IBM Power
Power10による量子時代のセキュリティー「耐量子暗号」とは
2021-09-16
カテゴリー IBM Power
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IBM Power10プロセッサーを搭載したエンタープライズサーバー「IBM Power E1080」が2021年9月9日に発表されました。Power10プロセッサーの特徴やPower9 プロセッサーとの違いは、IBM Systems Japan Blogの記事として、概要、メモリー、I/Oと、これまで何度も取り上げてきました。ただ、Power10プロセッサーがもたらす進化は、既存記事で紹介してきた内容に留まりません。本記事では、システムズ・ラボサービスの若林 丈紘が、Power10プロセッサーで今後サポートが予定されている耐量子暗号(Quantum-safe cryptography)について紹介します。
若林 丈紘
日本アイ・ビー・エム株式会社 IBM Lab Services Power Systems Delivery Practice
2018年入社後、ラボサービス・エンジニアとして、IBM Power製品によるAI実装関連の開発・構築・技術相談サービスを主に担当。社内では、Power10プロセッサー研究会のメンバーとして活動中。
1.量子コンピューティング研究の加速
2021年7月27日、日本初となるゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」が、神奈川県川崎市の研究施設に設置・稼働されたことで大きな話題を呼びました。
この量子コンピューターの安定稼働と、東京大学・川崎市・日本IBMのパートナーシップにより、今後実応用に向けた研究開発が大きく加速することが期待されています。
ところで、量子計算の技術が進展した少し先の未来で、私たちの身の周りにどのようなことが起こるのか、いまひとつピンとこない方もいるのではないでしょうか?
「スーパーコンピューターを上回る計算性能」「量子重ね合わせの性質を利用して数値を表現」など、各所で取り沙汰されているものの、実応用にはまだまだ時間がかかるだろうと考えている方も多いと思います。しかし、量子計算によるビジネスへの影響、特に情報セキュリティーに対する脅威は、既に私たちの目の前に迫っています。
2.量子計算の世界で引き起こされる脅威
現在私たちが利用しているコンピューター(以後、量子コンピューターと区別するために「古典コンピューター」と呼称)では、機密性の高いデータをやり取りする方法として、公開鍵暗号が使われています。これらの暗号化方式で使われる「鍵」の安全性、つまり、第三者による複製が困難である理由は、鍵として使われる素数の素因数分解に膨大な計算時間がかかることを根拠としています。
ところが、量子コンピューターを使うことで、この素因数分解を高速に実行する「ショアのアルゴリズム」が、1994年に提案されています。この研究では、スーパーコンピューターの演算性能でも解決に数千年はかかるとされる数学的問題を、大規模な量子コンピューターを使って数時間から数日で解決できることが理論的に示されました。
「量子アルゴリズムによって暗号鍵が解読される」ことは、あくまでも理論上の話に過ぎません。現時点の実験では、実際に暗号鍵で使われる素数よりも、はるかに小さい数への適用に留まる段階です。しかし、冒頭に述べた通り、量子コンピューターの研究開発は現在急速に発展を続けている状況です。それに伴って、こうしたセキュリティーへの脅威もまた、着実に現実のものとなりつつあります。現在、私たちが当たり前に使っている暗号化通信が、量子計算の技術革新によってある日突然破られ、機密データの漏洩を引き起こす可能性は否定できません。
3.耐量子暗号とは
大規模な量子コンピューターの実用化に備えて、量子コンピューターの解読に耐えうる暗号技術の研究開発や標準化が進められています。そのひとつが耐量子暗号 (Quantum-safe cryptography) と呼ばれるものです。
量子コンピューターと古典コンピューターどちらにおいても安全な暗号化技術として、いくつかの方式が提案され、NIST(米国立標準技術研究所)が標準化に向けて仕様の策定を行います。この暗号化技術の開発において、IBM ResearchはNISTと協業しており、IBM提案の方式は標準化に向けた最終候補の1つに選ばれています*1。これは、格子暗号と呼ばれる方式のひとつで、格子点探索問題という、量子コンピューターにも計算困難な数学的問題を安全性の根拠としています。格子暗号は、その強固さだけでなく、暗号化したまま復号せずに計算できる性質もあって、量子時代の暗号化技術として注目を集めています。
NISTによる標準化の仕様は、今後数年で固まる予定です。これに先がけて、Power10プロセッサーでは、耐量子暗号をサポートするための準備を着々と進めています。
先日発表されたPower10プロセッサー搭載機「IBM Power E1080」は、耐量子暗号を含むデータ保護を効率的にサポートする設計です。そして、Power10プロセッサーの命令セットアーキテクチャー向けに最適化された暗号化ライブラリーが、今後、オープンソースコミュニティーで公開される予定です。こうした対応が行えるのは、耐量子暗号の標準化に大きな貢献をしているIBMならではと言えるでしょう。
量子コンピューターにも対抗できるエンタープライズサーバーとして「IBM Power E1080」をご活用いただくことで、Power10プロセッサーのデータ保護機能をいち早く体験できるはずです。
本記事では、Power10プロセッサーで今後サポートが予定されている耐量子暗号の役割と、その価値を紹介しました。Power10プロセッサーは今回の耐量子暗号以外にも、様々な優れたセキュリティー機能が実装されています。量子時代においても高い信頼性を目指すPower10プロセッサーの今後の進化にご期待ください。
*1 CRYSTALS-Dilithium
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