニング・モデルのパフォーマンスを評価し、その結果をグランド・トゥルースや専門家の見解と比較します。必要に応じて前処理、表現、モデリングのステップで調整を行い、結果を改善します。満足のいく結果が得られるまで、このプロセスを繰り返す必要があるかもしれません。

ステップ7. インサイトと意思決定

テキスト・マイニングのワークフローの最後のステップは、得られたインサイトから、事業におけるソーシャル・メディア・データとその活用を最適化するための実用的な戦略を策定することです。抽出された知見を活用することで、製品の改善、マーケティング・キャンペーン、カスタマー・サポートの強化、リスク軽減戦略などのプロセスを導くことができます。これらはすべて、既存のソーシャル・メディア・コンテンツによるものです。

ソーシャル・メディアにおけるテキスト・マイニングの応用

企業は、テキスト・マイニングによって、遍在するソーシャル・メディア・プラットフォームやコンテンツを活用した製品やサービス、業務プロセス、戦略の改善が可能になります。ソーシャル・メディアにおけるテキスト・マイニングの最も興味深い使用例として、次のようなものがあります。

  • 顧客に関するインサイトとセンチメント分析:ソーシャル・メディアから得られたデータに対してテキスト・マイニングを行うことにより、企業は顧客の嗜好、意見、感想について深い洞察を得ることが可能になります。Pythonのようなプログラミング言語とNLTKやSpaCyのようなハイテク・プラットフォーム組み合わせることで、企業はユーザーが生成したコンテンツ(投稿、コメント、製品レビューなど)を分析し、顧客が自社の製品やサービスをどのように受け止めているか理解できます。この貴重な情報により、意志決定者はマーケティング戦略の改良や、製品やサービスの改善を行うことができ、さらに、よりパーソナライズされた顧客体験の提供も実現します。
  • カスタマー・サポートの向上:テキスト分析ソフトウェア、フィードバック・システム(チャットボットなど)、ネット・プロモーター・スコア(NPS)、サポートチケット、顧客調査、ソーシャル・メディア・プロファイルなどと併用することで、企業は、顧客体験の向上に有用なデータを得ることができます。テキスト・マイニングとセンチメント分析は、企業が深刻な問題点に迅速に対処し、全体的な顧客満足度の向上に役立つフレームワークも提供します。
  • より価値のある市場調査と競合情報:ソーシャル・メディアにおけるテキスト・マイニングを活用することで、企業は、費用対効果の高い方法で市場調査を実施し、消費者行動を理解できるようになります。業界に関連するキーワード、ハッシュタグ、メンションを追跡することで、消費者の好み、意見、購入パターンに関する洞察をリアルタイムで得られるようになります。さらに、競合他社のソーシャル・メディアにおける活動をチェックし、テキスト・マイニングを使用して市場のギャップを特定することで、競争上の優位性の獲得に向けた戦略を立案できます。
  • ブランドの評判の効果的な管理:ソーシャル・メディア・プラットフォームは、顧客が一斉に意見を表明する強力なチャネルです。テキスト・マイニングを利用することで、企業はブランドへの言及や顧客からのフィードバックについて先手を打ってリアルタイムにチェックし、対応できるようになります。否定的な感想や顧客の懸念に迅速に対処することで、企業は起こりうるレピュテーション危機を軽減できます。ブランド認知を分析することで、自社の強み、弱み、改善の機会に関する洞察も得ることができます。
  • ターゲットを絞ったマーケティングとパーソナライズされたマーケティング:ソーシャル・メディアにおけるテキスト・マイニングにより、興味、行動、好みに基づきオーディエンスのきめ細かい分類が可能になります。ソーシャル・メディア・データを分析することで、企業は主要な顧客セグメントを特定し、セグメントに応じたマーケティング・キャンペーンの立案が可能になります。これにより、顧客に寄り添った魅力的なマーケティング活動が行え、コンバージョン率を効果的に高めることができます。ターゲットを絞ったアプローチは、ユーザーエクスペリエンスを最適化し、組織のROIを向上させます。
  • インフルエンサーの特定とマーケティング:テキスト・マイニングによって、特定の業界におけるインフルエンサーやソート・リーダーの特定が可能になります。エンゲージメント、センチメント、フォロワー数を分析することで、企業はコラボレーションやマーケティング・キャンペーンに関係するインフルエンサーを特定できます。これにより、企業はブランド・メッセージを広め、新しいオーディエンスにリーチし、ブランド・ロイヤルティを高め、真のつながりを築くことが可能になります。
  • 危機管理とリスク管理:テキスト・マイニングは、潜在的な危機を特定し、リスクを管理するための貴重なツールとしても機能します。ソーシャル・メディアをチェックすることで、企業は差し迫った危機の兆候を早期に発見し、顧客の苦情に対処し、有害なインシデントの拡大を防ぐことができます。このプロアクティブなアプローチにより、風評被害を最小限に抑え、消費者の信頼を築き、全社的な危機管理戦略を強化します。
  • 製品開発とイノベーション:企業は常に、顧客とのより良いコミュニケーションを通じて利益を得ています。テキスト・マイニングは顧客との直接的なコミュニケーションラインを創り出し、それによって貴重なフィードバックの収集とイノベーションの機会の発見が可能になります。顧客中心のアプローチにより、企業は既存の製品を改良し、新しい製品を開発し、進化する顧客のニーズと期待を先取りすることができます。
IBM watsonx Assistantで世論に精通

ソーシャル・メディア・プラットフォームは情報の宝庫であり、企業に対し、これまでに例のない、ユーザーが生成したコンテンツを活用する機会を提供しています。加えて、IBM watsonx Assistantなどの高度なソフトウェアにより、ソーシャル・メディア・データはこれまで以上に力を持つことになります。

IBM watsonx Assistant は、ビジネスを飛躍的に向上させることを目的として設計された、市場をリードする対話型AIプラットフォームです。ディープラーニング、機械学習、NLPモデルをベースに構築されたwatsonx Assistantは、正確な情報抽出を可能にし、文書から詳細な洞察を提供し、応答の精度を高めます。企業が顧客のニーズと認識をよりよく理解できるよう、Watsonは意図分類とエンティティ認識も実装しています。

ビッグデータの時代において、企業は常に、蓄積されたデータからインサイトを引き出せる高度なツールや手法を求めています。watsonx Assistantによりソーシャル・メディア・コンテンツから得られるテキスト・マイニングのインサイトを活用することで、ソーシャル・メディア・ユーザーが日々生み出す無限のデータ・ストリームの価値を最大化し、最終的には消費者との関係と収益の双方を改善できます。

 
著者
Chrystal R. China Writer