公開日:2023年11月28日
寄稿者:Amanda McGrath、Alexandra Jonker
環境問題とは、地球とその自然システムが直面している一連の課題や問題のことです。気候変動、公害、人口過多、エネルギー消費など、複雑な問題が絡み合っています。環境問題は自然界の健全性に影響し、人間の健康や幸福、さらには組織や事業活動にも甚大な影響を及ぼす可能性があります。
環境問題は自然現象と人間の影響が組み合わさって生じます。地球の生態系はある程度の自然災害(森林火災や洪水など)に対処できる仕組みになっていますが、人間の活動の影響で、災害の発生頻度や深刻度が高まる可能性があります。
産業革命以降、化石燃料の燃焼などの活動で地球の大気中の温室効果ガス排出量が増加し、地球温暖化が進行しました。こうして生じた気候変動によって、環境破壊や重要な自然プロセスの破壊が加速しています。土地の利用、天然資源の採掘、廃棄物の処理など、環境問題の原因となっている人間の行動は他にもあります。
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環境問題はそれぞれ、地球と人類が直面するさまざまな課題の原因となっており、これらの課題は相互に関連しています。ここからは、主な環境問題を種類ごとに見ていきます。
気候変動とは、化石燃料の燃焼などの人間の活動によって引き起こされている、気温、降水量、その他の気象パターンの長期的な変化を指します。人間の活動で温室効果ガスの排出量が増加しており、こうした温室効果ガスが地球の大気圏内に熱を閉じ込めることで、地球の温度が上昇します。NASAによると、地球の平均表面温度は19世紀後半に比べて約1°C上昇しました。 1その結果、氷河の融解、海面上昇、生態系の破壊が生じているほか、干ばつ、洪水、熱波、山火事などの異常気象現象が増加しています。
生物多様性とは、動物、植物、微生物など、地球上の生物の多様性を指します。アマゾンからツンドラまで、生物多様性は地球の生態学的バランスにとって不可欠です。生物多様性が失われると、種の絶滅につながったり、食料と水の供給に関するリスク、あるいは炭素隔離(気候変動の抑制に不可欠な、大気中の二酸化炭素を除去する自然のプロセス)の減少につながる可能性があります。森林伐採、農地の拡大、土地利用の変化、汚染など、人間の活動は生物多様性の総体的な消失の原因にもなっています。また農薬の使用は、対象外の種に危害を及ぼしたり、生態系を破壊することにもなりかねません。世界自然保護基金によると、地球の野生生物の個体数は1970年以降で69%減少しています。2
大気汚染とは、人間が呼吸する空気中に、二酸化炭素、メタン、二酸化窒素などの有害物質が存在することを指します。化石燃料の燃焼、産業プロセス、輸送機関、山火事は、大気質に悪影響を及ぼす可能性があります。微小粒子、地上オゾン、その他の汚染物質にさらされていると、呼吸器疾患、心臓病、がん、その他の健康問題が生じる可能性があります。世界保健機関によると、屋外の大気汚染による早期死亡者は毎年420万人に上ります。3
地球の海洋はさまざまな脅威に直面しています。海洋は、大気中に放出される二酸化炭素のほぼ3分の1を吸収します。世界の炭素排出量が増えると、海洋の炭素吸収量も増加し、酸性化を引き起こします。海洋酸性化は、海の生物に害を及ぼし、生態系を混乱させ、世界の食料安全保障に影響を与える可能性があります。国連の推計では、毎年1,100万トンのプラスチックが海に流入しています。4また、廃水、石油流出、化学物質、その他の汚染物質も、生物とその生息環境に害を及ぼしています。さらに、地球温暖化で氷河が溶けると海面が上昇し、海洋生物への被害や、沿岸の洪水と浸食を引き起こす可能性があります。
地球では海洋以外に水の供給も課題に直面しています。安全な飲料水は人間の健康に不可欠です。しかし、産業廃棄物、農薬、農業プロセスによって水源が汚染されることがあります。こうして飲料水に細菌や化学物質が混入すると、消化器系の問題や神経疾患、皮膚感染症などを引き起こす可能性があります。きれいな水を利用できない人は世界で10億人以上に及んでおり、気候変動と人間の活動の影響で水の供給が減少することによって、2025年には世界人口の3分の2が水不足に直面する可能性があります。5
国連によると、世界の人口は2050年には97億人に達する見通しです。6世界の人口が増えると、天然資源の需要が高まり、人間が環境に与える影響も増します。持続可能な開発を行わなければ、人口過多によって食料不足や水不足、資源の枯渇が生じる恐れがあります。また、廃棄物処理、汚染、森林破壊などの問題が悪化して、公衆衛生上の問題につながる可能性もあります。
全体のエネルギー消費は環境に大きな影響を与える可能性があります。現在、ほとんどの個人、企業、業種では、主なエネルギー源は化石燃料です。しかし、化石燃料の燃焼は温室効果ガスの重大な排出源であり、酸性雨などの環境問題の原因になる場合もあります。太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギー源は、炭素排出量の削減につながる可能性がある一方で、それ自体が環境に影響を与える可能性もあります。
気候変動の影響で、ハリケーン、洪水、山火事、干ばつ、暴風雪などの異常気象現象の頻度が高まり、深刻の度を増しています。異常気象現象は環境と住民の両方に脅威をもたらし、インフラ、住宅、暮らしに重大なダメージを及ぼす可能性があります。異常気象が増えた要因には、気温や海面の上昇などがあります。世界気象機関によると、1970年から2021年の間で、異常気象現象による死者は200万人、経済損失は4兆3,000億米ドルに及びます。7
環境問題に対処するために、個人、政府、組織、コミュニティーがさまざまな取り組みを進めています。
科学的な研究開発を通じて、環境問題の原因や、その悪影響の抑制と回復の方法について、理解が進みつつあります。再生可能エネルギー源の発展やエネルギー効率に優れた活動など、新しいテクノロジーは炭素排出量の削減につながります。生態学と環境科学は、人間の活動が地球に及ぼす複雑な影響を深く理解するうえで役立ちます。人々への啓発活動は、一部の行動や慣行が環境に及ぼす悪影響についての知識を広めることにつながり、環境保護や持続可能な開発への関心を高めることができます。
国際協力の取り組みが目指しているのは、環境問題を軽減する解決策の発見と導入です。EHS(環境・衛生・安全)組織は、環境を汚染や劣化から守ることに重点を置いています。環境の管理策や保護策について調査と助言を行い、人間の活動、排出、有害物質が生態系に及ぼす悪影響を軽減するという面で、こうした組織は役割を果たしています。パリ協定などの国際合意は、世界規模で気候変動に取り組むことを目的としています。国同士がリソースやベスト・プラクティスを共有することも、環境保護の取り組みの効果を高めます。
企業の社会的責任について定めたポリシーを取り入れ、環境問題を念頭に置いて事業を進める企業が増えています。各社は、環境変化に及ぼす影響を最小限に抑えるために、ビジネスにおけるサステナビリティーを高めようとしています。取り組みの内容は、排出の抑制とカーボン・フットプリントの削減、水とエネルギーの使用量の削減、廃棄物の最小化と廃棄物管理の改善などです。企業が環境に及ぼす影響についての報告には、環境・社会・ガバナンス(ESG)報告フレームワークを利用できます。こうした報告は欧州の企業サステナビリティー報告指令(CSRD)などの指令によって義務付けられています。報告の透明性が確保されていれば、企業は説明責任を負い、消費者は情報に基づく選択を行うことができます。多くの企業は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が示した提言に従って、気候変動に関連する財務リスクについて、投資家、株主、一般向けに情報を開示しています。環境への影響に関する取り組みは、コスト削減策の発見につながる場合があり、また消費者や投資家からの信頼とロイヤルティーの構築につながることも考えられます。
政府や自治体によっては、環境問題に取り組み、環境に優しい慣行を推進するために、税金や補助金などの経済的インセンティブを導入しているところもあります。例えば、環境汚染につながる活動を抑制するための炭素税、電気自動車やソーラーパネルをより手頃な価格で購入できるようにするための補助金などです。また、公共交通機関やエネルギー効率の高い建物など、サステナブルなインフラへの投資も、経済と社会への長期的なメリットと、環境への影響の抑制につながります。
環境への影響を個人レベルで減らすことを目標としたライフスタイルを選択する人もいます。例えば、エネルギー消費の抑制、リサイクル、サステナブルな商品の選択、水の無駄遣いの抑制などです。個人も環境問題について主張し、サステナビリティーを重視する政策や企業を支持できます。
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ESG報告フレームワークは、ビジネスの環境・社会・ガバナンス(ESG)の各面に関する機会とリスクをカバーするデータの開示に使用します。
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CSRDはEU域内の企業に対し、自社の活動が環境や社会に及ぼす影響、および自社のESGの取り組みやイニシアチブの効果について報告することを義務付けています。
脱炭素化とは、温室効果ガス(GHG)の排出量を削減する気候変動対策の手法のひとつです。
1How do we know climate change is real? (ibm.com外部へのリンク)。National Aeronautics and Space Administration (NASA), November 2023.
2Living Planet Report 2022(ibm.com外部へのリンク)。World Wildlife Fund, October 2022.
3Ambient (outdoor) air pollution(ibm.com外部へのリンク)。World Health Organization (WHO), December 2022.
4Fast Facts — What is plastic pollution? (ibm.com外部へのリンク)。United Nations, August 2023.
5Water scarcity(ibm.com外部へのリンク)。World Wildlife Fund, October 2023.
6Global issues: Population(ibm.com外部へのリンク)。United Nations, October 2023.
7Atlas of Mortality and Economic Losses from Weather, Climate and Water-related Hazards(ibm.com外部へのリンク)。World Meteorological Organization, May 2023.