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THINK Business

デジタル・リインベンション  デジタル時代に新たなビジョンを持つ

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岡田正雄
日本アイ・ビー・エム株式会社 
グローバル・ビジネス・サービス事業 
戦略コンサルタント
金融インタストリー・ストラテジー・リーダー 理事


1986年 日本IBM入社以来、金融機関のエンジニア、セールス、プランナーおよびコンサルタントといったマルチスキルでの活動経験を持つ。特に金融機関に関するインダストリーナレッジと最新のテクノロジーを活用した先進ソリューション企画とコンサルティングを実施している。また、大手金融機関に対して基幹系システムからチャネルシステムまで多数の案件のリーダーとして活動している。

急速に進化するデジタル・テクノロジーで金融サービスの姿は変わろうとしています。50年前には手書きの通帳であったものが、1964年東京五輪のリアルタイム・オンライン競技速報システムでの実績を踏まえオンラインでの処理となり、今では場所を選ばない金融サービスが多数、スマートフォンを経て提供されています。金融業界はテクノロジーの進化に合わせ、イノベーションを進めてきました。
 

金融サービスにおける新しいビジョンの必要性

従来型の金融機関が既存サービスの継続性に縛られる一方で、フィンテック企業やプラットフォーマーは、デジタル・テクノロジーを活用して顧客視点を追求した金融サービスを提供し、破壊的イノベーションを進めています。
日本の金融機関を取り巻く「超低金利の継続」、「人口減少と高齢化」、「デジタル・ネイティブの台頭」といった環境の変化をチャンスと捉え、新しいビジョンを持ち、それを推進していくリーダーシップが求められているのです。
 

日本IBMが提唱するビジョン&アーキテクチャー

日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)では、国内の金融機関の大きなエポックを踏まえながらビジョン&アーキテクチャーを発表してきました。金融自由化における「DSE(Data Systems Environment)バンキング」、オープン化における「SOA(Service Oriented Architecture)を用いたRapid Enterprise Renovation(SOA RER)アーキテクチャー」、そして2018年には、デジタル化における「次世代金融アーキテクチャー」を提唱しています。これは、金融サービスの高度化のために、企業全体に一貫したアーキテクチャーの策定を支援するものです。この「次世代金融アーキテクチャー」では、21世紀の天然資源といわれている「データ」と、それを活用する「テクノロジー」が金融業務の変革に寄与することをポイントとしています。

IBMが考える次世代金融サービス・アーキテクチャー

この寄稿文連載では、「チャネル高度化」「個客志向サービス」「業務最適化」「エコシステム連携」の4つのポイントで、今後の金融機関におけるビジョンづくりのヒントをまとめました。当記事では、各ポイントの概要を紹介します。
 

チャネルの高度化:ファンにさせる

デジタル・ネイティブが多数派を占める時代、彼ら「コト消費」世代はサービス評価に厳しくなっています。

デジタル・ネイティブの期待に応えるためには、デジタル世界で強く働くメカニズムに着目しながら、フィジカルとデジタルの融合したカスタマー・エクスペリエンスを高める必要があります。ネット社会の住人であるデジタル・ネイティブには「ググる」ように、あるいは「LINEする」ように、スマートフォンによるAIでのバーチャル・アシスタントを使った応対が必要となります。バーチャル・アシスタントはリアルタイムで質疑応答や蓄積情報の分析結果によるアドバイスをしてくれます。このバーチャル・アシスタントは店舗を含むあらゆるチャネルで登場し、誰よりも顧客のことを知る存在となるかもしれません。金融機関はさまざまな場面でAIを活用するために情報を蓄積し、学習を進め、最適解を提示できるようにする必要性があります。

今後、5G(次世代移動通信システム)により超高速・超低遅延になると、これまでとは違った異次元のチャネル空間が生まれてきます。フィジカルとデジタルの境界線は溶けていき、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)により店舗が顧客の家にあたかもやって来るような体験が出できるでしょう。

チャネルは事務処理やコンサルティングの場でもありますが、ファンになってもらう場でもあります。そのためには顧客分析はもちろんのこと、顧客になりきり、顧客の課題を理解し、新しい顧客体験を設計していくといったデザイン思考とアジャイル開発の活用が欠かせないものとなります。これは絶え間ない改革であり、システムは「柔軟な対応が要求される機能」と「不変的な機能」に切り分け、機能間を疎結合にし、機敏性を持つ構造にしておく必要があります。
 

個客志向サービス:最適なコミュニケーション

乗り換えが容易に可能なデジタル社会において、顧客満足度の維持向上は重要なテーマです。

いまや人生100年時代となり、「就労・所得・世帯構成の多様化」が始まっています。例えば、就労においては多動力で複数の仕事を持つケースや、シニア入社式が行なれるケースが多くなってきています。これまでのように画一的なライフ・イベントによるアプローチには限界があります。

一人ひとりに合った金融サービスの提供を実現するために、金融機関は日々の生活と金融取引に関わる情報を分析して顧客のニーズを知り、先回りしたコンテンツをコンテキストで提案する必要があります。そのためには顧客の膨大なリアルデータを保持し、その分析で個々行動や価値観も捉えたアプローチをすることが必要となってきます。

また、デジタル社会ではネット上の信頼できるインフルエンサーの発信をきっかけに興味を持ち、ネット上のセカンド・オピニオンに意見を求めるのが普通です。顧客との最適なコミュニケーションを取るために、ジャーニー・マップもデジタルでの動線やペルソナを起点としたものにシフトしていくでしょう。
 

業務最適化:企業全体で紐解く

デジタル・テクノロジーは自律的な業務プロセスを実現します。

コグニティブ技術を活用した業務処理はカスタマー・インタラクションを大幅に向上させます。近い将来、スマートフォンや自動車のように音声での対話によるデータ入力や、AIが助けてくれる顧客体験が金融機関でも当たり前になります。

紙ベースの帳票処理は、進化したOCR技術によってデジタル化し、各種データと突合することで事務処理の大幅な効率化を実現することが始まっています。今後はさらにデジタル化された情報をAIを使って判断することにより、ワークロードを極小化し、圧倒的な生産性を実現していきます。

これまでも業務単位、部門単位での業務の見直しは行われてきました。さらなるムダや無理の抽出をするためには、水平視線での見直しが必要であります。そのためには全社的なデジタル化を継続的に進めなければなりません。政府が主導する「デジタルファースト政策」により、帳票や印鑑といったアナログ制約からの脱却が図れていくでしょう。企業が持つ情報やプロセスの全てをデータ化、かつモデル化で全面的に統合し、企業全体でのオートメーションを追求することができるようになれば、自律的な業務プロセスが可能となります。例えば製造業であれば、リアルな製造プラントのプロセスにおけるデータを収集し、サイバー空間上に同様の状況を作り出す「デジタルツイン」のように、可視化・制御・最適化ができるようになっていきます。
 

エコシステム連携:主導的な立場を確立する

エコシステムはデジタル社会におけるビジネス変革を加速させます。

多くの金融機関はオープン・イノベーションを進める戦略を推進しています。APIやブロックチェーンにより従来では技術的にもコスト的にも困難だった業務連携のハードルが下がり、新たなスキームとビジネスが創造できるようになりました。APIはサービスをつなげる、まとめる、組み合わせることにより、共感するサービスを組み立てます。ブロックチェーンは絶対的な中間業者を排除し、共創するサービスを実現します。

このような中、金融機関はエコシステムにおける事業連携を推進するプロデューサー的な役割を担うことが多くなっています。集まるパートナーが金融機関に期待するのは、堅牢な顧客基盤に基づいた良質な情報の提供です。情報を活用できない場合、金融機関はエコシステムの中で明らかに不利な立場に立たされてしまいます。

すでにレンディングや情報銀行のように、顧客が積極的に情報開示を実施することにより透明性のある的確なサービスを提供する会社が登場しています。金融機関は金融サービスだけではなく、顧客情報を起点として主導的な立場を確立することにより新たな価値をもたらすものと考えます。


 

金融機関のデジタル変革を加速させるには

金融機関はデジタル化の新潮流をビジネス価値に転換し、新たな競争優位性を創造していかなければなりません。デジタル・テクノロジーおよびそのサービスにより、「企業能力」と「実現手段」は幅広い選択が可能となりました。

次回は、今回概要を紹介した4つのポイントそれぞれについて、さらに詳しく紹介していきます。

  1. 「チャネル高度化」
  2. 「個客志向サービス」
  3. 「業務最適化」
  4. 「エコシステム連携」

photo:Getty Images
 

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