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大手医療保険会社のHumana社は、対話型AIを利用して、高いコストがかかっていた事前の電話対応を減らし、医療従事者のエクスペリエンスを向上させました。
コンピューターの前でヘッドセットを使って通話するコールセンターの従業員
概要

米国で最大級の保険会社であるHumana社は、全米の1,300万人以上の顧客に対して、メディケア補足保険、医療保険、歯科保険、眼科保険、薬事保険を提供しています。

複雑かつ非常に重要な分野で差別化を図るために、ヘルスケア・医療保険業界の各社はイノベーションを継続し、カスタマー・サービスと顧客維持を強化していく必要があります。消費者は、質問に対する正確な回答をいつどこからでも迅速に得られることを期待しています。ユーザーの期待に応え続けていくために、各社はサービスの再考をますます迫られています。

人工知能の無限の可能性を探求し続けていくのが楽しみです。 Sara Hines氏 Director of Provider Experience and Connectivity Humana社
レガシー・システムの課題

Humana社のIVR(音声自動応答)システムは、あまりにも多くの電話を人間のエージェントに転送していたため、同社に多大なコストがかかり、顧客満足度のスコアに大きく影響していました。医療従事者の事務担当者は、Humana社の加入者の保険プランの給付や資格について、同社に電話で問い合わせます。Humana社が医療従事者から受ける電話は毎月100万件を超えています。ほとんどの発信者はIVRシステムをオプトアウトして外部委託のコールセンターに転送され、その通話料はHumana社が支払っていました。これらの通話の60%以上は、医療サービス提供前に受ける定型的かつ具体的な質問に関連しており、明確に定義された回答がありました。

Humana社は、高まり続けるユーザーの期待に応えるために、顧客からの問い合わせに対応する方法を全面的に見直す手段を必要としていました。Humana社のプロバイダー・サービス・イノベーション(PSI)チームが、高いコストがかかる事前の電話対応によりよく対処し、医療従事者のエクスペリエンスを向上させるソリューションを見つける任務を負いました。

これは一度セットアップすれば完了という類いのテクノロジーではありません。ここから得られる本物のインサイトを活用するには、監視、トレーニング、管理が必要です。
医療従事者が必要とする情報を必要なときに提供

Humana社がこの取り組みを始めた2016年当時、対話型のアシスタントは現在ほど普及しておらず、高度でもありませんでしたが、同社はカスタマー・ケア向けのAIに大きな可能性を感じていました。Humana社は、エンタープライズAIで業界をリードするIBM Watsonとの連携を選択し、IBMのData and AI Expert Labs & Learning(DAELL)とのコラボレーションを開始しました。3カ月にわたる概念実証(POC)をへて、Humana社とIBMが開発を始めたソリューションは、Provider Services Conversational Voice Agent with Watsonとなりました。このソリューションは、Watsonの複数のアプリケーションを単一の対話型アシスタントに統合したもので、IBM Cloud上で稼働します。一方、watsonx Assistant for VoiceはHumana社のオンプレミス環境で作動します。

HumanaのVoice Agent with Watsonは、医療機関の管理スタッフが、生身のエージェントと話すことなく、サービス前、医療資格、検査、承認の情報、および参照情報にアクセスできる、より迅速で、より親切で、より一貫性のある方法を提供します。このソリューションは、AIを利用して医療機関の通話の意図を理解し、システムと会員情報へのアクセスが許可されていることを確認し、要求された情報を提供する最適な方法を決定します。

Voice Assistantは、7つの言語モデルと2つの音響モデルで音声の処理を大幅にカスタマイズしており、各モデルはHumana社が収集した各種のユーザー・インプットに個別に対応しています。音声カスタマイズのトレーニングの結果、このソリューションの重要なデータ・インプットにおける文誤り率の精度は平均90~95%の水準に達しています。処理の実装では、資格、給付、請求、承認、紹介という主要な区分の中で複数のサブ・インテントに対応しています。こうしてHumana社は、以前なら答えられなかった質問に迅速に回答できるようになりました。以前のIVRシステムでは、「給付」に関する要求に対して7ページのFAXが送信される場合がありました。現在のWatsonソリューションは、特定の給付についてピンポイントで回答できるようになっています。例えば、「カイロプラクティックの受診の自己負担額は100米ドルです」といった回答が可能です。

企業が最高水準のカスタマー・サービスを実現するうえで、watsonx Assistantの新機能がどのように役立つかをご覧ください。

私たちはこれを告知なしで行い、新しい環境に移行することを医療機関に伝えませんでした。医療機関の反応を理解し、Watsonに微調整を加えて引き続き進化させ、様子を確かめたかったからです。
WatsonとHumana社の次のステップ

このソリューションは、2019年4月に医療従事者からの実際の通話への対応を開始し、機能とユーザー基盤を拡大するために、年間を通じていくつかのアップデートが加えられました。既存のシステムの約3分の1のコストで問い合わせを処理できており、全体の回答率も以前の自動IVRシステムのほぼ2倍に向上しました。

開発の過程で、IBM Watson Expert Services Labチームは、帯域幅の狭いコールセンター環境で医療用語の認識度を高められるカスタム・トレーニングとモデルを適用し、Watsonのサービスを改善しました。これはいくつかの特許の申請につながりました。また同チームは、大規模なWatson Voice Assistantソリューションを開発、テスト、調整するためのツール、ガイド、手法を公開しました。Humana社のVoice Assistantソリューションのパターンは、最近になってwatsonx Assistant for Voice Interactionソリューションに正式に取り入れられました。

「Humana社のVoice Agentでは、Humana社と連携している医療従事者向けのセルフサービス機能が大幅に向上し、さまざまなデータ・ポイントにわたる患者の保険の補償範囲について、迅速かつ効率的に情報を取得できるようになりました。医療従事者はWatsonベースのソリューションに電話をかけてから約2分で問い合わせを完了でき、コールセンターの担当者に電話がつながるのを待たずに済みます。これらのやり取りにおいて、私たちはこれまでにないレベルのインサイトを獲得できています」と、Humana社でプロバイダー・エクスペリエンスと接続の担当ディレクターを務めるSara Hines氏は述べています。

このソリューションは120の医療従事者から1営業日あたり7,000件以上の通話を受けています。ユーザーからのフィードバックは非常に好意的です。「Watsonを利用したHumana社の取り組みは、開発に3年を費やし、導入後も成長を続けています」とHines氏は言います。「Humana社が医療従事者とのコミュニケーションを強化していくうえで、これはほんの始まりに過ぎません。人工知能の無限の可能性を探求し続けていくのが楽しみです」

対話型コンピューティングに関するForresterのNew Waveレポートでwatsonx Assistantがリーダーに選出された理由をご覧ください。

次のステップ

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2023年10月米国で作成。

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