チャットボットの使用例:初心者向けガイド

モダンなオフィスでスマートフォンを使用する若いビジネスマン

著者

Tim Mucci

IBM Writer

Gather

チャットボットは、リアルタイムの会話で人間と対話して応答するように設計されたプログラムまたはスクリプトです。さまざまな組織や個人が、多岐にわたる用途やビジネス機能のためにチャットボットを採用しています。チャットボットは概して、より適切で具体的なサービスのために、事前に作成された回答や情報を提供して基本的な要望を処理したり、顧客から十分な情報を得てライブ・エージェントにつなげたりします。より高度なチャットボットは機械学習人工知能(AI)、生成AIテクノロジーを利用して、ユーザーが入力した内容に基づいてリアルタイムの返答を生成します。チャットボットは多くの組織にとって、1つのツールで複数のビジネスニーズを満たしてくれるスイス・アーミーナイフのような存在になっています。

チャットボットは古くから存在していました。チャットボットとして定義できる最初のプログラムは、1966年にJoseph Weizenbaum氏が作成したElizaです。1988年には、英国生まれのプログラマー、Rollo Carpenter氏が、単にあらかじめ書かれた言葉を提供するのではなく、新しい応答を学習する最初の「対話型AI」としてJabberwockyという名前の「チャッターボット」を作成しました。

この間、チャットボットは大きな進歩を遂げ、会話能力と顧客対応能力がかつてないほど向上しました。大半の企業におけるチャットボットの主なユースケースは、組織と顧客間のコミュニケーションを容易にすることです。それでもチャットボットは不完全であり、最高のチャットボットであっても常にうまく人間を模倣できるわけではありません。しかし顧客は、ぎこちない時があっても、組織がカスタマー・サポート用のメッセンジャー・チャットボットを用意し、問題をライブ・エージェントに伝える前にセルフサービスやトラブルシューティングを支援してくれることを期待しています。

チャットボットには、ルールベースとAI搭載の2種類があります。ルールベースのチャットボットは、事前定義されたルールとスクリプトを使用して、特定のキーワードまたはフレーズに応答します。柔軟性は限られていますが、単純なタスクには迅速かつ効率的なツールです。AIチャットボットは、機械学習とNLP(自然言語処理)を活用してプロンプトとコンテキストを理解します。過去のやり取りから学び、時間とともに改善されていきます。

ほとんどのチャットボットは、会話型AIチャットボットのような高度なものであっても、重要な要素の組み合わせに依存しています。始めに、ユーザーがSMS、音声、またはその他のインターフェイスを通じてチャットボットに質問したり、プロンプトを出したりするユーザー入力を行います。次に、チャットボットがトークン化語幹解釈、見出語認定解析などのNLP技術でリクエストを瞬時に分析し、リクエストの背後にある意味を理解します。

チャットボットはNLP分析に基づいて、ユーザーがおしゃべりしているだけなのか、フライトを予約したいのか、それとも注文を追跡したいのか、といったクエリの目標や目的を特定します。そして意図認識を使用して決定を行い、認識された意図に基づいてチャットボットの内部ロジックとアルゴリズムが適切な返答を決定します。場合によってはナレッジ・ベースへのアクセス、関連情報の検索、またはクリエイティブな返答の生成などを行います。

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組織のチャットボット利用法

全般的に、チャットボットは組織が24時間体制の利用しやすいカスタマー・サービスを提供する上で頼りになる手段となっています。AIアシスタントやエージェントなど、より新しく、より高度なテクノロジーも人気があり、その他の多用途な機能を提供しています。顧客は年中無休のサービスと迅速な問題解決を期待しています。チャットボットは企業にとって、顧客や見込み客にサービスやサポートを提供するための常時稼働チャネルなのです。これにより、組織はリアルタイムで見込み顧客を見極められるようになり、見込み客が求める製品、サービス、または情報に直接誘導するのに役立ちます。チャットボットは顧客の問い合わせに即座に応答して待ち時間を短縮することで、組織のユーザー維持率を向上させることもできます。

高度なチャットボットになると、過去のやり取りや好みを記憶してパーソナライズされた体験を提供し、大切にされている、理解されていると顧客が感じるような個人的配慮を行います。さらに会話の開始、アップセル、ヘルプの提供、顧客にあまりなじみがなさそうな製品やサービスの提案を行う積極的なチャットボットを採用する組織が多くなっています。

ただし、欠点もいくつかあります。組織がチャットボットを採用すると決定した場合、チャットボットが価値あるカスタマー・サービスを提供し、必ず目的に合わせてカスタマイズする責任を負います。混乱を招くチャットボットや役に立たないチャットボットは顧客を遠ざけ、組織のブランド評価を損なうおそれがあります。また、ライブ・エージェントにつなげず対話型チャットボット・テクノロジーのみに依存している組織は、顧客が人と話せないことに不満を抱くので、逆境に直面するかもしれません。

今日の市場におけるチャットボットの多彩なラインナップが示すのは、これらのツールがさまざまな業界にもたらす多様性と効率性です。たとえばLyroは、ディープラーニング機能でカスタマー・サービスに革命を起こしています。一般的な問い合わせを最大80%処理し、応答時間を大幅に改善したのです。Facebookメッセンジャーに搭載されたKukiとGoogle社のMeenaは、高度な言語処理とコンテキストの理解で、日常的なやり取りやオープンドメインの会話において新たな基準を打ち立てました。ServiceNow社が開発したAdaはフレンドリーでパーソナルなアプローチを取っており、よく絵文字やGIFを使って共感やユーモアを表現します。さまざまな特化型のチャットボットもあります。Domino社のメッセンジャーボットのように料理の注文を簡素化するもの、夜のお供をする一風変わったInsomnobot 3000、物件をより多くの人に閲覧してもらうための不動産チャットボット、ユーザーの請求書支払いや口座残高の確認、財務状況の把握を支援するいろいろなバンキング・チャットボット、メンタルヘルスのサポートを提供するWoebot、医療トリアージを支援するBuoyなどです。こうしたユースケースは、ユーザー・エクスペリエンスの向上、オペレーションの合理化、分野を超えたサポートの提供において、チャットボットの役割が拡大していることを示しています。

しかし、そのメリットはオートメーションをはるかに超えます。チャットボットは人間エージェントが複雑な問題や感情的に緊張するような状況の解決に集中できるよう、必要な情報を事前に入力したり、緊急問題を強調したりすることで、急速に人間の社員の同僚となりつつあります。チャットボットは世界規模で展開しており、24時間年中無休で利用できるので、言語の壁を取り除き、即時サポートを提供し、あらゆるレベルで信頼と満足を構築できます。AIインサイトとセンチメント分析の組み合わせにより、企業はカスタマー・ジャーニーを以前より素早く理解し、顧客の問題点を見つけ、サービスを改善し、ニーズが発生する前に予測できるようになります。

エンタープライズ・ビジネスに最適なチャットボットの例

カスタマー・サービス

カスタマー・サービス用チャットボットはシームレスなエクスペリエンスを提供し、顧客と従業員の満足度を向上させます。このようなAI駆動型アシスタントはウェブ・プラットフォームにもモバイル・プラットフォームにも対応しているので、ほとんどの人が簡単に利用できます。

チャットボットは、サービス改善に欠かせない側面である顧客からのフィードバックを自動的に収集する上でも、重要な役割を果たします。さらに、顧客が注文を追跡し、発送済み商品を確認できるようにすることで、購入プロセスに透明性と信頼性を付加します。Amazon社などのオンライン販売者は、チャットボットによるオートメーションを返金と交換のプロセスに拡大して業務を合理化し、販売過程全体にわたり手動介入を削減しました。

標準的なチャットボット、AI搭載チャットボット、バーチャル・アシスタントは、エンタープライズ企業がカスタマー・サービスと事業運営を強化する上でますます重要になってきています。その人気の理由は、顧客がウェブサイトのコンテンツやセルフサービスのサポート・オプションをすぐに利用でき、サービス担当者と対面でやり取りする必要性が軽減されることに起因します。この機能のおかげで顧客は自らの要望に応じて問題を解決できるようになり、サービス・チームはワークロードが軽減されるので、企業がカスタマー・サポート・チームの処理能力を拡大できるのです。

一部の組織では、チャットボットを利用して顧客との積極的な関わり、利用可能なヘルプの通知、ユーザーがサイトを訪問した際の迅速なサポート提供、サイト案内を行い、ニーズに合わせて顧客体験を調整しています。中にはサポート・クエリを効率よく処理するためにチャットボットをナレッジ・ベースと統合したり、サポート・チームや人間の担当者に複雑な問題が転送される前にチャットボットで顧客のニーズを判断している企業もあります。

従業員の能力強化

バーチャル・アシスタントとAIツールは、社内で従業員サポートを支援し、問い合わせに回答し、適切なタイミングで情報を提供します。カスタマー・サービス担当者はチャットボットを使用することで、通常、勤務時間の70〜80%を占める基本的な質問への対応という時間のかかる作業から解放されます。チャットボットがこれらのタスクを自動化することで、担当者は顧客対応が迅速化し、より積極的なサポートを提供する役割に専念できるようになります。この効率性により、顧客満足度が向上すると同時に、チャットボットは実際の人間社員のように給与を必要としないため、人員不足のサービス・チームでも費用対効果の高い価格を設定することができます。

販売およびマーケティング

チャットボットは販売におけるリード創出のオートメーションや強力なマーケティング・キャンペーンの実現に役立つほか、ウェブサイト訪問者やモバイル・アプリケーションのユーザーから事前に情報を収集した上で匿名のサイト訪問者をリードに変換することで、見込み客の一貫した流れを確保できるようにします。見込み客を効果的に発展させ、セールスファネルを通して誘導するためにタイムリーで関連性の高い情報を提供します。

チャットボットを使用すると、予約とスケジュール設定が容易になり、企業と顧客のやり取りが簡素化されます。さらに、顧客が自分の都合に合わせてオンライン購入できるようにするパーソナライズされたレコメンデーションを提供するので、コンバージョン率が高まり、成長傾向にあるEコマースに対応します。

チャットボットはマーケティング活動のために顧客エンゲージメントを強化し、双方向で個人に合ったエクスペリエンスを作り出します。ニュース集約のオートメーションに使われる例が増えており、企業が世界的なニュースやトレンドの先を行くのに役立ちます。タイムリーで関連性の高いマーケティング戦略には欠かせません。医療機関でも、管理業務を効率化するためにチャットボットを活用し始めています。さらに、Eコマース用チャットボットはユーザーの興味に基づいて自動的に商品をおすすめすることで、全体的なショッピング・エクスペリエンスを向上させ、売上を伸ばします。

チャットボットは、ソーシャルメディア・エンゲージメントとメッセージング・プラットフォーム分野の中心となっています。ビジネス向けメッセージングの土台を形成し、組織内および外部顧客との効率的かつ効果的なコミュニケーションを促進します。

人事

人事部門では、チャットボットが自動の事前審査で採用を合理化し、候補者を効率的にフィルタリングして時間を節約しています。対話型のオンボーディングとインタラクティブなFAQを提供して、よくある質問や顧客のクエリにすぐ回答することで、候補者と従業員のエクスペリエンスを向上させます。その上チャットボットは進捗状況を自動更新するので、採用プロセス全体を通じて候補者に情報を提供し、関わりを維持します。

全体として、チャットボットは事業運営のさまざまな側面を変革し、効率を上げ、顧客と従業員のエクスペリエンスを高め、企業のデジタル・トランスフォーメーションに大きく貢献しています。

チャットボットをビジネスに導入する最適な方法

組織にチャットボットを導入する際は、慎重な計画と検討が必要です。以下は、チャットボットの導入を成功させるために組織が考慮すべきベスト・プラクティスです。

1. 目標と目的を明確にする:組織がチャットボットで何を達成したいのかを明確にしましょう。カスタマー・サービスのためでしょうか。それとも従業員の支援、内部情報の検索、またはその他の目的でしょうか。明確に定義された目標が開発および実装プロセスの指針となります。

2. ターゲット・オーディエンスを特定する:誰がチャットボットと対話するのかを理解しましょう。対象者にはどのようなニーズ、期待、コミュニケーション・スタイルの好みがあるでしょうか。チャットボットのトーンと機能をオーディエンスに合わせて調整することは、ユーザーに受け入れられ、満足してもらうためにとても重要です。

3. 適切なチャットボット・プラットフォームを選ぶ:組織のニーズ、予算、技術的専門性に基づいて、さまざまなプラットフォームやツールを調査しましょう。拡張性、セキュリティー、統合、使いやすさといった要素を考慮してください。

4. チャットボット体験を設計する:チャットボットの会話の流れを計画しましょう。ユーザー・ストーリーを作成し、可能性のあるシナリオを綿密に計画して、直感的な操作とユーザー・クエリの効率的な解決を確保します。

5. チャットボットを開発する:これには、ナレッジ・ベースの構築、対話のスクリプト化、AIモデルのトレーニング(機械学習チャットボットを使用する場合)が含まれます。チャットボットの言葉が明確かつ簡潔で、間違いがないようにしてください。

6. テストと改良を実施する:導入前にチャットボットを詳細にテストしましょう。バグや矛盾を特定して対処します。ユーザーからフィードバックを集め、ユーザーの経験に基づいてチャットボットを改良します。

7. 立ち上げと促進をする:ターゲット・オーディエンスにチャットボットを紹介するためのコミュニケーション・プランを作成します。アクセス方法や操作方法について、ユーザーに明確な手順を提供します。

8. モニターとメンテナンスを行う:チャットボットのパフォーマンスを監視し、ユーザーからフィードバックを集めます。データを分析して改善すべき部分を見つけ、必要に応じてチャットボットのナレッジ・ベースと返答を更新します。

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チャットボットに関するその他の重要な考慮事項

  • データ・プライバシーとセキュリティー: チャットボットがプライバシー規制を遵守し、ユーザー情報や顧客データを安全に保護できるようにしましょう。
  • アクセシビリティー:障がいのあるユーザーもチャットボットを利用できるようにしましょう。
  • 人間による監督:チャットボットは人間との対話に代わるものではないということを覚えておきましょう。チャットボットが対応できない複雑な問題や状況に対処できる人間のサポート担当者を必ず配置してください。

こうしたリソースとフレームワークを活用することで、組織は自信を持ってチャットボットを業務に統合し、顧客と企業間のコミュニケーション・チャネルに具体的な改善を施すことができます。組織がより簡単に質問に答えたり、予定を立てたりできるようにするだけでなく、レコメンデーションの個別化を進めてユーザーの満足度や売上を向上できます。これは数ある可能性のほんの一部であり、慎重に計画して実装すれば、適切に設計されデプロイされたチャットボットの恩恵をビジネスで受けることができるのです。

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