Data Science and AI

人工知能国際会議AAAI-20参加報告:論理的思考とゲームによる人工知能実現

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2020年2月7日から12日まで、ニューヨークで開催された人工知能の国際会議AAAI-20 (34th AAAI Conference on Artificial Intelligence)に参加してきました。AAAIは、近年注目をあつめる深層学習・機械学習に限らず、人工知能に関わる幅広い技術について議論される国際会議です。人工知能技術全般を扱う国際会議としては、IJCAI (International Joint Conference on Artificial Intelligence) と並び、研究者から最も注目される国際会議となっています。なお、今年のIJCAIは、PRICAI (Pacific Rim International Conference on Artificial Intelligence) と合同の国際会議として、7月11日から17日まで横浜で開催される予定です。

AAAIでは、通常のテクニカル・セッション(採択された投稿論文を発表する場)に加えて、数多くのセッションやイベントが並行して行われます。特に、萌芽的な分野や、注目度が高まっている分野について、チュートリアル、ワークショップ、パネル・ディスカッション、招待講演などの形で、集中的に議論や技術紹介がなされるのですが、ここでは、特に私の印象に残っている2つのトピックについてご紹介したいと思います。

1つ目は、論理的に考えることができる人工知能技術について。ノーベル経済学賞受賞者でもあるDaniel Kahnemanの著書”Thinking, Fast and Slow”(邦訳「ファスト&スロー」)をご存じでしょうか?この著書でシステム1とシステム2とよばれる、2つの思考モードがあります。システム1が直感的で素早い思考で、これは現在の深層学習が得意とするものでもあります。システム2が論理的な思考ですが、システム2的な思考を目指す人工知能技術も長きにわたり研究されてきています。近年の人工知能技術の目指す方向として、システム1的な人工知能技術と、システム2的な人工知能技術の融合があります。これは、現在の深層学習が学習に大量のデータを必要とし、学習されるモデルがブラックボックスで解釈が難しく、また敵対的な攻撃に弱いといった重大な課題を抱えているからでもあります。

 

この2つの思考モードに関連した議論がAAAIでも多く見られました。まず、2018年に深層学習の成果でチューリング賞を受賞したGeoffrey E. Hinton, Yann LeCun, Yoshua Bengioの3名による、基調講演とパネル・ディスカッションがありました。このなかで、Yoshua Bengioは“Deep Learning for System 2 Processing”(システム2処理のための深層学習)と題した講演のなかで、深層学習にシステム2的な思考を取り入れていくための鍵として、部品化、少数の部品への注目、それらの動的な結合について議論しています。また、Yann LeCunは、論理的な思考を、深層学習のような勾配法によって学習する方向性について触れています。次の日の朝には、これらの3名のチューリング賞受賞者と先述のDaniel Kahnemanとのパネル・ディスカッションが、炉辺談話(Fireside chat)の形で行われ、2つの思考モードについてさらに議論がなされました。さらに、MIT-IBM Watson AI Labの所長David Coxも、招待講演のなかで2つの思考モードに関する研究事例をNeuro-Symbolic AI(Neuroがシステム1的な人工知能技術を表し、Symbolicがシステム2的な人工知能技術を表します)として紹介しました。

 

2つ目に記憶に残ったトピックは、ゲームと人工知能です。これについては、AI History Panel: Advancing AI by Playing Games(人工知能の歴史:ゲームをプレイすることによる人工知能の発展)と題したパネル・ディスカッションがありました。パネリストは、1997年にチェスでチャンピオンを破ったDeep BlueのMurray Campbell(IBM)、そのチェスのチャンピオンGarry Kasparov、ポーカーでトップ・プレーヤーを破ったCepheusのMichael Bowling (アルバータ大学)、囲碁でトップ・プレーヤーを破ったAlphaGoのDavid Silver(DeepMind)、2050年に人のサッカーチームを破ることを目標に掲げるロボット・サッカーの創始者のHiroaki Kitano(ソニー)という豪華な面々でした。

 

 

これまで様々なゲームにおいて、AIが人間のチャンピオンを破ってきましたが、それによって人工知能が獲得できたといわれることはありませんでした。「人工知能とはなんでしょうか?多種多様なゲームで人間を超える技術を生みだす先に人工知能が実現されるのでしょうか?」パネルでは特にこの点について活発な議論がなされました。まず、ゲームは、それ自身で完結しているクローズドなシステムであり、勝敗やスコアという明確な基準があるという、人工知能技術の進歩を評価するにあたって、極めて望ましい性質をもっています。また、ゲームをうまくプレイするには、知能のある側面が必要であり、ゲームをうまくプレイできる人工知能技術を実現することで、人工知能の実現に一歩近づくことができます。知能とは目標を達成できる能力のことであり、知能が高いということは、「多くの目標を達成できること」と定義することができます。そのような汎化能力の高い人工知能技術は、高い知能を持っていると言うことができるでしょう。また、生存・繁殖が人類や生物の究極の目標であり、人類はその目標のために中間目標を自ら設定し、また達成できるという点で高い知能を持っていると言うことができるでしょう。人工知能技術にも中間目標を設定することは可能ですので、これまで目標を達成できなかったゲームで目標を達成できる人工知能技術を実現し、またより多くのゲームで目標を達成できる人工知能技術を具現化していくことで、汎用型の人工知能の実現に近づいていくことでしょう。

 

恐神貴行
シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー
IBM東京基礎研究所
https://researcher.watson.ibm.com/researcher/view.php?person=jp-OSOGAMI

 

関連リンク
AAAI-20 (英語)                                https://aaai.org/Conferences/AAAI-20/
IJCAI-PRICAI 2020 (英語)           https://www.ijcai20.org/
MIT-IBM AI Watson Lab (英語)   https://mitibmwatsonailab.mit.edu/
IBM Research – Tokyo                   http://www.research.ibm.com/labs/tokyo/

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