S
Smarter Business

インテリジェント・ワークフローの最新動向と実現ステップ

post_thumb

※新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

新見 武彦

新見 武彦
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
ファイナンス&サプライチェーン・トランスフォーメーション
パートナー

製造・流通業を中心に、サプライチェーン(SCM)領域のコンサルティングを30年以上実施。現在、SCM領域のインテリジェント・ワークフローの推進役を担当。SCM領域において、IT戦略立案から、業務改革、業務/システム要件定義、設計/開発/移行、運用保守まで幅広く担当。企画/構築して終わりではなく、その後のお客様の効果創出までを支援してきた。

 

塩塚 英己

塩塚 英己
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 データ・AI・オートメーション事業部長
執行役員

データ・AI・自動化ソフトウェア製品の日本における事業責任者。日本IBMにて製造業のお客様担当営業、サービス部門営業部長、コンサルティングパートナー、ビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)事業部長等を担当した後、2021年より現職。一貫してテクノロジーを活用してお客様のデジタル変革を支援するリーダーシップ・ロールに従事。

 

植田 毅

植田 毅
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 テクニカル・セールス ビジネス・オートメーション
ITスペシャリスト 

業界問わずWebシステムの構築プロジェクトに数年間従事し、2008年よりソフトウエア事業でWebSphere製品の技術支援を担当。最近では、ビジネス・オートメーション製品に関わる、技術的な営業活動を実施している。

 

地政学リスク、環境問題、労働生産人口の減少、増加するデータと、企業を取り巻く状況は複雑になる一方だ。そのような状況で、解決の一助として期待されているのが自動化だ。AIに代表されるように自動化技術は進化しており、効果的な活用により単なる業務効率化に留まらない価値やメリットを引き出すことができる。

現在、自動化は特定の業務や一部の部門に留まっている。今後、自動化が業務や組織をまたがるようになると、どのような世界が実現するのか。アイ・ビー・エム(以下、IBM)は、エンドツーエンドでの効率化を実現するためのコンセプトとして「インテリジェント・ワークフロー」を掲げる。

インテリジェント・ワークフローを実現するまでのステップ、技術ソリューション、事例について、日本IBMの新見武彦、塩塚英己、植田毅が、コンサルティングとテクノロジーの観点から語る。

 

業務や人をエンドツーエンドでつなぐインテリジェント・ワークフロー

IBM 新見 インタビューカット

 
ーーはじめに、インテリジェント・ワークフローの概念について教えてください。 

新見  インテリジェント・ワークフローは、エンドツーエンドで業務や人をつなぐことにより効率化を図るものです。AIなどのテクノロジーを活用して効率化や自動化などを進めることで、業務効率化だけでなく、顧客への価値を高めるなどのメリットが得られます。

IBMは2018年頃からインテリジェント・ワークフローを提唱していますが、コロナ禍を経て、お客様にとっての重要性がさらに高まっています。デジタル・トランスフォーメーション(DX)において、中核となるソリューションという位置付けです。

 
ーーインテリジェント・ワークフローが重要視される社会的背景について教えてください。

塩塚  背景として、データが蓄積されてきたことがあります。これまでの自動化は部分的であり、さまざまな制約を受けていました。AI、IoT、ブロックチェーンなどの技術により、サイロ的だったものが横断的になりつつあります。また、これまではルールが決められたものしか自動化の対象になりませんでしたが、機械学習により動的にルールを変えることも可能になってきました。

日本特有の背景として、労働生産人口の減少もあります。2040年には20%減少するという予想もあり、これを人口換算すると1500万人分の労働力がなくなることを意味します。人手頼みの業務プロセスは限界に来ていると言えるでしょう。

新見  私が担当しているサプライチェーンでは、新型コロナの影響、半導体不足、ウクライナ情勢などにより世界的にサプライチェーンの分断が進みました。我々の日常生活にも影響し始めており、これまでは「有事」として扱ってきた状況が「平時」と認識した方がよいような感覚で発生しています。

このようなことから、サプライチェーンでは、「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」という3つのチェンジ・ドライバー(変革を促す要因)があるとみています。

レジリエンスとは、地政学的な問題や半導体不足などに柔軟に対応していくこと。グリーンとは、政府が掲げる2050年カーボンニュートラル実現など環境面の動きです。規制に対応するだけでなく、新たなビジネスのチャンスと捉えることができます。デジタルでは、ハイパースケーラー(大規模なパブリッククラウド)を活用できるようになり、データを溜めたり環境を構築したりすることが容易になりました。しかし、まだまだ一部の部門に限定されており、エンドツーエンドではありません。

 

自動化を点、線、面で考える、インテリジェント・ワークフロー実現に向けた3ステップ

IBM 塩塚 インタビューカット

 
ーーインテリジェント・ワークフローの最新動向について教えてください。

新見  最初の段階として、業務を統合したり情報を集めたりする基盤となるSAPやOracleなどのERPを導入します。幹となるERPがあり、そこにデータがどんどん溜まる仕組みを構築するイメージです。しかし、ERPは例外処理には対応できないので、ERPを導入しても十分な効率化ができていない、付加価値のある業務ができていない企業も多い。それに対して先進的な企業は、調整業務などERPでは対応できない部分への対応を模索して、さまざまな取り組みを実施しています。

例えば、集まったデータとAIを活用して例外処理などをエンドツーエンドで自動化するなどの取り組みがあります。ERPに溜まったデータを利活用してユースケースを作るため、何らかの仕組みを入れればできるというものではありません。SIやベンダーに頼らず、お客様が主体となって検討しながらやっていくことが重要となります。

IBMでは、クイックに作ることができるGarageという手法をご提供しており、アイデアを3カ月程度で形にし、クライアント企業の社内に伝播していくアプローチを支援しています。中には、クライアントの業務担当者が改革を進めていくために、実際に動くものを役員会で見せる場合もあります。業務担当者の熱意が伝わり、クライアント企業の社内でプロジェクトとして発足して、高次元のものができ上がっていくケースも出てきています。

このように考えると、インテリジェント・ワークフローは業務改革というより、お客様自身による働き方改革と言ってもいいかもしれません。ERPという型にはめられたものではなく、自分たちは業務をこんなふうに変えていきたいと思った時、インテリジェント・ワークフローを簡単に作ることができる環境が重要になります。

塩塚  テクノロジーの観点でインテリジェント・ワークフローがどのように進化しているのかについてお話しします。

インテリジェント・ワークフローは新しい技術というより、既存のテクノロジー活用の進化系と捉えるとわかりやすいでしょう。

最初の段階は「点の自動化」で、特定の人が行っている作業を単一のテクノロジーで代替するような効率化を狙った活用です。RPAを使った電子メールの自動配信といった、単純な業務になります。

次の段階が「線の自動化」です。部門全体のプロセスを自動化する段階で、主なメリットは高度化です。ここでは、RPAやルールエンジンなど複数のテクノロジーを組み合わせて使います。例えば、経費精算の自動化、チェック業務といったようなものがあります。

その先が「面の自動化」であり、インテリジェント・ワークフローとなります。部門横断、場合によっては業界横断するようなスコープで、AIを含む複数のテクノロジーを活用して自動化を進めます。これにより、体験の変化が得られます。この段階においては、定型業務だけでなく、非定型業務や判断業務も含めた自動化を実現できる世界を目指します。

インテリジェント・ワークフローへの進化 イメージ

 

自動化の3領域を支えるIBMの「Cloud Pak」製品群

ーー最新のインテリジェント・ワークフローは、IBMのどのような技術や製品が支えているのでしょうか。

塩塚  自動化を実現する領域は、ビジネス、IT、アプリケーションとデータの統合という、3つがあります。各領域の自動化を実現するための技術要素として、「Cloud Pak for Business Automation」「Cloud Pak for Watson AIOps」「Cloud Pak for Integration」、土台となるデータとAIの活用のためのデータ・ファブリックを実現する「Cloud Pak for Data」という製品を用意しています。

植田  ビジネスの自動化を実現するCloud Pak for Business Automationをご紹介しましょう。

コアの自動化機能として、ワークフロー、人間の判断を自動化する意思決定、コンテンツ管理、OCRを提供しています。これに加えて、自動化を加速させる機能として、プロセス・マイニングやRPAを提供しています。プロセス・マイニングは現在のプロセスを可視化し、分析して改善につなげることができる技術で、RPAは人の作業を自動化できます。

また、ローコードでアプリケーションを作成できる機能も提供しています。プログラミングで行うと、時間がかかることもあり、ローコード開発ツールで自動化の仕組みを持つアプリケーションを容易に構築可能です。

これらを一つのプラットフォームでIBMでは提供しており、モジュールとして必要なものを利用してインテリジェント・ワークフローに近づけることができます。

データ×AI×自動化のエンタープライズ活用を加速するIBM Cloud Paksのイメージ図

 
ーー企業のインテリジェント・ワークフローに向けた取り組みを支援するにあたって、IBMならではの強みはどこにあるのでしょうか。

新見  大きく3つあると考えています。

1つ目は、コンサルティング能力です。戦略立案から、実際に業務をどう変えていくかまでコンサルティングを行い、それをシステムとして導入、その後の保守・運用まで幅広いご支援ができます。

2つ目は、自社でソフトウェアとソリューションを持っている点です。

3つ目は、IBMが事業会社であり、自社のサプライチェーン管理(SCM)でインテリジェント・ワークフローを追求している点です。メーカーでもあるIBMが試しながら改善を重ねており、我々が困ったところを解決する自社の技術やパートナーの技術が入っています。お客様にIBMのベストプラクティスをお見せすることができるため、ここは最も重要な強みだと考えています。

このように、コンサルティング能力、自社がテクノロジーを提供できること、自社自身がユーザーであること、この3つがそろっているグローバルカンパニーはIBMだけと自負しています。

植田  ソフトウェア面での強みとして、IBMには研究開発部門があります。IBMは29年連続で特許獲得数1位であり、AIやオートメーションといった分野の研究開発にしっかり投資しています。そして、開発された最先端の技術をすぐ製品に加えることができます。

さきほどご紹介したCloud Pak製品のコアは10年以上の歴史があります。市場のリーダーと位置付けられている製品で、さまざまなお客様の声を反映して拡張してきました。このような安定した技術土台に特許を取得したばかりの新しい技術を追加するなど、継続して投資しています。

今後進化していくうえで不足している技術が出てくると予想されますが、それに対しては研究開発のほか、買収を通じて補強していきます。ここ数年の買収としては、RPAでWDG Automationを、プロセス・マイニングではmyInvenioを取得し、プラットフォームを拡充しています。

 

サプライチェーンや知の継承などに見る、インテリジェント・ワークフローの成果

インテリジェント・ワークフローの例

 
ーーインテリジェント・ワークフローの具体的なユースケースを教えてください。

新見  サプライチェーンを例に全体像をお話ししましょう。

異なるものを結びつけてより価値のあるものに変えていく際、“つなぐ”糸を「ゴールデン・スレッド(金の糸)」と呼びますが、インテリジェント・ワークフローはサプライチェーンに参加する企業を結びつけて価値を生んでいくゴールデン・スレッドと言えます。

サプライチェーンは広い領域であり、調達、製造、ロジスティクス、保全、研究開発、市場・サービス提供などをつないでいきます。例えば、受注と製造がつながっていれば計画業務/調整業務を効率化できます。製造と保全をつなげることで工場の操業を最大にすることが可能ですし、受注生産の業務であれば、受注と設計のペーパーレス作図・自動加工をつなげるといったことも考えられ、生産性を向上させたり付加価値を高めたりすることが可能となります。

入口はお客様が課題に感じているところになりますが、特定の領域に閉じるのではなく、他の領域につながりを広げていくことでさらなるシナジーが得られます。

塩塚  研究開発の領域での事例もご紹介します。

この領域は、これまでAIとデータの活用という点ではあまり活発ではなかったのですが、最近は化学業界において、素材の用途を探索するにあたってAIの自然言語処理を活用する動きが広がっています。

具体的には、「IBM Watson Discovery」というテキスト・マイニング・ツールを使って大量のニュースや特許情報を分析し、素材や機能特性を供出するような新たな用途や化合物を把握する使い方です。

効果としては、人間の判断では気付かないような素材の新たな用途を短期間で探索できるだけでなく、潜在顧客の把握、さらには競合他社の技術動向が把握できるメリットも得られます。

植田  保全/スマート・メンテナンスの領域では、生産ラインのトラブル対応における知の継承を構築しています。

製造現場でも人手不足は深刻で、熟練者のシニア化により専門知識を持つ人をどう確保するか、どう継承していくかが大きな課題となっています。この課題に対して、ワークフロー化のような形で熟練者の判断を自動化する仕組みを作ります。熟練者の知識、作業の手順、判断をシステム化することで、その仕組みを利用して非熟練者が熟練者と同じように作業ができるようにするのが目的です。

実際の流れでは、現場の作業者はスマートグラスを装着したりモバイル端末を携帯するなど、遠隔とやりとりできる体制でメンテナンス作業をします。これにより、非熟練者であってもデジタル・ワーカーと対話しながら状況を理解し、指示を得ることができます。ルールエンジンにより、既知の対応であれば定型ワークフローに回して解決し、未知の対応であれば熟練者にヘルプのリクエストを飛ばすなどして、アドホックに問題解決をはかります。

このような作業はすべてオペレーション実行ログに蓄積されていきます。ログが溜まってくると、プロセス・マイニングを活用し、未知だった問題も既知の問題として登録して定型ワークフロー化したり、新たなルールとしてルールエンジンに追加するなどのサイクルを回します。熟練者が実行オペレーションログに自分の作業を残すことを評価するような仕掛けがあれば、熟練者にもメリットがある仕組みとなります。

このようにして、熟練者が持っている知を継承していくことができます。この仕組みは保全で進めているものですが、他にもさまざまな分野に応用できるでしょう。

 

業界プラットフォームの実践により、サステナビリティーなど社会課題解決も支援

IBM 植田 インタビューカット

 
ーーインテリジェント・ワークフローにおける今後のビジョンをお聞かせください。

塩塚  今後、インテリジェント・ワークフローをコアとしたビジネスが業界横断的なものに発展していくと考えた時、ビジネスモデルも進化させていく必要があります。

従来のモデルでは、コンサルティングのサービス契約、プラットフォームのクラウドの契約、ソフトウェアのライセンス契約などと、複数の契約をIBMと取り交わす必要がありました。これでは、お客様は投資とメリットのバランスを判断しにくい。そこで、サービスとテクノロジーをバンドルした契約形態として、アズ・ア・サービス型での提供を進めていきたいと考えています。場合によっては、従量課金のように使用料に応じた課金形態、あるいは成果報酬的にお客様が享受できたメリットに連動したような課金体系も考えられます。

新見 サステナビリティーへの貢献とインダストリー・プラットフォームの実践という、2つのビジョンを描いています。

1つ目のサステナビリティーについては、これまでお話ししたような効率化を進めていけば、無駄な生産がなくなり、在庫が減り、破棄がなくなるでしょう。製造過程で失敗したり、廃棄したりするものがなくなるため、資源を大切にすることにつながります。そこにかかる電力という点で、二酸化炭素の排出量削減にも貢献できるでしょう。

このように、当初は自動化と効率化を目的に開始したインテリジェント・ワークフローですが、サステナビリティーの点でもメリットが得られます。環境に取り組む企業や倫理的な企業であることは、従業員の維持にもつながります。今後はそのような実装を意識したユースケースを進めていきたいと思います。

2つ目のインダストリー・プラットフォームは、会社をまたがるエンドツーエンドのプロセスを可能にするプラットフォームです。ゴールデン・スレッドとして企業内をエンドツーエンドでつないだ後は、企業をまたがってつないでいく。これにより、サステナビリティーに代表されるような社会課題の解決が図れるでしょう。業界をまたいだプラットフォームの構築は簡単なことではありませんが、IBMは「オープンな仕組みでつながるバーチャル・エンタープライズ」として、企業間の自動連携を促していきます。ここでインテリジェント・ワークフローは土台の役割を果たします。

すでに三菱重工業様と、カーボンニュートラルの取り組みを進める「CO2NNEX」というデジタル・プラットフォームの構築を進めています。

このようなプラットフォームを通じて、業界だけでなく環境や社会にも貢献していきたいと願っています。