量子コンピューター

IBM Quantum Nighthawk r2、より多くの回路をより速く

独立した高速量子ビット・リセットが回路スループットをHeronの25倍に向上させ、7,500ゲート以上の量子回路での正確な計算を可能にします。

ブログ概要:

•    IBM Quantum Nighthawk r2は、独立した高速量子ビット・リセットを採用し、量子回路を毎秒10万回以上実行可能です。これはIBM Quantum Heronに比べて最大25倍の回路スループットです。
•    能動的な量子ビット・リセットにより、隣接量子ビットへの悪影響もなくHeronクラスのゲート忠実度も維持した上で、初期化エラーが約25分の1に低減されます。
•    IBM Quantum Nighthawk r2は、120個のプログラマブル量子ビット、218個のカプラー、120個のリセット素子を組み合わせており、合計458個の物理量子素子を備えています。
•    中間回路リセットと動的回路を備えることで、Nighthawk r2は量子エラー訂正とフォールトトレラント量子コンピューティング研究のための強力なプラットフォームとなっています。
•    Nighthawk r2は7,500ゲート以上を含む回路で正確な結果を出すことを実証しました。これはIBM Quantum Roadmapにおける2026年の重要なマイルストーンです。

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量子優位性の最初の実証から極低温システムの新しいモジュール型アーキテクチャーに至るまで、今年は量子コンピューティングにおいて多くの重要な進歩がありました。最近IBM Quantum Platformで利用可能になったIBM Quantum Nighthawk r2によって、その進歩はさらに続きます。

Nighthawk r2はこれまででIBM最速の量子プロセッサーです。120個のプログラマブル量子ビットと革新的な高速量子ビット・リセット・アーキテクチャーを搭載し、毎秒10万回以上、量子回路を実行できます。これはこれまでに利用可能だったIBM Quantum Heronマシンの25倍の回路スループットです。さらにこのプロセッサーは、7,500ゲート以上を含む回路でオブザーバブルの正確な推定をすでに実証しており、IBM Quantum Roadmapにおける2026年の一つの主要なマイルストーンを達成しています。

量子ハードウェア指標に関する最近のブログで述べたように、IBMは量子ハードウェアを規模、品質、速度という三つの基本的な次元で評価しています。Nighthawk r2は前世代r1の規模を維持しつつ品質面での改善を実現していますが、最も重要な進歩は速度にあります。IBMの研究者たちがいかにしてその改善を実現したか詳しく見ていきましょう。

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独立した高速量子ビット・リセットによる計算の高速化

IBM Quantum Nighthawk r2は、量子コンピューティングにおける長年のボトルネックに対処しています。すなわち、回路実行の合間に量子ビットのリセットを待つ待ち時間です。すべての量子回路は既知の状態に準備された量子ビットから始まり、量子ビットの測定で終わります。量子ビットは、次のショットを開始する前の合間時間に、基底状態に戻される必要があります。

Heronを含むIBMの前世代の量子プロセッサーでは、これを実装するために動的回路が実現する「条件付きリセット」と呼ばれる手法を用いていました。そのやり方では、プロセッサーが量子ビットの状態を測定し、|1⟩状態にある場合は、ビット反転ゲート(具体的にはπパルス)を適用して量子ビットを基底状態に戻します。

しかし、条件付きリセットは測定の忠実度に限界があり、その計算状態外にリークした量子ビットをリセットすることができません。また、完全なリセットを確実にするために、システムは回路実行の合間に数百マイクロ秒のアイドル状態を保つ必要があります。

Nighthawk r2は条件付きリセットとアイドル時間を用いる代わりに、散逸型リセット・ガジェットを導入しました。各プログラマブル量子ビットは高ダイナミック・レンジのチューナブル・カプラーで低温環境に接続されていて、この環境が必要に応じて量子ビットを基底状態に戻します。このカプラーを作動させると、量子ビットがそのエネルギーをどれだけ長く保持するかの指標であるT1実効値が、中央値で言って約200マイクロ秒から約25ナノ秒まで引き下げられ、大幅に高速かつ高品質なリセットが可能になります。

重要なのは、この能動的な量子ビット・リセットが、隣接する量子ビットに悪影響を与えることなく、回路実行間のアイドル時間をわずか1マイクロ秒まで短縮できることです。その結果、システムが時間あたりに実行できる有用な計算量が劇的に増加します。結果としてNighthawk r2は毎秒10万回路を実行できるようになりましたが、これは毎秒約4,000回路までだったHeronに比べて25倍の高速化を実現しています。

このことによって研究コミュニティーで一般的な大規模な反復ワークロードで、実用上最も顕著な効果が得られます。量子優位性の候補になっている回路の初期テストでは、精度を損なうことなく実行時間が最大10倍速くなる可能性が示されています。

この実現には、ユーザーが直接プログラムできる量子ビットとは別に、制御可能な量子素子が必要となります。Nighthawk r2の120個のプログラマブル量子ビットは、218個の専用カプラーと、各プログラマブル量子ビットと対になった120個の独立した量子ビット・リセット素子によってサポートされているため、物理量子素子の数は合計で458個となっています。

これらの追加カプラーとリセット素子は、エンジニアリングの観点から見るとプログラマブル量子ビットと実質的に区別がつかないデバイスであり、Nighthawk r2はIBMがこれまでに量産した中で最も複雑な量子プロセッサーとなっています。

品質を損なわない速度向上

もちろん、量子プロセッサーがどれほど速くなっても、有用で正確な計算に必要な忠実度を犠牲にしているのでは意味がありません。

Nighthawk r2は前世代の品質を維持するだけでなく、重要な改善をもたらしています。新しい高速リセット機能が量子ビットを能動的に基底状態まで冷却緩和させることで、デバイス全体の初期化エラーが約25分の1に低減されます。その理屈はシンプルです。よりクリーンな初期状態がより正確な結果をもたらすのです。

重要なのは、Nighthawk r2がこれらのメリットを他の性能を犠牲にすることなく実現している点です。はるかに速い速度で動作しながらもHeronクラスのゲート忠実度を維持し、隣接する量子ビットの性能を低下させることなく個々の量子ビット・リセットを実行します。

このように隣接ビットに影響を与えない量子ビット・リセットは、Nighthawkの正方格子アーキテクチャーにとって極めて重要です。以前のアーキテクチャーでは各量子ビットは2から3個の量子ビットと隣接していましたが、このアーキテクチャーでは、ほとんどの量子ビットが4個の最隣接ビットに接続されており、このことが回路設計においてより高い複雑性と効率性を実現しています。結果としてNighthawk r2はより多くの量子計算を実行できるだけでなく、より有用な量子計算を実行するプロセッサーになっています。

Nighthawk r2における量子優位性とその他の初期成果

Nighthawk r2の速度と品質向上によって、その量子計算能力を活かした素晴らしい成果がすでに得られ始めています。

最近発表された、信頼できる量子計算による量子優位性の実証に続く形で、研究者たちはNighthawk r2を使って、例えばシカゴ大学とIBMのコラボレーションで当初開発されたドープ型クリフォード・サンプリング優位性実験を実施しました。これらの実験は、量子符号が今日の量子コンピューターで既に使用されて、正確さの検証可能なやり方で、主要な古典シミュレーション手法の限界を超えた計算を実行できることを示しています。Heronプロセッサーを上回るNighthawk r2の接続性によって、より広い範囲の回路や問題カテゴリーにわたるさらに多くの量子優位性の実証が見込まれます。

また、Nighthawk r2はProbabilistic Error Amplification(PEA、確率的エラー増幅)を使用して、7,500ゲートを含む回路でオブザーバブルの正確な推定を実証しました。これはますます複雑な量子回路を信頼性高く実行するという目標に向かう重要なマイルストーンであり、2026年のIBM Quantum Roadmapにおける主要な目標の一つでもあります。

こうしたメリットは、アプリケーションを直接探求する実験にも好影響があります。今年これまでに報告された中性子散乱シミュレーションでは、Nighthawk r2のスループット向上により12倍の高速化が実現し、実験室の実験データと直接比較できるスペクトルが約60秒で生成されました。

これらの報告から、スループットと品質の向上が、実用的な計算能力へと転換され、量子優位性の実証を可能にし、ロードマップを着実に達成し、量子アプリケーションの発見を加速させていることがわかります。

量子エラー訂正にうってつけ

Nighthawk r2の新しいリセット機能は回路実行の合間だけでなく、回路実行中にも利用できます。これにより動的回路に大きな効率向上がもたらされます。動的回路とは、一つの回路を実行している実行時間の途中で量子ビット測定を実行するという高度な機能です。

多くの量子エラー訂正プロトコルや高度な量子古典ワークフローには動的回路が必要なのですが、すべてのプログラマブル量子ビットで信頼性の高い独立したリセットが可能になったことによって、Nighthawk r2はこれらの分野の研究を行うための強力なプラットフォームとなっています。

新しいリセット機能により、空間-時間チェックなどの量子エラー検出・量子エラー訂正プロトコルの実行中に補助量子ビットを繰り返し使用できるようになり、ワークロードに論理量子ビットを導入する実験の柔軟性がさらに高まります。

これはある意味、IBM Quantum RoadmapにおけるNighthawkの位置付けの変化を象徴しています。Nighthawkは元は量子優位性の探求とスケールアップをするためのプラットフォームとして導入されましたが、今や高度なエラー訂正操作の実験的な検証台となっています。

ぜひ今すぐお試しください

量子ハードウェアが成熟するにつれて、チャレンジは単により大きくより良いプロセッサーを構築することではなくなってきています。利用可能なシステムで研究者が達成できることを最大化することが今のチャレンジです。120個のプログラマブル量子ビットと、独立した高速量子ビット・リセットを備えたNighthawk r2は、研究者を制約から解放することを目指しています。

回路スループットの向上により新しいNighthawkでは同じリソース割り当てでもはるかに多くのワークロードを実行できるようになります。ユーザーはNighthawk r2で実際に活用できる計算能力が増え、その結果として量子リソースの管理に費やす時間が減り、さらにはそのリソースで得られる成果の方により多くの時間を確保できるようになることが期待されます。

新しいNighthawk r2プロセッサーは現在IBM Quantum Platformで利用可能です。取り組みたいのが、アプリケーション研究の規模拡大であれ、動的回路の可能性の探求や、または最新の量子エラー訂正研究の推進など、どのような目的であれ、この新しいシステムはより速く、より多くの量子コンピューティングを実現します。

最終的に、量子コンピューターにとって最も重要なのは量子ビットやコンポーネントの数ではなく、システムが提供できる有用な計算量です。産業がより高度なワークロードとフォールトトレラント計算に向けて進化するにつれて、ハードウェアの革新を実用的な能力へと転換し続けることが不可欠です。IBM Quantum PlatformにアクセスしてIBM Quantum Nighthawk r2が皆様のご研究に何をもたらすかをぜひご確認ください。

参考文献

1.    Martiel, S. et al. Sampling hard circuits with verifiably high fidelity. arXiv:2607.25941, arXiv, 28 Jul 2026. arxiv.org, https://arxiv.org/abs/2607.25941 

この記事は英語版IBM Researchブログ「IBM Quantum Nighthawk r2—more circuits, faster」(2026年8月31日公開、Holger Haas、David McKay、Robert Davis著)を翻訳し一部更新したものです。

監訳者

立花 隆輝

東京基礎研究所 シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー