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金融機関のDXを共創する、IBMの「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」とは

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孫工 裕史

孫工 裕史
日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員  
グローバル・ビジネス・サービス事業本部 
金融サービス事業部担当


1998年 日本IBM入社以来、金融機関担当の営業、営業部長としてお客様経営課題解決を支援。2018年よりグローバル・ビジネス・サービス事業本部にてコンサルティング、システム構築、システム保守などのサービスビジネスをリード、金融業界において多数の先進事例を推進。2020年4月より、同事業本部金融サービス事業部を統括している。

金融機関を取り巻く環境は複雑化している。人口減少、長期化するマイナス金利政策、異業種参入による競争激化、さらに新型コロナウィルス感染症(Covid-19/以下、新型コロナウイルス)の拡大による経済停滞および新たな資金需要対応など、対処すべき課題は数多く、いずれも悩ましいものばかりだ。

金融機関が将来にわたり公器として社会や企業から求められる存在であり続けるには、すでに到来しているDX時代の波を捉え、「持続可能な収益性」と「将来にわたる健全性」を備えた新たな経営スタイルの確立が求められる。

長く金融機関のITシステムを支援してきた日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)は、日本の金融機関がITの構造改革を通じてDXを進め、新サービスの創出やビジネスモデルの変革を支援するフレームワーク「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」を発表した。本稿では、このオープン・ソーシング戦略フレームワークを詳しく紹介するとともに金融機関の課題解決について提言する。

金融機関は高経費率体質からの脱却を

上述の通り、金融機関経営者が抱える課題は複雑化している。しかし、それぞれの課題を解決するために金融機関が取るべき対策は以下の4点に集約されると考える。

  1. 新たな事業モデルによる収益性の向上
  2. 顧客ニーズに対応した新商品・新サービスの積極展開による価値提供の維持
  3. デジタル時代人材の発掘・育成
  4. 変容するサイバーセキュリティやコンプライアンス要件への対応

最も大きなチャレンジは「1. 新たな事業モデルによる収益性の向上」であると考える。過去より日本の金融機関は、全ての顧客に対して同質の商品・サービスを高品質かつ自前で提供してきたが、今後は戦略の重心を品質重視から価値重視にシフトし、フルデジタル化、事業の選択と集中、外部サービスの活用を進める必要がある。そこでは、“デジタル断捨離”による抜本的な改革と、強いリーダーシップの下に過去の習慣や体質から脱却することが求められている。特に、現在重荷になっている70%を超える経費率の改善は必要不可欠だ。

その改善の一環として、ITコスト構造の変革が挙げられる。現行の金融機関システムを「勘定系などの基幹システム(ビジネスサービス)」と「モバイルやWebなどを介した各種業務システム(フロントサービス)」に切り分けて考えてみる。

現在、多くの金融機関のシステム構造はこの両者が密結合されている。結果として、それがフロントサービスの市場展開に掛かるスピードを落とし、コストを増加させている。たとえば、金融機関が新たなバンキングサービスを提供するモバイルアプリを市場に展開するケースでは、その資源(投資費用と開発期間)の多くを基幹システムの改修に充て、新たなモバイルアプリ構築に掛けることのできる資源は限られたほんの一部となる。

その解決のために基幹系システムを全面刷新すれば良いのではないかという考えもある。一部には、アーキテクチャーはそのままに言語や基盤だけを置き換えたパッケージに全面更改するケースも見受けられるが、期間も投資もリスクも抱える一方で、目的であるはずのコスト削減や開発の迅速性が達成できている金融機関はごくわずかだ。勘定系システムの簡素化・再配置は必ず実施すべき課題であることは間違いないが、DX時代は待ってくれない。まずは「新規サービス展開には基幹系システム改修にかかる時間とコストが必要」という現状をすぐにでも変えていくことのほうが先決だ。

つまり、投資効率に長けたシステム構造への変革によりデジタル領域への投資に重点をシフトしていくことが金融業界がなすべき経営課題解決の第一歩と言えるだろう。

「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」でサービス創出から人材育成までをカバー

このような金融業界の経営課題や環境の変化を踏まえ、IBMが提唱する新しい金融サービスのアーキテクチャーが「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」だ。オープン・ソーシング戦略フレームワークは、IBMとお客様が共創してIT構造変革を実現する取り組みとして2020年6月に発表した。

IBMは過去よりアウトソーシングという形でお客様のシステムを受託して、安心・安定・安全なシステム開発・システム運用に取り組んできた。これに加えて、オープン・ソーシング戦略フレームワークでは、金融機関のビジネスモデル変革を迅速、そして柔軟に進めるご支援をしたいと考えている。

さらに、オープン・ソーシング戦略フレームワークで提供するソリューションはオープン・アーキテクチャー、オープン・スタンダード、オープン・ソースをベースとした「オープン・プラットフォーム」として提供する。これまで金融機関を悩ませてきたベンダーロックイン*を排除する。

*ベンダーロックインとは特定のメーカーや技術に依存した製品・サービスのこと

オープン・ソーシング戦略フレームワークは以下の5つのタスクで構成される。

オープン・ソーシング戦略フレームワーク

出典:IBM

1)フロントサービス層
このタスクは金融機関が求める新たなサービスを迅速かつ柔軟に市場に展開することを目的とする。異業種、同業種、フィンテック企業、ソリューションパートナー、地域のITインテグレーターなどが進める個性的な取り組みを、相互に利活用できるエコシステムの形成を図る。これにより金融機関は多くの選択肢から新たなサービスを選択することが可能になる。重要なポイントは、オープン・プラットフォームによりベンダーロックインや特定企業との独占的な関係を回避できる点である。

2)デジタルサービス層
このタスクはフロントサービス層とビジネスサービス層とを「オープンにつなぐ」ことを目的とする。次章で説明する。

3)ビジネスサービス層
IBMが長くご支援してきた基幹系システムやアプリケーションの簡素化や再配置を実現する。それを支援するアセットやソリューションの提供も進める。お客様とともに基幹システムのModernization(近代化)を進める。

4)金融サービス向けパブリック・クラウド
金融機関の「共創を支える」プラットフォームを提供する。パブリック・クラウド、セキュリティー、コンプライアンスがキーワードとなる。この分野は海外が先行しており、IBMは米国においてBank of America、欧州においてBNP Paribasと共同でパブリック・クラウドを構築することを発表している。日本でも、国内金融企業のニーズを満たすセキュリティーやコンプライアンスの対応を進め、高い回復力を備えた高可用性クラウドを実現していく。

5)新しい働き方の実践と人材育成・コミュニティー
1)〜4)のタスクを実行できる人材に関わる支援を提供する。多くの金融機関の経営者に共通した最大の課題は人材にあると言っても過言ではない。DX推進のために、新たなテクノロジーの採用や新しい開発手法の導入を進め、さらにそれを効果的に機能させるためには、これまでの組織文化を抜本的に変革し、そこで働く人材の育成が重要となってくる。これからのスピード重視のデジタル時代にはコアとなるケイパビリティ(人材・能力)は金融機関内で内製化し、外部人材は補完的な役割に限定して活用する姿を目指すべきである。

IBMは金融機関の人材に関わる課題を支援するために5つの専門家コミュニティ(CoC:Community of Competency)を立ち上げた。DX変革を推進するための触媒役として、お客様と伴走しながらIT構造改革における処方箋の整理と実行支援を行っていく。

金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)とは

オープン・ソーシング戦略フレームワークの5つのタスクのうち、2)のデジタルサービス層について解説する。

このデジタルサービス層は、「ビジネスサービス層」と「フロントサービス層」との疎結合化を目的としている。双方が密に絡み合う現在のITシステム構造を変えるのだ。IBMはこのデジタルサービス層に対して、オープン・ソーシング戦略フレームワークの中核ソリューション「デジタルサービス・プラットフォーム(以下、DSP)」を提供している。DSPは、業務マイクロサービス、バックエンド・アダプター(基幹系連携)、DSP基盤の3つの要素を持っている。

金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)

出典:IBM

1)業務マイクロサービス
業務マイクロサービスは認証、口座管理、資金移動、共通機能などの金融業務サービス部品を業務APIとしてIBMが先行投資・先行開発を実施して提供し、金融機関に共同利用いただくことを目的としている。2020年8月現在81種類のAPIが利用可能、2020年中に147種類、2021年3月までには181種類へと拡大し、基本的な個人向けバンキングサービス機能は網羅される。今後は、銀行以外の金融業務や勘定系から外部化されたサービス、AIなどの新業務サービスも提供していく予定である。

2)バックエンド・アダプター
上述の業務マイクロサービスは、お客様の汎用的な基幹系システムを想定し、既定のAPI仕様を利用してビジネスサービス層とやりとりする仕組みとなっているが、金融機関ごとに異なる基幹系システムとの連携方法、インターフェース仕様・粒度の差異は、このバックエンド・アダプター(基幹系連携機能)で吸収する。IBMではこの実装をノンプログラミングで実現できるアセットを提供する。金融機関は基幹系システムを意識することなく業務マイクロサービスをプラグインスタイルで利用できるようになる。

3)DSP基盤
業務マイクロサービスやバックエンドアダプターの稼働環境として、「IBM Cloud」を活用したセキュアな高可用性クラウド「DSP基盤」を提供する。これまでの大手金融機関でのクラウド活用事例およびFISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準などに基づき、ネットワーク面、通信・データの機密性、運用面などにおいてセキュリティー対策を行っている。

以上、3つの要素を兼ね備えたDSPの活用により、金融機関は新たな開発物を極小化するとともに、テストも局所化できる。先行事例では40%以上の費用削減、30%以上の納期短縮の効果が確認できた。

DSPはRed Hatのコンテナ基盤「Red Hat OpenShift」を活用しており、「DSP基盤」以外にもオンプレミス環境や他社クラウド環境での実装も可能である。今後はDSPをソリューション企業などにも開放することで、自由な競争環境で金融アプリケーションの相互利用を促していきたい。

すでに始まっている金融機関のDX

ここで、DSPとオープン・ソーシング戦略フレームワークの採用事例を紹介する。

りそなホールディングス様(以下、りそなグループ):「りそなグループアプリ提携基盤」の構築

自社モバイルバンキングアプリの他行への展開基盤として、DSPを採用いただいた。

りそなグループ様は、個客や中小企業向けの価値創造を実現する「リテールNo.1」を掲げており、その取り組みのひとつとして、自行が保有するサービスを他の金融機関に展開する戦略を取っている。りそなグループ様ではアプリケーションの他行展開基盤としてDSPをご活用いただき、このプラットフォームと提携先金融機関のITシステムとを連携させることで、迅速なアプリケーション展開を実現する。結果として、アプリを利用する提携先金融機関も、時代に適応した競争力のあるサービスを充実させることができるのだ。

IBMがプラットフォームをクラウド基盤で提供し、関わる各社がメリットを享受できるエコシステム形成を支える。これは、金融機関のDX共創を進める好事例と言えるだろう。

中国銀行様:デジタル戦略の強化に向けた戦略的取り組み

オープン・ソーシング戦略フレームワークを活用した、デジタル戦略の強化に取り組む。

当初、中国銀行様ではDX推進プロジェクトを自行内で立ち上げられた。行内で検討することに加えて、網羅性や優先順位づけなど幅広い検討を行う必要があり、第三者の視点をいれるために、IBMにお声がけをいただいた。

DX推進プロジェクトの基本は「将来の目指す姿と、そこに向けてどのような順番で具体的に何をするのかを定義すること」「DX実現に必要なデジタル人材スキルの概要や育成方針を明らかにすること」「内製化に向けたロードマップを定義すること」などが挙げられる。

先述のオープン・ソーシング戦略フレームワークのタスク5)である専門家コミュニティの一つ、IBM金融イノベーションCoCメンバーは金融ビジネスの深い理解に加え、金融以外の業界も含めたDX全般の知見を兼ね備えている。また銀行DXにおける全体観や網羅性を担保できる知見・方法論も熟知している。

中国銀行様に対してIBMは期待される第三者としての価値提供ができることをお伝えし、スモールスタートで取り組みを開始した。以降IBMからのご支援は継続している。中国銀行様はアイデアの創出やデータ分析については、スキルとナレッジの移管を前提とした伴走型を採用。最終的には内製化によるDX推進を目標としている。

IBMだからこそできる支援——経営の構造改革、システム改革

金融機関様が喫緊の経営課題を解決するためにはDXの推進が不可欠だ。IBMはオープン・ソーシング戦略フレームワークの提供を通じて、お客様とともに経営の構造改革、システム改革の推進を支援するための体制を整えている。

DX実現では、「新しいビジネスモデルを作り上げる人材(ヒト)」「DSPで安全・安心の基盤を利用しながら商品・サービスの市場提供スピードの高速化(モノ)」「デジタル開発コストの最適化(カネ)」の3つがポイントと考える。IBMは3つ全てでソリューションを備えている。自行のDX推進の課題解決のために、オープン・ソーシング戦略フレームワークの採用をぜひお薦めしたい。

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