電子データ交換(EDI)とは

夜間に交差する道路の俯瞰図

執筆者

Dan Nosowitz

Staff Writer, Automation & ITOps

IBM Think

Michael Goodwin

Staff Editor, Automation & ITOps

IBM Think

EDIとは

電子データ交換(EDI)とは、請求書や発注書などのビジネス・データや文書を、組織間のコンピューター・システム間で電子的に送信するためのシステムと標準のことです。これは主にB2B取引に使用されます。

これまで、ビジネス・パートナーとの間で業務上の書類をやりとりするには、紙の書類を実際に手を使って送らなければなりませんでした。EDIでは、書類を標準化されたデジタル形式に変換することで中間業者を必要としなくなるので、プロセスの効率化・簡素化ができます。書類の送付や受取りに人が介在しなくていいため、書類はシステム間を自動的に流れるのです。

EDI取引では、ある組織のコンピューター・アプリケーションから別の組織のコンピューター・アプリケーションへ、情報が直接移動します。EDI標準は、各文書内の情報の位置と順序を定義します。組織はEDIを使用して、見積依頼、ローン申込書、出荷予告通知など、さまざまな文書やデータ形式を共有します。

最近EDIシステムに人工知能(AI)ツールが追加されたことにより、拡張性の改善、処理速度の向上、積極的なエラー処理などの新しいメリットと機能が得られました。

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EDIの仕組み

EDIプロセスには、ビジネス文書の作成、変換、送信、取得、統合が含まれます。例えば、対象となる文書が自動車部品の請求書であるとします。まず、その請求書を作成する必要があります。

請求書の作成には、スプレッドシート、Eメール、PDFなど、さまざまな情報源からデータを取得しなければならない場合があります。EDIで行う場合、このような手動でのデータ入力プロセスは必要ありません。EDIトランスレーター(通常はサード・パーティーのソフトウェア・アプリケーション)は、社内システムやデータベースからこうしたデータを自動的に取得できます。請求書の例では、EDIトランスレーターは社内の表計算ファイルを調べて、製品番号、価格、数量など、自動車部品のデータを取得できます。

多くの企業では、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムがこのデータを管理しています。ERPシステムはEDIトランスレーターと統合され、その後、このデータを選択された標準に変換し、構造化します。Cleo社、TrueCommerce社、MuleSoft社など、変換を処理するサードパーティーのEDIサービス・プロバイダーが、このプロセスを支援します。(手動による変換も技術的には可能ですが、困難かつ、エラーが発生しやすくなります。)請求書の例では、この自動車部品のデータは、請求書の受領者が読み取れる標準に変換されます。

文書はその後、次の一般的な2種類のEDI文書交換のいずれかを使用して送信されます。

ポイント・ツー・ポイントまたは直接接続

ダイレクトEDI はインターネット経由のコンピューター間接続であり、大抵は安全な通信プロトコルを使用します。例えばSecure File Transferプロトコル(SFTP)は、さまざまな認証方法と暗号化をサポートしています。

付加価値ネットワーク(VAN)

付加価値のあるネットワークでは、サードパーティーのネットワークがデータ送信を管理します。VAN手法ではメールボックスと呼ばれるものをよく利用します。これは、受信者が文書を取得する前に一時的に保管する一種のファイル・ストレージ領域です。現在このメールボックスは、VANプロバイダーのサービス・パッケージの一部としてクラウド上に存在することが多く、VANプロバイダーは多くの場合、文書の変換と検証も行います。

プロトコルの種類

EDIを使用すると、複数の異なるプロトコルを介して書類を送信できます。このプロトコルには次のものが含まれます。

  • AS2(Applicability Statement 2):暗号化をサポートし、デジタル署名や送信通知などの機能を備えた一般的なHTTPプロトコルです。 HIPAAに準拠しています。  

  • SFTP(Secure File Transfer Protocol): セキュア・シェル(SSH)暗号化を利用しており使いやすいですが、AS2と同じライフサイクル追跡や受信証明は提供しません。

  • FTP(File Transfer Protocol): シンプルかつ最低限であり、安全性は確保されていません。セキュリティ上の制限があるため、EDIにはあまり使われません。

  • MFT(マネージド・ファイル転送):FTPの進化形とも言えるMFTは、エンドツーエンドのセキュリティ、監査証跡、スケジュール予約機能を提供します。また、HIPAAなどの規制にも準拠できます。

  • SOAP(Simple Object Access Protocol):XMLベースのメッセージング・プラットフォームであるSOAPはプラットフォームに依存しませんが、より古く、レガシー・システムによく使用されています。

各プロトコルには長所と短所があり、それぞれさまざまな用途や業種に適しています。例えば、AS2はHIPAAに準拠しています。SFTPはセキュリティーおよび認証の主要な機能を備えていますが、このような機能は専門家でないユーザーには操作が難しいことがあります。

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一般的なEDI規格

EDIは、1960年代の巨大インフラ、自動車、軍事プロジェクトに端を発しています。組織や機関は書類の送受信業務のオートメーションだけでなく、恐らくさらに重要なこととして書類の標準化を目指していました。

それ以来、EDIのプラクティスにおける中枢は標準フォーマットとなっています。送信側と受信側のコンピューター・システムがどちらも文書を読み込んで理解できなければ、システム全体が崩壊してしまいます。

いくつかの組織が、今では広く使われているEDIの標準規格を作成しました。業種固有のものもあれば、一般的なものもあります。最も一般的な標準規格には、次のようなものがあります。

ANSI ASC X12

米国規格協会(ANSI)が策定した汎用標準で、北米で最も一般的に使用されています。ASCは、Accredited Standards Committee(認定標準委員会)の略です。

HIPAA

1996年に医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)の一部として制定されたこの米国規格は、ヘルスケア・データの交換に特化したANSI ASC X12のサブセットです。

ODETTE

Odetteは 、「自動車サプライチェーン全体を対象とした、欧州における標準化や、サービス、ネットワーキングのプラットフォーム」です。 この名前は、「ヨーロッパにおける電気通信によるデータ交換のための組織(Organisation for Data Exchange through Tele-Transmission in Europe)」の頭文字をとったものです。

EDIFACT

国際連合が策定したEDIFACT(Electronic Data Interchange For Administration, Commerce, and Transport)は、業種や地域を問わずビジネス文書の交換を促進することを目的とした国際標準のセットです。これは国際貿易で広く使用されています。

RosettaNet

RosettaNetは、XMLを基盤とする標準規格で、主にハイテク業界、とりわけ世界の半導体産業で広く利用されています。

EDIのメリット

EDI取引は、巨大なeコマース・プラットフォームから個人商店まで、大小さまざまな企業の間で業務上の書類をやりとりするために望ましい手段です。EDIの技術により、オートメーションと企業間(B2B)の統合を通じて、ビジネスに次のような大きなメリットをもたらします。

時間の節約

EDIは、これまで手作業に依存していたワークフローを自動化することで時間を節約します。EDIによってスプレッドシートを調べてデータを見つけるという反復的で退屈な作業がなくなり、Eメールを送受信する必要もなくなりました。

ある部品会社が、サプライ・チェーン内の部品に関する情報を製造業者に提供する必要があるとします。その情報を手作業で探し、まとめて送信し、さらに製造業者がメールを受信して自社のデータベースに統合するのを待つのではなく、部品会社はEDIを使用して、このデータ交換プロセス全体を自動化できます。

サプライ・チェーン・データは部品会社の記録から取得され、安全かつ自動的に製造業者へ送信され、その後製造業者自身のテーブルに追加されます。これらはすべて人間の介入を必要としません。

コストの削減

EDIは自動化によって人件費を削減し、コストのかかる人為的ミスの頻度を下げ、紙や紙ベースの経費を支払う必要性を減らすか排除できます。

エラー削減

EDIデータ転送では、厳格な標準化によってエラーが削減され、情報がビジネス・プロセスやアプリケーションに入る前に確実に正しくフォーマットされます。EDIを導入することで、誤字、解析が難しい手書き、データ・フィールドの失念、カテゴリーの誤解釈など、人間特有のミスを排除できます。

向上した分析

EDI統合により、電子文書をさまざまなITシステムに組み込むことで、トレーサビリティー、オブザーバビリティー、レポーティング機能が向上します。このような統合により、データ収集、可視性、分析が容易になります。

大規模な組織では、EDIにより、事業の拠点を問わず、さまざまな部門やビジネス・パートナーの間で首尾一貫した標準規格を導入できます。小規模な組織では、EDIに準拠することで大企業とのデータ統合を強化できます。EDIはあらゆる規模や形態の企業に、一貫した交換の手段を提供できます。これにより、組織は取引を存続期間全体にわたって追跡でき、一つひとつの段階にかかる時間を測り、間違いのない監査証跡を作成し、変更や問題について関係者に通知することさえできます。

EDIの実装

EDIの実施は複雑な場合があります。官公庁・自治体の規制や業種・業務の標準規格は場所や時間の経過により移り変わる可能性があり、EDIネットワーク内の各取引先には個別の要件があるかもしれません。

社内か外部委託かにかかわらず、EDIソリューションが効果を発揮するにはいくつかの基本的な条件、機能、およびリソースが求められます。EDI実装に関して考慮すべき点は次のとおりです。

初期計画

利害関係者はEDI導入の目標を決定するために協力する必要があります。ここでいう協力に含まれるのは、ビジネスニーズが拡張性なのか、コスト、あるいはセキュリティー機能なのかを話し合うこと、コミュニケーションの取りやすさを確保するために取引先のEDI構造について学ぶことなどです。

翻訳またはマッピング・ソフトウェア

このタイプの変換ソフトウェアは、名前、住所、通貨金額、部品番号、数量などのフィールドを取得し、それらをビジネス・アプリケーション・フォーマットから標準化されたドキュメントにマッピングし、その逆も行います。自動車部品の例では、このソフトウェアは特定の部品名とモデル番号、料金体系、購入日などを組み込んだすべての販売を監視します。

バッチのエンベロープまたはエンベロープ解除機能

これらの機能により、送信者と受信者は複数のEDIトランザクションを1つの「封筒」にまとめて含めることができ、大量のEDIメッセージを効率的に送信できます。これは、複数の手紙を1つの封筒に詰め込むようなものです。デエンベローピングとは、受信側でこれらの大規模なバッチから個々のトランザクションを抽出することを指します。

バッチをエンベロープすると大量のデータをより効率的に送信でき、EDIのプロセスを合理化できます。これによりオーバーヘッドとコストが削減されます。小売業など取引量の多い組織にとっては欠かすことのできないメリットです。

メッセージのルーティング・メカニズム

メッセージのエンベロープが解除された後、メッセージをさまざまなグループに分類し、適切なターゲットに配信するためにルーティング・メカニズムが必要になります。また、メッセージを送信先に適したEDI形式に変換するために、メッセージの変換が必要になる場合もあります。

例えば、自動車部品請求書のバッチ・エンベロープには、エンジン・コンポーネント、ナビゲーション・ソフトウェア、インテリア・アップグレードなど、さまざまな部門からの請求書が含まれており、すべて異なる種類の書類形式となっています。その後、受信者のEDIソフトウェアは、これらの書類を種類とターゲットに基づいて分け、適切な宛先にルーティングできます。

取引先契約(TPA)

TPAは契約条件(コンプライアンスや法的責任条件、契約期間、連絡先情報など)の明確化、ビジネス文書における規格の確立、取引先間の通信およびビジネス・プロトコルの定義を示した契約です。サプライヤーにはデータ送信に関する特定のセキュリティー・ニーズや技術仕様、その他の事項があるかもしれません。TPAにはこの情報についての詳細が記載されています。

EDIとAI

AIはEDIのソフトウェア分野に新たな可能性をもたらします。例えばAIは不正アクセス検知とエラー防止を強化し、過去のビジネス取引に基づいてリアルタイムで学習・調整を行い、前例に基づいて傾向と潜在的な問題を予測できます。

自動車部品の請求書の例で言うと、請求書には一般的に月あたり100個から200個の範囲で点火プラグの売上が記載される場合があります。その数が突然10,000個に増加するとAIは異常を検知し、異常の発生を自動で顧客と販売者に警告します。その数が300個まで着実に増加している場合は、AIツールがセキュリティー・アラートは不要である可能性が高いものの、供給を増やさなければならない場合に備えて販売者に通知を送信する必要があると判断します。

通常は大規模言語モデルと自然言語処理の高度化により、人間のコミュニケーションを分析し、例えばビジネス文書やEメールなどから関連データを抽出できる可能性が広がります。

エージェント型AIは、人間の介入を必要とせずに機能し、意思決定を行うよう設計された人工知能の一形態で、EDIにとって有望な変革でもあります。エージェント型EDIシステムは、不正やエラーを示す可能性のあるサプライ・チェーン上の異常を監視して対応し、請求書を照合して問題を自律的に解決できます。AIエージェントは、返品承認など特定の機能さえも自動化できます。

EDIとAPI

アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)は、ソフトウェア・アプリケーション間でリアルタイム・データを交換する別の方法です。しかし、EDIとAPIには重要な違いがあり、それぞれが一般的に使用される場面も異なります。

フォーマットと構造

EDIでは、ANSI ASC X12やEDIFACTなどのデータ交換用に標準化されたフォーマットのうち、いずれかを使用します。データ要素は厳格に構造化されており、EDIは許可される文字、要素の順序、標準コードなど、定義済みの構文規則に準拠しています。文書のフォーマットについては基本的に交換者の間で交渉が行われ、合意したフォーマットに準拠する必要があります。

APIはJSONやXMLなどのフォーマットを使用し、クライアントが受け取りたい情報やその受け取り方を指定することができます。この柔軟性のおかげで、APIはカスタム統合を行ったり、多くのさまざまな関係者間で短いメッセージをリアルタイムで交換したりするにあたって最適となっています。しかしこのような柔軟性があることで、要求フォーマットが適切に文書化されない、あるいは実行されない場合に、データが誤って解釈される可能性も高まります。

セキュリティー

EDIの基盤となるニーズの1つとして、各EDI形式には堅牢なセキュリティ機能が含まれています。データ暗号化、パスワードやキーなどの認証および検証メソッド、および監査証跡により、大量の機密データのセキュリティー・コンプライアンスを保持できます。

APIには効果的なセキュリティー対策を入れることもできます。開発者はOAuth 2.0認証規格、エンドツーエンドの暗号化、安全性を確保するための監査を実装すできます。しかし、これらはケースバイケースで追加する必要があり、医療やガバナンスなど一部の業界ではコンプライアンスが問題になる可能性があります。

使いやすさ

EDIには多額の初期費用がかかる場合があり、通常、セットアップには専門的なソフトウェアと専門知識が必要です。APIは設定が簡単であると考えられています。柔軟で、他のユースケースでも一般的に使われているため(そのため開発者が使い慣れていることが多い)、最新のソフトウェアとの統合が容易です。しかし、APIにはその場しのぎの性質があるため、一貫性とコンプライアンスを確保しにくい場合があり、より一貫した保守が必要になる場合があります。

ユースケース

EDIは、予定されたバッチで大量の(しばしば反復的な)文書を交換するビジネス・パートナーを伴うユースケースに最適です。そして、このシステムが使用されるのは主にこうした場面です。EDIの一貫性と信頼性は、発注書、請求書、出荷・入荷の指示書、在庫および製品カタログの文書を交換するのに最適です。

APIは柔軟性、リアルタイムのデータ交換、拡張性、カスタム統合が求められるユースケースに高い適性を有しています。例えば、あるeコマースの小売業者がウェブ・プラットフォーム、倉庫、外部小売業者の間で在庫レベルをリアルタイムで同期できるようにしたいという場合、APIで在庫データを交換し、供給の問題を回避できます。

そのため、多くの企業ではさまざまなユースケースで両方の交換方法を用いています。これら2つのアプローチは確かに相反するものではなく、互いを補完することもあります。

フローチャートは、排出量の概要、スコープ3排出量、および推定される排出量削減を示しています。
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