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ニューノーマル時代のデータドリブン経営——実現に必要な2つの要因

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井手 健一

井手 健一
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
技術戦略コンサルティング
シニア・マネージング・コンサルタント

外資系コンサルティングファーム、事業会社を経て現職。製造業や通信業を中心に、デジタルトランスフォーメーション(DX)におけるユースケース企画・開発、全社データドリブン経営推進、セキュリティ戦略など、企業のDX支援に注力する。

新型コロナウイルス感染症パンデミックは多くの企業の事業環境を変化させた。これからのニューノーマルと言われる時代において、自社の事業環境がどのように変化するのか、そして、その変化にタイムリーに対応するための構えを構築できているのか、これらの点が企業の大きな関心事になっていることを肌身に感じている。

いくつかの企業では、データ活用による、環境変化に備えた打ち手をすでに繰り出している。たとえば、データの背後に存在する傾向を抽出する「教師なし機械学習」を用いた顧客行動の分析を行い、さらにその結果から時系列変化を抽出することで、市場環境の変化を高解像度で把握する企業がある。このような企業では、データドリブン経営がすでに浸透しており、高速なPDCAを回すことができていると言えるだろう。

ニューノーマル時代、企業がデータドリブン経営によって環境変化を的確に把握すべきことは論を待たないが、データドリブン経営として高速にPDCAを回すことができている企業とそうではない企業の違いはどのような点なのか。本稿では、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)の支援実績にもとづく見解を述べる。

本稿は、連載「ニューノーマル時代のDX経営モデル」の第4回。前回までも合わせて参考としていただきたい。

データドリブン経営を実現するために必要な2つの要因

データドリブン経営を進めるには、アナリティクス人材やAI人材が必要だと言われてきた。内部育成や外部とのコラボレーションによって人材確保が進んできた企業も多い。ただし、人材確保だけではデータドリブン化は進まない。データドリブン化が進んだ企業とそうではない企業との間には、別の要因が存在する。

今現在、これまでの支援実績から、人材確保とは別に、大きく2つの要因があると考えている。企業は、これらを備えることで、ニューノーマル時代に対応したデータドリブン経営を実現できるだろう。

<要因1>事業戦略・全社戦略との整合が取れた“骨太”のユースケースを定義できているか

 
アナリティクスやAIによるデータ活用において、PoC(概念実証)レベルにとどまっている企業と、業務を高いレベルのものに変革するところまで推進できている企業がある。この違いは、データ活用の構想段階において、データ活用のユースケースを事業戦略や全社戦略と整合が取れた“骨太”なものとして定義できているかどうかといった点から生じている、というのが我々IBMの見解だ。

下図は、縦軸を「事業」とし、横軸は事業を構成する「業務機能」として整理したものである。このうち、データ活用を業務変革にまで展開できている企業では、データ活用のユースケースの範囲が、「個別事業×個別業務機能」にとどまることはなく、複数の事業をまたいで業務機能の成果を拡大するものであったり、単一の事業で複数の業務機能間の連携を強化したりするものとなっている。このようなユースケースは事業戦略や全社戦略から明確に展開されたものであり、骨太と言える。

出典:IBM

たとえば、事業間での顧客基盤の共有を推し進めたり、アフターサービスや販売の顧客接点で得られた顧客行動の分析結果を商品開発に連携したりといった取り組みもその一つであり、実施する企業も増えてきた。このような骨太な取り組みをデータ活用で推進すれば、得られる効果は大きい。

もちろん事業や業務機能を横断するユースケースの実現には、組織図で示された組織構造の枠を越えたコミュニケーションが必要だ。しかし、企業ではこれまでの歴史を通して組織個別に業務プロセスやITシステムを整備しており、データ項目一つ取っても、事業や業務機能をまたぐと、当該データの意味する内容が異なる場合が多い。これでは事業や業務機能を横断しての会話が成立せず、取り組みを進めることは困難である。このため、骨太のユースケースを実現するには、次の点も併せて推進することが不可欠となる。

<要因2>ユースケースに対応付けられたデータマネジメントが徹底できているか

データはヒト・モノ・カネに次ぐ第四の経営資源であると言われる。データが経営資源であるならば、価値あるデータを蓄積し、蓄積されたデータが確実に成果を出せるものにするための整備が不可欠である。このような取り組みが、データマネジメントである。

たとえば、事業や業務機能を横断したデータ活用には、共通の集計軸としてマスターデータの整備が必要となる。ERP(統合型基幹業務システム)導入によってマスターデータの整備を進めている企業も多いとは思うが、ERPの対象から外れたマスターデータについては、事業や業務機能ごとに別々のマスターデータが存在するといったケースはまだまだ見られる。このため、複数のマスターデータの集約や、読み替え表の整備が必要となっている企業は多いだろう。

また、骨太のユースケースでは、データ活用の結果が事業や経営上の効果を大きく左右するものであるため、データ自体が信頼できるものであるべきだ。ITの世界には、かねてから「Garbage in, Garbage out(ゴミを入れればゴミが出る)」 という言葉、つまり、質の悪いデータを使えば質の悪い結果が出力されるという考え方がある。データ活用を成功させるには、入力データが信頼できるものである必要があり、このため、入力データの品質を確保する継続的な運用が必要になるということだ。このようなデータマネジメントの全体像を示す枠組みを下図に示した。

出典:IBM

この図の縦軸で示すように、データマネジメントには6つの管理項目がある。これら6項目に加え、管理を実現するための、「体制・役割の定義」と「ルール・業務プロセスの確立」、そしてデータマネジメントを実行するための「ITアーキテクチャー」の整備が必要となる。

このうち「メタデータ管理」について取り組みが十分である企業は少数派だ。分析対象のデータベースに配置されているデータ項目の定義について、データベースの構築担当者だけが把握し、分析担当者は構築担当者に分析の都度、確認しなければならないという状況が散見される。このような状況では、いくら人材を確保したところで、扱うべきデータの共有が進まず、データドリブン化が進まない。データ活用のユースケースが明確になっており、人材もそろっているはずなのに、目立ってデータ活用が進んでいないという組織では、往々にしてメタデータ管理に課題がある。

データ項目の管理者は、一般に「データスチュワード」と呼ばれ、データスチュワードのスキルがある社員は、業務部門やIT部門でのベテランであることが多い。とはいえ、データスチュワードの呼称が浸透している企業は極めて少数であり、その必要性はまだまだ認識されていない。データドリブン経営を確実なものにするためにも、データサイエンティストに加えて自社のデータスチュワードを発掘することを勧めたい。

データドリブン経営の実現に向けたポイント

本稿では、ニューノーマル時代の環境変化に的確に対応するためのデータドリブン経営の実現要素として、骨太のユースケースの定義と、そのユースケースに対応したデータマネジメントの確立がポイントになることを述べた。

もちろんアナリティクス人材やAI人材はけっして不要にはならず、人材確保は継続して必要になる。その上で、本稿で述べた2つのポイントにも取り組むことが必要ということだ。取り組みが成功すれば、ニューノーマル時代の環境変化をデータドリブンで的確に捉え、対応していくことができるのである。