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高齢者の転倒という社会課題への3社共創チャレンジ

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「日本は世界有数の長寿国で、平均寿命は84歳と言われています。しかし、『健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間』を指す健康寿命の平均は、74歳と言われています。

この10年の開きを、どうにかしたいのです。平均寿命が100歳となるのもそう遠くはないと考えられている今だからこそ、この取り組みを成功させて『健康寿命を伸ばす』ことに寄与したいのです。

なぜなら、それはご本人だけではなく、その方のご家族や周囲の方がたのQOLにも大いに寄与するものだからです。」

こう語るのは、旭化成ファーマとミネベアミツミとの「転倒トータルサポート」共創プロジェクトをリードする、IBM Client Engineering(CE)の田村 孝です。

 

「プロジェクトの全体青写真は壮大なもので、何をどこまでやれるのか、正直私たち自身にも分からないところが多分に含まれています。それでも、先ほどお話ししたこのプロジェクトのミッションには、旭化成ファーマ様とミネベアミツミ様の関係者が全員強く共感し『できる部分からしっかりと進めていこう」と同意しています。」

——現在は第1フェーズにあるという転倒トータルサポート共創プロジェクト。その取り組みと想いに迫ります。

 

高齢者の転倒という社会課題へのチャレンジ

「私たち旭化成ファーマは、『ひとりひとりの”いのち”に真摯に寄り添い、豊かなアイデアと確かなサイエンスで、アンメットメディカルニーズを解決する。』という企業ミッションを持つ、医療用医薬品や診断薬の製造・販売を主に手掛けている企業です。

日本では、骨粗鬆症(骨粗しょう症)の患者さんがおよそ1,280万人存在するといわれていますが、骨粗鬆症は痛み等の自覚症状がないことも多いことから適切な予防や治療がなされないことも少なからずあります。骨粗鬆症による骨折者数は、1992年~2012年の20年間で約2倍に増加しており、今後も高齢化により増加することが見込まれています。

骨粗鬆症による骨折は患者さんご本人やご家族のQOLを低下させる要因にもなり、経済的な負担も少なくありません。私たちはこうした現状を変化させるために検査や予防等の啓発に力を入れており、2020年にスタートした『骨検(ほねけん)』という啓発活動は、たくさんの方にご利用いただいています。

今回、CEの田村さんとの話し合いで見えてきた『高齢者の転倒という社会課題へのチャレンジ』は、私たちのこれまでの取り組みをさらに拡げ、より大きな社会的価値へとつながる、まさに旭化成ファーマにピッタリのチャレンジでした。」

こう語るのは、旭化成ファーマ 医薬事業統括本部 領域マネジメント部 新事業企画室の大黒 聡(おおぐろ あきら)氏だ。

 

「転倒による骨折などの怪我をきっかけに寝たきりになってしまったり、転倒経験から外出に不安や恐怖を感じて外出頻度を極度に減らしてしまう『閉じこもり』と呼ばれる状態になってしまったりと、転倒をきっかけとした急激なQOL低下は残念なことに珍しいことではありません。

そして現在の少子化や長寿化が進む日本社会においては、学生や働き盛りの若者が親や祖父母の介護などに追われ、彼・彼女ら自身の人生を十分に謳歌することができないという話も増え続けています。

医療や医薬品は、人びとのより良い暮らしや人生を支援するためのものです。骨粗鬆症の治療薬等を提供し、医療に貢献することを中心に置いて企業活動を続けてきた私たち旭化成ファーマは、そこから更に一歩踏み込んで、『転倒』も社会課題の起点の1つと捉えています。そしてこの社会課題は、本人や周囲の方がたのQOLだけではなく、『増大する医療費の抑制』という国家の社会保障にも関わってくる問題と捉えています。

その問題に対する解決策を見出すために、私たちは2020年から旭化成延岡支社と宮崎県延岡市と共に、『自分の足で100年歩ける健康長寿のまちづくりに関する協定』を結び、健康長寿社会の実現に向けた取り組みを行っています。今回のIBM様、並びにご紹介いただいたミネベアミツミ様との取り組みは、『自分の足で100年歩ける健康長寿社会の実現』という私たちのビジョンの実現を、強力に後押ししてくれる可能性のある取り組みであると思います。」

 

ミネベアミツミ社内では「これまでにないアプローチ」とも

ミネベアミツミは、世界有数の超精密機械加工技術、そしてそれを活かした大量生産技術を元に、多数の世界シェアNo.1製品を誇る総合部品メーカーです。

「しっかりとした製品を作り上げるのには、高い技術力はもちろん、計画の緻密さと慎重性も重要です。そうした取り組み方が社内のスタンダードとなっていることもあり、今回の旭化成ファーマ様とIBM様との『アジャイルに、できる部分から進めていこう』という実験性の高い共創プロジェクトに対し、社内からは『これまでにない、従来の業務対応とは異なるアプローチですね!』という声も挙がっています。

でも、それこそがこの共創プロジェクト自身が有する大きな価値の1つではないでしょうか。」

そう語るのは、ミネベアミツミ株式会社 センシングデバイス事業部 AMP・システム製品技術部 高山 善将(たかやま よしまさ)氏です。

 

「転倒という社会課題に立ち向かうという話を聞き、筋力やバランス感覚など、人体の高精度な測定が必要となるであろうことはすぐに想像がつきました。転倒のしやすさは、そうした人体の特性と、日常生活の中で発生する特定の行動や意識状態などと強く関係しているでしょうから。

そうした『転倒予防の観点から取るべきアプローチ』について関係者でディスカッションを行う中で、我われの役割も自然と見えてきました。高精度の測定を実現するためのハードウェアには、私たちの最も得意とする超精密機械加工の技術が必要ですから。

プロジェクトを具体的に進めていく上では、IBM CEの皆さんがとてもスピーディーに関係者の意見やイメージを引き出し、形のあるものへの落とし込んでいってくれていることも大きいですね。正直、その方法論や実践手法には驚かされました。

その上、今回私たちが作成した試作品をお渡しした後の、開発テストと実験までの展開スピードと行動力ときたら…。正直、こちらも私たちにとっては、従来とはまったく異なるスピード感でしたね。」

 

開発テスト@日本IBM | 副社長自ら実験台に

ここからは、4月の数日間を通じて日本IBM箱崎本社で行われた、踏力バランス計による身体センシングと問診とを組み合わせた、「転倒リスク推定ツール」開発テストと実験の様子を紹介します。

筆者も参加したこのテストは、潜在的な転倒リスクが高くなっている50代以上のIBM社員の中でいくつかの前提条件に当てはまる者がボランティア被験者となり、「問診〜体組成計による身体データ測定+踏力バランス調査」を通じて「踏力バランス計の波形の個人差」を分析するためのものでした。

IBM箱崎本社事業所でのテストの様子。右下は閉眼10秒片足立ちにチャレンジ中

 

ボランティア被験者たちが一番盛り上がったのは踏力バランス調査です。特に、「目を閉じて、バランス計に片足で乗り10秒静止(閉眼10秒片足立ち)」というチャレンジは、文字で見るよりもはるかに難しく、ほとんどの被験者がクリアできませんでした。

そしてたまたま通りかかった副社長の森本も、社内で盛り上がる様子を目にし、「この打ち合わせが終わり次第参加するからちょっと待っていてよ!」と、飛び入りでボランティア被験者として参加し、閉眼10秒片足立ちにもチャレンジしていました。

(「だって、IBMのお客様のためにも、社会課題解決にもなるんでしょう? もちろん喜んで参加するに決まっているじゃないですか!」と、率先して実験に参加した日本IBM 副社長執行役員 最高技術責任者 兼 研究開発担当 森本典繁(写真左))

 

なお、この実験に用いられた踏力センサーを備えたバランス測定器は、ミネベアミツミに作成いただいた試作品であり、今後は、旭化成ファーマがビジネスオーナーとなり、実験結果を基に社会実装手段を検討する予定となっている。

だが、これらの役割は「目安に過ぎない」とCEの田村は言っています。

「役割がはっきりしていないと、ビジネスにおける行動スピードは落ちてしまいがちです。その観点から、ミネベアミツミ様と旭化成ファーマ様、そして我われIBM CEの各役割を明確にしています。

しかし、役割と、実作業における行動主体性は別の話です。役割に捉われ過ぎることなく、早く的確にプロジェクトを前進させることができる組織、そして個人が、その場その場でリーダーシップを率先して発揮していく。そのような3社間での『アジャイル文化』の醸成も、このプロジェクトを成功させる上で間違いなく重要だと認識しています。」


 

旭化成ファーマの製薬事業における知見、ミネベアミツミ様のセンサー技術、IBMのテクノロジー。

3社の共創の取り組みが「高齢者の転倒予防」に、そして「健康寿命の延伸」へとつながる日を、楽しみに待ちたい。

 

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TEXT 八木橋パチ

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