バリューチェーン分析とは何か

植物と回路の形を融合させた抽象的なイラスト。下部から発せられる曲線と上部のピンクのひし形。

共同執筆者

Alexandra Jonker

Staff Editor

IBM Think

バリューチェーン分析とは何か

バリューチェーン分析とは、最終製品またはサービスの創出に関わる各ビジネス活動を観測および評価するプロセスで、その目的は、バリューチェーン内で企業の競争優位性を高めるために改善できる領域を見つけることです。

バリューチェーンの概要

ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるマイケル・ポーター氏は、1985年の著書『Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance』(邦訳:競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか)でバリューチェーンの概念を導入しました。

同氏は、バリューチェーンとは、企業が製品の設計、生産、販売、配送、サポートのために行う活動を表すと説明しています。ここでいう活動は、マーケティングなどの従来の機能よりも範囲が狭くなります。同氏は、企業のバリューチェーンと企業がその中でどのように活動を行うかは、「reflection of its history, its strategy, its approach to implementing its strategy and the underlying economics of the activities themselves(その企業の歴史や戦略、戦略を実施するためのアプローチ、および活動自体の根底にある経済を反映している)」と書いています。

同氏の概念の中核となるのは、製品の組み立てから従業員のトレーニングまで、バリューチェーン活動が顧客価値を生み出し、「basic units of competitive advantage(競争優位性の基本単位)」1であるという考えです。したがって、各活動の価値を最大化することが市場での成功の鍵となります。

バリューチェーンとサプライチェーン

サプライチェーンとバリューチェーンは、しばしば同じ意味で使われることがありますが、関連性があっても異なる用語です。

サプライチェーンとは、原材料の供給業者から最終製品を消費者に届ける配送業者まで、製品の創出に欠かせないサプライヤーのネットワークです。このため、サプライチェーンは企業のバリューチェーンの活動にとって不可欠です。

最適化された高パフォーマンスのサプライチェーンにより、バリューチェーンが効果的に機能し、顧客満足度が向上し、より大きな製品価値が生み出されます。たとえば、効果的なサプライチェーン・マネジメントにより、生産サイクルにおけるコスト、無駄、時間が最小限に抑えられます。一方、価値を最大化し、企業の競争優位性を向上させる効率的なバリューチェーンは、顧客のニーズやウォンツを満たす最適な製品を生産するサプライチェーンを可能にします。

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競争優位の2つのタイプ

ポーター氏によると、バリューチェーン分析の目標は、競争優位を獲得するためにバリューチェーンを改善することであり、つまり最大限の価値を提供し、それによって利益率が向上することです。同氏のバリューチェーンの枠組みでは、企業が追求できる競争優位のタイプとして、主にコスト・リーダーシップと差別化の2つが存在します。

コスト・リーダーシップのメリット

コスト優位性とも呼ばれるこのタイプの競争優位は、バリューチェーンの活動をより効率的にすることでコストを削減する方法に焦点を当てています。目標は、競合他社よりも低コストで製品を生産し、低価格で販売しても高い利益率を上げることです。そうすることで、企業は業界においてコストの低い生産者になることができます。

この目標は、規模の経済、独自の技術、適切なサプライヤーの利用を通じて実現できます。重要なのは、製品は依然として高品質であり、競合他社が提供する製品に匹敵するものである必要があることです。Walmart社とMcDonalds社は、コスト・リーダーシップの競争優位を構築した企業の例です。

差別化のメリット

2つ目の競争優位は、独自の製品差別化を追求するもので、顧客から高く評価されることで、企業はプレミアム価格をつけることができます。ここでの成功は、競合他社から自社の製品を際立たせる際に発生する追加コストを上回る価格を設定できるかにかかっています。

差別化の図り方はさまざまで、製品の特徴、販売方法、マーケティング手法などがあります。スターバックスとアップルは、差別化されたプレミアム製品を通じて競争優位性を獲得した企業の例です。

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バリューチェーンの主活動と支援活動

ポーター氏のバリューチェーン・モデルでは、価値活動を、主活動と支援活動の2つのカテゴリーに大別します。

主活動は、製品の製造プロセス、顧客への販売、および販売後の顧客サービスに関する活動で、次の5つの包括カテゴリーに分類されます。

  • 購買物流活動は、倉庫保管、在庫管理、サプライヤーからの返品など、製品の原材料や部品の受け入れに関連する活動です。
  • 製造活動は、機械加工、組み立て、検査、施設の運用など、原材料や部品(インプット)を最終製品(アウトプット)に変換することに関わる活動です。
  • 出荷物流活動は、梱包、出荷、注文処理など、製品の集荷、保管、顧客への配送を中心とした活動です。
  • マーケティング・販売活動は、広告、プロモーション、価格設定など、顧客に製品の購入を促し、購入手段を提供する活動です。
  • サービス活動は、品質保証、トレーニング、保証書など、販売後の製品価値を向上または維持する活動です。

支援活動は副次的活動とも呼ばれ、主活動をより効率的にすることで支援する活動で、次の4つの包括カテゴリーに分類されます。

  • 調達活動は、製品固有のインプットから事務用品に至るまで、バリューチェーンで使用される原材料や部品の購入に関わる活動です。
  • 技術開発活動は、研究、製品設計、整備手順など、製品とプロセスをアップグレードおよび改善する活動です。
  • 人事・労務管理活動は、従業員の募集、採用、研修、育成、報酬に関連する活動です。
  • 全般管理(インフラストラクチャー)には、総務、品質管理、法務など、製造や販売に直接関係しない間接業務とみなされる活動が含まれます。

企業が競争優位を構築するための各カテゴリーの重要性は、業種や業界によって異なります。例えば、購買物流および出荷物流は、出荷物流を重視しなくてもよい小売業者よりも流通業者にとってより重要です。

バリューチェーン分析の実施

バリューチェーン分析を実施するためのテンプレートや手法は数多くありますが、次の4つのステップは一貫している傾向があります。

バリューチェーンの活動を分類し、理解する

バリューチェーンを改善して競争優位を構築するには、製品やサービスの創出に関わるすべての活動を深く理解する必要があります。これには、主活動と支援活動の両方が含まれます。会社に複数の製品やサービスがある場合は、それぞれの活動を明確に把握できるまでこのステップを繰り返します。

各活動の価値とコスト要因を特定する

次に、各活動の価値とコスト要因を特定します。例えば、製品やサービスに対する顧客満足度を高めるために、各活動がどのように機能するかを確立します。次に、関連するコストを特定します。製品やサービスの価値を特定するには、アンケートを実施するなどして、顧客が価値をどのように認識しているかを理解するようにします。

競合他社のバリューチェーンと比較し、自社のバリューチェーンをベンチマークする

競争戦略を策定・実施するときは、同業他社のパフォーマンスを知ることが重要です。競合他社のバリューチェーンが公開される可能性は低いですが、ベンチマーキングを通じて競合他社のバリューチェーンを把握することはできます。その1つの方法は、競合他社の関連プロセス、ビジネス・モデル、業績評価指標を自社のものと比較することです。

競争優位を獲得する機会を特定する

バリューチェーンの活動や、その価値およびコストを特定したら、分析を行い、どこで競争優位性を達成するのが最適かを判断できます。バリューチェーン分析を合理化するには、まずコストの削減などの主要目標を1つ設定します。次に、設定した目標(コスト削減など)で各活動を分析します。

バリューチェーン分析のその他のメリット

顧客価値と利益率を高めるために競争優位を獲得することは、バリューチェーン分析の最も包括的なメリットですが、それに従属するメリットが他にも多くあります。例えば、バリューチェーンの各活動に関する理解を深めることで、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する目標達成の支援、効率性の向上、廃棄物の削減、自動化の導入などの機会を容易に特定できるようになります。

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