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Smarter Business

ニューノーマル下で組織変革を推進するために、コミュニケーションが重要な理由

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山口 嘉毅
日本アイ・ビー・エム株式会社
事業戦略コンサルティング・グループ
アソシエイト・パートナー

戦略と実装の間で組織と人に働きかけ、変革を推進する「チェンジ・マネジメント」のコンサルティング事業に従事。変革の推進に当たっては、リーダーシップの確立、ステークホルダーの意識覚醒などを支援。専門領域は、組織変革戦略、変革プログラムマネジメント。

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナウイルス)の危機を経て到来するニューノーマルの時代に向け、デジタルツールの活用が急速に進んでいる。それに伴って、ワークスタイルは多様化して定着するだろう。本稿では、そのような経営環境の変化の中で組織変革を推進するために、これから注目すべき事項について展望する。

本稿は、連載「ニューノーマル時代のDX経営モデル」の第2回。第1回『ウィズ/アフターコロナ時代に求められる経営戦略とは——鍵を握るDXの実現に向けて』も合わせて参考としていただきたい。

新型コロナウイルスの危機が加速させる多様なワークスタイル

新型コロナウイルスの危機に対し「短期的に必要な対処を行う段階」を経て、ビジネス環境においても、新たな行動様式を前提とする「ニューノーマルの時代」となり、その急速な変化に適合することが求められると言われている。その流れの中ですでに、ビジネスに関わるすべての人のワークスタイルは、目に見える形で劇的に変化しつつある。

デジタルツールの活用により、「会わなくてもできること」「行かなくてもできること」が明らかになり、さらには、リモートワークだからこそ実現できる効率的なコミュニケーション方法や意思決定プロセスが適用されるといった効果も見られる。このような効果の背景には、デジタルツールを活用したワークスタイルにおいては、成果に焦点を当て、過程が軽視される傾向があるためだ。このことは、より良い成果を出せば、ある程度方法は問わないことを意味する。

そのため、組織においては多様なワークスタイルを許容することになる。そして、さまざまな働き方をサポートするためには、さまざまな人事制度を用意する必要が出てくる。その上で、従業員においては、各自が自分に合った制度を活用し、自ら計画・実行する働き方が求められる。経営層においては、そういったメンバーの協業を創り出すリーダーシップが求められるだろう。

ニューノーマルの時代において、変化と組織文化の慣性が生む対立

ニューノーマルの時代に向けワークスタイルが急速に変わる一方で、ゆっくりとしか変わらないものもある。それが組織文化だ。組織文化は、時間をかけて学び、共有し、そして大切に残してきた考えや行動のパターンである。そのような両者の変化スピードの違いに伴って、ワークスタイルやコミュニケーションにおいてギャップが生じ、組織変革の阻害要因が生じる可能性が高い。

つまり、ニューノーマルの時代に見られるスピードと、ゆっくりと変わる組織文化の慣性の対立から、より良い将来の経営のためにやらなければならない変革が具体的にわかっていても、その変革を実行することができないケースが増えるだろう。

変革を推進するために、ますます重要となるソフト要因

変革を推進する要因には、ハード要因とソフト要因がある。ハード要因とは組織構造や業績評価制度、業務プロセス、情報システムといったビジネスを支える仕組みのことだ。一方でソフト要因とは、変革を推し進める組織文化やリーダーの振る舞い、共有されたビジョン、誠意あるコミュニケーション、従業員の当事者意識やモチベーションといったものである。

ニューノーマルの時代に入り、急速に増えるであろうワークスタイルやコミュニケーションのギャップを解消・軽減するためには、ハード要因を再整備することはもちろんだが、ソフト要因に関する取り組みはますます重要となる。

会うことの少ない従業員に対しどのように変革のリーダーシップを発揮すべきか、多様なワークスタイルを求める従業員が当事者意識を持って変革に取り組むためには、どのようなコミュニケーションを図るべきかといった点に、経営層は今まで以上に注意を払っていくことになる。

組織変革を意味あるものにするためのコミュニケーション

ニューノーマルの時代における組織運営に当たっては、多様なワークスタイルを前提とした上で、あらためて合理的で率直なコミュニケーションを重ね、信頼関係を構築・維持していくことが必要だ。また、そういった新たな取り組みを通じた信頼関係があって初めて、これからの組織変革に対する機運が醸成されることにつながる。

具体的なコミュニケーションとして、コーチングやフィードバック、コミュニティー活動、経営層とのミーティングなど、組織の中の縦、横、斜め、あらゆる方向において機会設定することが考えられる。また、それら一つひとつについて、デジタルツールを介して行うことになろうとも、機会を形骸化させることなく誠実に行なっていくべきだ。

そのような考え方を踏まえ、IBMではさまざまな社内コミュニケーションが実践されている。以下に抜粋する。

  • Slackのチャネルでトップが語りかけることを通して、経営層が関心を持っているテーマを全従業員が共有すること
  • 若手が新規事業アイディアを創出するコミュニティ活動にて、自ら創造的な情報を発信する文化を醸成すること
  • マネージャーからメンバーへのフィードバックを行う習慣を通じて、成長機会を設けること
  • 将来的に期待されるビジネスに必要なスキルや知識を全従業員の必須研修として取り扱うことで、キャリアの選択肢を広げること

このようなコミュニケーション施策を戦略的に取り組むことで、変革を意味のあるものにすることができるだろう。

photo:Getty Images