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[共創のエキスパートたち vol.1] 黒木 俊介「フワッとした混沌の中から、お客様とともに新たな価値を生み出す」

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「デジタルを活用した新規事業の開拓といっても、まず何から始め、どのように進めたらよいのかわからない」「デザイン思考の考え方も取り入れながらビジネスを再構築したい」「当社もIoTとクラウドを使ってビジネスを大きく変えたい!」「先進ITで何か新しいことやりたいんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」──こんな悩みや課題をお持ちのご担当者に向け、イノベーションを推進するためのヒントとなる情報を連載企画にてお届けします。

IBMでは、皆様の“デジタルの壁”を打破し、イノベーションを共創しています。ビジネス変革に向けたアイデア創出から、先進ITソリューションの最適な活用法を探るPoC(Proof of Concept、概念実証)、現場での実証実験までを素早く実施。その際に、すでに多くのお客様が活用されているのがIBM Garageサービスです。

特別企画「IBM Garage:共創のエキスパートたち」では、デジタルストラテジストやデザイナー、サイエンティスト、エンジニアとしてお客様をご支援している各領域のエキスパートにフォーカスし、担当してきた事例なども交えてご紹介していきます。ぜひ、イノベーション創出への第一歩として、お気軽にご指名いただければ幸いです。

 

第1回「データサイエンティスト 黒木 俊介 ── フワッとした混沌の中から、お客様とともに新たな価値を生み出す」

黒木 俊介

▶IBM Garageでの主な担当案件
都市銀行様 新規リテール顧客の開拓施策
都市銀行様 店舗窓口業務の高度化
製造業様 補修部品の将来需要予測

 

IBM Garageに限らず、ITプロジェクトを支える領域には大きく「ビジネス」「データサイエンス」「エンジニアリング」の3つがあり、これらをベン図で表現するとそれぞれが交わる部分ができます。私自身はこの交わりの部分を広げていく、つまり他の領域への理解を深めることで、データサイエンティストとしての引き出しの数を増やしていきたいと思っています。

 

補修部品の在庫数の適正化に需要予測AIは使えるか?

私はデータサイエンティストとして、業界・業種を問わず、さまざまなお客様のビジネスでデータを使って新たな価値を生み出す取り組みのお手伝いさせていただいています。

例えば、あるグローバル製造業のお客様では、製品の補修用部品の在庫数の適正化に機械学習で作成した需要予測モデル(AI)を使えないかを検証しました。IBM Garageでは「スプリント」という単位で数週間ごとに期間を区切って進めるのですが、最初のスプリントで全体の計画を策定。次のスプリントでは国内向けに提供している特定の補修部品群を対象に、過去の販売データを機械学習させて需要予測モデルを作り、それを使って予測を行いました。その結果、それまで何十年も利用してきた需要予測システムやベテラン社員の経験と勘に頼った予測よりも誤差を約50%減らせることがわかりました。

続くスプリントでは対象地域を拡大し、米州や欧州、アジアの各地域でも同じ補修部品群を対象にして需要予測モデルの作成と予測を行ってみました。すると、いずれの地域でも従来と比べて50%以上、ある地域では84%も予測誤差を減らせることが確認できました。

さらに、次のスプリントでは製品の発売から年数が経ち、補修部品の供給が終わる終末期にかけての需要を予測しました。この種の予測はとても難しく、多くの現場では前年の値に0.9を掛けて徐々に減らしていく“0.9掛け”のロジックが使われていますが、機械学習による予測モデルはほとんどのケースで“0.9掛け”を上回る精度を発揮しました。

ただし、面白いこともわかりました。一部の領域では“0.9掛け”のほうが高い精度を発揮したのです。そこで、この補修部品に関しては両者を組み合わせて使うのが最適と判断しました。IBM Garageでは、特定のソリューションや方法論に固執せず、良い結果が得られる手法は何でも取り入れます。“0.9掛け”が最新のAIよりも高精度なら、今はそれを使うのが正解なのです。

最終的に、このお客様は機械学習による予測モデルの有効性に納得され、当初の予定を前倒しして現場への試験導入のフェーズ(パイロットフェーズ)に移られました。

 

“時間ありき”がIBM Garage流。無駄なことは一切省いて価値創出に集中

私がIBM Garageで心掛けていることの1つは、一般的なITプロジェクトとはアプローチが全く異なるため、自分自身もマインドを変えて臨むことです。

例えば、従来のPoC(Proof of Concept:概念実証)ではまず提案書を書き、プロジェクトの期間やスコープを決めてスタートします。一方、IBM Garageでは“時間(タイムボックス)ありき”で進めます。スコープよりも時間を優先するのです。もちろん、やることの範囲は決めますが、それをいくつかのスプリントに分け、優先順位が高いユースケースから順に検証を進めます。1つのスプリント内で検証が終わらない場合は期限が到来したらいったん区切り、そのユースケースは有望なので続けて取り組むか、見込みがないから別のユースケースに移るかを判断します。

逆に、検証が早く進んで余裕ができた場合でも、余計なことはやりません。最初のうちは「余裕があるから、最後の1週間でここをもう少し作り込んでもいいかな」などとおっしゃっていたお客様も、「見切りが付いたユースケースを深掘りするよりも、他のユースケースに移って多くの可能性を探りましょう」とお話ししていると、やがて「今はこの部分の作り込みは必要ないので、別のユースケースに移ろう」と自らおっしゃるようになります。

 

これまでと違うやり方で、混沌の中から新たな価値を生み出す喜び

私にとってのIBM Garageとは、これまでの働き方とは違うやり方でお客様の仕事を変革したり、新たなサービスやビジネスを生み出したりするプロセスです。そのプロセスも決められた手順で進めれば自ずと成果が出るようなものではなく、むしろ混沌に近いものです。その混沌の中からお客様とともに新たな価値を生み出していく場がIBM Garageなのです。

この観点から最近、注目している考え方が「アート思考」です。近年、既存の課題に対してクリエイティブな考え方で解決に取り組む「デザイン思考」という思考法が注目を集め、IBMでも積極的に取り入れています。私の専門領域であるデータサイエンスも、既存の課題に対して最適解を見いだすための技術です。これらは課題というマイナス状態をゼロにする技術だと言い換えてもよいかもしれません。

それに対して、アート思考とはそもそも何が課題かもわからない状態の中から課題を見いだす思考法です。ゼロから1を生み出すように、これまでにない課題や観点を提起したり、新たなサービスやビジネスを生み出したりするわけです。IBM Garageの活動では、デザイン思考だけでなく、アート思考の考え方も取り入れていく必要があると感じています。

IBM Garageにご相談いただく内容は、具体的な課題に落とし込む前のフワッとしたものが多いですね。その本質を突き詰めた結果、時にはお客様が予想もしていなかった解決策に至るケースもあります。「具体的にどうしたらいいかはわからないが、何とかしたい」という悩みをお持ちのお客様は、ぜひ私たちにご相談ください。
 
 

 


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