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THINK Business

イトーキ・IBM対談(前編) 共創に見る、リモートスタイルでの新たな働き方の可能性

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*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

 

二之湯弘章氏

二之湯弘章氏
株式会社イトーキ
営業本部 マーケティング統括部 統括部長

1990年イトーキ入社後、デザイン設計を中心にさまざまなオフィス・公共施設構築の業務に携わる。プログラミング、コンセプト立案からデザイン設計、現場監理まで一貫して行うことで満足の高い施設作りを行う。図書館を得意とし、担当期間には年間3件の立ち上げに尽力し、オフィスの構築も1000人規模の新築・移転に数多く携わってきた。直近では自社のXORK企画・設計に携わる。日経NO賞ほか、デザインアワード入賞多数。

加藤翔一

加藤翔一
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部

日本アイ・ビー・エム株式会社に、経営コンサルタントとして入社。以後、事業戦略・IT戦略策定から、変革実行支援PMO・システム導入PMなど、上流から下流まで広範な領域のコンサルティングに従事する。また、AI黎明期より、AIソリューションを数多くリードし、世界初のソリューションを数多く創出する。現在、IBMのHR Techチームをリード。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)をきっかけに、急速に進んだリモートワーク。日本では以前から官民を上げて多様な働き方を模索していた背景もあり、リモートワークという形態は、新型コロナウイルス収束後も「働き方の一つ」として、そのスタイルが確立・洗練されていくと考えられている。

この新しい社会に向けてどんな貢献ができるのか、Digitalとオフィス環境という2つの側面からタッグを組んだのが、株式会社イトーキ(以下、イトーキ)と日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)だ。両社それぞれの知見を持ち寄り、どのようなサービスが提供できるのか、特別プロジェクトを立ち上げてコラボレーションの可能性を模索してきた。プロジェクトもリモート環境下で進められたという。

本件のキーパーソンであるイトーキ マーケティング統括部長 二之湯弘章氏、IBM 加藤翔一に、プロジェクトの全体像と、ニューノーマルにおける協働スタイルのあるべき姿や展望について聞いた。2回にわたりお届けするうち、前編ではコロナ禍で日本企業が直面している課題や、プロジェクトの全体像にフォーカスする。

コロナ禍で日本企業が直面している課題

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

——オフィス家具やオフィス作りを通して「働く」ことの提案を手がけるイトーキとIT企業であるIBMが、新たなサービス構築に向けてコラボレーションを進めていると伺いました。どのようなきっかけで協働することになったのでしょうか。

二之湯 飾らずに言えば両社のトップがもともと親しい間柄で、当社から「イトーキのオフィス見学にいらっしゃいませんか」とIBMの山口明夫社長をお誘いしたのが発端です。その時「共創して新しい価値を作っていけるといいですね」と話が進み、スタートしました。

きっかけはそのような形でしたが、もともとイトーキとしては、今後日本全体がニューノーマルな働き方に向かっていくことを踏まえ、「働く」ことの変化には家具やオフィスレイアウトだけでなく、「オフィステック」が重要になると考えていました。私自身、打ち合わせの時から「IBMとタッグを組むことで何か新しいものができるのではないか」という期待がありました。

加藤 私も期待感がありました。イトーキの平井嘉朗社長が「オフィス家具という事業がどんどん変化していく」とお話しされた時、弊社の山口が「そこはデジタルの力でサポートできる」と熱く語っていたのですよね。両社のトップが親しい関係ということもありますが、社会が直面する新しい課題についても「ベストパートナーとして取り組んでいける」と山口自身も感じていたのかもしれません。

——昨年から新型コロナウイルスの脅威が続く中、日本企業はどんな課題に直面しているとお考えでしょうか。

二之湯 ウィズコロナ状態が1年半続く中でリモートワークを体験し、「時間に余裕ができるので満足度が高い」「柔軟度の高い働き方により新しい人材を採用できる」などのメリットがわかってきました。

一方、顕在化し始めているのが生産性についてです。「家で仕事をして生産性が上がったか」と聞かれれば、イエスと答える人は実は少ないのではないでしょうか。今後は、「リモートワークが浸透する中で、どうやって生産性を向上させていくか」という課題がより顕著になると思います。

当社で実施したアンケートによると、リモートワークの生産性について、大きく3つの課題があることが見えてきました。第1にマネジメントです。物理的に距離が離れたことで、マネジメントがしにくくなってしまいました。第2にワーカーの自律性の問題です。「これくらいの時間で、これだけの成果を上げよう」といった合理的な判断ができる高い職能が必要になりますが、それをどう育てていくのか。第3にエンゲージメントです。社員がオフィスに来なくなり、組織として醸成できるものがなくなって、会社で働くことのモチベーションや帰属性をどう保っていけばいいかが課題となっています。

この3つの根底には、コミュニケーションの問題があると考えられます。マネジメントなら1on1、職能を上げるには教育・研修といったコミュニケーションが必要です。また、本来であればそのような過程を経てエンゲージメントができあがっていくのですが、その機会が減少しています。ざっくばらんに言えば、信頼性の確保ですね。それをどう解決していくかが今後最大のポイントになると思います。

加藤 「課題の根底にコミュニケーションがある」という二之湯さんの意見にはまったく同感です。最近、個人的に注目しているのが、組織内でどのようなコミュニケーションが行われているのか、デジタル・フットプリントに代表されるようなデータを分析することで、組織の生産性を高められるのではないかという仮説です。いつ、誰が、誰と、どのようなコミュニケーションを取っているのかを分析し、その示唆を意思決定プロセスに組み込むことで、社員の働き方をデジタル面からサポートする。今までは技術検証の域に留まっていたそのようなソリューションも、今後はリモートワークの流布に後押しされて、世の中に一気に広まるのではないかと期待しています。

あとは、月並みですが、新しい働き方のルール作りですね。状況がどう変化するかわからないから「もう少し待とう」という企業が多いのですが、そろそろ変化が継続する前提で、ルールやフレームワーク作りに着手すべきであると考えています。

リモートで進められた、異業種企業の共創プロジェクト

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

——今回のプロジェクトの概要を教えてください。

加藤 このプロジェクトの話が立ち上がったのが、2020年の10月から11月にかけてでした。ただ、当時は、具体的にどういうソリューションで、どのような課題に対応していくのかを詰めて、実現性や収益性の判断をする必要がありました。そうした中、まずは2021年3月末までに、ソリューションが具体性を持ったものになるよう、先日まで一緒にプロジェクトを進めてきたわけです。

プロジェクトのテーマが「共創」なので、少し変わったアプローチを取りました。各社で社会課題に興味があるメンバーを募り、全員でアイデアを出し合うところから始めて、ソリューションを詳細化、並行して収益性を分析して事業企画書を作っていきます。オフィス環境とテクノロジーの両面で新しい働き方をサポートする新しい価値提案の構想です。また、ここで作ったソリューションについては、5月からプロトタイプの作成に着手しています。

——今回のプロジェクトは、立ち上げこそリアルで顔を合わせたものの、その後はリモート体制で進められたようですね。その点で、最初に感じていた懸念点はどういうものがあったのでしょうか。

二之湯 もともとはリアルで進める予定だったのです。ただ、年明け以降も新型コロナウイルスの感染が収まらず、フルリモートに方向転換しました。ところが両社ともに組織変更があったため事前にリアルで顔を合わせたメンバーがそろわず、リモートで初めて会う方が出てきました。リアルの顔合わせも「一度会っておけば今後リモートでもやりやすいだろう」という思惑があったのですが、それも叶いませんでした。そういう状況で、企業文化がまったく異なる2社同士が「本当に課題を共有できるのか、合意が取れるのか」という不安があったのです。

チャットベースでプロジェクトを進めることに関して抵抗はありませんでしたが、事業のバックボーンがまったく異なる2社で、抽象的な「共創」ができるのかという点は心配でした。

加藤 私も当初、コンセンサスの取り方については心配をしておりました。たとえば、IBM社内でも事業部が違うだけで、コンセンサスの取り方や、課題の捉え方、そこに達するまでのアプローチ方法もまったく異なります。ましてや別々の会社であれば、「リモートでどうやってコンセンサスを取っていくのだろう」と。走り出しは盛り上がっても、きれいに最終成果をまとめていくまでの合意形成が「はたしてリモートだけでできるのか」という不安は常にありました。

リモートコラボレーションで、“予想外”に得られた知見

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

——そうした懸念もあった中、今回のリモートコラボレーションで得られた成果や気付きについて教えてください。

二之湯 イトーキ側はプロダクトデザイナー、空間デザイナー、開発という3つの混合チームで構成されていました。IBM側も加えたプロジェクトメンバー間のコミュニケーションにはSlackを使いました。ディスカッションしていくと、要所要所で議題が抽象的なテーマに進んでいきます。その時にメンバーが絵を描いてSlackにアップし、「こういうイメージですよね」といったやりとりが増えてきたのです。

チャットによるコミュニケーションの場合、テキストや文字を使うケースが多いと思うのですが、写真やアイデアスケッチを織り交ぜてコンセンサスを取っていくプロセスは、とてもわかりやすくて質が高いと感じました。日本語でしっかり意図を伝えることも大切ですが、これからの時代は「絵を描けるスキルも大切」という発見がありましたね。

加藤 言語でコンセンサスを取るのではなく、ピクチャーで合意を取っていったことは、私にとっても新しい発見でした。

リモートでない時はホワイトボードを使っていましたが、オンラインツールを使った場合は、絵を描けばすぐに伝わり、描き足しも自由にでき、少し前の議論を編集履歴で追うこともできるなど、その合意の過程が可視化されます。

ホワイトボードは、ボードがいっぱいになったら消去してしまうので、決まったことしか残りません。一方、リモートでのデジタルコミュニケーションは「こういう議論をして、こういう理由で却下した」という経緯が追えるのですよね。イトーキのメンバーの方々は皆さん絵が上手で、かつ描くのも速いので、うちのメンバーは全員驚いていました(笑)。

二之湯 ありがとうございます。IBMの方々からいただいたアイデアを絵にすることで形にしていく実感ができ、コミュニケーションの質が上がりましたよね。すごくいいコラボレーションだったと思います。

——共創プロジェクトを進める中では、どういう点にIBMの強みを感じられましたか。

二之湯 今回は、IBMが持つデジタルイノベーションのためのフレームワークであるIBM Garage(以下、Garage)で進めていきました。今回のような経験は初めてでしたが、「このフォーマットで進めれば、ビジネスのアウトプットができる」という安心感がありました。なぜなら、IBMがこれまで手がけてきた数々の実績から抽出した知見がGarageには詰まっているからです。

アイデアが出る中、IBMがGarageでコラボレーションした企業をいくつかアサインいただきました。そうしたサポートもあったので、ハードルを乗り越えていくことができたと思います。普通なら「これはできないね」とあきらめてしまうところを、IBMのフレームワークで乗り切っていけたのです。そうしたフレームワークがある点で、IBMの強みを実感しました。

加藤 今回はGarageや、Garageに含まれているサービスデリバリーの包括的なモデルとなるDynamic Deliveryを活用し、非常によかったと感じています。こうしたフレームワークには過去からの知見が集積されているので、観点の抜け・漏れを常に意識することができ、「アウトプットが約束される」という安心感があったと思います。個人的には、プロジェクトが始まる前、Garageの考え方について説明して認識合わせしていたこともよかったと思います。

*本対談はオンラインで実施しました。撮影については、新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮して行いました。