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EAMの力 ~Maximoで勝つ~:第2回 アフターサービスで勝つ

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事業の柱たる販売後のメンテナンス事業

日本アイ・ビー・エム株式会社  ソフトウェア事業 Tivoli事業部
兼 日本プラントメンテナンス協会 PE最新保全技術調査研究会 幹事  長南 剛一


はじめに

アフターサービスとは、自社資産の最適化を実現する「EAM:Enterprise asset Management」に対して「SLM:Service Lifecycle Management」とも言われます。従来のお客様資産に対するメンテナンス業者の行う「エンジニアリング業」「メンテナンス業」とは内容が異なりま す。


アフターサービスとは

従来、自社生産製品に対して販売後のメンテナンスとしてコピー機やパソコン、建設機械などはアフターセールスのメンテナンス業務として行われていま した。製品の販売時はネゴシエーションによって利ざやが薄くなりますが、保守契約は一度保守契約を締結することで毎年確実に計算できる業務分野であること から事業の大黒柱になりうるのです。この他にアフターサービスが重要な主な理由は以下の3点です。

生産物が使用できないと納品先お客様の業務に多大な損失を与えるため

コピー機の不具合はお客様からベンダーに連絡し、エンジニアが訪問修理します。パソコンは一般的にお客様からベンダー指定工場へ送付、「3日以内に 修理したパソコンをお届け」などのサービスを行っています。保全業務では前者をField Service、後者をDepot Repairとも呼ぶこともあります。前者は地図情報との連携などでいかに効率よくお客様を回るが重要ポイントです。後者では短時間に修理、検査、お客様 への発送を実現するために常に修理対象全体の工程管理(遅延管理)がポイントになります。

納品物の稼働率を落とさないことで製品に対する信頼性が向上、ひいては企業価値が向上するため

一方、建設機械では比較的早い時期からGPSを標準装備した稼働時間管理を行っています。盗難防止とTBM(時間基準の保守)の実現が目的です。鉱 山での掘削作業は作業時間が生産量に比例しますから突発的な不具合はお客様の生産減に直結するため、稼働率低下に対してはペナルティ契約を締結します。ベ ンダー側ではペナルティゼロに近づけるために状態監視的な仕組みを実現しています(業種によりペナルティは年間数十億円から数百億円規模になることがあり ます)。

同業他社からのブロック、または同業他社から自社へのリプレース目的

製品の信頼性が向上すれば追加発注時にはお客様は自社製品を選んでくれます。加えて迅速な修理によってお客様業務の支障を最小限にすることができれ ばベンダー企業価値がさらに向上します。同業他社に比べアフターサービスで歴然の差があれば自社へのリプレースは自然な流れとなるでしょう。

対象業務、プロダクト

コピー機、パソコン、建設機械の例を出しましたが、アフターサービスの対象となる業種やプロダクトにはどのようなものがあるのでしょうか。その機器が止まってしまったら大きな経済的損失が発生するもの、大きな影響が出るものが対象になります。代表的な例を3種類あげます。

ライフライン

主要ライフラインである「電気」と「水」は「タービンなどの発電所設備」や「上下水道設備」が対象になります。リサイクル工場のアフターサービスも 同じビジネスモデルになります。最近の発電設備では太陽光発電や風力発電での需要も増えています。発電以外では今後「送電」「変電」「配電」でも自動化・ 最適化の一環として、また後述する全体最適(Smarter Planet)を構成する重要な設備資産として需要が高まることが予測されています。

生産工場で稼動している設備資産

自動車工場で稼動しているプレス機などがアフターサービス対象の典型例です。プレス機のプレス回数が部品交換の目安になるため、プレスの稼動工場か らベンダーへオンラインで稼動情報を取得できれば不具合の兆候を見極め、突発トラブルの予兆から発生前に消耗部品の交換を行うことができます。その結果、 お客様が安定した設備稼動により計画通りに生産活動を行うことができ、ベンダー側では廉価の「海賊品(純正部品以外の部品)」を使用されることなく、保障 期間や保証内容を遵守した、納入設備の信頼性向上を実現することができます。

トランスポーテーション

換言すれば移動体ですが、建設機械の他に、航空機、航空機を構成する部品群(エンジンなど)が対象です。名前の通り移動するため、どこにどれだけの メンテナンスリソースを配置するか、という最適化の問題があります。具体的には「エンジニア(人的リソース)」「予備品在庫(資材リソース)」「ツール」 です。航空機や船舶の場合ツールには整備場やドックが含まれます。海洋掘削業務では世界中のドックの空き情報を常に参照できる必要があります。

アフターサービスの新しい価値

アフターサービスは製品ライフサイクル全体を通して導入効果を最大にすることを支援します。グローバルでは HES (衛生・環境・安全)がより重要視される風潮があり国内も例外ではありません。アフターサービスは対応内容によりベンダーとお客様との関係を「より良く も、逆にも」します。
ここでサービスアフターセールス全体を俯瞰してみます(図1参照)。

図1: 稼働情報収集全体構想
01

  1. 設計 ─ 製造 ─ 納品
    整備マニュアルを添付して納品します。
  2. 設備資産稼動状況の送信
    設備種類により内容は千差万別ですが、「設備識別子(Tag No.)」「稼働時間」「計測できる稼動情報(プレス回数など)」「不具合兆候(部位、振動、温度など)」をベンダーに送信します。ネットワーク (N/W)セキュリティがお客様基準を満足しないときにはN/W回線を引かせてもらえません。今後はベンダーとお客様との「線の関係」だけではなく複数ベ ンダーがN/Wで状態監視する方向に向かっていることから、セキュリティは今後ますます重要な要因になります。
  3. 情報収集と分析
    収集した情報とベンダー社内の情報である「保守情報(ベンダー推奨点検内容と周期)」「設置情報(設置環境)」「製品情報(部品・完成品情報)」「お客様 情報(売上げと利益)」「技術情報(故障部位や故障種類)」などをつき合わせて情報を分析します。これらの分析情報から以下のようなことがわかります(代 表的な例)。

    • 製品部位の長所と短所
      MP(保全予防)の考えから(1)の改良設計へ反映(5)する内容
    • 兆候と対応(Sense and Response)
      製品別・部位別の不具合兆候の収集と兆候の正確性向上
    • 個別のお客様単位での売上と利益
      利益を出すための戦略的な価格設定
      お客様を階層分類して階層レベルに適合した対応(4を含む)

    IBM Maximoの活用により以下の内容を追加で可視化することができます(一部サンプル)。

    • 作業時間のトレンド分析、作業員別の作業時間分析
      作業員全体の作業時間の変化傾向
      今後不足する作業員の作業資格
      技術・技能で強化が必要な作業スキル(技能継承の一部)
    • 個別作業の予定と実績の差異
      差異の原因と作業日報から本来のあるべき作業をテンプレート化
      保全作業品質(誰が行っても一定の作業レベルを確保できること)
    • 予備品、使用ツール在庫
      予備品在庫や使用ツールに対し、何が、どこに、どれだけあるか。作業前の予約可能

    これらの導出項目から実際のビジネスアクションへつなげることは「可視化」から効果的な「コントロール」を実現します。不具合兆候の収集はデジタル状態監視であり「自動化」であると言えます。規格外のデータを受信したときにマニュアルのルールに準じた手続きが必要です。

  4. お客様への通知
    「定期点検の通知」、「上位機種へのリプレースご案内」など。
  5. MP(Maintenance Preventive:保全予防)
    不具合履歴の分析結果を設計フェーズにフィードバックして製品品質を向上させる仕組みまたは業務

    アフターサービスビジネスではEPC(エンジニアリング・購買・建設)とO&M(操業と保全)の分野で、重要なお客様に対して自社ビジネスを拡大 することができます。アフターサービスはまた、同業他社からのリプレース要因の最重要項目のひとつでもあります。そして納品したお客様の満足度向上がベン ダー企業の企業価値を向上させ、お客様価値を最大化させるのです。

アフターサービスのステップアップステージ

図2: ステージのステップアップ
02

ア フターサービスの充実を図ろうとするベンダーの課題は多岐にわたります。「営業所により同作業で価格が異なる(無償作業を行っている)」「突発的な故障を 事前察知したい」「お客様ごとのセグメンテーションを行いたい」「儲かっているお客様(製品)とそうでないものを選別、比較したい」などがよく聞かれる声 です。
しかしながら一足飛びに最終ゴールに到達することは大きな困難を伴います。現在のレベルを正確に認識して具体的な改善活動につなぎ、活動結果を出さねばなりません。
以下は代表的なアフターサービスのステップアップステージです。

  • 第1ステージ 製品販売のための手段
  • 第2ステージ アフターサービスの収益源化
  • 第3ステージ サービスによる競争優位の確立
  • 第4ステージ 顧客価値の提供
  • 第5ステージ 顧客価値の最大化

ステージがステップアップするごとに効果として「売上拡大」「収益性の向上」「お客様満足度の向上」を実現します。この業務で最大の母体を持つと推定される第2ステージですが、第3ステージへステップアップの具体的な内容を考えてみます。

各ステージでは6つの要因に分けて施策(例)を考えます。(以下「s」はステージ)。

  • 【顧客】
    2sでは「既存お客様の維持 (お客様や案件の選別)」、
    3sではお客様選別による「他社製品アフターサービス受注」、「自社製品の他社への転換」など
  • 【組織・評価】
    2sでは「評価・指標の設定 (サービス事業のコストと収益)」、
    3sでは「営業組織再編」「営業サービス共通指標と例外の定義」など
  • 【業務】
    2sでは「コスト管理のPDCA」「品質問題の管理プロセス」「バックエンド業務の改善評価」、
    3sでは「コールセンター設置」「営業・開発・物流の連携」など
  • 【製品・サービス】
    2sでは「ビジネスシナリオに基づくサービス価格見直し」、
    3sでは「利用量に応じた課金」「メニュー組合」などのお客様対応など
  • 【人・文化】
    2sでは「コスト意識やサービスのビジネス化を意識付け」、
    3sでは「プロアクティブ意識への転換」「お客様視点」「組織間連携」など
  • 【IT】
    2sでは「お客様情報管理」「サービスのコスト・品質の分析ツール」「業務プロセス実行支援」など、
    3sでは「遠隔監視」「傾向分析の分析ツール」「お客様利用状況・目的など情報」「お客様間情報」

最初から最終ゴールを目指すことはプロジェクト頓挫の大きな要因であり、ステージが上がるほど部門間の連携がより重要になることから「経営層」の積極的な参加が大きな成功要因であることがわかります。

導入事例

南米のV社は世界中の鉱山で大規模な地下資源の掘削を生業としています。V社に掘削機器やダンプカーを提供しているC社ではV社に納品した自社製品 の状態を監視しながら点検や部品交換をV社に案内すると同時に、C社の販売特約店であるW社に対して作業指示を発行、W社がV社の点検整備作業を行ってい ます。V社、C社、W社はIBM Maximoを以下のような使い方で効果を上げています。

V社:

主幹業務資産を始めとするすべての資産を効果的に管理しています。同社の最重要要件およびパフォーマンスをサポートし、業界規制および法規制へのコンプライアンスの達成に直接影響する重要な部分でIBM Maximoを活用しています。

C社:

サービス・マネジメントを通じてサード・パーティーのサービスと資材を利用しながら、ユーザーが所有されている資産を効果的に管理。IBM Maximoを活用し、C社のグローバル販売特約店ネットワークのパフォーマンス関連KPIに基づき、資産や不具合を追跡、不具合の傾向分析、およびアク ションを効果的に実行。

W社:

顧客とのサービス・レベル・アグリーメントに基づいて、資産設備の追跡、故障の傾向分析、およびアクションを実行。プロアクティブ型の管理によりお 客様のご要望を満たしています。これにより、リピーター顧客を獲得し、顧客満足度を向上させ、ベスト・プラクティス情報を関連する従業員間で共有することができます。

今後

今後、より高度なアフターサービスのビジネスモデルを実現するためにはN/Wセキュリティはじめ多くのデジタル化要件を満たす必要があります。時に はグローバルネットワークが必要になります。ベンダーとお客様が線で繋がる時代は過去の遺物になりつつあり、現在では複数ベンダーと複数お客様をつなぐ ネットワーク社会が到来しています。将来的にはより簡単に、より全体効率を上げる仕組みがまさに出来つつあります。
小さくなった地球で、情報が必要な人が、意識することなく、どこからでも情報を受発信できる、そのような、より賢い全体最適の仕組みがIBMの提唱する、 SmarterPlanetです。アフターサービス分野でもSmarter Planetと同じ方向性でセキュリティを伴うネットワークインフラをベースとした業務の高度化が進展することでしょう。
IBMではそのようなシステム構築に関して世界中で既に多くの知見、経験、実績を積み上げています。

一口メモ

デジタル化

アフターサービス業務ほどデジタル化が有効な業種は他に無いのではないかと思われるほど大きなインパクトがあります。それを支える基礎技術として現 在最も注目されているのが「第2世代光ケーブル」ではないでしょうか。電気や磁力の影響を受けることなくセメント内部でも稼動可能なほど劣化に強い仕組み です。従来は5箇所の点検に5本の光ケーブルが必要でしたが、現在では一筆書きのように1本のケーブル全体をセンサーとして使用できるようになりました。 このような基礎技術は加速度を持って進化しています。 光ケーブルに限らず最新技術や既存の技術との組合せによるソリューションはベンダーとお客様との距離を短縮することができます。効果的なソリューションは 状態監視技術、ベンダーの作業効率、作業員の動線にも革命的な改善をもたらす可能性があるものと期待しています。

 

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