グリーン・データセンターとは

2024年4月2日

共同執筆者

Tasmiha Khan

Writer

Michael Goodwin

Editorial lead, Automation & ITOps

グリーン・データセンターとは

グリーン・データセンター(別名、持続可能なデータセンター)は、ITインフラストラクチャーを構築し、エネルギー効率の高いテクノロジーを使用してエネルギーの使用を最適化し、環境への影響を最小限に抑える施設です。

組織は、グリーン・データセンターを使用することで、エネルギーとリソースの効率性の向上、インフラストラクチャーのライフサイクルの延長、データセンターのコストの削減、二酸化炭素排出量の最小化を実現できます。これを実現する1つの方法は、物理機器とコンピューティング・システムから発生する熱を再利用またはリサイクルすることです。グリーン・データセンターでは、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギー源からのエネルギーもよく使用されます。全体的な目標は、エネルギーに対するインテリジェントなアプローチを採用することによって、データセンターの効率性と環境のサステナビリティーを優先することです。

データセンターのサステナビリティーは、組織のリソース使用を最適化し、長期的な実行可能性を促進する上で重要な部分です。エネルギー効率に優れた対策を採用すると、データセンター全体のエネルギー消費が削減され、組織のコスト削減につながります。

データセンターで仮想化、エネルギー効率の高いハードウェア、再生可能エネルギー源などのテクノロジーを採用することで、組織はエネルギーの使用を最適化しながら、無駄を最小限に抑え、コストを節約できます。

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グリーン・データセンターのエネルギー効率

組織は長い間、従来のデータセンターにはつきもののエネルギー消費の課題に取り組んできました。その課題は、運用コストの増大や著しい環境への悪影響につながる可能性があります1。これらの施設には通常、コンピューティング、ネットワーク、データ・ストレージ機能のために、大量の電力を消費する多数のサーバー(およびその他のIT機器)が収容されています。

エネルギー効率の測定

電力使用効率(PUE)

データセンターの効率を評価するために使用されるメトリクスの1つは、電力使用効率(PUE)です。PUE(電力使用効率)とCUE(炭素使用効率)は、エネルギー効率の向上に焦点を当てた非営利団体であるThe Green Gridが策定したメトリクスです。

PUEは、データセンターの総エネルギー消費量を、IT設備のみに使用されるエネルギー量で割ることによって算出されます。答えの数値が1に近いほど、効率が高いということになります。PUEは、現在の効率を測定し、データセンターに変更を加えたことによる効率への影響を測定するための効果的なツールです。

炭素使用効率(CUE)

炭素使用効率は、二酸化炭素排出量に関するデータセンターのサステナビリティーを評価するために使用されます。計算式は次のようになります。CUE =「データセンターの総エネルギー使用から生じるCO2排出量」÷「ITコンピューティング機器のエネルギー消費量」。

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グリーン・データセンターの構成要素

効率的なデータセンターの設計、開発、運用には、次のようなさまざまなストラテジーと要素があります。

建物の設置面積の削減

グリーン・データセンターでは、建設に必要な全体的な物理スペースを最小限に抑えるために、コンパクトで効率的な設計を優先しています。データセンターの設計に対するこのようなアプローチは、リソースを節約するだけでなく、施設の環境フットプリントの削減にも役立ちます。

グリーン・データセンターは、低排出の建材を選択し、建築プロセス自体が環境への有害物質の放出を最小限に抑えるような取り組みを選択します。グリーン・データセンターは、建設段階から運用段階に至るまで、エネルギー効率の高いインフラストラクチャー要素を取り入れています。照明システムから建設機械に至るまで、実践者はエネルギー消費を削減し、サステナビリティーを促進するために努力しています。

また、グリーン・データセンターは、リサイクル資材や廃棄物の責任ある管理に焦点を当てて、建設廃棄物を最小限に抑えるためのストラテジーも実践しています。

効率的な冷却システム

効率的な冷却システムは、データセンター内のエネルギー消費の課題に対処する上で重要な役割を果たします。従来の施設では、サーバーの冷却と過熱防止のために空調システムを利用することがよくありました。ただし、これらのシステムはエネルギーを大量に消費する可能性があり、全体的な電力使用量に大きな影響を与えます。液体冷却や精密冷却などの高度な冷却技術を導入すると、温度管理を最適化し、従来の空調のワークロードを軽減できるため、エネルギー効率を向上させることができます。

空冷では、冷気が機器の周囲に循環して熱を吸収します。空冷は、小規模なデータセンターに適している従来型のコスト効率の高い方法ですが、高密度の熱負荷への対応が困難な場合があります。

液体冷却では、液体(たいていは水)を使用して熱を伝達および放散します。液体冷却は、高密度の熱を処理する効率を高めることができ、正確な温度制御とエネルギー消費の削減を実現します。しかし、専門的なインフラストラクチャーと保守が必要です。

廃熱の利用

データセンターのサステナビリティーを高めるための革新的なアプローチの1つは、廃熱を利用してさらにエネルギーのメリットを得ることです。データセンターは、廃熱を難点と見なすのではなく、有益な目的に利用します。

1つの方法は、コージェネレーション、つまり熱電併給(CHP)です。その手法では、廃熱を捕捉してさらに電力を生成したり、他のプロセスに暖房を供給したりします。これにより、全体的なエネルギー効率が向上し、データセンター内で生成されたエネルギーの有用性が最大化されます2

 

ホット・アイルとコールド・アイル

ホット・アイルやコールド・アイルの封じ込めストラテジーは、データセンターの冷却を効率化するのにも役立ちます。これらのストラテジーには、サーバー・ラックを編成して気流を最適化し、高温の空気と低温の空気の混合を最小限に抑えることが含まれます。ホット・アイルの封じ込め環境では、サーバー・ラックが相互に向き合って、高温の排気は封じ込め通路に誘導されます。

コールド・アイルの封じ込めでは、冷気の取り入れ口が互いに向き合うようにサーバー・ラックが配置され、封じ込めのコールド・アイルが形成されます。コールド・アイルの封じ込めは、冷却効率を向上させ、冷却システムのワークロードを軽減し、より予測可能で均一な温度分布を確保するのに役立ちます。これは、データセンターの運用における総合的な省エネに貢献します3

仮想化

仮想化によって、1台の物理サーバー上で複数のVirtual Serversを実行できるため、ワークロードが統合され、リソースの使用率が向上します。仮想化により、既存のハードウェアを最大限に活用することで、必要な物理サーバーの数が削減され、エネルギー消費が削減され、データセンター・インフラストラクチャーの効率が向上します。

責任あるコンピューティング

グリーン・データセンターは、責任あるコンピューティング、つまりワークロードとリソース使用の最適化を重視しています。こうした点を重視することは、無駄なスペースを削減または排除するのに役立ち、組織はインフラストラクチャー・リソースをよりエネルギー効率よく利用できるようになります。

再生可能エネルギー源

データセンターの電力供給に再生可能エネルギー源を統合することは、サステナビリティーの目標を達成し、これらの施設の環境への影響を軽減するための重要なステップです。燃焼時に温室効果ガスを排出する化石燃料などの従来の電源から、太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギー源に移行することで、データセンターは非再生可能エネルギーへの依存を減らすことができます。

この移行は、気候変動と闘うためのより広範な取り組みに沿ったものであり、よりクリーンでサステナブルなエネルギー・ミックスを促進します。二酸化炭素排出量の削減と最小化は、よりサステナブルなデータセンター運営を追求するための基本的な目標です。

再利用とリサイクル

サステナブルなデータセンターは、環境に優しい取り組みの一環として、IT機器の再利用と最適化を重視しています。これらのデータセンターは、ハードウェアの廃棄や交換の代わりに、アップグレード、改修、効率的な保守を通じてIT機器の寿命を延ばします。

サステナブルなデータセンターは、責任あるリサイクルの実践に重点を置いています4。ハードウェアが運用寿命に達した場合、責任あるリサイクルにより、危険物の適切な廃棄と、リサイクルの取り組みに応じた再利用可能なコンポーネントの回収ができます。

データセンター・インフラストラクチャー管理(DCIM)

データセンター・インフラストラクチャー管理には、このような多くの取り組みが含まれています。DCIMは、配電、冷却システム、IT資産など、データセンター・インフラストラクチャーのさまざまな側面を監視および管理するための一元管理されたプラットフォームを提供します。

DCIMツールは、データセンター内のエネルギー使用量を継続的に追跡および分析することで電力消費量を監視します。高度な監視ツールを採用することで、データセンターのオペレーターは、サーバー、冷却システム、照明など、さまざまなコンポーネントにわたる電力の分布と使用状況に関する洞察を得ることができます。このリアルタイムの可視化により、非効率性をプロアクティブに特定し、最適化ストラテジーを実施することができます。

グリーン・データセンターの認定および協会

認定は、データセンター内のサステナブルな取り組みを認識し、促進する上で極めて重要な役割を果たします。主な認定と団体には、以下のようなものがあります。

LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)

LEEDは、環境に配慮した建物と運用実践の取り組みに焦点を当てた認定です。LEED認定を取得するには、エネルギー効率、水の使用量、材料の選択、および総合的な環境への影響に関する特定の基準を満たす必要があります。

Energy Star

Energy Starは、エネルギー効率を促進するために、米国環境保護庁(EPA)と米国エネルギー省(DOE)によって設立されたプログラムです。そのラベルが貼付されている商品は、これらの省庁が設定したエネルギー効率基準を満たしているか、それを上回っています。エネルギー消費を大幅に削減しながら、機能と品質を維持することに重点を置いています。

The Green Grid

The Green Gridは、データセンターとビジネス・コンピューティング環境におけるエネルギー効率の向上に注力している非営利団体です。2007年に設立されたThe Green Gridは、IT専門家、ベンダー、エンド・ユーザーを含む業界の専門家を集めて、データセンター運営の環境への影響に共同で取り組んでいます。この組織は、データセンター業界全体でサステナブルな取り組みを促進し、エネルギー効率を向上させるためのリソース、ガイドライン、基準を提供しています。

クラウド・コンピューティングとグリーン・データセンター

クラウド・コンピューティングでは、複数のユーザーが同じ物理サーバーやアプリケーションを共有できるため、エネルギー消費を削減できる可能性があります。ただし、クラウド・コンピューティングのプラスの影響は保証されたものではありません。それはいくつかの要因に依存しています。

プラス面としては、クラウド・コンピューティングのおかげで、クラウド・サービス・プロバイダーが運営する一元管理されたデータセンターでのコンピューティング・リソースの統合が可能になります。この統合により、リソースの使用効率が向上し、個々の企業がオンプレミスで独自のサーバーを実行することによる全体的なエネルギー消費は削減されることになります。

クラウド・プロバイダーは、ワークロードを最適化し、リソースを動的に割り当て、エネルギー効率の高いテクノロジーを実装できるため、より大規模なエネルギー節約に貢献します。エネルギー効率の高いハードウェアと冷却テクノロジーは、この改善の規模を決定する上で大きな役割を果たします。

マイナス面としては、クラウド・コンピューティングの台頭によって、データセンターが世界的に拡大し、大幅なエネルギー消費につながったということです。「2023 US Data Center Market Overview Report」によると、AIと機械学習対応のラックの需要に後押しされて、10年後のデータセンターの電力消費量は2022年の2倍になる見通しです5。クラウドとのデータ転送もエネルギーを大量に消費するプロセスであり、データセンターがユーザーから遠隔の場所にあれば特に消費量は多くなります。

差し引きしてプラスの影響となるようにするには、組織はワークロードの最適化を重視し、クラウド・ストラテジーにおいて、リソースの効率的な使用とアイドル状態の無駄の回避を優先する必要があります。データセンターのストレージとサーバーの分散ネットワークを備え、ユーザーからより近い距離にあるプロバイダーを利用する必要があります。これにより、データ転送のエネルギー・コストが削減されます。さらに組織は、エネルギー効率の高いハードウェアとインフラストラクチャーに投資し(またはそれを実行しているプロバイダーと連携し)、データ転送の効率を重視する必要があります。

全体的な影響は、多くの場合、クラウド・プロバイダーのデータセンター運用のエネルギー効率に左右されます。グリーン・エネルギー戦略を追求したい組織は、このことを念頭に置いておく必要があります。

グリーン・データセンターのメリット

グリーン・データセンターは、エネルギー消費、環境への影響、サステナビリティーをめぐっての懸念の高まりに対処するのに役立ちます。グリーン・データセンターでは、以下のような多くの取り組みがなされています。

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  • コスト削減:グリーン・データセンターは、エネルギー効率の向上とリソースの最適化により、運用コストの削減に貢献します。

  • 環境への影響の低減:環境に配慮した慣行を建設と運用に取り入れることで、グリーン・データセンターは、二酸化炭素排出量の削減、電子廃棄物の最小化、天然資源の保護に役立ちます。

  • エネルギー効率の向上:グリーン・データセンターは消費電力が少ないため、全体的なエネルギー消費とそれに伴う環境への影響を削減できます。

  • サステナビリティーの向上:機器の再利用、責任あるリサイクル、サステナブルな建設に重点を置くことで、データセンターの長期的なサステナビリティーを確保できます。
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    脚注

    リンクはいずれもibm.com外部へのリンクです。

    1 Cost, environmental impact, and resilience of renewable energy under a changing climate: a review 」、Ahmed I. Osman、Lin Chen、Mingyu Yang、Goodluck Msigwa、Mohamed Farghali、Samer Fawzy、David W. Rooney & Pow-Seng Yap、Springer Link社、2022年10月28日

    2 Combined Heat and Power Basics 」、Energy.gov

    xxx

    3 Green Power Partnership 」、EPA.gov

    4 Re-use, refurb, recycle: Circular economy thinking and data center IT assets 」、Dan Swinhoe、Data Center Dynamics社、2022年3月8日

    5 Newmark: US data center power consumption to double by 2030 」、Matthew Goodwin、Data Center Dynamics社、2024年1月15日