Client Engineering
クライアント・エンジニアリング対談 #7(西野敏之×平山毅)| イノベーションを起こすマインドセット
2023年03月16日
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幅広い技術・経験・バックグラウンドを持つスペシャリストたちが集結し、お客様と共に新しいサービスやビジネスを共創していく事業部門——それがIBM Client Engineering(CE: クライアント・エンジニアリング)です。本シリーズでは、CEメンバーが対談形式で、各自の専門分野に関するトピックを中心に語っていきます。
第7回目となる今回は、主に金融保険領域や新規事業企画のお客様との共創を進めているチームのリーダー平山 毅と、お客様のビジネス変革促進をリードするビジネステクノロジーリーダーの西野 敏之が、「イノベーションを起こすマインドセットとカルチャー変革」を中心に語ります。
<もくじ>
1. 学生時代に「40歳になるまでに起業しよう」と決めていた
平山: CEでエンジニアリングマネージャーをしている平山です。チームメンバーとの対談をシリーズでお届けしており、これまでデザイナー、エンジニア、データサイエンティストにそれぞれ2名ずつ登場いただきましたが、今回は初登場となるビジネステクノロジーリーダーとの対談となります。
CEのビジネステクノロジーリーダーには戦略コンサルタント出身で起業経験者が多く、とても多彩で人生経験が豊富なタレントが揃っているのですが、今日はその中でも「イノベーションとカルチャー」に特に強い想いを持って取り組まれている西野さんとの対話ということで、私自身、経験豊富な西野さんの話をとても楽しみにしていました。それでは西野さん、自己紹介からお願いします。
西野: はい。それではまず、起業にまつわる部分をお伝えさせていただきますね。私は30代で2回起業しています。最初は仲間たちと数人で、そのあと今度は一人で起業しました。
起業前は、まずはIT系の会社に就職して3年、その後は外資系コンサルティングファームで経営や人事のご支援をさせていただいていました。
——「ITをやって次に経営支援、それから30代で起業」というのにはひょっとして最初から決めていた?
西野: そうです。学生時代に「40歳になるまでに起業しよう」と決めていました。自分がサラリーマンをやり続けるイメージが持てなかったんですよね…。元々コンサルティングをやりたいと思っていましたが、これからの経営を考えたときに、ITを理解できていなければならないだろうとその必要を強く感じていました。たとえば今であれば、デジタルというワードを理解しないままで起業しようとはなかなか思いませんよね?
そんな考えから新卒でITの会社に入って経験を積んでコンサルティングファームに転職し、その後起業しました。そしていろいろあって、1年ほど前に縁あってIBMにジョインしました。
平山: 起業前から現在まで、西野さんは時代の流れの前線でずっと活動をされてきたわけですが、IBMに入社したのにはどんな経緯があったのでしょうか?
西野: 2度目の起業のあと、5年ほど自分でやっていて、そこでコロナによるパンデミックが起きました。ただ、コロナによるビジネスへの直接的な影響に限らず、自分自身でもビジネスと社会の潮目が変わってきているのを感じてはいたんです。個人や個社単体の力では限界がある。それにもっと自分を、デジタル面で、特にAIという視点を踏まえて成長させるべきだろうと。
そんなことを考えていたところで、グローバル、総合力、歴史、そしてキャリアという観点からも納得いく選択としてIBMとのご縁がスッと自分の中に入ってきました。
2. 大企業における「カルチャー変革」の必要性
平山: 「ビジネスと社会の潮目の変化」と言われましたが、具体的にはどのような点にそれを感じていたのでしょう?
西野: 仕事の進め方が「ベンダーにお任せ」から変化しましたよね。それが端的に現れているのが言葉の変化です。お客様が使う言葉が「SI」とか「IT」とかではなく、「デジタル」に、そして「ERP」などのパッケージが「SaaS」に変わりました。
言葉の変化はユーザー心理の変化です。実際、双方のやることが変わり、プレイヤーや関係性が変わったということだと思います。
これは私がIBMに入社する前の話ですが、日本を代表するような企業から相談を受け、解決策として提供したのが「エクセルで作り込んだマクロ」ということがありました。これは笑い話ではなく、実際それが大きな改善を生んでいたなんてことも珍しくなかったんです。
そしてここ1〜2年でようやくクラウド、SaaSが当たり前となり、SIで作り込んだものをどうにか人手で回していくのを止めようという流れになりました。それを続けていくにはあまりにコストが掛かり過ぎるからです。それに、変化する状況にクイックに応えていくためにも、ベンダー任せで作られたシステムではもう無理だ…となったからです。
平山: なるほど。大企業も「変化せざる得なくなった」というのが実情ですね。それでは、システムの面ではなく、カルチャーの面ではどうでしょうか?
西野: カルチャーも当然大きく変わりましたね。それはまず、働き手の価値観の変化からきていると思います。私は人事エリアでの支援経験が長いのですが、「転職が当たり前」という変化が実に大きなファクターとなっていると感じています。
これまで、日本企業は転職を前提としておらず、年功序列、転勤、単身赴任などの「働き手の負担」に手当てを支払い、さらには未来を保障する仕組みで応えていました。でも、転職する人がどんどん増えていき、「過去の苦労に未来で応える」という仕組みは限界を迎えていたのです。
平山: 「日本の外資系企業」はその辺りのバランスをうまく取れている気がします。それが近年の外資系企業の成長と、新卒就活生への人気というところにも象徴的に現れている気もしますね。
——「働き手の価値観が大きく変化した」ということでしたが、雇用側、管理側の価値観や意識の変化はそれに追いついていますか?
西野: 正直に言えば、まったく追いついていない会社の方が圧倒的に多いと思います。さらに言えば、どちらの側もともに変化に対応できていません。
…これは誤解を招かないように伝えるのが難しいところもあるのですが、敢えて言えば、日本企業は自国の歴史や宗教観の特性を十分に捉えないまま、表面的な部分だけ真似したり取り入れたりしない方がいいというのが個人的な意見です。
世界でもこれほど長い歴史のある国は珍しく、そこに根付いている文化や価値観は軽んじるべきではなく大事にするべきものでしょう。「歴史は繰り返す」という言葉がありますよね。私たちは歴史から学ばなければなりません。短期視点でトレンドにパッと飛びつくのではなく、「農耕民族的価値観」の強い日本に当てはまるものを吟味し、その上で必要な変革を断行していくべきでしょう。このままでは、人が疲弊していくばかりです。
3. テクノロジーを活用する「出島組織」の在り方
平山: 大企業で変化を起こすアプローチとして、ここ数年で実践例がどんどん増えているのが「出島組織」や「出島戦略」です。
私たちCEもIBM社内においては出島組織であり、「はみ出しつつ」新しい価値の創出を行っています。そして価値創出方法として、意思決定のスピードと外部組織との縦横無尽な連携を駆使し、デジタルと多様性を強く意識した組織やプロジェクト運営を実施しています。
この点でも大活躍していただいているのが西野さんですが、改めて、日本における「出島」をどう捉えられていますか?
西野: 既存の枠組みから外れたアイデアや新しい考え方から生まれた取り組みを実践できる場所があることの意味は大きく、出島が重要で意義深いことは間違いありません。
ただ一方で、最近では出島の存在により、解決策よりも問題点に意識が向きがちになってしまうということも起きているのではないでしょうか。
既存組織ともコラボレーションをする出島なのであれば、これまでの延長線上のビジネスチームと出島チームが腹の探り合いをするのではなく、胸襟を開いたコミュニケーションをしっかりしなければなりません。それができなければ、大きな結果にはつながっていかないでしょう。
平山: なるほどそれは重要なポイントです。出島組織が出島だけで完結していてはダメで、しっかりと「良い摩擦」を生み出していかなければならないということですね。
西野: そうです。共創もコラボレーションも、ベースとなるのはコミュニケーションですから。それなしのまま「何ができるかお手並み拝見」というスタンスでは、お互い得るものがありません。
ですから私は、摩擦を良いものへと変化させていける「関係性」の構築を強く意識しています。よく使われるようになってきた言葉で言うと「心理的安全性」ですね。壁を低くしていく人が必要です。そのためにピエロ的な役割を率先して行ない、その空気感を作れるよう努力しています。
——今の関係性構築の話はIBM社内の既存組織とCEとの関係についてですか? それともお客様とIBMとの関係について?
西野: IBM社内も、私たちとお客さまの関係性においても両方です。そしてお客様社内においても同様です。ありがちなケースで言えば、従来のビジネス部門と、テクノロジーを活用した新規事業に取り組む部門との距離が心理的に離れているんです。だから使う言葉も違うし、スピード感も、世界観も異なっている。
まずはこの「離れている」ということをしっかりと理解した上で「価値を理解してもらおうとすること」、つまり本当の意味で「伝えること」に真摯になるべきです。
平山: ビジネスとテクノロジーの距離感を近づける——難しいことですが、イノベーションを生みだすには避けられませんね。ビジネステクノロジーリーダーとして実績を重ね続けている西野さんの言葉には重みがありますし、それこそがCEのビジネステクノロジーリーダーの役割とも言えますね。
西野: 1ついつも強く感じているのは、外からやってきた者には「なぜこれを変えないのか」「この部分は止めるべき」みたいなところが目に付き、それを主張しがちですが、それが続いているのにはなんらかの変えられない、あるいは止められない理由、背景があるからということを忘れてはならないということです。言われた方も重々承知していることの方が多いです。
そこを理解しようとせずに「さっさとやめるべき」とだけしか言わなければ、軋轢が生まれるのは当然です。歩み寄り・思いやりがないと、そこから先に向かう深い理解とコミュニケーションは始まりません。
そしてそれがなければ、企業としてのビジョンや未来観に基づくビジネスの進め方や事業についての話し合いだって、いつまでたっても始まらないでしょう。
4. 「スコープと納期」からイノベーションは生まれるか
平山: 最後に、どうすれば大企業でもっとイノベーションを加速できるのかについて、改めて聞いてみたいのですがいかがでしょう。
西野: やはりそれも「意識」だと思います。そして「変わろうという意思」も大事です。
まず、イノベーションに時間がかかるのは当然です。だからこそ、不要な手戻りや心理的なバリアによる「時間の無駄」は避けたいですよね。だからこそ、「上下なくワンチームでやる」という意識が重要になります。上下という意識が強いチームでは仲介が多くて話が進まず、意思決定が遅くなります。
私自身、プロジェクトをスタートするときにはそれを強く意識して宣言することが多いです。そしてそのための空気づくりを、お客様とIBMとを分け隔てなく実践します。社内、社外というのを意識することなく、メンバー誰でも思ったことを言える空気を作ります。そのために、小さなことでも、おもしろおかしいことでもどんどん率先して発信していきます。
平山: それはとても重要ですね。周囲を気にして発言をためらってしまうメンバーがいては、変革スピードは遅れるし、イノベーションも遠ざかります。
西野: その通りです。そしてスピードが遅くなるだけではないんですよね。ようやく話が進んだと思ったら、失敗を恐れる心理の現れか、当初の案から挑戦や新奇性がすっかり削がれたものになってしまっている…。結果、角の取れた小さな丸いものがたくさんできるだけ、なんてことになりがちです。
時間の無駄を避けるために、そして小さな丸いものばかりにならないようにするためには、みんなが「変わってきたな」と思える空気を最初に作らなきゃダメです。そのためには、従来のIBMのやり方から考えたらリスクある言動も必要です。でも、それが後から効いてきます。本気を伝えるために、それがやるべきことならやるだけです。それを上位クラスの方から発信し、率先垂範していくということも、とても重要です。
平山: まさにカルチャー変革、マインド変革の実践者ですね!
実は、今日の対談を行なっている「IBM Innovation Studio」は、さまざまな新しいテクノロジーの萌芽と社会実装例をお客様にご覧いただく場所であり、本来は、多くのインスピレーションを得てもらった後に、「それでは、自社や自組織でこれらをどのように活用できるでしょうか」と、皆でアイデアを膨らませるための施設です。…ただ実際には、「勉強になりました」とそこで終わってしまっていましたというケースもありました。これは、お客様の現場課題とIBMが提示する理想像の距離感が大きいことが要因だったと思います。
しかし最近では、西野さんにお客様とのワークショップをリードいただき、一緒に価値創出の方法やビジネスへ展開を考える機会が広がっていますよね。
西野: ありがとうございます。そうしたワークショップのデザインにおいても、常に気にしているのは「関係性」です。どうしたら、お客様に「西野も、そしてCEも、自分たちのチームの一員である」と信じていただけるのか。それを考えた言動をしているつもりです。
「ベンダーとお客様の関係性」を打ち破らない限り、イノベーションにつながる本物の提案と取り組みが進んでいくとは思えないのです。そこを変えるにはどうするか……。考え続けるしかないと思っています。
平山: おっしゃる通りですね。従来の「スコープと納期」に捉われ続けていては、「納品して終わり」の関係性にいずれなってしまい、人間の「創造性の蓋」は外れないですよね。まさにそこからの脱却がイノベーションの第一歩であり、それを促進するのが共創で、CEはそこで貢献していきたいですね。
西野さん、今日はありがとうございました。今後も、お互いが本気で楽しめる関係性構築に向けて、一緒に頑張っていきましょう。
TEXT 八木橋パチ
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